閑話6 プリシラの手紙
プリシラ、折角王都にやって来たのにラルフと接点がないので、補填しておきます。
次章で活躍させられると良いなあ……。
おとうさん、おかあさん、お元気ですか?
プリシラです。
とても嬉しいお知らせです!
この度、めでたくラングレン家で働けることになりました。
やりましたぁ!
会計学を勉強してきて良かった。褒めて下さい。
明日は御館に入居です。
ああ、それから。
おとうさんが、もし駄目だったときにと紹介してくれた商会の方は、ちゃんと円満に話が済みましたので、ご心配なく。
まずは、お知らせまで。
† † †
おとうさん、おかあさん、お元気ですか?
プリシラです。
王都に着いて10日も経ってないけど、すっかり秋になりました。多分ソノールより肌寒いです。
ラングレン家の御館敷地内の宿舎に入居して働き始めました。
宿舎にはメイドや、騎士団の団員とかが住んでます。もちろん女しかいないわよ。うふふ。
そっちの家よりは、少し狭いですけど個室を貰っています。
心配要りません。
周りの方々、普段一緒に仕事しているのは、家令のモーガンさんや、財務を仕切っているブリジットさんだけど。皆さん、仕事には厳しいですが、普段は優しい方ばかりです。
えーと。おとうさんの手紙で気にしていた、王都に来られた人の話を書きますね。
奥様のローザンヌ様はお優しくて、相変わらず気品があって憧れてます。
いやあ、本当は憧れてたら駄目なんだけど!
メイドの方々も、みんなそう言ってるし仕方ないわ。お出かけになるときなんかは、それはそれは上品で貴婦人でいらっしゃって、敵わないなあって思っちゃう。
ああ、普段は地味な服で、ラルフェウス様のお世話をばっちりされてます。
それから、もうすぐ正式に側室に成られるアリシア様は……ああ、様って呼ぶと嫌がられるけれど、仲良くして貰っています。美しさも磨きが掛かって、流石はローザンヌ様と姉妹ですね。
王都に来たときに、人が凄く多くてびっくりしてるって手紙に書いたけど、アリシア様が、大貴族様達がいらっしゃる王都の内郭とか、庶民の町である城外の市場とか連れて行って下さるの。 ああ。でも、騎士団の中では救護班の班長をされていて、姉御肌なのでちょっと怖がられてます。
ソフィー様は、ちょっと変わってます。何だか普通の子とは違う感じです。8歳にしては大人びています。
いつもパルシェという大きいドワーフのメイドが横にいるので、お見かけしても話しづらいです。御館では、そのメイド以外の勤め人とは余り喋らないようです。もちろんお元気で、ちゃんと学校に通っていらっしゃいます。
最後は、ラルフェウス様です。
シュテルン村にいらっしゃった頃とは、大違いです。
いや、すばらしく格好良いのはお変わりないのけれど、何と言うか風格が凄いです。事務方の部屋に入って来られると、皆ピリッてなります。
そりゃあ子爵様だし。国の大使にも成られたので、当たり前と言えば当たり前なんだけど。私と1歳しか違わない16歳とか信じられないです。
なんとなく私は少し避けられている気がしますけど、あきらめませんよ。
さて、王都へ来させて貰った交換条件。王都の新聞の切り抜きも同封します。
じゃあ、また手紙を書きます。
おとうさんも、おかあさんも、お元気で。
† † †
おとうさん、おかあさん、お元気ですか?
プリシラです。
王都は大変なことになっています!
既に聞いているかも知れませんが。
ラングレン家のことが連日話題になっているのです。こちらの子爵家だけでなくて、そちらに近いご本家の男爵家も含めてです。
この前、そのご夫妻が御館に来られました。
その時は大理石の件で王宮に呼ばれているという話だったのですが、ラルフェウス様の、えーと、お爺さんのお爺さんが勲章を貰われたのにはびっくりしました。改めて超獣を斃した凄い領主様だったと新聞などでは記事が評判になり、最近来たばっかりの私でも何だか鼻が高いです。
ただ、ちょっと。腹が立つ新聞もあります。
ラルフェウス様は素晴らしい上級魔術師、ここまではどの新聞も同じこと書いてます。でも、とんでもない女誑しって書いてる新聞がいくつかあって、びっくりしました。とても憎らしいです。
それは、今度側室に成られたアリシア様が侯爵様のお姫様だからです。王都では猶子ということは知られていません。その前に奥様であるローザンヌ様も子爵様のお姫様としか知られておらず、お二方がとてもお綺麗ということで嫉妬しているに違いありません。
ああでもスパイラス新報は、ちゃんとした記事が多いです。今回も同封しますね。
それはともかく。
新聞によるとエルメーダの大理石の評判が凄いそうです。
王宮の西苑の壁建材に使われることになったことももちろんだけど、何でもラルフェウス様がすごい作品を作られたそうで、その材料だからだそうです。
その作品、銘は金継ぎというそうです。
実際に見たメイドの何人かによると、紅い大理石の珠に金と銀が流れるように絡まっていたらしい……想像付きません。
この目で見たかった。とっても残念。
でも、アリシア様によると、「見られるかもよ王立博物館で」って! もう、何が何だか。
それもあって、王都のラングレン家は、大理石自体には関係ないのに、大貴族様からなんとかならないかとかいう話が度々来てると、ちょっと口の軽い執事さんから聞きました。
ところで、これはおとうさんも聞いていないと思うけど。
なんと、ローザンヌ様が、ご懐妊されました!!
まだ、お腹はそれほど目立たないけど。
それで私は最近まで、気が付かなかったんだけど。御館のローザンヌ様のお部屋が、2階から1階に変わったので、どうしてかとアリシア様に訊いたら教えてくれました。
ご出産予定は、1月です。お祝いの品を用意して下さい。
奥様がご懐妊ならば、本来好機のはずなんだけど、家令のモーガンさんの目が厳しくて、ラルフェウス様に近付けません。というか、とてもお忙しくされてますので、そもそも無理です。
あと、おとうさんが知りたがって居るような情報は、私も会計士の端くれ、書けませんからね!
じゃあ、また、手紙書きますね。
† † †
おとうさん、おかあさん、お元気ですか?
プリシラです。
ラングレン家にお勤めするようになって1ヶ月ちょっと経ちました。
凄く人が多くて驚いていた王都にも、少し慣れて来ましたよ。
安心して下さい。
えーと。
残念ながらラルフェウス様は、プロモスと言う国に、大使様としてお出かけになりました。1ヶ月以上お帰りにならないそうです。はぁぁ……。
やっと、一言二言ですけど、お話できたのにさびしいです。
あと、治験開始の許可が公示になったので書きますね。
ラングレン家では、製薬業を始めるそうです。
はっ? ってなってるよね。
私もなったもの。でも、薬師の人が館に居たんです。
ドワーフのサラさん。本当はサラスヴァーダってお名前なんだけど、誰もそうは呼んでません。まあそれはどうでも良いのだけど。
何でも、ラルフェウス様とアリシア様が、去年王都に来られてすぐ、冒険者をやっていた頃、知り合ってクランを組んでいたそうです。
それに、いつも早朝、中庭で剣や長刀の稽古をされているし、奥様のことを師匠と呼んでいるので、てっきり従者か食客と言う名の居候だろうと思っていたのだけど。バレたら叱られちゃうわね。
いつも朝は見るけど、昼間や夜は見掛けないので、どこに行って居るのかと思ってたけど。私が知らないどこかで、お薬を開発してたんですね。心の中で謝っておきます。
で、例の執事さんによると、とても良く効くお薬のようです。
ああ、おとうさんが、その執事は危険と書いてあったので、夜とかは絶対2人にならないようにしてるけど、これからも十分気を付けます。
それにしても、そんなに効くお薬なら、なぜ全く製薬経験のないラングレン家でやるのか不思議です。大規模にお薬を作る商会はいくつかあるので、そこに権利を許諾した方が投資が要らないわよね。お金を儲けるのが目的ならそうすると思うのだけど。
アリシア様がやっている、出動現場での救護活動に生かすのかも。
私の頭では分かりません。
まあこれからも、おとうさんに言える範囲でお知らせします。
もちろん、商売人は信用第一! は守るから。
じゃあ、また手紙を書きますね。
あっ、そうそう。
来年初にお休みを貰えるようだけど、そちらに帰られるかどうか、まだ分かりません。
決まったらまた連絡します。
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訂正履歴
2020/07/01 務めることに→働けることに。誤字、少々加筆
2020/07/03 誤字訂正(ID:118201さん ありがとうございます)
2021/09/11 誤字訂正
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/08/03 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




