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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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258話 光と影

光と影は切っても切れない縁。影と闇は同じようで……

「うぅぅ……」

「あなた。あなた……」

 揺さぶられた。


「あっ、ああ」


 目が醒めた。

 なんだろう、身体が重い。


「あなた。随分うなされていましたが。大事ありませんか?」

 ローザが目の前に居る。

 寝間着のままだ。


「ああ、なんだか。今朝は起きるのが億劫だ」

「まあ……」

 やや冷たい手が、額に当てられる。


「お熱などはないようですが」


 意識すると、目の前にステータスが現れる。何ヶ月か振りかに使った魔術だ。

 魔力も生命力も、緑表示でほとんど10割近くある。あくまで魔術を作った当時の基準でだが。まあ、とりあえず問題ない状態だ。


 精神的な疲労──

 だが。この前、旅行に行った時のような酷使された感じではない。

 もっとなんと言うか……そう喪失感だ。何か大事なものを喪った気分だ。

 はて? 大事なものとはなんだろう。

 俺を見つめる妻と、家族以外に何か有っただろうか。


 ふと気になって、霊格値を確認してみると減っているような気がする。

 あくまで気がするだけだ。

 そもそも、自分の霊格値が現在いくらあるか分からないのだ。上級魔術師になった2月頃は、1万を超えたぐらいだったと思う。それが6ヶ月でどんどん増えていき、決定的だったのは旅行の後だ。おそらく一気に数倍になったと思う。


 それが、今朝は減った。

 なぜ減ったのか? それ以前に、なぜ突然増えたかすら分かっていないのに、分かるはずもない。


 とはいえ。状況が分かれば対策は立てられる。


 下腹部、意味は分からないが丹田という部位を、思い浮かべていると、体内のマナが循環しはじめ、身体全体が温かくなってきた。


「ああ、もう大丈夫だ。寝ているわけにはいかない。この子のためにもな」

 まだほとんど膨らんでいない、ローザの腹を撫でると疲労が和らぐ気がした。


     †


 今日は来客がある。8月3日だ。

 公館応接室で待っていると、ノックがありモーガンと一緒に40歳代の男が入って来た。


「御館様。連れて参りました」

 モーガンに頼んだ、俺の秘書官候補。特に有職故実に造詣が深いことと注文を付けた人材だ。

 ダノンと共に立ち上がり会釈し合う。


「アストラと申す」

 細身で眼窩が深い。身の熟しもそこはかとなく上品だ。少し日焼けしているが……。


「ラルフェウス・ラングレンだ」

「ダノンと申す」


 呼吸が合ったようにソファーに座る。


 モーガンが少し身を乗り出す。

「アストラは、私の一族の者で、以前は王宮庁に勤めておりました」

 王宮庁か。

 王室の支援とその財務管理、王宮内における外交行事の運営が主な役目だ。組織上宰相府の下部組織に当たるが独立色が強く、外務省だけでなく王宮内祭祀も司るため光神教会とも繋がりも深い。


 それはともかく、外交儀礼の専門組織と言っても差し支えない。

 願った人材の可能性が高いな。

 しかし、モーガンは、アストラの名前は明らかにしていたが、為人(ひととなり)については詳らかにはしなかった。王宮庁ならばうってつけの人材のはず、いささか不自然だ。


「王宮庁!? 侍従をされていたのか?」

 ダノンが問いかける。


「侍従ではなく、王族、貴族を王宮に迎える時、あるいは訪問する時の準備、接待をしておりました」


 ふむ。言葉は丁寧だが、結構気位が高いようだ。


「ではなぜ王宮庁を辞められたか。その理由は聞かせて貰えるのだろうか?」


 遠慮のない質問だ。


「モーガンから聞いておりませんか?」

 ほう。やはり、怪しいな。


「いや、聞いていないが」

 首を振る。


「とある伯爵家に我が配下へと誘われたのですが、お断りしたところ。その直後に王宮庁で横領が発生致しまして」

「ほう」

 モーガンは顔色を少しも変えていない。


「当初、容疑者として、なぜか私が浮上し、厳しい詮議を受けました」

「それで?」

「しかし、横領事件はでっち上げで、計数の間違いであることを証明したところ、却って色々な業務から外されまして。それで退官することと致しました」


「つまり、ありもしない罪を着せられた訳か」

「はい」

「先の伯爵との絡みは?」

「退官した直後に、伯爵本人ではなく、そのご子息を名乗る方から雇用したい旨連絡がありまして、再度お断りしました。その際脅迫も受けました」


「なるほど。その伯爵家が裏で糸を引いていると考えたと」

 状況証拠としては十分だな。

 アストラは、僅かに顔を顰めた。


「辞めたあと、上司を問い詰めたところ、横領のタレコミをしてきた者の出身がその貴族の……」

「バズイット領か?」


 モーガンが眼を見開いて俺を見た。彼の態度からの推理だったが、的中のようだ。

「その通りです」

 アストラは肯いた。


「御当家とバズイット家ではただならぬ因縁があるとか」

「正確に言えば、俺の実家だが」

「では、今回の勧誘の件はなかったことにされるとよろしいでしょう」


「アストラ? やはり最初から断るつもりで来たのか?」

 やはり?


「どういうことか?」

 ダノンが詰め寄る。

「はい。モーガン殿には恩がありますので、本日は参りました。宮仕えも悪くなかったですが、半年程やっている土いじりも悪くないと思っています」


 王宮庁の役人だった男が、日焼けしていたのはその所為か。


「アストラ。仕える対象に幻滅したのは分かるが、御館様は……」

「モーガン殿。私も人を見る目は些か自信があります。ラルフェウス卿はお若いにも拘わらず、なかなかの胆力をお持ちのようだ。それでなければ、上級魔術師など務まらないのでしょうが」


「ならば、考えを変えてはどうなのだ?」

 おお、このような表情のモーガンは初めて見た。


「いえ、ならばこそ申し上げねばなりません。今の住まいを出て、王都に来るまで、私は尾行をされていました。私の敵は執念深いのです。もし私を雇えば、御当家にも有形無形の嫌がらせが及ぶ可能性があります」


「そうか……」


 皆が俺を見た。


「私は人材の選定に当たり、情実による排除や優遇は厳禁だと言った。その上で彼はそなたを推挙したのだ。私は、モーガンを信じ、そなたが必要だと認める。よって当方から方針を変えることはない」

「はぁ……」


「それと、我が騎士団は超獣に立ち向かう使命を帯びている。そのようなことに怯むことはない。我が秘書官となったあとに、同様のことがあれば厳正に対処する」


 アストラは、数秒間瞑目した。


「ふふふ。流石はモーガン殿が誇るご主君。そうまで仰って頂けるのであれば、私にお断りする理由はありません。秘書官の件、お引き受け致します」


「よし。では、モーガン。契約を進めてくれ」

「承知致しました」

 2人は深々と敬礼すると、応接室を辞して行った。


「スードリ!」


「ここにおります」

 応接の一角が靄のように曇ると、黒い人影が現れた。


「アストラのことだが」

「はい。調べてあります」

「いや、報告は不要だ。それよりさっきの尾行の話はどうか?」

「失礼致しました。王都に入ってから、当方でも(・・・・)尾行をしておりましたが、別に尾行している者が居たとの報告を受けております。目下その背後関係を洗っております。館外ではしばらく警護を付けようと思いますが」


「うむ。頼んだぞ」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/02/19 侍従というよりは→侍従ではなく

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2025/04/27 誤字訂正 (イテリキエンビリキさん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「スードリ!」 ラルフの次に飛び抜けて有能のように思えますね。ある面では、有能すぎるようにも感じます。
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