293話 居なくとも動く(12章最終話)
いやあ、やっぱり我が家が一番だよねえ。とか、旅行から帰って帰って来たときに言いそうな言葉ですが。あれって、半分以上自分に言い聞かせてますよねえ。
本話が12章本編最終話です。できますれば、ご感想、ご評価戴けますとうれしいです。よろしくお願い致します。
久しぶりにローザと会話を楽しみながら夕食を摂った。
やはり、ローザの料理は絶品だ。
なんだろう。料理人が作る華麗さはないかも知れないが、俺の口には合っている。第一落ち着くのだ。派遣中も時々魔収納に入れていた物を食べては居たが。彼女の顔を見ながら食べるのでは、全然違う。
それから元応接室の仮執務室に移動した。
元の執務室は、今はローザが寝室として使って居る。
日当たりが良く過ごしやすいし、1階にあるので上り下りしなくて良いのだ。
だが、ローザは妊娠しているのにも拘わらず、結構動き回っている。
「遅くなって悪かったな」
もう8時になっている。
俺の両脇にローザとアリーが座り、不在中の報告をモーガンから聞く。
「いえ。ではまず、懸案となって居ります新治療薬の進捗につきまして報告致します。サラ殿」
「はい」
サラは、にこやかに俺達の前に立った。
「それでは、手紙にてご連絡した通り、政府より新治療薬ササンテの臨床試験への移行許可が降りました。それで、9月1日付で、同薬を光神教団に納めまして、既に治験が始まっています」
「そうか。ご苦労だった。モーガンも良くやってくれた」
既に連絡を受けて、手紙で褒めてあったが改めて口にする。
「そうなんです。手続きや交渉で助けて戴きました。ここまで順調なのは家令殿とあとプリシラさんのお陰です」
「ああ、いえ。業務ですので」
「そうかあ。ササンテっていう名になったんだね。悪くないね」
アリーが呟いた。
「はい。当初、御館様が製薬工程の着想を得たダダム孔からダダムンとする案もあったのですが、流石に超獣の名前から取るのは憚られまして。鉱山名のササンティアに因んで名付けました」
「あぁぁ。ダダムンは、ないわぁ」
アリーの言葉に、ローザも肯く。
「そうですな。ちなみにエルメーダで産する大理石も上質なものが、ササンティア石という名で売り出されておりますので、相乗効果を期待しております」
抜け目がないな。
「それで臨床試験の状況は?」
「はい。既存の治療薬とササンテを並行試験して戴いております。6日前に戴いた情報では、既に怪我の規模3段階で各150件の目標に対して半分ぐらいの数が集まってきています。比較状況はかなり良好でして中間結果がまもなく上がってくると聞いています」
うむ。相手が俺達というのもあるだろうが、サラの受け答えや態度が堂々としてきた。自信が付いてきたのだろう。良い傾向だ。
それにしても、流石は光神教会。治験にも慣れたものだ。
「うむ、そうか。では大司教様にお礼に上がらねばな」
視線をモーガンへ向ける。
「承りました。面談を手配致します」
あとは、エルメーダにも行かないとな。
「旦那様」
「ああ、なんだ。ローザ」
「サラは、治療薬開発の他に時間を見て、何くれとなく私の世話をしてくれているです」
「ああ、少し手が空いたので。メイドの方々ができない力仕事とかです」
「そうか、礼を言う」
「と、とんでもない。師匠の世話を焼くのは弟子の務めです!」
「治療薬に関しては以上です。サラ殿、ご苦労でした」
「はっ、はい。失礼します」
サラがギクシャクと退出していくと、仮執務室に笑いが起こった。
「引き続きまして、財務の報告を……」
†
王都に帰って来た翌日、王宮に出仕して国王陛下に謁見している。
広間ではなく、陛下の御座所内の執務室だ。
「報告は以上でございます」
「うむ。先に聞いていた内容通りであるな。ラルフェウス、ご苦労であった」
「はっ!」
国王陛下の横にはフォルス宰相閣下とテルヴェル外務卿が座っている。
限られた出席者ゆえ、陛下は少し打ち解けたしゃべり方をされている。
捧呈した2通の覚え書きを見終わったのか、陛下は宰相へ渡された。
「そこに掛けよ」
着座すると、陛下は少し身を乗り出した。
「なかでも、プロモスとの進展は思った以上に良い。のう。テルヴェル」
「仰せの通りにございます。総論は賛成、あとは時間を掛けて程度の内容を返してくるかと存じました」
「そうだな。やはり彼の国の第3王女との個人的付き合いも奏功したのだろう」
「はい。加えてエレニュクス女王陛下の外交戦略と、我が国の意向が一致した結果にございます」
プロモスの西方諸国への依存度を平準化したいという意向と合致したのだ。あとは暗に、国王陛下の慧眼によるものと匂わしておく。
「さもあろうが、ラルフェウス卿の……なんであったか、そうカルヴァリオを克服したと言うのが、彼の国の世論を容認へ持って行ったところが大きい。そう彼の地の大使館からも、報告も来て居る。どう思う、フォルス」
陛下は、女王から渡された短剣を手にして、しげしげと眺めながらご下問された。
宰相は微妙な面持ちだ。
「そうですな。ですが、そのような催しに大使が参加するなど軽率の誹りは免れぬところ……」
来たか。レティアの当初見解と同じだ。
「……と言えるやも知れませんが。ラルフェウス卿は我が国が誇る上級魔術師でもあり、女王陛下直々の御諚を避けるは、却って我が国の威光を損なうとも言えます」
「ふむ。それで?」
「はい。彼の国に讃えられる成績を修めたところを見ても、ラルフェウス卿自身成算があったのでしょう。よって、間違った判断ではなかったと存じます」
ふぅ。
「つまり、結果論として正しかったと申すか?」
「御意」
「テルヴェルはどうか?」
「はっ、そもそも大使とは、陛下の代理人。ご叡慮に従うところです」
「ははは。原則論で来おった」
「ただ1つ」
「何か?」
「ラルフェウス卿は、外交の一環として出場したものにございますれば」
「そういうことだ。外交とは相手があること。朕が彼の国の元首であれば」
おっ、陛下が俺を睨んだ。
「ラルフェウスが出場を抗うことあれば、条約の有効性そのものに疑念を持っておったことだろう、ミストリアの上級魔術師は本当に物の役に立つのかと。つまり、卿を送り込む意味はなかったことになる。故に朕としては認めるところである。いかがか? フォルス」
「はっ! ご深慮と存じます」
「そうか。さてクラトスでの手腕も認めなければならぬところではあるが、ラルフェウスには既に子爵へ任じた。要するに先払いをしたということだ。したがって陞爵はないが、勲章と金銭にて褒美を取らす。随行の者に良く報いよ」
「はっ、ありがたき幸せ」
「他には?」
外務卿が、身を乗り出す。
「ラルフェウス卿の報告書にありましたが、プロモス第2王女とネフティス王国第2王子の婚姻が内々にまとまったとのこと。これにつきましては外務省の調査結果とも一致しております」
「ネフティスか……ふむ。では対応を急がせよう!」
†
御座所を辞した。
待たせていたアストラと合流して、外務省舎内の事務所に戻ると、皆が待ち構えていた。
俺達が入って行くと、皆立ち上がった。
「閣下より、皆にお言葉がある。もう少し集まってくれ」
事務所内の部下達が寄ってきた。
「では閣下」
「うむ。先程、国王陛下に拝謁し、先のプロモス・クラトスへの派遣について報告したところ、勿体なくもお褒めを戴いた」
「おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
「随行した者、王都にて支援してくれた者。皆のお陰だ! 礼を言う、ありがとう」
狭い事務所が響めいた。
「また、陛下は諸君達を十分労うようにと仰った。ついては、明後日の休日。ささやかではあるが、我が館にて宴を催すので、都合の付く者は是非来て欲しい」
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訂正履歴
2020/06/27 誤字訂正(ID:209927さん ありがとうございます)
2020/06/27 誤字、少々加筆
2023/03/08 誤字訂正(ID:1552068さん ありがとうございます)




