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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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263話 不意打ち

不意打ちというと襲われるイメージですが。うれしい不意打ちも…………あるといいなあ。

 西苑庭園の広場の中程を白い幕が囲っている。

 内に置かれているのはエルメーダから運ばれた石材だ。


 その周りに半円状に綱が張られ、その外側に100人程の大貴族とその縁の者達が取り囲んでいる。綱の向こう側の端には舞台のように白木で作られた段があり、豪奢な椅子が一脚置かれている。搬送可能な玉座だ。


「ところで……」

「なんだ?」

 俺の横で立っている賢者は、ごく普通に訊き返した。

 30歳、いやもう31歳になったのか? 年齢差にもかかわらず、若造の俺にも気さくに付き合ってくれている、できた人だ。


「俺が呼ばれたのは分かるんですが。バロール卿とあそこにいらっしゃるグレゴリー卿が呼ばれたのはなぜですか?」


 親父さんとお袋さんは、皆から離れたところに衛士に囲まれて立っている。すぐ横にはルフタ殿もいるし、今日の来賓という扱いらしい。そして、そこから10ヤーデン離れた所に、白い軍礼服姿で殲滅者こと賢者グレゴリーが立っていた。


「さあて、わからん。俺は委員会から出席するように指示があったのでな。そういうラルフはどうなんだ?」

「王宮庁長官から招待状を戴きました」

「ふーん。おっ!」


 玄関から王宮衛士が出て来た。

「国王ぉぉぉ陛下ぁぁぁぁ、お出ぇまぁしぃぃぃぃ」

 屋外で良く響く発声法だ。


 観衆となっている者は皆反応する。婦人はドレスの裾を摘まんで持ち上げ、男は俺も含めて片脚を引いて胸に手を当てた。屋外での礼だ。


 やや間があって、白い礼服に身を包んだ賓客の一団が出て来た。

 あれは確か、王甥の宮廷伯ヴェラス様。細面の優男だが、背筋がすっと伸びていて、礼服の着こなしが洒脱だ。建築や芸術に造詣が深いと聞いている。


 その後も続々と王族の方々がお出ましになり、最後に悠然と陛下が歩いてきた。そして、この前見た侍従が付き従っている。


 可動玉座に御着座された。

 王宮庁の長官レーゲンス伯爵が、陛下に礼をしてから、こちらに向き直った。


「本日は、西苑御殿改築に先立ち、(かたじけな)くも国王陛下より集まった石材を皆々に披露せよとのありがたき御諚を賜ったので、披露会を開催するものである。謹んで拝見するように」

 ふむ。

「また」

 また?


「功があった者達を表彰する」

 それは初耳だ。親父さんが表彰されるのか? そう思ったが。

 親父さんと、お袋さんがキョロキョロしてる。まさか、あの2人も、聞いていなかったのか?

 もしそうだったら、なかなかの演出だ。


 衛士が幕の間近に寄っていく。いよいよご開帳らしい。

 長官が見守っていると、衛士が腕を上げた。


「準備が整いました。陛下、よろしゅうございますか?」

 陛下が肯く。


「幕を下ろせ!」

 長官が命じると、幕を吊っていた支柱から外され、内で鎮座していた石材が露わとなる。広々とした庭園が、響めきに包まれた。


 ふむ。流石は大貴族達だ。石材の価値が分かるらしい。

 庶民にとって大理石など奇麗な石のひとつに過ぎないだろう。が、貴族は違う! 自らの館などで使うだけあって、目が肥えているのだ。

 偉そうに言う、俺自身が俄知識なのだが。


 左に万人受けする白亜に薄い模様が付いた材。右に高級な薄翠の材。そして中央には、あの紫掛かった紅の材が俺が切り出した立方体のまま置かれていた。


 心なしか、皆の視線は中央に向いている。まあ、物珍しいからな、あの色は。


「こっ、これは……」

 ふらふらと1人の者が列を乱し、立方体へ寄っていく。

 王甥殿下だ。

 一瞬衛士が色めき立ったが、相手が悪い。殿下は、そのまま間近まで行って固まった。


「なんと、このような石が我が国で産するとは……」

 大きめの声で嘆息すると、力が抜けたように、その場に膝を突いた。


「あっははは……」

 陛下だ。

 会場に笑い声だけが響く。


「ヴェラス、そなたが認めるのであれば、その石は本物であるな」

「はっ!」

「主任芸術家は如何か?」


 ルフタの背筋が伸びる。

「殿下の仰る通り。我が国の宝の1つにございます」


 後に、エルメーダ産大理石の価値が数倍に跳ね上がった瞬間である、そう記録された。

 陛下は満足そうに肯かれた。


「そして、これらの石材は、エルメーダ領主ラングレン男爵より寄贈された物である。皆々承知おくよう! 男爵、殊勝である」


「はっ!」

 親父さんは、ふたたび礼を表した。


 そちらを向いた長官は、正面に向き直った。

「では、次に」


 それだけか? 随分呆気ないな。

 お袋さんもそう思ったのか、眉を吊り上げている。


「では表彰すべき故人の名前を読み上げる」

 故人? 親父さんではないということか。


「1人目、ハールバルズ・ラングレン男爵」


 なっ!


「2人目、ボードウィン・ラングレン。3人目、ラジナス・パロミデス」


 俺の爺さんの爺さん、つまり高祖父とその息子、それに母方の大叔父だ。


「今読み上げた者達の名前を知る者は少ないであろうが、エルメーダで超獣を撃退した者達だ。しかし、そのすぐ後、行方不明になった。それゆえ、超獣の魔結晶を私したとの嫌疑が掛かり、その名誉が損なわれていた」


 嫌疑?

 いや、その超獣の魔結晶は何人たりとも入手できないぞ!


「しかし、最近の発見によって、彼らは超獣撃退の後に、何者かに殺害されていたことがわかった。また、今回献上された大理石には超獣昇華の影響が認められた。故に、3人の者は潔白であることが証明された」


 そうだったのか。曾爺様は役人との折り合いが悪く男爵位を継承できなかったと聞いていたが、本当の理由はこれか。お爺様が先々代のスワレス伯爵預かりとなった背景は魔結晶がらみか。


 王宮庁長官が下がると、内務卿サフェールズ閣下が進み出た。


「ただいまの事実に対して国王陛下はお心を痛められ、内閣に3英雄の名誉を回復すべしとお命じになった。内務省はこれまでの非礼を詫び、彼らにミストリア勲三等金獅子章を贈るものとする」


 勲章か。


「3英雄の後嗣を代表し、ディラン・ラングレン男爵殿、前へ」

 ぎこちない足取りで進み出た親父さんの頬は、涙で光っていた。

 むっ。

 突如陛下が玉座を立ち上がり、歩を進めた。


 何と!

 陛下は、そのまま内務卿の横を通り抜け、親父さんの前まで来た。反射的に跪く親父さんを立ち上がらせると、硬く手を握り合った。


 信じられん。

 国王が、臣下の手を取るなど。

 謹厳で有名な先代国王陛下は、侍従と王族を除いて侯爵以上の者以外には話しかけなかったそうだが。


 おおっ!

 後ろに控えたお袋さんの前に移動して、同じように手を取られた。


 そして皆に向き直った。


「ここに何人か、上級魔術師が居るであろう! 聞いておったか?!」

 陛下からご下問だ。


「はっ!」

 おっ! グレゴリー卿が反応した。


「はい!」「はっ!」

 同時に答え、バロール卿と見合って笑う。


「うむ。模範とせよ!」


「「「心得ました!」」」


 思いがけず示し合わせたように、声が揃った。

 ふ-む。

 政治上の儀礼と思っていたが、案外本当に陛下は心を痛めておられたのかも知れない。


 式典でいくつもの驚きがあったが、まだ宴は終わっては居なかった。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/03/07 細々訂正

2020/06/07 名前訂正 サフィールズ→サフェールズ

2021/09/11 誤字訂正

2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

2022/08/03 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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