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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
13章 英雄期I 血脈相承編
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296話 ラルフ 恩義を感じる

人間感謝の気持ちが大事……そりゃあ、分かるんですけど。何かにつけてありがたく思うことはあっても、特に他人様に恩義を感じることは少ないっすねえ。今は2人ぐらいいらっしゃるかなあ。

 翌日は、大使団と配下の者を宴へ招いて、激務を労った。

 なぜだろう。

 労わずには居られないのだ。何か前世であったかも知れない……我ながら非合理なことを考えたな。前世などあるわけがない!


 それはともかく、宴の方は盛り上がったし。1人の病欠を除いた、ほぼ全員が来てくれたのは、なかなかに嬉しかった。平均年齢が低いからな、食い物に釣られてきたところが大きいのだろう。


     †


 大聖堂へ行ってから3日後。

 10時に王都を発し、スワレス伯爵領領都ソノールに転送されてきた。

 今回は俺ひとりではなく、ローザ、アリー、サラ、そしてモーガンの5人だ。


 伯爵様に面会を申し込むと、昨日先行させた先触れが手配してくれたので、すぐにお目に掛かることができた。

 広間ではなく応接室だ。


「伯爵様。お久しゅうございます」

 入室した俺とモーガンが跪礼する。


「おおう。ラルフ殿よく来られた。ああ、大使殿と呼んだ方が良いかな。ははは」

「いえ。本日はお忙しいところを、お時間を割いて戴き感謝致します」


「いやいや。ラルフ殿なら大歓迎だが。どういった用件かな?」

「ご面会をお願いしたのは、御礼を申し上げたかったからです」

「んん? 何か儂は礼を言われることをしたか?」


「伯爵様が、以前より内務省貴族局へ、我が一族の名誉回復の嘆願をして下さいました」

「さぁて」

 心当たりがないとばかりに視線を外す。


「そう、サフェールズ閣下より伺いました」

「ふむ、そうか。流石に内務卿閣下を嘘つきにするわけには行かぬ。嘆願は致した」


「ラルフェウス・ラングレン。伯爵様に御礼申し上げます。ご恩は忘れません」


「ふふふ。勘違いするなよ。儂はラルフを気に入ってはおる。が、それで働きかけをしたわけではない、友のためだ」


 友。親父さんのことだ。

 伯爵様が幼い頃、近習だったことも有る。


「友のために、何かするのは当たり前だろう? ああ、ディランには言うなよ」

「はぁ……」


「それと、忠告だ!」

「はい」


「ラルフは、貴族になったのだ。寄親でも封地を貰ったわけでもないのに、迂闊にご恩など言ってはいかん」

 眼が鋭くなった。


「はっ、はあ」

 迂闊ではないと思うが。

 俺が納得していないのを見透かしたのだろう。


「先日のことだが」

「はい」

「儂には男の孫ができた。そなたの生まれてくる子が娘なら嫁に迎えたい」

「はっ……」

 言葉が出なかった。


「……そう儂に言われたらどうする。ご恩など言った手前、断りづらいであろう。貴族とはそうしたものだ。ふっははは……縁談の件は戯れだ! 忘れてくれ。勝手に決めては、息子達に叱られるでな。しかし、そうか。ラルフも人の親となるか。儂もディランも爺になるわけだ」

     †


 城を辞して馬車に乗り、ソノール6番街にやって来た。


「12年ぶりだな」

「お義母さまと参りましたね」

「そう? 私はプリシラちゃん仲良かったから、2,3回来たかな。城外のお屋敷も行ったことあるし」


 門をそのまま通り抜けると、馬車は領都内にしては大きな館の車寄せに横付けして止まった。


 そこには懐かしい顔が立っていた。

 サラが開けてくれた扉から降りる。

「やあ……」

 挨拶しようとした人は跪いた。横に居た夫人と一緒に。


「子爵様、拙宅にお運び戴き光栄に存じやす」

「ちょっ、ちょっとバロックさん」

「御館様!」

 ん?

 差し伸べようとした手が止まる。


 モーガンの視線の先を見ると、鉄柵越しにこちらを覗いている者達が何人も居る。さっきの馬車が目立ったらしい。不本意だが。


「バロック殿、出迎え痛み入る」

「はっ! 先触れを戴き少し驚きました」


「こたびは、娘御(三女)を連れてきたかったが」

 そうなのだ。モーガンが一緒に帰省するかと誘ったのだが。どういうわけか、辞退したそうだ。若い娘の気持ちはよく分からない。


「いいえ。その方から娘が辞退したと聞き及びやした」

 再び会釈すると、バロックさん達は、ようやく立ち上がった。


「どうぞ中へ」

 応接間に通されると、懐かしい顔がもう一人居た。


「おお、バネッサ(二女)さん」

「わあ、ラルちゃん久しぶり。大きくなったねえ」

 久しぶりに会った彼女は、赤ん坊を抱いていた。俺より2つ上だから今18歳か。


「これ! バネッサ、子爵様だぞ」

「ああ、バロック殿。幼馴染みだ。ラルちゃんで構わん」

 だから、ぶすっとするなアリー。


「へえ、女の子か」

「そうなの。7月に生まれたんだけどね。ウチの家系は女の子ばっかりなのよ。姉さん(長女)のとこも、女の子ばっかり2人だし」


 相変わらずざっくばらんだ。

 ローザがバネッサの横へ、すすっと寄っていくと羨ましそうに見ている。


「あらぁ、ローザさんも、おめでた?」

「はい。2月か、3月には生まれます」

「そうなんだ。よかったわねえ」


「バネッサ。隣の部屋に行っててくれ。これではラルフェウス様と話もできない」

「はーい。御父様。ああローザさんとアリーさんも、どうぞこちらへ」

 ぞろぞろと女達が退室していき、部屋にはバロックさんとモーガン、それにサラが残った。


「いやあ。すいやせん。お掛け下さい」

「うむ」


「はあ、バネッサも我が儘一杯育って、商会の者に嫁いだので、全く躾が行き届いておりやせず……」


 そうか。あの気性だ。まず間違いなく、旦那を尻に敷いていることだろう。

「いやいや。母子共に元気そうで何より。ああ、バロックさん。他人の目もない。敬語など使わないで良い」

「ああ。そうでやすか? では、プリシラを雇って戴きありがとうございやす」

 そうだ。

 今日程改まっては居なかったが、昔からバロックさんは、俺にも敬語だった


「ああ、いや。決めたのは、ここに居るモーガンだ」

「そうでやしたか」

 バロックは立ち上がって、挨拶する。


「モーガン、そしてサラ。そこでは話もできん。ここに座れ」

「はっ!」

「はい」

 2人は会釈すると、俺の隣に腰掛けた。モーガンは背筋を伸びていて格好良い。


「あれはどうでしょう、物になりそうでやすか?」

「どうだ?」

「はい。プリシラ殿は若いながら、会計学に堪能で助かっております」

「そうでやすか」

 ふうと息を吐き、表情が緩んだ

 バロックさんも娘には、ただの父親らしい。


「しかし……」

「はい?」

「……良かったのかな。会計士など、この商会にとって何人居ても足りないのではないか?」

「ははは。いやぁ。全く以てその通りでやすが。あれが、会計学を学び始めたのは、他ならぬラルフ様のためでやすから。アッシとしても止められやせん」


 横で、モーガンの眉がピクッと上がった。


 失礼致しますと声が掛かり、夫人がお茶を出してくれた。

 彼女が辞して行くと。


「ああ、娘の話ばかりして、申し訳ありやせん。改めまして、御先祖様の名誉を回復されおめでとうございやす。先月エルメーダのお城へお祝いに参じましたところ。男爵様も、御先代様も大層お喜びで」


「ありがとう。思い返すに、我が家が芳しくない状況で、バロックさんは良く支えてくれたと思う。礼を言いたい」


「とんでもございやせん。私も商人。利がないことはやりやせん。まあ、確かにすぐに利になる場合と、先々利になる投資もありやすがね」


 出して貰った茶を一口喫する。相変わらず良い茶葉を使って居る。


「ああ、すまない。今日は、バロックさんに、頼みがあってな」

「はい。なんなりと」


「御館様、そちらは私から……」


 モーガンがバロックさんに、人出の提供と新薬の素材となる薬草の買収を依頼すると、快諾を得た。


     †


 バロックさんの屋敷を後にすると、ソノールの城門を馬車で潜り出た。そして人気のないところまで走らせると、御者台に居たサラを客車内に乗り込ませ、窓幕を下ろさせる。

 そして光学迷彩魔術を行使した。


「旦那様?」

「ああ、今からちょっとした魔術を使うが、気にしないでくれ」

「はい」

「はぁ……」

 その刹那、蹄の音も車軸の軋みもなくなり、皆少し不審そうな顔をしたが、実はもう魔術は行使されていた。


 そして5分後、蹄音が再び響き始めた。


「もう、上げてもいいぞ」

 アリーとサラが幕を上げて、外を眺めた。


「あれ? ここは?」

「うん。ソノールじゃないわねえ。どうやったの旦那様」

 アリーが訊いてくる。


「ここは、エルメーダから500ヤーデン程離れたところだ。どうやったかと言えば、空を飛んだ」


 アリーが首を振った

「はあ。御館様、馬車ごとですか」

 サラも驚いている……と言うよりは呆れているな。


 それはともかく、空を飛んだと言うのは嘘だ。転位魔術を使ったのだ。辻褄を合わせるため、転位してから地上で止まっておき、時間が経って単純に進み出しただけだ。

 空を飛ぶより、ローザとお腹の子にとって安全だからな。

 この馬車で、それを見破って居た者が1人居たが、彼女は何も言わなかった。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/07/11 誤字訂正

2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)

2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

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