268話 作戦開始!
放置や丸投げは話にならず。かといって、余り干渉しすぎてはいつまでも育たない。部下や後進に仕事を任せると言うのは難しいようですね。
先頭の指揮車と呼ばれる馬車内部──
『……持って来た全兵装の使用を許可する。ただし、団則を遵守せよ!』
よし、出番だ!
「了解! 戦闘班は先行します」
少し声が震える。
御館様との通信が切れた。
今回の出動では戦闘はないと言われていたが、誰も気は抜いていない。
「聞こえたか?」
「はい」
「はい。ルーモルト副長代理」
少しゼノビアが顔を顰めた。
「時間が無い。御館様より委譲された指揮権を発動する。移動時の異変対応作戦案3を用いる。戦闘車両は先行。その他車両は減速。1ダーデン先で隊列を再編成する。アクラン!」
「はい!」
「作戦案3では、アクランの操機魔術が中心になる。頼むぞ」
「了解!」
「がんばろうね。アクラン」
「はい」
ふーんと鼻から長い息を吐いた。
普段は子供子供しているが、非常時は頼りになる。魔術師だからか賢い。かなり使える新人だ。しかし、ゼノビアのアクラン贔屓が強くなってるなあ。御館様が救護班長を側室にされてから、拍車が掛かっている。
「では、配置につけ」
大使御座車より先行した我々は、石畳の道を外れて少し広まった草叢に停車すると、2台の荷台を開いた。
「……ディッセ エルクェスタ ゼッ 起動ゴーレム!!」
アクランが持った杖が眸と光る!
キン!
甲高い音と共に、積載していた大型ゴーレムの眼に光が宿った。
ブフゥゥ……。
まるで生き物のように息を吐き、身動ぐと前足で床を掻く。そして、荷台の端に渡された板を器用に踏んで、大地にゴーレム馬が降り立った。
騎乗ではない大型馬。彼らは、馬車を牽いている馬と違う。単に体高(肩までの高さ)が3ヤーデンと大きいだけでなく、魔石を眉間から角のように生やしている。
故に、皆はユニコーン(ゴーレム)と呼んでいる。翼はないが。
それらを操るのはアクランの魔術だ。優雅に杖を揺らすと、大きく腕を揮う。
通り掛かりの者達が、遠巻きにして見物を始めている。
「ふぅー。あと2頭」
「アクラン、焦らないで。ゆっくりで良いのよ」
隣でゼノビアが、声を掛ける。
「大丈夫です! 御館様が、この仔達の魔石に予め魔力を充填してくれていますから。僕の消費は最小限で済みます」
そうなのだろうが、それでも大したものだ。あの副長が筋が良いと褒めているしな。
手際よく、あっと言う間に5機を起動した。やるものだ。
杖を振りながらユニコーンたちを先導していく。
「ゼノビア! 撤収作業を手伝うぞ」
「あっ、はい!」
一瞬呆けたようだったが、命令に従ってゴーレム馬を降ろした馬車を再び走れるように準備し始めた。周囲に目を配りつつ、板を荷台に戻す。
数分後。
何度も訓練した成果が出て、隊列の組み直しが最短時間で完了した。
空になった馬車に、ゼノビアたち魔術師系団員が乗り込んでいく。
「班長代理。準備完了しました」
「了解」
指揮車にアクランと一緒に乗り込み、設えられた高い御者台に座る。
後ろを見ると、後続の車列が近付いて来た。
「よし! 出発。御座車と間隔を保って会敵地点まで進行!」
命令一下、アクランの杖が輝くと、ユニコーン群が錐状に並び、軛に繋がれたように間隔を保って駆け始めた。
指揮車も続くと、歩様が駈歩に変わり見る間に速度が上がっていく。
5分も走ると、車列が1繋がりとなった。
「よしよし」
風が顔を戦ぎ、心は躍る。
下を見ると、小さな台が設えられ、そこに3つの円い窓が見える。計器と言うそうだ。
どのような仕組みかは分からないが、一番右は速度を示す。その針が指すは時速40ダーデン。訓練通りだ。
往来は疎らで、少ない徒の者も路肩に寄ってくれているので、進行に問題はない。
そろそろだ。
『総員、敵襲に備えよ!』
おお……
尖端をひた走るユニコーンの角が金色に輝きだした。
アクランの魔術が第2段階に移行したようだ
『前方に感あり、最大展開!』
魔導通信からアクランの声が聞こえた刹那。200ヤーデン向こう、往還路脇の草むらが盛り上がった。
擬装した伏兵──
槍?
敵はまちまちな出で立ちだが動きは揃っている。
長い槍の石突きを地面にぶつけ、穂先を斜めに持ち上げ、こちらに向けた。
我々の馬車を串刺しにする気だ。
あれでは槍ではなく、地面と喧嘩することになる。思いっ切り分が悪い。
「構うな、突っ切れ!」
しかし、私は強行突破を命じた。
たちまち距離は縮まり、衝突まであと数十ヤーデンと迫ったとき、敵兵の顔が見えた。
無表情?
大きな馬が疾駆して来る寸前で、なんの不安や恐怖も覚えることがないのか?
違和感が膝から背筋を駆け上がる。
先頭のユニコーンがぶつかった。
いや、その数ヤーデン前──槍が右に逸れた。兵も見えない壁に押しのけられるように、路肩へ飛ばされて行く。
よし!
目論見通りだ。腹が熱くなる。
ユニコーンがこじ開けた狭間を、指揮車も続いて速度を通り抜ける。
後ろを振り返り、後続を見守る。早く、早く抜けろ! 焦燥感でじりじりと来たが、実際には10秒と掛からなかったはずだ──御座車も、車列全体が抜けた!
よーーし。第1段階は成功だ!
首筋を抜けていく風を、初めて冷たく感じた。
引き続き追撃を警戒──
†
「くっ! あれを突破するか!」
少し離れた高台の茂みに潜む、ローブ姿の男が呟いた。
「流石は上級魔術師というところか。だが、次の手はどうかな? 準備を! ……おい、どうした?」
異変に気が付いたのだろう、あたふたと辺りを窺うが、仲間からの応答はない。
魔力を感じたのだろう、男はビクッと身を強張らせる。
「なっ。何者だぁうぇぁぅぅ……」
見えない敵に杖を振りかぶったが、相好が弛緩して腕がだらりと降りた。
別の方向から気配が現れる。5つの影が跪いた。
「ご苦労! 撤収するぞ」
「あちらに5人、その下に4人寝てますが、よろしいので?」
「掃除する者達が居る。御館様に届けるのは、この者のみで良い」
†
襲撃地点から数ダーデン過ぎた頃。通信が入る。
『御館様! 囲みを突破しました。敵の追撃はありません。作戦成功です』
「ルーモルト。それに、皆良くやってくれた。総括は今日の目的地に着いてからにする。第一種旅装に戻せ」
「了解!」
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訂正履歴
2020/03/25 誤字脱字、細々修正
2020/03/26 誤字、くどい表現修正
2022/08/03 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




