256話 ラルフ 裏目に出る
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いやあ。裏目に出まくります。良かれと思ってがんばって準備すると、そっちかい!って外すことが……ただのコミュ症なのでは?>小生
それから、ルフタに急かされるようにダダム孔へ連れて行かれた。
俺が掘った横穴が、通用門になったようだ。
鉱山の者が先導して、入って行く。
「子爵殿、子爵殿」
「ああ、ラルフでよろしいですよ、ルフタ殿」
「では、ラルフ殿と呼ばせて戴く。いやいや、宮仕えになったは、ここ数年でしてな。その前は気ままな創作三昧だったので丁寧な言葉遣いが苦手ゆえ、助かります。それにしても、この坑道。貴殿がお一人で掘ったと伺ったが、真ですかな?」
おっと来たか。
「ええ、まあ」
「むぅ………」
えっ? 立ち止まって震えだした。
「ぅぅう……感動した!」
はっ?
「この百ヤーデンを超える真っ直ぐさ、滑らかな石肌、恐ろしい程の円筒度、見事だ。素晴らしい。前衛芸術の象徴ですな。初めて来たときは度肝を抜かれましてな。ここで30分程見惚れておりましたぞ」
いや、芸術じゃなくて、ただの円筒の穴だから。
「いやあ、これから御願いすることもあるが、是非ご本人とも会いたかったのですよ」
「それはまた。光栄ですな」
最初は俺に何かをやらせるための、世辞か追従かと思ったが、本気のようだ。
歩いていると、ダダム孔に出た。
ぽっかりと天井が抜けて、青空が見える。
前とは違って、人が……人だけでなく、コボルト達も含め沢山の者が働いていた。鑿と鎚が奏でる音が幾つも響いていた。
活気があるな。
岩を測量する者、岩を割る者、それを運び出す者。自分の足音しか聞こえなかった以前とは、隔世の感がする。
「ラルフ殿、ラルフ殿! あそこだ。あそこに色の違う部分があるだろう」
指差す先の岩壁には、確かに褐色というか赤味がかった所があった。だが、今立っている穴の底面から、ざっと30ヤーデン程の高さがある。
「確かに」
「あそこの岩を採って欲しいのだ」
なるほど。親父さんが逡巡するのも分かる。切り立った垂直の岩壁に取り付くだけでも至難だ。蜘蛛か蜥蜴のように壁を昇るか、櫓を組んでいくしかないな。
「意図は分かったが、あの岩で間違いないのか?」
「現場の監督と同じことを仰るなあ。一部でも採って来るか、あそこまで行ってみなければ分かるまい」
「道理だな。では」
「ちょっ、なっ、何だ?」
【光翼鵬】
ルフタの後ろに回り込むと、腰を掴んで舞い上がった。
「おわっ! とっ、飛んでる。降ろしてくれ、高いところは……」
「大人しくされよ、落ちたら死ぬぞ」
ルフタの動作が瞬時に止まり、身体が硬くなった。
そうこうしているうちに、さっき指差された岩壁の寸前まで来た。
遠目で見た時よりは白っぽく見えるが、それなりに紅い帯が縦5ヤーデン、横10ヤーデンが存在している。
「どうなのだ? この色で? …………ルフタ殿?」
「おぉふ。揺さぶらないで下され」
「ああ。悪い。それで、色の方だが……」
「おお。恐ろしくて目が開けられないのだ」
「はあ?」
先に言えよ。
「いいや、少し欠片を採ってくれれば、ああ手は離さないでくれ!」
自分の目で見たいだろうと思ったが裏目だった。
【閃光】
眉間から白光が迸ると欠片が落ち……る前に入庫した。
底面に降りたってから、出庫した欠片をルフタに見せる。
「熱っ、熱……おお。これは良い。思ったより鮮やかだ。これは使える!」
確かに、薔薇のような少し紫味掛かった紅だ。
外気に接していた表面と内部は大きく違っていた。
宝石と紹介されても文句なく美しい。
しかし、嬉々満面のルフタの顔が突如歪んだ。
「おおっ! 何だ、何ごとだ!」
そこ、ここで働いていた、コボルトがこっちに寄ってくる。人族や、ドワーフの現場監督が、止めようと叫んでいるが、どこ吹く風だ。俺達の周りを囲むと次々に底面に平伏した。
100人は下らない数だ。
【天使様……】
【【【天使様ァ!!】】】
1人が、俺を呼び始めると、大勢が口にし始めた。
【イヤ、ラルフ様ダ!】
【ラルフ様!】
【アア! ラルフ様ダ!】
ルフタが俺のローブの袖を引っ張る。
「皆、ラルフ殿を呼んで居るようだが。どういうことだ?」
【ラルフ様 マタ 姿見レタ コボルト ウレシイ! ナァァ ミンナ!!】
【【【オォォォ!】】】
ダダム孔に怒号が響き渡った。
仕方ないな。
【コボルトの者達よ!】
拡声魔術で増幅しつつ叫ぶ。
オーーーーと再び喚声が上がる。
【皆にまた会えて、私も嬉しいぞ。何か困ったことがある者は申し出よ!】
見回してみても反応はない。
ちゃんとやってくれているらしい。親父さんとバロックさんに感謝だな。
【そうか。それは良かった! 皆々励め!】
また喚声が上がると、コボルト達が立ち上がり、仕事に戻り始めた。
素直なものだ。
「ラッ、ラルフ殿」
「ああ、ルフタ殿。どうされた?」
引き攣った面持ちだ。
「き、貴殿は、コボルトの言葉を解されるのか?」
「ええ」
「畏れ入った」
「ああ。それで石の方だが」
「はぁ……あぁ、そうだった。1ヤーデン角、いや1.5ヤーデン角程欲しいのだが」
「現場監督に確認しないとな。おぉーい」
我が家の土地、領営鉱山、領主の子ではあるが、通すべきところは通さないとな。
採取の承認は簡単に取れた。
採取箇所の真下の作業員を退避させると、飛行魔術を使って舞い上がる。
再び紅い部分の前へ。
中々しっかりした岩盤だ。1.5ヤーデン角だったな。
さてどうしたものか。その形に閃光魔術で切り込みを入れるのは簡単だが、奥部分をどうやって切り離すかが問題だ。
大きく錐状に切り出す……無駄が多すぎるな。ベタな方法にするか。
【閃光!】
光条で切り込みを入れた。縦横2×2.4ヤーデンの角丸正方形、深さ2.5ヤーデンだ。
正方形の左端40リンチに細かく切り込みを入れ……。
【衝撃!】
【魔収納!!】
大きな爆発音と共に、石煙が上がる。
間もなく響めきが上がった
爆風から、粒径0.2リンチ以上は取り除いた。
同時に40リンチ幅の溝から、噴き出さなかった瓦礫を入庫して、そこに頭を突っ込む。
【並行励起【閃光】】【並行励起【閃光】】【魔収納!】
ぽっかりと四角い穴が明いたが、崩れてはこなさそうなので、そのまま放置して降下した。
一旦入庫した石材を出庫し、頭上に浮かせたまま降下した。
「なっ、浮いてる……」
呆然とこちらを見ている。
「ルフタ殿、そんなことより、大きさや、石の質を見て欲しいのだが、これでよろしいか?」
「おお、大きさは十分。品質も申し分ない。しかも見る限り、欠陥割れなどはない。きっと素晴らしいものに仕上げてみせるぞ、ラルフ殿」
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訂正履歴
2020/02/11 細かく誤字等修正
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)




