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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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262話 逆転劇

先行逃げ切りも良いんですけど、ゴール板寸前で差しきりてのも醍醐味ですよね……いや、競馬の話しじゃなくて。

「ん? まずいこととは、なんですか?」

「とにかく、少し離れよう。ここにいてはラルフも巻き込まれる可能性がある」


 一旦物産展会場を出て、バロール卿と話し合う。


「あの人集りの中に、エルメーダ領の区画があり、そこには何も展示されていないのだ」

「区画が? 昨日も両親に会いましたが、そのようなことは一言も……」

 言っていなかった。


「やはりそうか。どうも騙し討ちに遭ったようだ。この展示会は急遽決まったようでな。その区画で1人で頑張っていた家令によると、昨日初めて聞いたそうだ」


「昨日?」

 それはおかしい。他の領主達も、昨日の今日でここまで準備できるはずがない。考えられるのは、実際はもっと早く決まっていて、情報を親父さん達にだけ流さなかったのか。

 そう考えなければ辻褄が合わない。


「そうだ。聞いた話では、当然準備できないので出展を王宮庁へ断ったそうだが、なぜか出展することになっていて、区画が用意されていたそうだ」


「うーむ」

 王宮庁か。

「今日の披露会で、おそらくはもてはやされることになる、お父上を妬んだ者達の所業だろう。そいつらの心当たりはないのか? ふむ、その顔。ありそうだな」


「ええ。遺憾ながら、あります」

「そうか。それでどうする。折角の披露会なのにお父上は、面目を失いかねないぞ」

「そうですね」

 確かに、貴族は面子が重要だ。こういった社交界で名を落とせば、末代までの恥となりかねない。


 末代はともかくも。親父さんを陥れるやつらを断じて放っておくことはできん。


「このままにしておく、ラルフじゃないだろう?」

 バロール卿は口角を上げた。


「展示物は、その領地で産した材料を使った物で有れば良いのですね?」

 あれしかないな。ただ今のままでは駄目だ。


 数日前に、ローザとアリーに見せた物のことだ。

 その時のことを、館の居間の光景を思い出す。


 俺は紅い球体を取り出して見せた。

『どうだ? 親父さんの誕生日にこれを送ろうと思っているのだが』

 訊いたのはあまり自信がないからだ。


『お義父様の……大きい珠ですね。これは大理石……ですか。中々よろしいかと思いますが』

 ローザは一応褒めたようだが、余り歯切れ良くない。


『えぇぇ……そうかな?』

『アリー。気に入らないところを言ってくれ!』

『気に入らないわけじゃないけど。なんでこれ、こんなに割れ目が入っているの?』


 なるほど。


『割れ目ではなくて、細かい石をつなぎ合わせて、珠にしたんだ』

『へえ、廃品利用か!」

 そう。ルフタが望んだ石を切り出した時に出た無数の欠片、親父殿に貰った物だ。


「そうか。割れ目じゃなくて、繋ぎ目なんだ。そう聞くと凄いけどさ、単純に見た目だけだと、無骨? 趣味は良いけど、ただ固めただけって気が』

『アリー。言い過ぎよ』


『そうか、無骨か……』

 改めて球体を見遣る。

 研磨した滑らかな球面と、石と石の隙間の荒い感じ。その対比は悪くないと思うが、アリーの言は当を得ている気がした。


 それから日が過ぎたが、まだどうするか考え付いていない。が、もう悠長なことはと思った時、突如頭の芯が冷える。

 すると。なぜが陶器が落ちていく光景が脳裏に浮かんだ。


 ああ!


「ふふふ。もう、策を思いついたのか。よーし。あの優しいお父上に仇為す者など蹴散らせてやれ」


     †


 俺は、親父さん達が居る幔幕に戻った。

「父上、物産展覧会場に行き、仔細は分かりました」


 親父さんは、少し顔を顰めた。

 代わりに、お袋さんが身を乗り出す。

「ラルフなら、何とかできるのではない?」

「ルイーザ!」


「さっきは黙って居たけど、私は悔しいわ。だって、バズイットの嫌がらせでしょ」

「滅多なことを言うものではない」


「だって、息子が居たじゃない。御父様はね、あなたの迷惑にならないよう。我慢することにしたの。どう思う?」

「むう」

 お袋さんの言うことは、正しいのだろう。


「普通に考えれば、石材の披露会が本題に成るはずだけど、卑怯な手合いのことだから、物産展覧会のことを声高に言い触らすに違いないわ」

「はあ……」


「だから、ここでラングレン家の面目が潰れたら、ラルフはもちろん、ローザさんのお腹の子にも降りかかる気がするの」

 煽動力を持っているな、お袋さん。


 よし。俺も腹を決めた!


「父上。お許し戴ければ、間に合うように出展品を用意致します」

「まあ、ラルフ!」

「間に合うと言ってももう時間が。それに、エルメーダ領内で産したものと言う縛りがあるのだぞ」

「あなた。ラルフに手抜かりなどあるわけはありません」

 親父さんは俺の眼を睨んだ。俺も睨み返す。

「確かに」


「私達の孫のためにも、うんと言って下さい」

「わかった。ラルフ、よろしく頼むぞ」


「承りました。ついては父上。銀貨と金貨をお持ちであれば、何枚かお貸し下さい」


 一旦王宮を退出すると人気のない路地に入り、亜空間の部屋に入って、5分程姿を消すと王宮西苑に舞い戻った。


「では、父上、母上、参りましょう」

「なっ。もう用意できたというのか?」

 親父さんが、流石に驚いている。


「いやあ、実は来月の父上の誕生日に贈ろうと、途中まで作っていた物がありまして。今仕上げを致しました」


「分かった。余りもう時間がない。とにかく向かうとしよう」

 何か、お袋さんがむっとしているようにも見えるが。なぜかは分からん。


     †


「ふん。成り上がりの男爵家風情が、身の程知らずにも王室に献上品を出すなど、増上慢の極みよ。だから、この様なことになる、早く男爵本人を出せ!」


 何もない区画で、私は立ち尽くしていた。

 先程来より、若い男が我がエルメーダ=ラングレン領からの展示物がないことを(なじ)っているのだ。


 昨日、王宮庁の職員に出店を断ったのにも拘わらず、区画が用意されていたのだ。

 貴族様方が多く集う場所で、御家にご迷惑を掻かせてしまったことは万死に値する。なんとか御館(ディラン)様が、ここに来られる前に退避戴き、直接この暴言を浴びずに済んだことは、唯一の幸いだ。


 しかし、なぜこのような辱めに遭わねばならないのだろうか? そもそも、領地を遠く離れた王都で、予め用意していなければ、展示品など出展できようはずもない。自らの不手際を省みても、理不尽すぎる。


「家令とか言ったな! 黙ってないで、弁明せよ!」

 詰っていた者が、居丈高に喚く。


「スヴェイン! 逐電したスヴェイン・アルザスじゃないか!」

 聞いたことがある声だ、思わず顔を上がる。


 アルザスと言えば、寄親をスワレス伯爵家から、バズイット伯爵家へ鞍替えした子爵家ではないか。この若い男はその一族なのか?


「何者だ!」

「ほう。この顔を見忘れたか」


 あっ、あれは、 若 (ラルフェウス)様だ。

 来てはなりません。そう叫ぼうとしたとき、既に遅かった。


「きっ、貴様はラルフェウス・ラングレン! ふん。丁度良い。親が親なら子も子だ。貴様が、物産展を愚弄したことを弁明せよ」


「愚弄とは如何なることですかな」

 若様の後ろから、なんと御館様が現れた。


 こうしては居られない!

「お館様!」

 駆け寄り、声を落として呼ぶ。


 しかし、御館様はにこやかに私に掌を見せた。

 どういうことだろう。

「我がエルメーダから出し物がようやく届いたので、披露させて戴こう」


 はっ? そんなことが。


「クリストフ、その端を持ってくれ」

 若様の声に振り返ると、いつの間にか厚めの布に包まれた、長さ1.5ヤーデン(1.4m弱)の丸太のような物が現れた。


「はっ。はい」

 直径60リンチ(54cm)程の下端を抱えて持ち上げた。彫像の台座だろうか。石のような硬さだ。しかし、思ったより軽い。中空になっているらしい


「ご観覧の皆さん道をお空け下さい」

 御館様の声のあと、行くぞと若様に言われ付いていく。

 なんだろう、これは。もしかして若様が用意して下さったのだろうか?


 区画の真ん中まで来ると、私が持った端を地面に降ろし、持ってきたものが立った。

 そして、布の隅2箇所を持たされると、若様が残り2隅を広げて地面に置き、布が三角形となって立ち上がった。布を一端を若様に渡した。

 何が始まるのか?


「では、ご披露しましょう。3、2、1、広げよ!」

 若様が布を地面に広げるのを見て、私も同じように広げた。

 その途端、大きな響めきが上がった。


 なんだ、これは!


 私が持って居たのは、やはり台座だったのだろう。

 その上に、直径70リンチ程の球体が乗っていた。


「我が領内で産しました、紅大理石の珠にございます!」


 確かに、御館様の仰った通りだ。

 だが、それだけではない!

 艶やかな球体表面に、無数のやや広めの割れ目が走っているのだが……金と銀がまだらのように流し込まれ、陽光を浴びて燦然と輝いている。


「ふぁぁ。これは、なんとも優美ではありませんか」

 私の前にいらした、貴婦人が溜息を漏らした。


「このようなものは見たことがない」

「ああ、大理石の紅色も良いが、この金と銀の象眼だろうか? なんとも言えない華やかさだ」


 ある片隅で誰かが手を叩き始めると、2人3人と続き、堰を切ったように大きな拍手の渦が巻き起こった。


 私は思わず、御館様の後ろに駆け寄り、その音を誇らしく聞いていた。


     †


「ラルフ!」

「バロール卿」


「見てみろ。あいつら尻尾を巻いて逃げていくぞ」

 さっき、クリストフに暴言を浴びせていた、スヴェインが足早に去って行く。


 その先には、男ばかりの5人程の軍服の集団が居た。どうもスヴェインは彼らに追い付こうとしているようだ。


 あの集団、俺を睨んで居た者達だ。誰だ?


「いい気味だな。バズイット少佐にも良い薬だ」


 お袋さんが言っていた息子か。

 それにしても……。

「少佐ですか?」

「ああ、伯爵の次男だ。大貴族の子息ばかりを集めた中隊が近衛師団に有ってな。親の地位を嵩に着て素行が悪く、すこぶる評判が悪い。少佐はその中心人物だな。おっと、そろそろ陛下がお出ましに成る時間だ」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/03/04 細々訂正

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

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