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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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278話 習性とは恐ろしい

恐縮ながら連休進行にさせて戴きます。次回投稿は5月10日日曜日を予定しております。ご了承下さい。

 カルヴァリオ(聖君試練)本戦の説明を改めて受けた。

 聖君レヴェックの故事に習い、地下迷宮に潜り最下層に辿り着くことを目指す。これは同じだ。


 新しく得た情報もあった。

 本戦の期間は24時間で終了。

 8時間以内に迷宮第4層に達しない場合は、失格となる。

 迷宮第4層は、魔獣が出ない。仮眠に向いている。

 最下層は地下の迷宮、第8層以上。

 試練とは、魔獣と罠。

 独自の収納魔術は使用不可。配布する魔導バッグを使用すること。

 時間内に第8層に着いた段階で入賞。

 真の入賞である優勝は、最下層で受ける試練の結果如何。

 実施に当たっては、首掛け式の魔導具を装着のこと。

 魔導具を外した段階で失格。

 他選手への接触、攻撃、魔導具に触れる事は反則として感知される。

 その場合、真ん中の魔石が変色して、紅くなれば失格の恐れあり。


 質問がいくつも出た。

【罠とはどういうものだ?】

【罠は局所的な罠と全領域の罠があります。局所的なものは、例えば落とし穴です。全領域は……】


 説明員が言い淀んだ。説明してくれの怒号に委員長が肯いた。


【ではお答えします。地下迷宮内では、魔術が使いづらい環境となります。魔術は術者の魔力を使って発動しますが、その回復が遅くなります】


 これが、なかなか興味深い事項だった。

 説明が終わった。


 そして、地下迷宮の円形闘技場の地下に有った。今は入り口のちょっとした広間に審判員と予選通過者が屯している。

 先程、もう少々お待ち下さいと、係員が1人出ていった。貴族出場者待ちだな。


 部屋の中で特徴的なのは奥の壁だ。その中央に、まるで門のような扉がある。重厚な暗褐色の1枚板で出来た扉。上辺が丸く装飾性が高い形。

 どうやら、あれが地下迷宮へ繋がる入り口のようだ。

 

 ん?

 扉の枠に何か、文字が刻まれている。

 古代エルフ語──


 迷よう路……ああ迷宮ではだな。

 迷宮では、誤り多き者……迷宮では愚かな者こそ生を得る……か?

 意味が分からないな、慎重さが大事と言うことか?


【あんた! エルフ族じゃねえな、人族か?】

 深く考えようとしたところに、声を掛けられた。

 30歳過ぎのがっちりした体型。使い込まれた紺色のローブを着込んでいる。さっきどこかに居る貴族に毒付いた男だ。


【それが?】

【ふーん。それで皆あんたを目に仇にしてるのか。くだらねえ】

 ほう。確かにくだらないが。新聞を読んでいないのか、俺のことを知らないらしい。


【あんたは、見たところエルフのようだが?】

【ああ、おいらはハーフエルフだ。リウドルフと言う。純粋なエルフ様がどれだけ魔力が強いか知らねえが。おいらや、あんたみたいなやつも居るってことだ】


【研究によれば、エルフ族は人族の平均1.5倍強いそうだが】

 エリザ先生の蔵書で見た。


【だろ! 1.5倍なんざ大したことねーよな。その程度で、人のこと見下すやつらには眼に物見せてやる。どうだ、あんた。半端者同士、おいらと組まねえか】


【断る】

【むぅ……】

 不満そうに眉根を寄せる。

【言っておくが、リウドルフだから断るんじゃない。誰に誘われても断る】


 怒相が引っ込んでいく。

【ふふん。そうかい。じゃあ、あんたも精々がんばりな。おっと、お貴族様のお出ましだ】

 

 彼が言った通り、高価で煌びやかな刺繍が入ったローブを纏ったエルフが、10人以上を率いて階段を降りてきた。無論全員が選手ではないだろう。


【子爵様、迷宮の中へは従者をお連れになれませんが】

 子爵……。

 係員が駆け寄った。


【ふん。従者を従えるは(たしな)み。ああぁ、皆は外で待て】

 注意されたにも拘わらず、傲然と胸を張っている。

 ぞろぞろ付いて来た者達が退出していく。

 やはり先頭の派手な3人が残った。

 たぶん真ん中の男がエゼルヴァルド・メルヴリクト子爵だろう。残る2人の貴族が、彼に謙っていたからな。


【それでは、先程説明致しました首掛け式の魔導具と魔導バッグを配布致します】

 係員が回ってきて2つを渡してくれた。


【魔導具の方は、くれぐれも迷宮に入ったら外さないで下さい】


 魔導バッグにはポーションに水、携帯食料、毛布が入っているそうだ。


 首掛けの魔導具の方は、予選のときに使った物とは違い、まるで女性が身に着ける装飾品のようだ。

銀白(ミスリル)の鎖の真ん中にそれぞれ大きさの異なる四角い板が9つ付いていて、それぞれに指先大の魔石が嵌まっている。その周りにさらに小粒の魔石が鏤められている。


 板中央の魔石は、現在中央を除いて光っているが、1時間経つ度にひとつずつ消えるそうだ。それで時間が分かる。まあ俺には不要だが。

 それはともかく、全部消えたときに第4層に到達していないと、その場で失格だ。

 また、光っていない中央の魔石は、反則を犯すと青から色が変わって警告し、赤になった段階で失格となるそうだ。


 生命力が一定値を下回るとやはり失格となり、迷宮外に強制転位させられるらしい。


 中々優れものだな。俺が作ることを考えるとなかなかの難物だ。

 魔導具を首から提げ、バッグをローブの内に入れた。


【では、皆様。本戦を開始致します。扉の前に移動……】

【待て!】


 若い声が響き渡った。


【なっ、なんでしょう?】

【皆に言い渡すことがある。下賤の者達が、我ら貴族の進路を阻むことを許さぬ。そのような事があれば、排除するゆえ左様心得よ!】


 絵に描いたような身勝手さだな。


【はぁあ。魔獣も身分が判別できると、よろしいですな】

 さっきのハーフエルフの男だ。

 下卑た笑い声がいくつも広間に響いた


【不敬であるな。審判員! 失格にせよ!】

【失格にせよ! ふふふ!】


【なっ、なんだと!そんな横暴、許されるものか!】

【貴族を誹謗した者は、万死に値する! が、命までは取らぬ、さっさと退出せよ!】


 それまで黙って聞いていた、委員長が口を開いた。

【子爵様! カルヴァリオ(聖君試練)の運営に関しましては、畏れ多くも女王陛下より、当委員会に一任されております。行き過ぎた選手および関係者は、何人であっても遠慮なく失格とせよと、御諚を承っております】

 やはり、彼が子爵だな。


【貴族を蔑ろにした者が、行き過ぎた者であろう】

【それは、委員会が決めまする】


 子爵と委員長が睨み合った。が、10秒後。

【ふん。憶えておれ。速やかに本戦を開始せよ!】


 ごり押しは通らなかったようだな。

 忌々しそうな表情を委員長からずらし、辺りを睥睨していたが、不意にこちらも見た。

 ふむ、エルフにしては彫りの深い好男児だな。性格は余り良いようには思えないが。さ


【それでは皆様、扉の前へ】


 ん?

 皆が移動して迷宮の入り口を注視する中、俺は脚は動かしつつも、眼は審判員が取り出した大きな魔石を追っていた。


【はじめ!】

 係員が扉を開くと、選手がそこへ向けて走り込んでいく。

 バラバラと足音が響く中、審判員が手を翳すと、魔石が眸と光った。同時に首から提げた魔導具がキンッと一瞬鳴った。


 あれで、この魔導具を制御しているのか。

 そう、観察していると足音が遠ざかった。ふむふむと流れ込んできた術式を憶えて、ざっと解読……。


【あのう、どうかされましたか?】

 おっと、俺だけ置いていかれた。

 声を掛けてきた審判員に手を振り、迷宮の中に歩を進めた。


 どのみち今日は迷宮第4層までしか進めないのだ。あわてても仕方ない。

 真っ直ぐ延びた石造りの通路に、既に人影は見えない。30ヤーデン進むと下り階段が見えた。随分呆気ないがここは第1層ではない。この下が第1層だ。


 むっ!

 階段を降りていくと、キーンと甲高いと耳鳴りがし始め、魔術で感知できる視野が狭まっていく。その上、うっすら息苦しくも感じる。

 これが罠か。


 まあ、今のところどうということはない。

 用心深く降りて地下第1層の床に着いた。ここも切石を積んで填めた壁に天井だ。壁の上方にところどころ魔石が填まっていて、それが蒼白く光って通路を薄暗く照らしている。


 これはエルフが造った迷宮だな。それでも、石の継ぎ目の汚れから見てできてから少なくとも百年は経って居るだろう。


 前方は20ヤーデン程向こうで突き当たりだ。左右から光が見えているところを見ると、二股に分かれているようだ。相変わらず11人の人影は見えない。

 急ぐ気になれば、いくらでも急げるが。何かが引っ掛かっている。


 てくてくと歩いて三叉路に突き当たると、右左と見てみる。どちらも、また数十ヤーデン進むと曲がり角だ。

 さてどちらに行ったものか──


 どちらにも人が行った気配がある。アリーが居れば、根拠の有無はともかく、どっちか決めつけてくれるのだが。

 ふと、右に数歩歩いた時。


【ギャァァアアアーーーー】


 後ろからだ。

 俺は振り返ると、咄嗟に駆け出した。


 突き当たりを右に、さらに左に折れたところで、少し広まった部屋に出た。

 男が襲われている。


 ガーゴイル──

 灰色の鱗におおわれた身体に、膜翼が生えている。

 そいつが男を押し倒し、鋭い嘴を今にも突き刺さんと首を後傾させた。


風槍(ランツェ)!!】

 おっと! 魔術を放ちながら気が付く。


 圧縮された衝撃波が、ガーゴイルを捉えるとそのまま吹き飛ばした。壁にぶち当たり砕けると石塊に変わった。

 やはりゴーレムか。

 しかし、今の魔術の威力は、思ったより出なかった。ここは魔素(マナ)の濃度が低い。


【あの貴族のやろう! 人を魔獣に追いやって、自分たちだけ進みやがって!】


 なかなか醜い所業があったようだな。

 立ち上がった男はこっちを向いた。

【礼は言わん!】


 吐き捨てるように言うと、小階段を昇って開いていた扉の向こうに走っていった。


 そう。さっき気付いた。競争相手を助けてどうすると。


 習性とは恐ろしい物だ。つい助けてしまった。

 が、これは競技だ。

 あの男も死ぬ前には、魔導具の働きで迷宮から強制転位させられていたことだろう。


 どのみち俺がガーゴイルは斃していただろうが、それは、あの男が失格になった後でも良かったのではないか?


 いや、襲われている者を見て助けないのは、性に合わない。


 ん?

 何やら天井が気になる。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/04/29 魔獣でない階層は第3層→第4層です(すみません。間違ったままだと第4層に行ってから第3層に戻る羽目になるので)

2022/08/03 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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