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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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286話 完全黒体

光を全く反射しない黒体(=放射率100%)は実際には存在しないのですが。

放射率95%ぐらいの黒体テープとかは、熱電対が付けられない回転体の温度測定なんか使ってたりします。

 ぬぁ!


 間抜けな声に振り返ると、バーレイグが消えていた。

 天井に向けて火球が飛び、ぶつかって虚しく弾けた。


 世話の焼ける。

 砂地まで駆け戻る。


 さっきまでなかった窪地の底で、砂から生えた大きな2本の牙だかはさみだかに、バーレイグが挟まれていた。ずるずると砂が流れる。蟻地獄だ。


 腕を向ける。

閃光(ゼノン)!】


 眩い紫光が砂地に突き刺さると、ブスブスと鳴って白煙が沸き立った。


 あぁぁぁあ。

 バーレイグが、じたばたとはさみから抜け出る。

 放置可だな。


【ちょっと待て!】

 踵を返したのにイラッとくる。

【なんだ?】

【なぜ私を助けた? お前を撃とうとしたんだぞ】

【さあな。死なないと頭では理解していても、傍観できないだけだ。俺にもわからん】


【結局、歯牙にもかけないということか?】

【そう思いたければ、そう思えば良い】


【くそう】


 その呻きの直後、バーレイグの気配が消え失せた。

 自ら失格を選んだな。


 彼の出場は、エゼルヴァルドを入賞させるために違いない。誰かに頼まれたか、金を積まれたか。そこに興味はない。

 ともかくも、第7層へ続く通路へエゼルヴァルドを見送ったことで、目的を達したのだろう。

 結局俺が彼を助けたのは、迷惑でしかなかったのか。


     †


 え?

 ラルフが通路に入っていったすぐあと、第6層を映し出していた魔導鏡が突然暗転した。


 その背後に控えて居た実行委員会の係員が2人、魔導鏡に歩み寄る。右側は白い髭を蓄えた壮年の者。昨日ミドガン委員長と名乗っていたわね。その者達が恭しく揃って跪礼した。


【長らくのご観戦、お疲れ様でした。上映につきましては以上で終了です】


 終わり?

 いやいや、まだ第7層が……。


 だが、この広間に詰めた者達は、誰も騒がない。

 どういうこと?

 もしかして、毎年こうなの?


【現時点の結果について、報告致します。今回の入賞者は2人です。お名前はエゼルヴァルド・メルヴリクト子爵様。もう1人は、ミストリアから特別参加されたラルフェウス・ラングレン子爵様です】


【もう1人居たようでしたが?】

【あっ、はい。バーレイグ男爵様は、第6層で失格となりました。したがいまして入賞とはなりません】

【あら、そうなの】


【はい。つきましては、本戦は最長で本日14時まで、あと4時間程続く可能性がありますが、最終結果が判明次第報告させて戴きます】


【わかりました】

 母上が立ち上がったので、慌てて皆も立ち上がる。


【本年は入賞者が出て嬉しく思います。皆の者、大儀です】


 こうして2日間に渡った上映会は、終わったのだった。


     †


 通路を進み、突き当たりの階段を降りていくと、魔灯がどんどん失せていく。第6層が明るかった分、ここは余計暗く感じる。


 むっ!

 なんだ。

 階段が見えなくなった。


 振り返ると10段ぐらい上は見えているし、だいぶ上の方の魔灯が輝いているのも見える。それに自分が履いている靴は薄ら見えるが、足下の階段は見えないのだ。

 もちろん足の裏に階段があることは触覚が捉えているが、視覚には反応がない。


 俺自身が暗闇に浮いているようだ。


燈明(カンデラ)

 ふーむ、自前で光源を用意しても同じだ。靴はよく見えるようになったが、やはり階段は見えない。光量をかなり上げてみても、見えない物は見えない。


 なんだこれは?

 突如、頭の芯が冷たくなり言葉を思い出す。例のヤツだ。


 完全黒体──


 光を全て吸い込み、反射しない物体。

 それに囲まれているということか。


 わかってみれば、面白い感覚だ。

 前にもこんな感覚を味わった気がするが。


 足は着いているし重力も感じるが、視覚というのは大事だな。


 176段降りたところで、平坦になった。

 

 魔感応が届く範囲は10ヤーデンもない。

 眼には見えないが、それでも第6層と同じように柱が複数立っている事は分かる。

 逆に言えばわかるのはそれだけだ。


 落ち着くと、自分の鼓動が聞こえてきた。何やら懐かしい気持ちになる。

 いやいや、それどころではなかった。


 さてどっちに、とりあえず前に行くか……いや待て。何か役立つ手掛かりを得ているはずだ。


 耳を澄ませ、心を開け。

 一番最後の古代エルフ文字の文章を思い出す。


 耳? 聴覚か。

 聴覚を強化してみたが、鼓動がうるさくなる。そう言う意味じゃないのか。

 では?


 その時。なぜか青狼のセレナの顔が脳裏を過ぎった。


 ああ、そう言えばセレナは、俺やアリーが聞こえない音を──超音波だ!


魔感応(レゾナント)


 俺は行使した。

 感度向上ではなく、聴覚を拡張するように。

 周波数を大幅に低く偏移させて、人が聞こえない高い周波数を聞く。


 犬笛。

 蝙蝠の啼き声。


 無音の闇──

 

 そうとしか感じ取れなかった第7層には、耳障りな音が溢れていた。

 高音で背筋を怖気に震わせる断続的でうなるような音色。どっちを向いても同じような音だ。聞き慣れないからかも知れないが、気持ち悪い。


 だめか。

 聴覚を元に戻す……待て。

 気分が悪くても、感じ取れ。身を浸せ。


 微妙にずれている。

 同じような音だが、1秒の何十分の1か。ずれた音が、重なって聞こえている。


 耳をどっちに向けても、音は重なっては居るが少し違う。


 音は無限の速度では伝搬しない。

 反射すれば伝搬経路は長くなり、俺の耳に到達するのには余計に時間が掛かる。よって断続的音集合の遅れがより少ない方が音源の方向だ。


 無論、第6層のように柱が多ければ、音源の方向であっても真っ直ぐ俺の耳に届くことは期待できないが、確率論としては遅れの平均値が小さい方で間違っていないはずだ。


 つまりは、こっちだ!

 向かって右斜め前に走り始める。

 少し歩いては、柱を回り込んで、また少し進み。また柱を回り込むを続ける。


 音源を遡るのは厄介だったが、だんだん慣れてきた。

 走れば前方から来る音は高く、後方から来る音は低く聞こえ、止まっているときよりわかりやすい。

 今では超音波で感知できる柱が、眼に見えるように感じられる。


 ん?

 かなりの重低音が聞こえてきた。なんだ?

 ああ、そうか音響の周波数を偏移させていたんだ。

 魔感応を中断。


 これは……反響が多くて分かり難いが。足音だ!

 俺の進路とはほぼ直角に遠ざかっている。


 エゼルヴァルドか?

 足を止める。

 声を……いや、声を掛けてどうする。それに、こちらが合っているとは限らない。


 そう逡巡していると、大きな叫び声が轟いた。

 ああ、俺の足音か……俺に聞こえるなら、やつにも聞こえるよな。

 直後、彼の気配が感知できなくなった。


 ふむ。俺は俺の成すべきことをやるか。


 再び聴覚を拡張して走り始めた。

 それから、5分も経っただろうか。

 不意に柱の間隔が広くなった。


 歩みが止まる。

 前方からの断続音遅れのばらつきが劇的に減ったのだ。

 つまり、俺と音源の間に遮る物がないと言うことだ。既に指呼の距離。

 しかし、何も見えない。


 むっ!

 突如、足下が光った。

 罠──

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/06/03 誤字、バーレイグの行動に関する加筆

2022/08/03 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2022/09/20 脱字訂正(ID:907298さん ありがとうございます)

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