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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
13章 英雄期I 血脈相承編
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302話 女の本性

いやあ、書くのは烏滸(おこ)がましいですが……

「ちょっと! なぜ私を招かないのよ!」


 学位取得内祝いの宴を始めて15分も経った頃、エリザさんが本館食堂に怒鳴り込んできた。


「エリザ殿!」

「ああ、モーガンさん。今はラルフ君の教授としてきているから」


 無礼と叱責しようとした家令を迎え撃った。


「宴をすることが決まったのは1時間前。その頃、教授は出掛けていましたよね」

 魔感応で探ったが、敷地内に反応はなかった。


「さっき戻ってきたばかりよ。でも招く気があれば、宿舎に居る神職の子に伝言するなりなんなりできるわよね」

 そう。騎士団救護班に派遣された神職があと3人入寮している。


 少し怯んだが、怒りは収まらない。

 食べ物の恨みではないだろうが。


「ラルフ君! 論文の件は私にも非があるけど、根に持つとは……」

「ちょっと、エリちゃん! 言い掛かりはやめて! 私の旦那様は、そんなに器が小さくないわ」

 アリーが反駁した。


「その通り。エリザ殿をお招きしないように指示したのは、私です」

「ええ? モーガンさんなの? ラルフ君を庇ってない?」

 確かに出席者選定は、モーガンに委ねたが。


「庇ってなど居りません」


 モーガンの断言に、エリザ教授は歳の割に可愛い頬を膨らませた。


「では招かなかった理由を聞かせて貰っていいかしら?」


 モーガンは長い溜息を吐いた。

「申し上げてよろしいのですか?」

「なっ、なによ!」


「では、申し上げましょう。この場にお酒が出ているからです」

 まあ普通酒は出るよな、成人ばかりだし。


「そう……かも知れないけど」


 全世界で見れば、光神教会における聖職者飲酒可否は宗派による。ここ、ミストリアでは大っぴらに奨められては居ない。要するに禁忌でないが、祭祀など最小限にして置けよと言うことだ。


「実は。先日王都大聖堂へ伺ったときに、デイモス司教座下より、くれぐれもと言い渡されたことがございます」

「えっ!?」


「当家へ派遣された神職の風紀が乱れているというのは本当かと!」

「なっ!」


「こちらの独身宿舎で夜な夜な、飲酒をされている方がいらっしゃる。それが神職であれば、派遣を中断させると」

「むぅぅ……」


 ああ。あの顔は誰が告げ口したのよ? そう思っているな。

 3人の神職のうちの誰かだろう。この前の顔合わせで見知ってはいるが、為人(ひととなり)までは知らない。教授以外は2ヶ月交代で入れ替わってるからな。我が館に根付かないようにと配慮しているのだろう。


「それに対して、御館様は成人された方の寮内行動には干渉するつもりはないと、反論なさりました」

「うーー」


「しかし、酒宴にお招きしたとあっては、申し開きできません」


「モーガン」

「はっ!」

「証人を用意すれば良いだろう」


「証人?」

「証人と仰いますと」


「独身宿舎にいる者を全て呼んでくれ。まあ神職に酒は出せないが」


「まあ。旦那様ったら。でも、そうなると……流石に料理が足らなくなるわね」

 ローザが立ち上がる。


「いえ、奥様自らお手伝い頂かなくとも」


     †


 その後は和やかな宴となり、我が家も平和だなあ……そんなことを考えたのが良くなかったのだろうか?

 翌日に危機がやって来た。


「いかが致しましょう。御館様」

 モーガンが珍しく、眉を下げて訊いてきた。


「確かに、困りましたな」

 ソファーに座ったダノンも、こめかみを指で摩っている。


「致し方ない、当事者を集めてくれ。もちろんプリシラもだ」

「はっ!」

 そう答えてモーガンが執務室を後にした。


「よろしいのですか?」

「ああ」


     †


「プリシラ参りました」

 扉を開けて、俺の他にたくさんの人間が待っていたので、はっとなった。しかし、臆することなく、唇を真一文字に結ぶと執務室の中程まで入って来た。


音響(ソノ)結界(シーマ)!】


「どういったご用件でしょうか?」

 少し気色ばんだ声音だ。


「なぜ呼ばれたかは、分かって居るはずだ」


 モーガンの言に、プリシラは部屋の端に居並ぶ者達を、ゆっくりと見渡した。

 ダノン、ブリジット、それにアリーも居る。


「いえ。わかりません」

 毅然としたものだ。


「では訊くが、9月上旬から中旬にかけて、子爵家事務室を一旦締めた後、1人で戻って侵入し深夜まで何をしていたのかね?」

 モーガンの目が細くなる。


「そうですか。家令殿にはもう知られていたのですね」

「それで?」

「なにもやましいことはしておりません。帳簿を見ていただけです。会計士の業務と心得ます。いけないことでしょうか?」


「帳簿を。ならば、なぜ勤務時間内ではない深夜に実施するのかね? そのようなことは指示しては居ないが」

「それは……」


 モーガン以外は誰も声を発しない。

 それに少し気圧されたのか、プリシラは俺に顔を向けた。


「それは、証拠を集めるためです」

「なんの証拠かね?」


 プリシラは、遂に眦をあげた。

「ラングレン家の家計、そして騎士団の会計には、疑惑があります」


 皆が息を飲んだ。


「続け給え、プリシラ」

「はい、御館様」


「疑惑とはスードリ班長が抱える情報班の経費が、騎士団会計に計上されていないことです。無報酬で、情報班員を働かせている……など、誰も信じません」

 なかなか良く帳簿を見ているじゃないか。


「スードリ班長は騎士団員だが、それ以外の班員は騎士団ではない。よって騎士団会計には計上されない」

「そうですよね。でなければ、人数を明記して給与総額等を記載しなければなりません。無論、ラングレン家の会計にも計上されていないことはわかっています」


「それのどこが問題なのかね?」

「表面的には問題はありません」


「潜在的な問題があると言うことか?」

「はい、御館様。ラングレン家も騎士団も通らない経費。第三者から利益供与を受けているのと同じことです」


「ふむ」

「つまり、脱税の可能性があります」


 プリシラは、再び周りを見渡した。


「先日、ソノール行き同行を断ったのも証拠集めのためかね?」

「仰る通りです」

「ふむ」

 即答か。俺たちが居ない間に、より調査を進めようとした訳か。


「そうかね。しかし、御館を空けた期間には事務所への侵入はなかった。自分が監視下にあること気が付いたのかね」

 モーガンは、なかなか辛辣だ。


「いいえ。更なる調査が必要ないことに気が付いたからです」

 対してプリシラは堂々としたものだ。


「ふーむ。話が脈絡が分からないが、疑いが晴れたと言うことかね?」

 モーガンが続ける。


「そうですね。もうひとつの疑問から解に行き着いたからです」

「疑問?」


「はい。報酬がらみで調べたのですが、スードリさんと情報班の方々は優秀すぎます。そんな人材が、騎士団結成と共にすぐに集まったのはなぜか? 私には信じられません」


「なるほど。しかし、それで、解に行き着くとは思えないが」

「それだけでは闇の中です。でも分からないことが2つあるときは、案外同じ原因だと言う父の教えを適用したところ気が付きました」


 ふむ。思考過程はよく分からないが、鋭いな。


「つまり、先程申し上げた利益供与の第三者が、報酬だけでなくスードリさんごと提供していたとしたら。それは、税金の心配の要らない存在、かつ豊富な人材を予め持っている存在だということです。その両方を満たすのは1つです。畏れ多くて口にはできませんが」


 ほう。

 聡明だな。いつもアリーが褒めまくるのも分かる気がする。

 プリシラとは基礎学校ぐらいまでで接点が途絶えていたが、印象が変わった


 確かに、騎士団の情報班員は、国王配下の諜報員集団だ。


 この結論に至るのに、どのぐらいの時間を要したのだろうか。

 違う意味で、プリシラに興味が沸いてきた。


「それで、調査をやめたのかね」


「はい。しかし、私の推論にはひとつだけ欠陥があります」


 ん?


「それは、スードリさんの正体です」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/08/01 「そんなことを考えたのが」の前部分がなぜか消えていたので修正。誤字訂正,少々加筆

2024/11/30 誤字訂正(白ノ木 零さん ありがとうございます)

2025/03/04 誤字訂正(ran.Deeさん ありがとうございます)



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