300話 ラルフ 暗躍する
祝!本編300話到達!!
いやあ、主人公赤子スタートだと長編になりますよね(汗)
お読み戴いて感謝です!
ここか?
煌々と月が輝く夜空を背にし、遙か眼下を見下ろす。
ルタールの丘から距離が離れているが、製薬工場建設候補地の場所はここで良いらしい。
俺が学問所に行っている間にゲドとサラは視察し、現地を気に入ったと言うので、俺も見に来たのだ。
───うむ その露天掘りの坑を降りてもらいたい
直径200ヤーデン程か。綺麗な円錐形の大穴が地に穿たれている。以前にも近辺を飛行して目にはしていたが、真上に来ると、そのでかさが際だつ。
分かった。
自由落下にて縦坑へ突入すると、急減速し音も無く底に降り立つ。
───そこの横坑から中へ入れるようになっている
【光輝】
ふむ。
ゲドの声に順うと、大きな板戸が見えた。
しかし、彼の姿はない。俺に憑依しているのだ。
作ってから長い年月が経ったのだろう、ずいぶん劣化して、板の継ぎ目に大きな隙間ができている。
【解錠】
大きな青銅の錠前が一人手に外れ、地面に落ちた。
端を掴んで引っ張ると、耳障りな音を立てて板戸が開く。
───御館は華奢な割に力が強いな
そうか?
───幼い頃に身体強化魔術を常用し続けると 断面積辺りの筋力が上がると言うが
ふむ。
歩いて、横坑を進む。
坑壁を見ると、人為的に掘ったところと、元から洞窟として存在していた所がまだらに混在してる。おおよそ数十年前に拡張したのだろう。
───御館程顕著な例は知らないが 古代エルフの人体実験で結果が出ている
ほう。
ゲドは、何かを申し入れたいようだ。
───ただ相当な危険もある それに第2次性徴が起こる前でなければ 効果がない
───そのような時期に 常用に足る魔力を持つ 子供などほとんどいないからな
悪いが結論から言ってくれ。
───そうか……では
───生まれ来る子に 魔術を行使するのは奨められぬ
───いくら魔力上限が高くてもな
「ははは……」
思わず声が出た。
そんな気はない。
霊格値が分与されているが、別に俺が意図的にやっているわけではない。
───それを聞いて 少し気が楽になった だが……
なんだ?
───御館の影響力は 後天的にも大きいからな
は?
───魔力を与えていた聖獣のセレナは言うに及ばず
───あの嬢ちゃんの霊感も 御館の影響に思えるがな
ソフィーには何もしていない。
───遺伝子が近いから共鳴したのではないか?
───あのパルシェとかいうメイドも その辺りが引っ掛かっているとか
本能的にか?
憶測の域を出ないな。
それで、ここをどっちだ?
───ああ 左に行ってくれ
1分も進むと、突然目の前が開けた。
───気に入ったと言うのは ここだ
差し渡し50ヤーデン程もある大きな空間に出た。縦坑からそんなに遠くはない。
天井も高いな。
ここは、人間が掘った坑道ではなく、元々洞穴だったようだ。1箇所上に向かって、直径3ヤーデン程の縦坑が開いている。今は何かで塞がれているが、地表まで繋がっていそうだ。
なるほど。
十分だな。王都館地下から運んできた実験室の魔導設備を、全部配置しても十分余る広さがある。
それに、微かに水音が聞こえてくる。クリストフが言っていたように地下水脈も近く通っているようだ。
なにより、魔導設備の機密を護るのに地下というのは都合がいい。通気もおそらく、縦坑を貫通させ……まあ、魔術を使わなくても十分なはずだ。
ふーむ、ある程度風化してる。堅牢とは聞いていたが多少は強度面に難があるな。
手を入れるべきだな。
───そこは 御館に掛かれば朝飯前であろう 男爵殿に許可も貰っておったしな
『いずれそなたの物になる』
親父さんの言葉が脳裏で谺した。
───信頼を得ているな 良い親子だ
善いのは親父さんだ。
───まあ 私としてはどちらでもいいが
───それより 機密保護という意味では 男爵領政府の人間も過信は禁物だが
余り考えたくはないが、ゲドの言う通りだ。今ここに来ているのも、ある意味その一環だ。根本対策を考えないと。
だが今は。ささっと済ませて帰ろう、ローザが起きる前に。
†
「おはようございます。旦那様」
ローザに起こされた。
「あぁぁ、おはよう」
7時か。
カーテンを開けると一気に陽光が差し込んできた。
エルメーダ城南郭にある俺の部屋は、気分が良い。
「随分お疲れのご様子ですが、どこへ行ってらっしゃったのですか?」
「なんだ、起きていたのか?」
ローザが寝付くまで、出掛けるのを待ったのだが。
「いえ。お腹の子に障りますので、居らっしゃらないのは気が付きましたけど、寝ました」
「そうか。ああ、ゲドとサラが言っていた工場予定地に行ってきた」
「へぇ、そうなのですか。でも何も深夜に行く必要が……はぁ。そのお顔は、必要があると言うことなのですね。せめてご自愛下さいませ」
ローザには隠し事はできないな。結構俺は無表情で通っているのだが。
「入りますよぅ」
「どうぞ」
アリーが部屋に入って来た。
「はいはい。お姉様、お着替え手伝いますよ」
アリーもか。
自分で着替えるんだけどなあ。そうすると悲しそうな顔をするから、任せるが。
「旦那様、寝不足?」
ローザが不機嫌そうに肯いている。
「4時間は寝た」
「いや威張った顔で言われても」
†
朝食を摂り、馬車に乗る。
俺の他は、アリー、サラ、ゲド、モーガンが乗る。それを先行する5騎。4騎は兵だが、1騎は本家の家令クリストフだ。
露天掘りの大縦坑に続く路が、ゆるゆると台地を登り始めて10分。
その結構手間で、徐行に変わった。
御者台に続く、窓が開いた。
「よく分かりませんが。先行の騎馬が止まりました。ん? あれ? そう言えば」
「どうしたの、サラっち!」
アリーが訊き返す。
「いやあ……昨日は馬車だったんで……でも、やっぱり流石にこれだけ長い土塀を見落とすはずは」
「土塀って、それのこと?」
右の車窓一杯に広がっている物を指差す。高さは馬車の屋根を超えている。
「ええ。アリー様、そうです。道端から3ヤーデンも開いていませんから」
「サラ、止めてくれ」
「あっ、はい」
制動が掛かって、少し平らな部分で止まる。
「むぅ。男爵家の方々の馬が止まりました」
クリストフが間近に寄って下馬したようだ。
「モーガン、扉を開けてくれ」
「はっ!」
モーガンが扉を開けて降りると、そこへクリストフが駆け付けてきた。興奮しているのか顔が真っ赤だ。
「おっ、お恐れながら。この土塀を築かれたのは、子爵様にございますな?」
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訂正履歴
2020/7/25 誤字訂正(ID:118201さん ありがとうございます)、表現変更(刻む→穿つ等)
2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




