303話 スードリの正体
303話は、投稿するのを楽しみにしていた話です。
あと予告です。来週ですが、連休進行ということで投稿を間引きします。
「スードリの正体?」
「スードリさんは、私がソノールに居た頃から知っている人物ですよね」
ほう。
「それは、後で本人に訊いてみると良い」
モーガンが返した。
「とぼけないで下さい。時々見掛けるあの人の姿は、魔術による変装ですよね。アリーさんがスードリさんを師匠と呼んだので分かりました」
むう。
アリーは、目を大きく開いて泳がせた。
「アリーさんの魔術の師匠ですが。最初は御館様だったと聞いています。しかし、徐々に教えてくれなくなった……」
よく知っているな。
アリーから聞いたのだろう。プリシラを妹扱いして、そこそこ仲が良い時期があった。が、本当の妹が生まれてから、俺の関心はそっちに向かって、プリシラとは段々疎遠になった。しかし、それからも、彼女達は友達付き合いが続いていたらしいからな。
「……その後、身を隠したり気配を消す魔術を教わったのは、ドリスさんから。子供の頃、そう仰っていましたよね。アリーさん」
アリーは目を閉じると観念したように、長く嘆息した。
「でも手掛かりはそれだけではありません」
ふむ。
「ドリス ドリス ドリスー ドリ スー ………… スー ドリ スードリ」
プリシラが、何度も名を唱えると、ダノンが銀髪の頭を掻いた。
「はっははは……もう少し考えるべきでしたかな」
案外盲点と思える命名だと思って、同意したが。
プリシラは、何度か肯く。
「やっぱり。そうだったんですね。であるならば、私の推論はやはり誤りだったことになりますね」
んん。
「だって。ドリスさんが、私の推理通りであるはずが……」
「なるほど、そこにひっかかるのかね」
「ダノンさん?」
「私もドリスも国軍に居たのだ。あいつは特殊な部署に出向になったのだがな」
スードリことドリスが、諜報員集団を提供できると言ってきたのは、彼女が王都に来てからだ。
その時は、意味が分からなかった。
無論隠行系の魔術師であることは知ってはいたが。わからなかったのは、彼女にそのようなことができるのかということだ。そこで、明かされたのは、ドリスが国王侍従配下の諜報員だったことだ。
魔術を生かして諜報行為を行う。
聞いた俺は大いに驚いたが、同時に納得もした。
そもそも、子供の頃からドリスのことを底が見えない人物と思っていたからな。
「じゃあ、なぜソノールへ来ることになったのですか」
「ドリスが私の子を身籠もってな、任務を取るか、子を取るかを迫られて、子を取ったのだ。ただその所為で王都には居づらくなってな、スワレス伯爵様を頼ったというわけだ」
「なるほど。そういうことだったんですか。そこまでは思い当たりませんでした。立ち入ったことを伺って申し訳ありません」
俺が、家宰としてダノンを登録したことが、危機対策委員会から王宮へ伝わり。我が騎士団へ諜報員の斡旋があったと訊いている。
そうなれば、より俺の役に立てると告げられたときには感じ入ったものだ。
一方、俺のやることが国王陛下には筒抜けにはなるが、まとまった情報収集力をすぐに得られることに大きな魅力を感じたのも事実だ。
結局、俺はドリスの提案を受け入れた。
そして、スードリという架空の人物が誕生した。中年の男の様相で。
「一時でも御館様を疑ったこと、御当家の秘密を論ったこと、申し訳ありませんでした。秘密につきましては、例えこちらを解雇されたとしても、私が死ぬまで漏らすことはないと誓います」
プリシラは、右足を引くと両手を重ねて頭上へ持ち上げた。
「では、御館様……」
「あっ、ちょっと待って!」
処分をと言い掛けただろうモーガンを、アリーが遮る。
「なんだ?」
「ああ……私も謝ります。御館様! なにとぞプリシラには寛大な処分を望みます。彼女の優秀な能力に免じて」
弁護か。
「アリー様」
「プリシラ。会計士が帳簿の記載内容を疑うことは当然だ。だが陰に回って探る必要はない、ここではな。よって処分として、プリシラならびにアリシア班長の減給3ヶ月。減給額は基本給の1割とする。ただし、執行時期は、モーガンに任せる」
「承りました」
「えぇえ? 私もですぅ……よねえ」
睨み付けると、抗議し掛かったアリーの勢いが霧散した。
† † †
10月になった。
プリシラは引き続き、何事も無かったように館で勤務している。モーガンを始め、周りの人間も扱いを変えることはなかった。
アリーは、一時期ふて腐れていたが、このところ出動に向け黙々と準備をしていた。なかなか見上げたものだ。
3日となり、俺と騎士団は王都を出立した。
王都には、調達輸送班など後方担当の一部、9月に入団した者などを除いて、27人だ。今回は妊娠安定期に入ったローザも一緒に出動することになった。彼女のためにメイド2人を連れてきている。無論経費は騎士団ではなく、我が家持ちだ。
都市間転送を使ってテンギル伯爵領ギルダークに移動する。
ギルダークは典型的な城塞都市で、転送所も城塞内にあった。
ダノンと共に伯爵を表敬訪問して、ここに付けられていた監察官に到着を報告した。その後
中継拠点となる旅館で先行させたペレアスとヘミング達と合流した。
既に糧秣や車両が整備されており、通信魔導具も万全に準備が整っていた。
ペレアスもそうだが、ヘミングの優秀さが発揮された結果だろう。
旅館で皆に昼食を摂らせると、馬車に分乗させ出発だ。
「それでは、こちらでお帰りをお待ちしております」
「ああ」
ローザが付いてくるのは、とりあえずここまでだ。現地で安全性が確認でき、膠着状態になれば、呼び寄せることにはなっているが。そうはならないだろう。
ならば、王都に置いてくる選択肢もあったわけだが、ここならば通信魔導具で話もできる。
「アリー。旦那様のこと頼むわよ」
「うーーん、でも……はい!」
アリーは否定しかけて、姉の表情を見て肯定したのだろう。
†
しんみりとした出発になったが、馬車を牽くゴーレム馬が蹄音を規則的に刻み、我が一行は一路西に向かって進み始めた。さっき潜り出た城門はあっと言う間に遠ざかっている。
今日は夜営して、明日の昼には目的地シャムガル村に着く予定だ。
それまで暇だな。
亜空間部屋で、魔石でも作るか……そう思いながら顔を上げると、対面座席のアリーが俺の顔をまじまじと見ていた。
「そんなに淋しそうにするなら、お姉ちゃんも連れてくれば良かったのに」
「淋しそうというのは俺のことか?」
アリーはイライラしてるようだ。
もしかして、自分が一緒に居るというのに、置いてきた姉のことをばかり考えているからか。
「客車内には、私とあなたしか居ませんけど。ふんだ!」
「そうだな。ローザと俺が居ても、淋しかっただろうな」
「なによそれ」
「考えてみれば、俺達は生まれてこの方、ずっと3人だったからなあ」
「ふん! その割には、お姉ちゃんばっかり優遇してたじゃないの」
「悪かった」
アリーの表情が固まった。
「どうした?」
「そんな風に素直に認められると、調子狂っちゃうわ!」
「もうすぐ父になるからな」
「えーと。なんか、良いこと言ったって顔しているけど……はあ。まあいいわ。話は変わるけど」
「なんだ?」
「プリシラちゃんだけど、口封じしておいた方がいいんじゃない?」
「口封じ? 口止めではなくか?」
「そうそう。一番効果的な手段は分かるわよね。旦那様」
睨み付けると、アリーは首を竦めた。
†
昨夜は街道脇の草っ原に夜営した。
本格的な冬の時期ではあるが、ここら辺りは王都に比べれば温暖だ。何事も無く朝となった。
いい天気だ。
朝食を皆で摂り終えると、30分も経たぬ間に行軍準備が整った。
我が騎士団も設営に慣れたものだ
「頼むぞ、バルサム」
「はっ!お任せ下さい」
バルサムに命じたのは、任地シャムガル村まで騎士団を率いることだ。
俺はというと、別行動だ。
「行ってくる」
「お気をつけて」
【光翼鵬】
アリーが手を振っているのを見ながら舞い上がると、西北へ進路を取る。
地図を見ただけだが、目的地が迷うことなく分かる。
40ダーデン弱か。
10分余り飛行すると、荒れ地が広がった。
速度を落として眼下を眺める。
居る居る。
無数の魔獣が野の半分を埋め尽くし、ゆるゆると陽光が指す方向に向け移動している。
これが大発生か。
何物も薙ぎ倒して進む。ある意味、超獣より厄介だ。
2隊の出動を以てしても、収拾できないことも頷ける。
数がここまで多いと、寡兵の我が騎士団では苦戦は免れん。陣地を築いて護り、ゴーレムを活用したとしても難しいか。
上空で勘案していると、魔界強度が凄まじい勢いで高まっていく。
「これは……」
驚くべき速度で、幾条もの眩き光が一点から迸った。
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訂正履歴
2020/08/05 細々加筆、片仮名・平仮名のの表記合わせ
2022/08/06 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




