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28話 薄氷

ああぁ。喉がヤバいです。

 この土壁で、巨猪(ヴァラーハ)を押し留めるられるなど思いも寄らぬ。

 時間稼ぎこそが狙いだ。 


 魔力(マナ)を極限まで右腕に集束──

 

閃光(ゼノン)!!!!】


 指先から、蒼く目映い耀きが迸り、ヤツを撃った!

 ヤツの脇腹──分厚い剛皮に突き刺さり、太さ1リンチ余りの光束が肉を灼き穿った。

 

 グァァァアアア……。


 苦悶の雄叫び。

 しかし、貫通孔から白煙を上げているにもかかわらず、ヤツはまだ倒れない。


 ならば、もう一発当てるま……で。

 クゥゥゥゥ、身体が……

 そして頭を締め付けられる感覚が襲う。


 術後硬直(バインド)──


 魔力(マナ・)逆流(リバース)がキツい。

 魔術には、それぞれの術式、そして術者の技倆に適した魔力の投入量がある。それを超える魔力を投入することもできなくはない。効率は悪いが、魔術の威力を嵩上げできる。


 だが、副作用が一挙に強くなる。


 一旦術者から放たれた魔力、つまり魔術の一部が姿を変えて術者に還流してしまう。それが魔力逆流。感覚が麻痺して、動作が極端に緩慢(バインド)となったり、強烈な嘔吐感や頭痛に襲われる。


【コゾウ ウゴケナイ ヨウダナ】


 ダァァンンンン。

 巨猪の足下に残っていた、壁の残骸が蹴散らされた。


 ゆっくりとだが、突進が再開された。


【シネ!】


 くうぅぅ、動け! 僕の脚!

 だが、ブルブルと震えるだけだ。

 ヤバい──その時だった


快癒(サルーツゥ)!!】


 なっ!

 俺のすぐ横に、アリーが居た。


「ばっ、バカ。すぐ逃げろ! 巻き込まれるぞ!」

「それが?」


 魔獣を一顧だにせず、僕に金の粒子を振り注がせる手を止めない。


 動け、動け!


「ラルちゃんは、アリーちゃんのお婿さんにするんだからね!」


 もはや指呼の距離だ! 間に合わない!


「ガフゥ……」

 ブフゥィィアアア!


「セレナ!」

 巨猪の脇腹、まだ血が噴き出している部位に噛みついた。


 むっ!

 それが効いたのか、突進の勢いが緩む。巨体を大きく捩ると、セレナが吹っ飛ばされた。そのまま、こちらに向かってくる。


「だぁああ!」

 アリーを抱えて、横っ飛び。地に転がって間一髪で躱した。


「ラルちゃん、動けるように!」

「ああ」

 頭痛は残っているけど、手足は動く。


 ちぃぃぃぃぃ。

 ヤツは、直進。再び木々を薙ぎ倒して、6本脚でみるみる去って行く。

 生き延びたが、ヤツを村に行かせないという目的が……。


ワッフ!(ラルフ ノッテ!)


 セレナ!

 跳ばされたが、走って戻ってきた。それに飛び乗った。


「ラルちゃぁぁん!」


 速度はこっちが速いが、ヤツは直進、僕達は木々を避けてジグザクだ。なかなか追いつけない。

 ちっ! 木漏れ日が段々明るくなってきた。もうすぐ森を抜けてしまう。そうか!


【セレナ! 右だ、右に行ってくれ!】

「ワッフ!」


 左に遠心力を掛かり、右に曲がる。

 木漏れ日が一層明るくなり、木立の間が透け始める。よし! 思った通り。

【森を抜けたら左! 左に曲がれ!】


 間もなく森を抜け、草地になった。

 一気に加速しつつ、倍する遠心力を受ける。


【よーし、回り込むんだ!】

 右には集落が見える。


 数秒も走った頃、森の切れ目が爆発した。

 巨猪(ヴァラーハ)が、木々を弾け飛ばして飛び出してきた。


 もう後が無い、一発勝負だ!


【右!】


 セレナが進路を変えた瞬間、僕は手を離し、股の挟み付けを止める。


「ワワフッ!」


 鳴き声を遠くに聞きながら、僕は宙高く浮いた。

 時の流れが急速に遅くなるのを感じつつ、眼下に疾駆するヤツを視た。


【──赫火(フロギスト)!!】


 ヤツが見えなくなる程の大火球を生じ、視界が真っ赤に染まる。


 ふっと力が抜けた時。衝撃に襲われ、そのまま何度も転がった。


「痛ってぇぇ……」


 あちこちが痛むが、中でも頭が締め付けられるような酷さだ。おまけにぴくとも動かない。魔力を込めすぎた。

 顔に熱さを感じ目を開くと、10ヤーデン位向こうで、小山のような物が盛大に燃え上がっている。


 熱っついって!

 小山の一部が動いた、あの尖りは牙……六脚巨猪(ヴァラーハ)


【コゾウ モ …………】


 何? 孺子こぞうも?

 が、その問に答えること無く、小山が崩れた。そして大きな焔ごと光となって弾け飛んだ!

 そして、時間が巻き戻るように、大きな魔結晶が固まり地に落ちた。


「終わったか……」


     †


「ラルちゃぁ~~ん、ふぅええぇぇん、うゎぇぇぇぇん」


 目の前に、大粒の涙を流しながら、僕に掌を翳すアリーが居た。

 金の微粒子が降ってきてる。


 その向こうは蒼い空。 僕は草っ原に寝っ転がっているようだ。


「フォゥッフ」

「アリー、セレナ……」

「ん? ラルちゃん!? ラルちゃぁ~~ん!!!」


 うげっ。覆い被さるように、抱き付かれた。


「重いよ、アリー。セレナくすぐったいって!」

 顔をペロメロ舐められている。


 そうだ!


【あの巨猪、最後に何を言い掛けたんだろう?】


 セレナは、ピクッと反応すると舐めるのを止めた。


【コゾウモ アレニ…………シンダ】

 ふむ、セレナには、”孺子こぞうも”の後に、”あれに”と届いたようだ。


【タダ……】

 ん?

【ただ なんだ?】

【ニゲテタ】

【逃げてた? 何から?】

【ワカラナイ】


 うーーーーーん。

 あの巨獣が、どうして逃げる必要があるだろう。気になるな。

 もしかして、”あれに”か?


「ああ、アリー。どいて、どいてくれ」

「ラルちゃん。大丈夫なの? 痛くないの?」


「もう大丈夫だ! だからどいて」

「うん」


 覆い被さったアリーが、起き上がったので、僕も上体を起こす。

 うわっ!


「坊ちゃんが、動いただ!」

「動いた! ご無事らしいぞ!」

「良かった!、良かっただ…………」


 遠巻きに、多くの農民が僕らを取り囲んでいる。

 日に灼けた顔に麦藁の帽子を被せて顔を寄せている。みんな農作業の途中だったようだ。


「坊ちゃん! ありがとうごぜぇますだ!」

「えっ?」


「坊ちゃんが、あのでっかいのを……」

「魔獣って言うだ」

「そうそう、魔獣を斃してくれなきゃ。畑も、オラ達の家も全部、めちゃめちゃにされてただ」

 確かに、もう200ヤーデン位に畑が、そして、家も見える。


「そうだそうだ! ありがてえ。みんなで御礼を言うだ。ありがとうごぜえますだ」

「「「ありがとうごぜいます」」」


 よく視ると、知ってる顔がいくつもある。

 中には、涙を流している人も居た。

 村を救えたのかも知れない。その思いがじわじわと押し寄せてきた。


「うん。みんな無事で良かった」

「はい」


「おい、お館へ呼びに行ったヤツは、まだか? 30分は経ったべ。2ダーデンもあるまいに」


 それから、5分ぐらいして、ローザ姉が駆け付けてくれて、肩を貸して貰って家に帰った。また、お母さんには叱られるかと思ったけど、今日は優しかった。


皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2019/09/07

(旧)ふむ、セレナには、”孺子こぞうも”の後に、”あれに”と届いたようだ。

(現)ふむ、セレナには、”孺子こぞうも”の後に、俺には届かなかった”あれに”が聞こえたようだ。

(ID:512799さん ありがとうございます)

2021/03/07 誤字訂正(ID: 1532494 さん ありがとうございます)

2022/02/13 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)



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