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25話 みっ、見られた!!

修羅場って……何年経っても時々光景が甦って、ああぁぁってなりますけど。私だけですかね。

 うぅぅ……重い。

 ぺちゃぺちゃ……。


【ラルフ オキル】


「うぅぅん……うわっ!」

 眼を開けたら、目の前にセレナの顔が有った。びっくりしてると、すっと軽くなる。

 寝てた僕に、のし掛かっていたようだ。


「セレナ、おはよほぉぉぉふぅ」


 ああ、もう朝か。

 身体を起こすと、バサッドンと音を立てた。

 本が床に落ちた。遅くまで読んでてそのままだったようだ。

 なんか首や、ほっぺたがベタベタしてる。


 ううぅぅ。寒さが来た。


 月は9月。入学から2ヶ月過ぎた。

 完全に冬だ。


【ラルフ オナカ スイタ】


「ああ。ごめん、ごめん」


頑強(コルプス)


 身体強化魔術を自分に使う。

 この後の武道稽古までには効果がなくなるように、掛ける魔力はほんの僅かにしておく。


 ベッドから降りると、足下に居たセレナと目が合う。


「よーし。来い。セレナ」


 首をぐっと持ち上げるのと、床から飛ぶのが同時だ。


 柔らかな衝撃が来る。

 うわっ。暖ったけぇぇ。モフモフだ、モフモフ。

 手が、彼女の背に埋もれる。

 10リンチ程も毛が長くなったのに、梳いても梳いても指が引っかからないしぃ。


 至福ぅぅ!


 幸せを返そう! たぁーーんと、お食べ。


魔力譲渡(シッディ)!!】


 お腹の下の方で熱が渦巻き、圧が増す。

 僕の前面から暖かな何かが染み出し、セレナに渡っていく。


 数分が過ぎて、魔圧が変わらないのに、流れが減ってきた。そろそろ満腹になってきたかな。


頑強(コルプス)!!!】


【ラルフゥゥ!】

 抱き合った彼女の躯が、熱くなった。


 魔獣の食餌に加え、実験が進行中だ。朝と晩に、セレナに身体強化魔術を掛けて居る。


 僕の体力値が、4歳から急速に伸びたのは、ダノンさんに依れば同魔術を頻繁に使っていたからだそうだ。幼少年期に限られた現象だそうだけど。

 魔獣も同じですかと訊いてみたが、ダノンさん知らないというか、きっとそんなこと誰も試してないようなので、じゃあ、僕が試しにやってみようと言うことで始めた。


 気の所為かも知れないけれど、セレナの成長が促進されてる気がする。

 与える魔力の量が日に日に増えてるし、第一受け止める重さが違うものなあ。


 しかし。

 そもそも魔狼(ウォーグ)の育ち方なんて知らないし。本当のところはわからない。

 が、まあ、セレナが嫌がってないので続けている。


【ウウウ……】

 満腹になったようだ。


「よーし」

 回した腕を解くと、セレナが後ずさった。

 視界が開ける。


 えっ!


 扉を入ったところに、ローザ姉が居た。


「あっ、あっ、あの。これは……」


「おはようございます。ラルフェウス様。お寒くないようなので、早速お着替え致しましょう」


「うっ、うん……」

 なんか、カクカクと傀儡人形のように肯いてしまう。


「み、見てた?」

「はい。いつものように、魔力をセレナに分け与えていらしたのですよね」

「そそ、そうなんだよ。うん。 って、いつも?」


「先月の初め辺りから、夜着に付く、セレナの長い毛が多くなりましたので、そのようにされているのだろうなと」


 はっ?

 そんなに前から???


「くれぐれも、アリーに見つからないようにして下さいませ」

「うっ、うん!」


 よかったぁ。ローザ姉、しっかり顔が見られないけど、怒ってないや。

 なんか、足が床に付かない心持ちで着替えた。


     †


「おはようございます」

 朝稽古を終えて食堂に行くと、お父さんと、お母さんが居た。


「おはよう。ラルフ。脚どうした?」

「えっ? 何でもないよ!」

 あっさり、お父さんにバレた。


 さっき、ローザ姉に長刀(なぎなた)の払いで、久々にぶっ叩かれた。稽古用長刀の穂先は、柔らかいセルジュの樹の枝なんだけど、叩かれるととっても痛い。

 そもそもローザ姉の得物は長柄の上に、今日は妙に伸びてくる時があって、避けづらかった。油断してた1閃目を喰らった。

 まさかと思うけど、セレナとのアレを怒っていたとか……ないか。



 稽古を始めた2年前。

 終わった後で、叩かれた部位に回復魔術を掛けて居たら、お父さんに思いっきり怒られた。

 痛い目を見ても魔術でなんとかなると思うなら、注意力が育たないと言われたのだ。おっしゃる通りなので、稽古してからお昼になるまでは、癒やさないようにしてる。


 朝食を終えて、学校へ行く。

 シュテルン村は、さほど雪が降らないけど、珍しく昨夜積もった雪が生け垣の上に残っていた。


 1年1組の教室へ着いた。


「それでは、ラルフェウス様、失礼します」

「うっ、うん」

 ローザ姉が凛々しい顔で挨拶すると、踵を返した。


 黄色い歓声が今日も挙がる。

 男子は、ファァァで。女子は、キャァァアだ。


「バカばっか」

 後ろから小さな声が聞こえてきた。

 数人の女生徒なんか、廊下まで出て行って、見送っている。


 思えば、入学したばかりの頃は、ローザ姉が来ると男子が騒いで、一部を除く女子は冷ややかな目で見ていたのだけど。この前、ヴェローナ先生との長刀演武を見て、あまりのかっこよさに、今では逆に女子の方がお姉様! と入れ上げている。


 自分の席に座ると、バーナル君とフェイエ君ががやって来た。

 バーナル君は、同じシュテルン村のと言っても、3ダーデンは離れているけど、士爵家の長男だ。そこそこ仲良くしている。

 フェイエ君は隣村(インゴート)の大きい農家の次男坊で、僕よりはバーナル君と仲が良い。


「今日もローザさんは綺麗だったぁ。羨ましいよ、ラルフ君が」

「うん、うん」

 2人の意見が一致している。


「そう? これ見てよ」

 ズボンをたくし上げる。


「うわっ、痛そう。ふくらはきが痣になってるよ! どうしたの?」

「朝の稽古で、ローザ姉にやられた」


「うーーん。そうなんだ、ラルフ君でもやられちゃうんだね」

「僕でも?」

 フェイエ君を見る。

「いやあ。入学したばっかりの頃、大きな上級生を持ち上げたでしょ。ラルフ君もどんな乱暴者かと思っていたけど。ああ、いや。今では、ちゃんと紳士だし、大人しいことは分かってるけどね」


 ああ、しばらく避けられていたのは、そういうことですか。


「でも、その強いラルフ君も、ローザさんにはやられちゃうんだ。本当に強いんだなあって、あんなに綺麗なのに」

「そうだよねえ。でも、あんなお姉さんだったら、僕も叩かれたいかも」


「「はっ?」」

 バーナル君の言葉に、僕とフェイエ君は顔を見合わせた。彼も流石について行けないようだ。


「ふーん、叩かれたいんだ。ラルちゃんの姉なら、ここにも居ますけど! 叩いて上げようか?」

 毎日不機嫌そうにしてる人が、僕の隣に居た。


「へっ? 姉? ラルフ君の?」


 ああ、前にローザ姉のことを追及されたので、本当の姉弟ではなく又従姉(はとこ)であることは紹介した。みんなが知っている。もちろん、アリーがローザ姉の妹だということも。


「何よ。アリーちゃんの方が年上なんだからね」

「えっ、本当なの? ラルフ君!」


「ああ。4日間だけどね」

「十分よ!」


「そっ、そうなんだ。へっ、へえぇぇぇ」


 ああ、かなり怒ってる。

 本当に叩かれるぞ。

 バーナル君に席に帰れと目配せを送ると、通じたようだ。


「じゃ、じゃあね。また次の休み時間に」

 2人は、今日は早足で教壇の方へ行った。


「どいつもこいつも。男子は、年上の女(おねえさん)が好きなんだから、もう!」

 否定できない。

 まあ年上の女性なら、誰でも良いというわけじゃないけど。


皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2018/01/22 悪い悪い→ごめん、ごめん(おやじぽかったので)

2020/02/13 誤字訂正(ID:689748さん ありがとうございます)

2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
「バカばっか」 ん? コチラにホシノ・ルリが居た気がしましたが… 気のせいかな?♡キョロ(・ω・`三´・ω・)キョロ♡(笑) 素敵な小説ありがとうございます♡ 応援してます♡
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