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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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290話 ラルフ しくじる

完全勝利! ラブゲームやスコンクで勝つというのはなかなか達成できません。成功しても、ちょっと引っ掛かるてのは、ままありますね。

 女王陛下は俺以外の被表彰者と大会委員の挨拶を一通り受けられると、満場の拍手と共に退場された。

 それを契機に、来賓達も潮が引くように減っていった。要するに我々を賞するというよりは、女王や閣僚におもねるための出席ということだ。なにやら社会の縮図を見るようだな。

 

 俺もアリーも一息吐いてワインを含む。


 おっさん(リウドルフ)魔術師がやってきた。

 何やら上機嫌だ。


【ラル……ああぁ、いや。子爵様と呼んだ方が良いか?】

【いや、ラルフで構わない】


 視線が俺の右を向く。

【ああ、側室のアリーだ】

【側室……はぁ】


 名前で気が付いたのだろう、彼女はにっこり笑って会釈した。

「試練の参加者なの?」

「ああ」


【すげーな。子爵の側室ともなると、やっぱり別嬪さんだなあ】

【ああ、侯爵の娘だしな】

【えっ! 本当かよ?】

 リウドルフは、顔を引き攣らせた。


【それで、何か良いことでもあったのか?】

【おっおお。なんでわかった。魔感応か?】

 さっきの顔を見て、気が付かない方がどうかしてる。


【まあいい。仕官の申し出が2件あったんだ】

【ほう、それは良かったな】


【うむ。ラルフに助けられて、本戦2日まで残ったからな。この歳で出場した甲斐があったというものだ。礼を言う】

【いや、礼には及ばない】

 別にリウドルフだから助けたわけではないからな。それに。


【2日目まで残ったのは、リウドルフの実力だと思うがな】

【そっ、そうか? おっと、嫌なやつらがやってきた。縁があったらまた会おう】

【ああ。元気でな】


 近付いて来たのは、エゼルヴァルド達だ。

 ん? 2人は分かれ、隣のテーブルにへ行った。エゼルヴァルドだけがここまでやって来た。


「あっ。私、お花摘み行って来る」

 何か察したのだろう、アリーは離れていく。


 近付いて来て、何か言いたそうにはしているが、話しかけて来ない。

 仕方ない。


【エゼルヴァルト卿。その服】

【あぁ。おう、なんだ?】

【礼服を良く持って居たな】

【ん? 持って居るわけないだろう。館に戻って着替えて来たに決まっている】


【ほう。俺は、ここで4時間も待たされたが】

【そうなのか】


 どうやら軟禁されていたのは、俺だけのようだ。なぜだ? 

 腹は立つが、まあ良い。


【それで、俺に何か言いたいことがあるのか?】

【あっ、ああ。そっ、そうだな。卿には、私と仲間がいくつか卑怯なことをしてしまった。謝罪したい】


【今になって、なぜ謝る】

【それは……。御館様、いや。女王陛下が、ラルフェウス卿に謝るように仰ったのだ】


 御館様? 昔そう呼んでいたのか? 殿下はこの男を幼い頃からの顔馴染みと言っていたが。陛下の登極前に何か関係があったと言うことだな。


【それに第6層では、完全に妨害してしまった。あれは卿が避けなければ、直撃していたからな】


 バーレイグが俺に魔弾を撃ったことを言っているらしい。

 確かに威嚇ではなかった。バーレイグは失格覚悟でやったのだ。

 エゼルヴァルトが驚いていたところをみると、彼としては本意ではなかったのだろう。


 隣のテーブルを見遣る。


【ああ、バーレイグの所為ではない。父が遠縁の彼に、私をなんとしてでも入賞させるよう命じたから、やったことだ】

 父……エルフ主義者のメルヴリクト侯爵か。


【そうか……】

【済まなかった】

 胸に手を当て頭を下げた。


【わかった。謝罪は受け取った。ところで、ひとつ訊くが】

【なんだ?】

【侯爵閣下が出場を勧めたのか?】

【なっ、なぜそれを知っている。そうすれば……】


 エゼルヴァルドが俺より好成績を修めることで、条約交渉時の発言力を削ぐことを企図してのことだろう。だが彼には主目的を隠し、クローソ殿下への主張になるとでも(そそのか)したのだろう。

 要するにバーレイグの存在が、保険というわけだ。


 それで試練の結果が出たあとは、俺の陞爵を次の矢として撃ってきたわけだ。

 感心する程の執念深さであり、犯罪にならないことを見越した周到さだ。


【あと……卿を撃ったバーレイグを助けてくれたそうだな。礼を言う】


 ほう。神妙な表情だな。

 尊大だが、性根はそこまで腐ってないのかも知れない。


【本国ではそういう仕事をしている。それに俺が勝手にやったことだ、礼には及ばん。用は済んだか?】


 話を切り上げようとしたが。


【私もひとつ訊きたいことがある】

【なんだ?】


【第7層……最後は何が居たんだ?】


 ふむ。まあ気になるだろうな。だが……

【卿も第7層に到達したのだろう。あの層でのことは他言無用と委員会に言われているはずだが?】


【私は、あの層に辿り着いたが、ほぼ魔力を使い果たしていた。層を下がるにしたがって魔素も低くなる一方で回復も望めなかった。その敵に対峙する前に自分で魔導具を外したのだ。入賞は得られたが、それで満足したところが卿に及ばなかったところだと反省している】


 素直だな。競技でなければ、悪い戦術眼ではない。


【反省しているなら、来年再出場して確かめたらどうだ?】


【ああ、そうか。そうだな。クローソ殿下への婚姻申し込みも撤回したが。来年やり直せば良いのか。良いことを聞いた。礼を言う、さらばだ】


 エゼルヴァルトを見送った。

 ああ、殿下には悪いことをしたかも知れない。


   † † †


 カルヴァリオ(聖君試練)が終わった。

 最後に挨拶に来た実行委員長に質したところ、俺が軟禁されたのは、俺が持って来た水晶細工の所為だった。なんでも、とても高価な品なので、なくしたり、奪われたりしないように保護されていたようだ。あと、試練克服が式典まで発表されなかったのも、その一環らしい。先に言えよと言うか、誰かに護って貰う必要などないのだが。まあ済んだことだ。


 翌日、当地の新聞で大きく紙面が割かれて、試練の結果が報じられた。37年ぶりに克服を成し遂げたのが、人族の俺という点は微妙ではあったが、上級魔術師だったこともあり順当という論調が多かった。来年からはプロモスの上級魔術師も出場を望むなど、読んだアリーが負け惜しみじゃんと不機嫌になるようなことを書いた紙もあったが。


 そして、外交交渉が始まった。

 試練克服がどこまで効いたかはわからないが、交渉は順調に進んだ。人間如きにプロモスを護るなどとは笑止とかという世論が下火になったことも、多少は奏功している。


 とりあえず我が国からは、プロモスからの輸入量増加、即時10品目の関税低減……概ね昨年実績から半減を提示している。


 プロモスからも、同国が西方のネフティス王国やセロアニア公国などに現在依存している物資について、我が国からの部分的に輸入することを提示してきている。経路を複数化することで、量と価格の安定を目指せるわけだ。


 要するに、この条約案は、対超獣安全保障という軍事同盟というのが表向きだが、その背後で通商同盟の側面がある。プロモスに取ってみれば、後者の趣が強い条約なのだ。これにより西方諸国の圧迫を弱めることもできる。我が国も北東方面には同じことが言える。プロモスは小国だがエルフの国、古い伝統がある知名度のある国だからな。


 そもそもプロモスの首脳周辺は、この条約に乗り気だったが、反対派も根強く存在する。その国内向けの説得に、俺はまんまと使われたわけだ。女王陛下の掌で踊っている感も否めないが、外交官の身としては悪くない。


 基本案は提示できたものの、相手は超獣出現がしばらく起こっていない(プロモス)だ。順調と言っても一足飛びに条約締結と言う方向には進まない。これから行われる条件闘争が本番とも言えるだろう。


 だがそれは、俺の任務ではない。

 定期的に双方が役人を派遣しあって、合意点を探ることになった。

 

【つきましては、大使殿。我が国からの訪問団派遣は、再来月の11月半ばでよろしいだろうか】

【同意致します、テッサロス(外務卿)閣下】


 王宮内の一室。

 俺は大使団を引き連れ訪問している。


【どうかな書記官?】

【書き上がりました】


 それはそうだろう。

 既に覚え書きはアストラやレーゲンス達と、プロモスの実務者達が詰め切った内容なのだ。そこに、訪問団派遣の期日を書き足しただけだからな。


 つまり、今日は式典だ。

 レーゲンスなどは晴れやかな表情ではあるが、一昨日まで長時間の交渉をしていたそうで、目の下にクマができている。


【ご確認下さい】

 覚え書きが書かれた冊子を2通受け取る。

 内容が、プロモス語とミストリア語の両方で書かれててある。

 既に実務者達の署名が入っている。が、一応全体の文言を確認したが、問題ない。


【確認致しました】


【それでは、署名をお願い致します】

 一通を閣下に渡し、ミストリア王国全権委任大使ラルフェウス・ラングレンと署名した。冊子を交換して再度署名すると互いに冊子を見せ合う。閣下が肯いたので、握手を交わすと、室内を拍手が満たした。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/6/17 誤字訂正、少々加筆

2021/09/11 誤字訂正

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2022/08/03 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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