2話 天界(ブラック)バイト
序章 まとめ投稿2話目です。
天界での言語取得。要するに勉強が始まった。
まずは天界標準語からだ。
結構難解で3日間掛かったが、2つめの天界東方派生語で、なんとなくコツが掴めた感じがした。それからはするすると憶えられるようになり、3時間で1言語、2時間、1時間とどんどん習得時間が短くなっていった。
20日間で、天界標準語および技術言語、さらに下界主要言語1740種をマスターした。
怖ろしくなるほどの速度で言語を憶えていける。あと、パターンも分かってきた。やっぱり、同じ惑星の言語は共通点が多い。そんな感じで、比較し始めると結構楽しい。
しかも、文字・紋様、超音波と光信号にテレパシーを含む発音法、そして文法がどんどん頭に入ってくる。素晴らしいぞ! 流石は全言語取得能力&知性補正800%!
俺は、正に四六時中延々言語を憶えていった。
とにもかくにも、続く29日間で、俺はこの支部の担当空間の派生言語79819を憶えていった。知性補正800%って、どうやら知能指数800とかじゃなくて、8人分以上根気強く頭が使えることらしい。
まあそれはともかく。途中から、段々マイナーな、別な言い方をするとレアな言語を習得する方向を求められた。
時間が許せば、メジャーな言語を深く学んで、洒脱な表現法にも手を出したかったが。まあ仕事だから仕方ない。
21日目からは、天界でのアルバイトが始った。
「うむ。流石は、**君。ぼそっ(常時過労)な、だけはある」
なんだって? 全波動受信能力をもってしても、良く聞こえなかった。きっと悪口だ。
「よく、8万超の言語を憶えたね。これで、××銀河では不自由なく務められるよ! 最後に5大力神のプロトコルを憶えて、魂登録すれば補助審査官ができるよ」
ずぅっと、豹頭が寄って来た。
何? 何だ?
大きく顎が開いて……。
うぎゃあぁぁああああ!
咬んだ! 噛みつかれたよ。って痛くないな、死んでるし。
「はい。登録終了と! 今、プロトコルウィルスを流し込んだからさ、5大システムを扱えるようになった」
「5大システム?」
「天界を含むこの世の全ての理を統べる神のことだよ」
「神……様?」
「ああ、まあそう固く考えることはないよ。そうだな自然と言い換えても良い。まあ僕もその一部ではあるんだけどね。プロトコルは霊格ポイントが高くなれば、ちょっと修行すれば身に付くけど。それまで待っていられないからね。特例だよ特例! これで、ジョー・ハリーシステムも使えるし」
「はっ。はあ」
「じゃあ、仕事、仕事。亡者は待ってくれないよ!」
「りょ、了解!」
補助審査官──
その役割は、亡者への生前の霊格ポイントと輪廻システムの説明だ。そして、本審査の結論を予告する。この予備、本審査の制度は、天界法で決められている。そのお陰で審査官の慢性的不足が続いている。
亡者に理解させると、状況に応じて5大システムへ神通力を使ってアクセスし、輪廻先の手配をしてもらうために本審査のソーエル審査官へ回す。
一通り、他の補助審査官の仕事ぶりを見せられて、まあこんな感じでと始まったのだが。
悟った。
いや、数日間の経験で思い知らされた!
俺が、全言語能力を取得できる能力を、どうして貰えたか!
言うまでも無い。補助審査官をやるのに必要だからだ!
亡者は、生前の言語で意思疎通する。
当たり前だが天界標準語を喋る亡者などいない。だから、支援オフィス側から歩み寄る必要がある。
要するに、あの豹頭天使は俺を働かせるために、キャンペーンとか言って罠を用意したというわけだ。
それで、メジャーな言語を操る補助審査官は多数居るらしいが、使って居る高等生命体が10,000個体を切るような、超マイナー言語の補助審査官は数えるほどしか居ない。だからそれが俺に回ってくるのだ。
ところで、予備審査。これが一筋縄では行かない。
天界に来た亡者は、意識レベルが基底まで落ちているにも拘わらず、輪廻先が人間でないと泣きわめく者。
色仕掛けでポイントアップを図ろうとする女性亡者も居る。今は性欲がないからと言うととんでもない汚い言葉で馬脚を現してくる。
一番精神を削られるのは、子供だ。幼児でも、一旦最低限意思疎通できるまで知性を上げられるが、どうしても同情したくなる。
逆に自分の善行ポイントがこんな低い評価なのはおかしい! そうゴネる者が沢山居る。
これでマイナスポイントなら問答無用で地獄行き! で、OKなのだが。問題はプラスの亡者だ!
特に宗教関係者とか政治家の場合のような妙な確信を持っている者が始末に負えない。
そんなこんなで審査には時間が掛かる。
まあ無理もない、大勢の亡者の内の1人でも、向こうは唯一の自分だ。こちらも、ありったけの言語能力を駆使して説得する必要がある。
しかし。
ブラック・バイトのブラックたる本質は、そこでは無い。
天界に居ると言うことは、何をやっても死なないのだ。
つまり、食事も必要無い、休憩も不要、眠らなくても可! 死なないのだから。
したがって、延々予備審査ができる。いや、やらされるのだ。
これが
1日何十何百と処理すると、身体は疲れなくても精神がやられる。
神がシステム……分かる気がする。
俺もまるで機械だ。いや歯車だ。歯車は何も考えない。ただ回るだけだ
天界バイトと書いてブラック・バイトと読むのだ。そうに違いない。
が、そんなことが頭を掠めるのも、48日目までだった。
49日目になったとき、オフィスの外に長蛇の列ができた。千や万の単位ではない。
「しっ、審査官。オフィスの外に膨大な数の亡者が詰めかけています。どういうことですか?」
「ああ……49日前。ちょうど君の本審査の日だけど。ここに来た日だが。星間戦争で%%星系の主星が超新星爆発してね。1億7千万の高等生命体が一気に亡くなったんだよ」
ちょ! 1億7千万って!
「大丈夫、大丈夫。非常措置で、大半は他のオフィスへ回してもらっているからさ。君以外にも、補助審査官はスカウトしてる。まあ時間も無かったからメジャーな言語しかマスターできてないけどね。あとは、他から審査官も回して貰ってるし、まだこれからも続々増強されるしね。同星系の多数派言語は他の者に任せて、君は希少数言語使用者主体で頼むよ」
「はっ、はあ」
「なーに、審査期間延長特別申請もしたし、3年くらい通常の3倍で処理していけば一段落する。それに君は過労死するぐらいだし、大丈夫だろう。ここでは死なないし」
いやいやいやぁぁぁ…………。
それからが大変だった。
次から次へと亡者を処理していく。
1日千を超えるためには、流れ作業で済まないと思うが、仕方がない。天界法で死んでから10年以内に次の輪廻先を宣告する義務があるからだ。
ここは天界だろ? 地獄じゃないよな?
いいや地獄以下だ!
霊格ポイントがマイナスで地獄行きを宣告した亡者が羨ましいと思えるぐらい、なんなら変わってやろうか! と言いたくなる程ブラックな職場だった!
あのぅ、ドS天使め!
俺は、ソーエルではなく、最初のドゥエスの方をもじって、呪詛を込めて呼んでいる。言語能力にはそう言ったスキルもあるらしい。しかし、流石は天使、今のところ何の効果も発現していない。
そして、時間の感覚がなくなって行った。
「ああ、**君。ご苦労だった!」
ドS天使だ!
「はい?」
「%%星系の亡者もほとんど審査が終わったからね。これから私は少し楽になる」
「はあ」
俺はどうなの? どうせ、マイナー言語亡者は減らないんでしょ?
「それで、お忙しいソーエル審査官様は、何か御用ですか?」
「あっ、ああ。君の嫌みのレベルは随分上がったねえ。嬉しい知らせだよ!」
嬉しい?
「と、言いますと」
「君の年季奉公……じゃなかった、輪廻準備期間も今日で終了だ!」
「はあぁぁあ……やっとですか。3年じゃなくて300年ぐらい、経った気がしますけど」
「ははは。15分後、第2723星系第2惑星へ輪廻だ」
「それはまた、ギリギリですね」
「うん。それで、内規に基づいて君に伝達事項があります。3年間の勤務の報酬である霊格ポイントは……随分溜め込んだねぇ、先払いの10,000を差し引いて、532,767ポイントだ!」
いや、あんたが俺をギリギリまで酷使したんだろうが! あん!
「そうか。うん……やっぱり天界で仕事すると儲かるよな。しかし、残念だが余剰は転生時にはクリアされる!」
「えぇぇぇぇ、天界で得たポイントもですか?」
「ああ、そういうことになるかな。君の場合、能力ボーナスは一度支払われているから、来世でのボーナス追加はないしな」
まじか!
500ポイントで偉人、1,000ポイントで聖人なのに!
50万ポイントも捨てるなんて! ほとんど、只働きじゃん!
……ん? 待てよ。
何か似たような例があったような……そうだ、思い出した!
無茶苦茶無欲な亡者が居て、能力ボーナスは要らないって申し出たことがあった!
その時は、そのまま霊格ポイントを……。
「ソーエル審査官。転生時の余剰ポイントの扱いは、クリアではなく、100分の1化です」
そう、能力ポイントを貰って、その余剰を100分の1にされたら、普通残るのは1ポイント未満だ。だから、一般にはクリアと言われている。しかし!
「チッ!」
いや今、舌打ちしましたよね。
「確かに、100分の1だ!」
「100分の1化しても1ポイントを超える場合は、生まれながらにして霊格ポイントが付くことになりますよね」
「くぅ、良く憶えているな!」
ははは! 何人亡者を捌いたと思っているんですか!
「ならば、私の来世初期ポイントは、5328ですよね? 違っていたら、来世で死んだときに異議申し立てしますからね!」
「わかったよ……」
よし! 来々世も高等生物に輪廻確定だ!
「……ああ、悪いが、もう時間だ。ああ、転生先の環境も整備しておいたから感謝してくれよ! だから、また私の助手をやってくれ。培った言語記憶は、浅い忘却レベルに留めて置くからね……」
えっ? ちょっと! 絶対嫌だぁああ!
願い虚しく,私は白い光に包まれた。
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訂正履歴
2019/12/16 舌打ちの表記(ID:1019715様 ありがとうございます)
2022/02/13 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)