281話 渡らざる橋
飯田線じゃありません(現地人か、鉄分濃い人しかわからないこと書くんじゃない>小生)。一条戻橋とかもありましたね、橋は日常に密接関わっていますねえ。(今日は不調です。済みません)
カルヴァリオ開始より1時間30分経過。
ようやく下に続く階段を見付けた。
結構掛かったな。まあ5箇所程袋小路に突き当たったからな。
いままで、探知魔術に頼りすぎていたな。反省だ。
第2層の床に着いた。
見た目は上層とかわりないが、何か湿っている。
少し進むと分岐があり、左に曲がる。
【燈明】
またもや薄暗くなってきたので、明るくする。
一本道を100ヤーデンも進むと、またもや床や壁が岩壁の坑道に変わった。
やっぱり、こっちが行き止まり、つまりはずれか。
はずれを敢えて探査しているのには当然訳がある。
ひとつ目は、辿り着いた行き止まりの一部に、書いてある古代エルフ語の文章が気になることだ。できるだけ多く見ておくに越したことはない。
ふたつ目は、第5層に進むことができるのは、明日の6時以降だからだ。まだ14時間半もある。その前に、6時間半以内に第4層に進まないと失格になるが。なぜだか焦る気にならない。
俺はこの迷宮を舐めているつもりはない。むしろ逆だ。
違和感が多すぎて、何やら引っ掛かるのだ。
魔力?
右の壁──掌が反射的に遮る。
射出された石筍は、掌の手前1リンチで速度を喪って虚しく足下に落下した。
無論、魔術障壁が覆っている、素手で止めたら大怪我だ。
その後も、一歩進むと左、次は右と石筍が飛来する。
まあ中級冒険者でも油断しなければ避けられる……はずだ。嫌らしく頭、腰と高さを変えて来ているが。全身に巡らした魔障壁を破れはしない。
ただ大分手前から行き止まりが見えているのだから、敢えて近付こうとする物好きは俺ぐらいのものだろう。今度は頭上から石筍が降ってきたが、全てはじき返した。
壁前まで来たので、古代エルフ語の文章だけを読む。
「目に見ゆるばかりが、進む路とは限らず……ねえ」
何やら古代の聖者達が交わす問答のようだな。戻りながら文章の意味を考えてみる。
数分経ったが、さっぱりわからん。
坑道が終わるところが見えてきた。もう灯りは要らないか。
【解除:燈明】
ん? 光っている?
暗くなって気が付いた。
右端の板、その刻を告げる大きな魔石ではなく、その周りに鏤められた小石達がうっすらと光っているのだ。よく見ないとわからない程だが、隣の板と比べれば明らかだ。
いつ光り始めたんだ?
最初は光っていなかった。
今より明るい広間ではあったが、受け取った時によく見たからな。間違いない。
では、いつからだ?
ふむ。
大粒の魔石が消えたときも見た。その時に光っていたら相対的な明るさで気が付くはずだ。ということは光り始めたのは、ここ30分以内。
他のは?
残る板7つを確認すると、大粒魔石の周りに小粒魔石が鏤められている板は8枚中5枚。さらにもう1枚の板に小粒魔石達が光っていた。その板は大粒の魔石がまだ光っているので、気が付きにくい。
ふむ。何かの条件が2つ満たされたのか?
分からないが。まだ小粒魔石が光っていない板は3枚ある。これからは注意深く見ていれば光り始まる時が認識できるだろう。
†
その後、行き止まりにいくつか行き着いたが、罠があったところで、小粒の魔石がぼんやりと点灯した。
どうやら、本当のはずれのもあるが、何かしら意味のある行き止まりもあるということらしい。
そして、小粒魔石点灯の板が4つになった時に、第3層に降りる階段を見付けた。
降りて進んで行くと、俺以外の選手と何人か擦れ違った。そこそこ追い付いたようだ。
そう思っていると、大粒魔石がひとつ消えた。あと3時間でひとつ下の第4層に到達しなければならない。
この層でも、いくつかの行き止まりに辿り着いたが、いずれも罠はなく、小粒魔石は新たに光ることはなかった。
そこで、ある異変が起こった。
選手がある場所で屯していたのだ。数十ヤーデン手前から、気配は感知していたが、そこへしか通路が残っていないので近付く。
差し渡し20ヤーデン程の広めの空間に出た。
そこに6人ばかり選手がいる。
【おお。やっぱり、あんたも来たか。遅かったな】
ハーフエルフのリウドルフだ。
エルフ貴族達も居た。
【ああ】
【見て見ろ。あの溝】
リウドルフが指差す先に大きな溝が口を開けていた。
それは部屋の中央で、端から端までを占めている。
向こう岸までは10ヤーデン。溝の中はどこまでも暗く、深さは窺い知れない。
なるほど。
ここに居る者達は、向こう岸まで渡る術が思い付かずここで止まっているのか?
だが大した距離じゃない。
身体強化魔術を使えれば余裕だが、皆が二の足を踏むのは……。
【あれが邪魔しているのか?】
溝の上空、天井を指差す。
薄衣のような魔術障壁が、幾重にも天井から垂れ下がっている。
溝を跳び越えんと放物線軌道を描けば、接触は避けられない。それぞれは微かな抵抗だろうが、何枚か通り抜ける内に速度が減殺され、向こう岸まで届かなくなると言う寸法だ。嫌らしい罠だな。
リウドルフがにやっと笑った
【ふん。見ただけで気が付いたか。さっき飛んだやつが居たが、あれに引っ掛かって溝に落ちた。ああ、そうだ。アールブとか言ったな】
ああ。
【なんだ、知ってるヤツか?】
【すこし絡んだだけだ】
【しかし、ここまで来て、こんな障壁が待っているとはな】
【だが毎年ここを突破している選手はいるのだろう?】
何かここを突破する術はあるはずだ。
【そりゃあそうだが。そういや、ラルフ。行き止まりの路を全部回っているんだろ。ここ以外に、他に路はなかったのか?】
リウドルフは、あわてて口を押さえた。
だが、聞き咎めた者がいた。
【なんだと、聞き捨てならんな。どうなんだ、人族?】
エルフ貴族達が他の選手を掻き分け、こちらにやって来た。
あいも変わらず居丈高だ。
【気になるなら、自分で確かめれば良かろう!】
当たり前に返す。
【なんだと、エゼルヴァルド卿に失礼であろう】
【まあまあ、ヒルディー殿。落ち着かれよ。抜け道を見付けているならば、ここに来るわけはない】
ふむ、やはりこの男は要注意だな。
【なるほど、バーレイグ卿の言う通りだ】
【やはり、人族など使えぬわ! あっはははは!】
【確かに、ふははっはは……】
エゼルヴァルド達の嘲弄に答えたわけではないが、俺は数歩前に出た。
【なんだ! 貴様、我らに手向かいするか!】
ヒルディーとかいった、貴族が俺に杖を向ける。
俺は罵声を無視して3人の前を通り抜け、溝の縁まで来た。しかし意に介さず、そのまま踏み出す。
【なっ!】
【馬鹿な! なぜ落ちぬのだ?!】
俺は水平に移動する。ここで時を費やすのは無駄だからな
【飛行魔術だと!】
バーレイグの声だ。
【飛行魔術? ミストリアの上級魔術師という噂は本当だったのか】
存外、噂が伝わってきているようだ。
溝の中程まで来ると、空間的な異常に気が付いた。
といっても、俺を邪魔する物ではない。むしろ逆だ。
異常……右下を見ると、魔術障壁が張られていた。溝の縁から対岸の縁まで繋がっている。
橋か。
あれだけの強度があれば、その上を歩いて渡ることが可能だろう。
ふと脳裏に浮かんだ、古代エルフ文字の文章を口にしていた。
【目に見ゆるばかりが、進む路とは限らず】
そういう意味か。
やはり、あの文章は迷宮攻略の手掛かりらしい。
そう考えて居る内に、大溝を渡りきった。
床に降り立つと、向かって右側、壁にぽっかりと空いている通路の方へ向かう。流石にあの橋を教えてやる程、俺はお人好しではない。
【貴様! 1人だけ卑怯だぞ。戻って来い!】
はあ?
余りの言い分に思わず振り返る。ヒルディーとかいうやつだ。
【まあ、待て。戻ってきて、我らをそちらへ渡せば、褒美を取らすぞ】
話にならん。
こいつら、庶民は貴族の命令を聞いて当然とか思っていないか?
そう言う、俺も今では貴族の一員だ。
責務は果たしていこうとは思っているが、なんとなく身分というよりは職業という感覚だ。
【貴様! エゼルヴァルド卿を無視したな! …………グレデムド クリオス!】
ヒルディーが杖を揮うと、拳大の氷塊が撃ち出された。
唸りを上げて飛来するが、罠の石筍の方が速い。無論その行方など撃った瞬間にわかる。
なので、魔導障壁を張った。
氷塊は俺の頭上の壁に当たり派手な破裂音がした。
【ははは! 慌てて魔導障壁を張りましたよ、当てるわけ無いのに。臆病なやつだ!】
見えないのか?
壁を壊して飛び散る、小石や礫を。俺の周りを避けて飛んでいるのだが。
しかし、幸運なやつらだ。
弾けた塵が、溝にまで飛び散ったからな。
【おい見ろ! おかしいぞ、あそこ。何もないところに、石が!】
俺は、踵を返して昏い通路に歩を進めた。
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訂正履歴
2020/05/16 誤字、細々訂正
2020/05/19 明日の8時以降だからだ→明日の6時以降だからだ
2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)
2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




