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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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271話 ラルフ 強面になる

強面(こわもて)の人は見た目が怖くて、損することも多いと思いますが。

強面の人が少し優しいと、普通の人より何割か増しになるので、そこはお得かも知れません。


 一旦大広間から控え室に戻った俺達は、きっちり茶を一服飲む時間を置いて再び呼び出された。今度は会議室にだが。アストラとレティアに加え2人の事務官が後に続く。


「ラルフェウス卿。クラトスへようこそ。この国の外交を取り仕切るマルグリットと申す」

 やはり外務卿か。さきほど玉座右脇に立っていた人物だ。

 俺より40は年上だろう。


 ついさっき紹介されたばかりだ、改めて名乗る必要もないだろう。第一、名乗りたくない。この国の行状を昨日聞かされたからな。

 ソファに掛け何も返答しない俺を、外務卿はまじまじと見て来る。

 さて、怖がられているなら、強面(こわもて)で行ってみるか。わざと不機嫌そうな表情を浮かべるまでもなく、元からそうなっているしな。


「王都に入城されるに当たっては、ご一行を2つに分けるなど、ご造作を……」

 外務卿から視線を外し、壁に使われている木材を見遣る。


「あのっ」

 やっと気が付いたか? 視線を戻す。


「我が国をいつまで待たせる気か!」

 マルグリットは、眼を白黒させた。

「はっ、はあ……」


「条約の主だったところを認めておいて、些末な文言でケチを付け、縷々引き延ばしを図っているようだが。そもそも意に沿わぬのであれば、白紙に戻すが良かろう!」

「うう。いっ、いえ、そのようなことは……貴国との条約については前向きに考えており……」

 居住まいを正した。


「前向きとは、この領では受け入れ、別の領では断る。細かく対象を分けて、改めて交渉させるやり方か?」


「そっ、それは……」

 図星のようだ。スードリ達の情報は正確だ。


 交渉を引き延ばすだけ引き延ばし、焦れた相手から妥結条件で譲歩を引き出す戦術。付き合い切れん。そもそも、この条約自体、我が国よりもこのクラトスの方が恩恵が圧倒的に大きいにも拘わらず、さらに要求するなど。

 それが小国の外交とやり方と言えば、そうなのだろうが。


「一昨年のごとく超獣を討伐できず。あまつさえ我が国に誘導するなど、再び発生すれば、貴国との付き合い方を変えるだろう。あるいは付き合わずとも済むようにするだろう」


 記録によると、我が国は侵入した超獣に対して上級魔術師3人を繰り出して、事を収めた。が、支援部隊や庶民に多大なる被害を出した。

 超獣に国境など無意味だ。だがやり口が汚い。


「わっ、我が国を恫喝されるのか?」

 外務卿が紅潮し、一瞬にして額が汗ばむ。


「ふふふ。只の未来予測を開陳したに過ぎぬ」

「むぅぅ」


「選べ! 2つに1つだ。全てを受け入れるか! あるいは、我が国と事を構えるかだ!」


 外務卿は眼を剥いた。

「しょ、少々お待ち願いたい」

「少々とは?」

「そっ、それは……」


「私の任務は、貴国ではなくプロモスだ。その交渉結果がどうあれ、貴国の意思表明がそれより後になれば、我が国の王の心証はどうなるかは想像してみるが良い」


 ぐっと詰まった。

「いっ、一両日中にご返答致す」


「佳き回答を期待している」

 俺は立ち上がると、王宮を後にした。


     †


 俺達は、大使館を訪れた。

 大使自ら館内を案内戴き、その後に公邸でお茶を戴くことになった。


「それにしても、一両日中に回答とは。これまで1ヶ月以上引き延ばして来たというのに」

 ウォーテル大使は呆れている。


「どのような回答が来るか分からないが、ともかく事態は動いた。ラルフェウス卿に来て貰った効果があったというもの」

「そう言って戴くと、性に合わぬやりとりをした甲斐がありました」


「性に合わぬか。リティア卿どうだった」


 大使とこの随員は、同じ外務省。旧知の仲らしい。


「はあ……強行策を採ると予め伺っておりましたが。ラルフェウス閣下の啖呵には震え上がりました」

 中々に不本意な言われようだ。


「それはそれは」

「大臣も、顔を引き攣らせていらっしゃいました。余程恐かったのでしょう」

「そうか、あっはははは……私も横で見ていたかったな。マグリット卿も災難だったというべきか。でも良い薬だな」

「ははは」


「しかし、卿には申し訳ない。本来こういうことは私がやるべきところなのだが。これで駐在とは微妙な立場でね、なかなか強くは出られないのだよ」

 それで俺を(けしか)けたわけだ。

 しかし、この交渉も任務の内だ。


「はあ……」

「では、彼らの不満の捌け口としては、抗議が来ることを覚悟しておくとしよう」


 なるほど。

 俺に言えない分、ウォーテル大使へ行くと。そういうことになるのだな。


     †


『それで、明日は暇になったのね?』

『ああ』


 迎賓館に帰って来て、アリーと一緒に夕食を摂っているときのことだ。


『アリー。明日、ベラクラスの博物館へ行かないか。一緒に』

『うゎーー。行く行く。もちろん行きます』


 そう昨夜決まったのだが、執務終了の挨拶に来たアストラに告げたところ、今朝になって見ると大変なことになっていた。


「何だ、この騒ぎは?」

「はあ、随行の者達ですが」


 アストラを呼ぼうと、迎賓館の滞在している区画の小ホールに続く扉を開けて驚いた。執事1人にメイド1人、ルーモルトとそれにアストラが準備万端待っていた。


「いや、アリーと2人でと思っていたのだが……」

「ご冗談を」


 そうだな。確かにアストラの対応は、俺が普通の人間であれば配慮が行き届いたものと言えるだろう。俺としても、素の姿で行く気はない。もちろん魔術で変装して行くつもりではあったのだが。


 これが、モーガンであれば、おそらく念を押してきたとは思うが。アストラを叱責する要素はない。

 さて、どうしたものか。後ろに居るアリーを振り返る。


「ああ、皆で一緒に行けば良いんじゃない?」

「いいのか?」

「もちろん」


 大袈裟になった。

 馬車3台を連ねて、行くことになった。

 迎賓館と、博物館は高々500ヤーデン程しか離れていないのだが。当初計画では姿を消して迎賓館を抜け出し、10分程で到着の予定だったが。そうは行かない。


 全く不自由になったものだ。


 馬車の中で、しっかり着飾った側室と向かい合う。

「悪かったな。アリー」

「何がです?」

「いや、楽しみにしてたろ、2人で一緒にって」


 アリーは少し微笑んで天井を見上げた。


「そうだけどね。残念ながら私が結婚したのは、シュテルン村に居るラルちゃんでもなければ、冒険者でもなく、子爵様となんだからね。弁えているつもり」

「そうか」

 思ったより、アリーは大人だ。


「あははは。なぁんて……インゴートのお母さんから来た手紙に、そう言う風に何度も書いてあったわ」

「そうか。マルタさんか」

 なぜか少しほっとする。


「うん。あなたをぞんざいに扱ったら、乳母だった私が許さない! 王都でもどこでもお尻をひっぱたきに行くからね。って書いてあるのよ、おかしいでしょ?」

 いやあ、どの母にも頭が上がらないなあ……。


 ん?

 博物館に着いた。が、門を入るときに気が付いた、敷地内に人気がない。

 変だな。今日は開館日のはずだが……。


 玄関の車寄せに馬車を横付けし、扉が開き降り立つと、小太りだが品の良い紳士が立っていた。


「大使閣下。クラトス王立博物館へようこそお出で戴きました。館長のゲルハルトにございます」

 そうなるよなあ。

 アストラが昨夜手配したらしい。


「うむ。館長殿には造作を掛ける」

 もちろん、迷惑をかけるなどとは言うわけには行かない。


「とんでもございません。まずは少しお休み戴きまして、学芸員と共にご観覧戴きます」

「うむ。時に、今日は開館日と聞いたが、見学者の姿が見えないが」

「ああ、はい。臨時閉館とさせて戴きました」


 くうぅぅ。

 分かった気になっていたが、俺の考えが甘かったようだ。これは迂闊に予定を変える訳には行かないな。


「どうかなさいましたか?」

「いいや特段」


 50歳絡みの館長に先導させて、平静を装う必要があるとは。

 大貴族やら王族は、常時このような環境に置かれるのか。親父さんも小なりといえども領主だ。程度の差こそ有れ、立場的には似たようなものだろう。

 少し暗鬱としながら、博物館の廊下を歩いた。


     †


「ふう。楽しかったあ。博物館」

 迎賓館から帰ってきた。


「まあな」

 最初は沈んでいたが。無邪気なアリーの様子で徐々に俺も展示物を見る余裕が出て来た。


「それにしても」

「ん?」

「あなたが、臨時閉館にしたと訊いたときの顔色……」


 むう。

「表情に出てたか?」

「大丈夫。10年を超える付き合いがあるから、わかっただけ。多分あの館長さんは、少し機嫌が悪いなと思ったぐらいよ、きっと」

「そうか」


「お仕事が大変な旦那様に、久しぶりにお茶淹れたげる」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2020/04/04 誤字、細かく訂正

2025/04/27 誤字訂正 (イテリキエンビリキさん ありがとうございます)

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