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27話 災厄の兆し

悪い予感というか、自覚症状は早めに感じます。昨夜風邪?と思ったらやっぱり、頭痛が……

 8歳になってだいぶ経った。

 僕とアリーは3年生になってる。2人とも3年続けて1組だ。若干級友も入れ替わったが、大体は同じだ。


 そして、ローザ姉は12歳になった。基礎学校を卒業し、中等学校に入学した。卒業式では基礎学校の女子の大部分が泣いたらしい。とは言っても、中等学校の敷地は300ヤーデン(270m)しか離れていないが。

 12歳にして既にほぼ大人の容姿を呈していることから、求婚されたことも1度や2度ではない。本人が一顧だにしないから、まだ平穏ではあるが。世間では13歳から16歳で嫁入りする例も多いので、気が気ではない。


 変わったことは、もう一つある。

 お母さんが身籠もったのだ。多分来月には、弟か妹が生まれる。とても楽しみだ。


     †


 4月。もうすぐ夏だ。

 麦の収穫も終わり、どんどん気温が上がっている。

 家から3ダーデン余り離れた、北の森に僕とセレナ、そしてアリーで分け入っている。6歳で森に入るようになった頃は、ローザ姉も付いて来ていたが、僕単独でも問題ないことがわかって、次第に付いてこなくなり、今では森に野営するような予定でもなければ、来ない。


「ねえ、ラルちゃん。休憩にしようよ!」

 木々の梢から洩れてくる陽を浴びて、少女は額に汗を滲ませている。


 アリーは、背が伸びたけど中身は変わっていない。自分が興味を持てないことには怠惰だ。暑いのはわかるが、30分に1回休憩してたらやってられない。


「うん。じゃあ、ここで休んでていいよ。僕達は奥へ行こうぜ、セレナ!」

「ワッフ!」


 セレナは、うれしそうに一声鳴いた。

 この子も3歳(人間以外の年齢は数え)になった。

 体重は、もう僕より重いし、肩の高さも僕の脇まである。顔も、丸々とした可愛い仔狼から精悍な牝狼になった。痩せ気味の僕とかは、軽々と背に乗せて走ることができる。

 最近は成長が緩やかになってきたこともあり、身体強化魔術を彼女に使うことは、余りなくなった。モフモフしながら、魔力譲渡するのはやめられないけどね。


 倒木に座り込んだアリーを横目に、僕と、セレナは歩き出す。


「まさか、か弱いアリーちゃんを、こんな森の中に置いて行かないよね? ねえぇ、ねえって! 分かったわよ、歩くから。待って、待ってたらぁ」


 そんな、でかい声出すなよ。獲物が逃げちゃうだろ!


     †


 日が傾いてきた。

 日没まで、あと3時間というところだろう。


 森の奥は、魔素が濃い。獣は少ない代わりに、小魔獣を沢山狩れた。

 しかし、警戒されたのか、気配がどんどん消えていった。ほとぼりが冷めるまで期間を空けて、ここら辺にはまた来ようと思う。


 夕食の時間に遅れると、ローザ姉が悲しい顔するから、あと1時間で帰らないと。そう思いながら、森の端の方に来ている。1ダーデンちょっとかな。


 むっ、森の奥の方から、何かがこっちに来た!

 反応は小さいが、魔獣だ。

 木々の間の下草がガサガサと鳴り、黒い塊が飛び出す。


 一角ウサギ(アルミラージ)──


 額に角が生えたウサギ。

 まさに脱兎のごとく走り回る。意外とやっかいな魔獣だ。


 セレナが走り出す。

 体高70リンチ……手頃な大きさだ。

 

気尖(スピアー)!!】


 地を跳ねるウサギの機先に、1つ2つと空気弾を放って誘導しつつ、最後に直前を撃った。

 たたらを踏んだウサギは、行き場を失って、大きく跳び上がる。


 ハッ!!


 それこそが狙い──

 アルミラージの目は、横合いから飛来した青白い姿を捕らえた。が、空中では為す術もなく、魔狼の顎門にその首筋を捕らえられた。


 セレナは音も無く降り立つと、僕の元に駆け寄って、まだヒクヒクと痙攣する獲物を地に降ろした。


「よし!」

 僕の声と共にセレナが再び噛みつくと、息の根を止めた。

 アルミラージは、光となって弾けると、思ったより大きい魔結晶へと換わった。


「セレナ!」

【生気を吸わなかったのか?】


 魔獣が魔獣を殺すとき、生気を吸うことができる。その代わり、凝結する魔結晶は小さくなるのだが。今回はそうはなっていなかった。


【モウ イラナイ】


 確かに今日は、獲物が多かったものな。

 狩りをする理由の半分は、セレナの生気補給のためだ。満腹なら、今日はまだ早いけど帰るとするか。


 それにしてもアルミラージか……。


「ねえ、ラルちゃん!」

 むう。いつの間にか至近、2ヤーデン斜め後ろに居た。


「何?」

 怖ろしいまでに気配を消す。ここ1年位でアリーの特技(スキル)になってきた。

 最初の頃は、その度に驚いていたけど、最近は慣れた。


 その技を以て、アリーは魔獣がうようよしてる狩り場に居ても会敵しない。さっきの話じゃないが、仮にこの森に置き去りしたとしても、なんの苦もなく抜けて帰ってくるだろう。凄まじい能力だが、本人にその自覚はないようだ。

 以前讃えたことがある。


『そう? アリーちゃんって凄いの!? えへへへ、もっと褒めて。えっ、いつから? 別に気が付いたらできるようになってたけど。ああ、少し歩き方とかドリスさんに習ったけどね』

 などと言っていた。ドリスさんとは、ダノンさんの奥さんだ。初めて会った時からなんかただ者ではないと思っていたけど。今度あったら訊いてみないとな。


「いやあ。さっきのウサギちゃん、自分から出てきたよね。何か変な感じがしたんだけど」

「アリーもそう思う? そう言えば魔獣の数自体も多いし」

 褒めるとデレデレするけど、勘は鋭い。彼女の意見、特に自身から言い出したことは、重視すべきだ。


 一角ウサギは、敵に出会えば、その走力を発揮するが、基本的には臆病な習性で、自分より大きい気配があれば隠れて動かない。

 そいつが、出てきた木立を見遣った時。


 正にその方角から、ダァーーーン、メキメキメキと大きな音がした。

 樹齢数十年以上の樹木を、次々と薙ぎ倒している音だ。


「ラルちゃん!」

「何かデカいやつが来る!」

 真っ直ぐこっちへ。また森の奥からだ。


 くっ!。

 轟音と僕を結ぶ線の先は、ウチの(シュテルン)村だ!


「アリー、セレナと一緒に逃げろ!!」

「僕は、ここで食い止めてみる! とか言うんでしょ! 絶対ヤダからね」


 なんで、僕の物真似入ってるんだ?!

 まあアリーには、あのスキルがある。


「好きにしろ!」

「言われなくとも! 妻は、旦那様を護るの! それから……」


 ろくでもない話も、樹がへし折れる音で掻き消される。

 20ヤーデン向こう、大樹が根から吹き飛ぶのを見て、心が沸き立つ。


 僕史上最大の魔獣()──六脚巨猪(ヴァラーハ)


衝撃(エンペルス)!!】


 僕の背丈を遙かに超える大獣の鼻先に、気弾を叩き込む。


 凶悪な突進が……止まった。


 改めて見るとデカい! 5ヤーデンを越す体高。

 暗褐色の剛毛に覆われた眼が爛々と輝き、鋭利な牙が生えた口元から白い息が漏れ出している。


 止まったが、魔術は効いてない。

 岩をも砕く衝撃波を喰らっても、煩わしそうに首を振っただけだ。


【ドケ! ニンゲン】


 老魔獣は自意識を持ち、稀に意思疎通もできると言うが。


【この先には僕の村がある。通さん!】

【シッタ コトカ!】


「ああ。そうかい!」


沸騰(シィェド)!!】


 ヤツの左肩が爆発した。

 ヴビィィエアアア。


 魔力を加えすぎたか。ヤツの頭部を狙ったが、左に外した。

 所詮下級魔術。過剰な魔力を込めれば、術式が抱えきれず、ブレる。


 浅い!

 とにかく命中はした。貫いた部位の体液が急速加熱され、一気に気化。血飛沫を上げ弾け飛ぶ。ヤツは牡呻(おめ)きを上げた。

 

 6脚の内1本が損なわれても、どうということはないとばかり、身震いの後、突進を──


 させるか!


地壁(マウアー)!!】


 ヤツの足下から土壁が見る間にせり上がる。

 激突!

 地響きと共に上部が吹き飛んだ。強い!

 が、下部は健在だ。


皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2018/02/01 ローザの容姿記述の日本語が変だったのを修正(Knight2Kさん,ありがとうございます)

2019/01/17 脱字訂正(ID:774144さん ありがとうございます)

2021/08/22 誤字訂正(ID:800577さん ありがとうございます)

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