285話 ラルフ はさみうちに遭う
サブタイトルは挟撃ですが、サバゲーとかやらない身としては、実生活では縁がありません。それよりは挟み撃ち法のコード書いたなあ。
「出てこい!」
グッグッ……。
煽り文句が効いたのか、どうか知らないが。太い石柱の影から、そいつは姿を現した。
石魔鶏──
家禽の鶏とは似ても似つかぬ、体長3ヤーデンの巨躯は焦げ茶色の羽毛に覆われている。鋭利な嘴を持った野卑な顔、牛の腿より太い脚。水掻きが付いた足は、巨体を砂に埋めることなく支える。
そいつが一歩二歩と踏み出すと俺と視線が絡み、紅く光る眼が俺を睥睨した。
こいつがリウドルフを襲ったのだろう
クャァァア!
薄汚れた嘴から微粒子混じりの息吹が吹き出す。
何と言うこともない魔獣だが、このブレスだけは曲者だ。浴びれば石化する。
コカトリスは、薄い瞼を何度か動かした。
自らのブレスが、俺から逸れていくこと訝しんだのだろう。
俺は対峙した巨鳥から眼を離さず、地を蹴って身をひねり──
【刃!】
──斜め後ろへ、光の刃を放つ。
嘴を大きく開け、今にもブレスを放たんとしていた別の巨鳥を縦に両断した。
【ラーマ!】
ひねりきって正面で放った刃が、魔鶏の首を飛ばして血潮を吹き上げた。
リウドルフの石化は背中から始まっていたからな。
先に出て来たコカトリスが気を引いて、別の個体が背後から襲う。彼はその戦術に嵌まり、背後からブレスを浴びたのだろう。
†
強い!
流石はラルフだ。
あのような鳥の化け物2体を、あっという間に斬って捨てた。
両脇の観覧者からも、うなり声がいくつも聞こえたところを見ると、妾の感覚と同じなのだろう。
【どうやら、残った中で一番有望なのは、やはりラングレン卿のようね】
呟いた母上がこちらを向いたが、反応しない。
まあ、そのようなことは、わかりきったことでしょうに。
軽く笑みを浮かべて首を巡らると、武官が反応した。
【はっ! 彼の国の上級魔術師は伊達ではございませぬな】
【恐れながら、そもそも我が国の魔術師、それも一流どころは、これに出場致しませんし……】
そういえば。
我が国の魔術師達の多くは、貴族出身あるいは猶子となった者と聞く。出場して、入賞できれば名誉だが。既に権威を得ている者にとっては名声失墜の危機でもある。
そもそも試練終了後の式典では第7層到達の入賞者が表彰される。
だがこれは、救済措置というか出場を促進するための便法と聞いたことがある。本来は試練を克服した者を表彰すべきだが、例年漏れなく第7層で失格し該当無しとなっているのため、それでは萎縮して、出場者が現れなくなるからだそうだ
好んで出場するものではないのかも知れぬ。
【……それに彼らとて捨てたものではありません】
先程までラルフの戦いを映していた魔導鏡の映像は切り替わっていた。
映っているのはエゼルヴァルド達だ。
数ヤーデン離れて3人が列になって歩いて居る。
我が国の魔術師も負けては居ない、そう思いたいのもわからないではない。
だが12人で始めた本戦。今では見る限り4人になった。
と言うことは、脱落したのは我が国の者ばかりとも言える。
それに残った3人が、貴族同士で連帯した彼らだ。誇る気にはなれない。
失格になっていない限りは、卑怯とまでは言わないが。
あるいはそう思ったのがいけなかったのだろうか?
突如砂が沈降した。
直径4ヤーデン、深さ2ヤーデン程度の円錐の穴だが、人を転げ降ろすには十分だった。
†
背後からの悲鳴に振り返ると、いつの間にか仲間の姿か消えていた。
【助けてくれぇぇ!】
2、3歩引き返すと、砂の地面に大きな穴が開いていた。その中央で、胸まで砂に埋まったヒルディが藻掻いている。
どういうことだ?
ここはさっき私が通ったところ、こんな穴などなかった。
そして、なぜヒルディーが!
【エ、エゼルヴァルド卿!】
【待っていろ! すぐ行く!】
穴を駆け下ろうとしたとき、後ろから腕を掴まれた。
【なっ、なんだ。離せ! バーレイグ】
【いけません!】
【ヒルディーは仲間だぞ! それを助けるのを止めるのか?】
思いっ切り力を込めて腕を引き剥がすと、今度は羽交い締めされた。
【行けば、あなたも失格になります。地中に魔獣が居るのです!】
【なんだと?!】
【ヒルディー卿はここで死ぬわけではありません。それでも助けに行って、あなたも失格になりますか?】
【くそう】
膝が地面に着いたとき、もう砂の底にはヒルディーの腕しか見なかった。そして地面に紅く光った。
思わず、拳を砂面に叩きつける。
【ヒルディー卿は、既に転層されました。とにかく、ここは危険です。離れましょう】
余りの冷静さに腹が立ち振り返ると、バーレイグが悲愴な顔をしていた。
そうだな。悔しいのは私だけではないのだ。
【わかった!】
彼について進む。
【さっきは取り乱して悪かった】
【いえ。誰でも仲間があのような目に遭えば、我を忘れます】
そうかも知れないが。
【あともうちょっとで、第7層かと。がんばりましょう】
†
うんざりする程コカトリスと蟻地獄を斃して進んで居ると、ようやく壁が見えた。小走りで壁まで達する。
さてどっちだ、右か左か!
左に進む。
5分も進んだろうか。自然石の岩盤から、石を積み上げた擁壁に変わる。
煉瓦造りの建物もどき。真ん中に大きく上下に長い通路が口を開けていた。
よし!
そこに走り寄りかけて、急停止。
鼻先を魔弾が掠め、壁に穴が開く。
振り返ると、エルフ貴族2人が居た。
長身の方、バーレイグが魔力を込めた、杖を構えている。
【なんのつもりだ? 失格になるぞ】
首から提げた魔導具中央の魔石が、かなり赤味を増した黄色に染まっている。
【それがどうした? エゼルヴァルド卿。先に行って下さい】
【バーレイグ?!】
彼も驚いた顔だ。
【早く!】
【あっ、ああ】
俺の目の前を通り過ぎ、通路から中に入って行った。
【よそ者に勝たせるわけにはいかないからな】
にやっと笑った。
【ふん。撃ちたければ撃て】
バーレイグに背を向け通路に入りかけた、その時──
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コメント
本作品では迷宮等階層を瞬時移動することを転層、その仕組みを転層陣等と表記しています。
一般的には造語です。
訂正履歴
2020/05/30 誤字、表現変更
2022/08/03 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




