248話 ラルフ 夜這いされる
全然関係ない話しですが。今年って平成が続いてたら何年?(正解は32年)……瞬間、不安になりました。
運転免許、更新いつだよ!って。再来年でした。
無明の箭が、アリーを捕らえると、羽化するように身体が2つに分かれた。
───馬鹿ナ!
濃い一方は床に倒れ、薄く剥がれた衣の如き光は、眸と光って凝集した。
何者だ?
───神威モナシニ星ヲモ砕ク姿カ──
ん?
「お痛は困るな。特務駐在員!」
壁に掛けた鏡が刹那に輝くと、蒼白きウォーグが飛び出し床に降り立った
「セレナ!?」
───審査官ダト!
セレナの眼の光が消え、巨体が音も無く床に横たわった。
───あーあ 折角依代を用意してきたってのに ラルフ君の所為で不要になったよ
───まあ 昇華した霊体相手の方が 楽で良いけどね
この仄かな光球のことか
第五階層──霊体。
存在の多次元構造の概念を思い出す。
倒れたセレナから豹頭の男が立ち上るように現れた。
そしてローブから腕を突き出すと、霊体が凍り付くように止まった。
また……忘れていた。頭の冷えが消えていく。
───輪廻抑制派に取り込まれたのかね?!
───ギギグ……コノ状況ヲ招来シタ者ガ 何ヲ言ウカ!!
───危険スギル イマ滅セネバ 手遅レニナルゾ!!
───問答無用と言うことか!
豹頭が薄く嗤い、掌が宙を掃いた。
何気なくも恐ろしい動作は、アリーから抜け出た霊体を拭い去るように消した。
そして審査官も自身も薄くなっていった。
代わりにゆらりと、セレナが立ち上がる。!!!
「うーん……この神獣。なかなか具合が良いね。おっと、そんなに恐い顔しないでよ、ラルフ君」
セレナの声だが喋り口が流暢だ。
ベッドを飛び降りる。
「あれ、わかんない? 僕だよ僕。ソー……」
「ああ。わかってますよ、ソーエル審査官」
それどころじゃない。
ローザを持ち上げベッドに降ろし、隣にアリーも横たえた。
2人とも意識はないが、呼吸も脈も安定している。寝ているのと変わらない。
いやいや、そうじゃない。ローザはともかく。
「アリーの意識は?! 人格は? 大丈夫なのか!」
憑依の時に人格が壊されている可能性がある。
「おおぅ。珍しく狼狽えている! おもし……うぅぅん。ラルフ君が奇跡的に精緻に弾き出したからね。大丈夫! 人格の連続性は担保されているよ」
ふぅぅぅ……。
「安心した?」
ドS審査官は肝心なことを言わないことはあるが、これまで口にしたことに嘘はなかった。
「ええ、少し落ち着きました。それで。あれは、なんなんですか。駐在官とか言ってましたが!」
「ああ、アリーだっけ、その女の子が死んだ時に入り込んだ、天使だよ」
「はっ? 死んだ?」
「ああ、そうか。言ってなかったけ? 君達が8歳の頃、超獣昇華の気に当てられて、彼女は死んだんだよ。心臓麻痺だね」
なっ、何を言っているんだ。
「そっ、そんな!」
「信じられないと思うけど。そこに彼が憑依して蘇生することで、今日までラルフ君を監視してきたんだ」
「いやいや、あの時は、確かにアリーは癲癇のように硬直していたが、呼吸はあった。ありありと憶えてます!」
「ふっ、知性補正+800%したとは言え、人間のくせによく憶えているものだ。そこまで言うなら確認しようか」
そう言って手を振ると、ソーエル審査官の周りに細かな光の四辺がいくつも浮かぶ。
浄玻璃の鏡。
「ああ……ここだ」
ひとつの四辺を爪の長い指で突いた。
「昇華の気を受けて、君が回復魔術を使った。この子は確かに呼吸しているねえ。だけど、その前には、君とアリーは離れていただろう。ああ、ここで心停止しているね」
時間が巻き戻る光景が見えた。
そこに俺は居ない。
そうだ!
俺とローザは領都に行っていて、シュテルン館を空けていた。
昇華の前から気を何度か発していて……村に入る前にから、まずやられたローザは、俺が傍に居たから助けられたが。
アリーは、もっと超獣の近くで……結局俺は救えていなかったのか。
逆に、駐在員と言う天使は、俺を殺そうとはしたが、アリーを延命させてくれていたのか?
「つまり、あの時以降は、アリーはその駐在官に乗っ取られていたと言うことですか?」
問うて、臓腑が熱くなった。
「いいや、それはない。干渉は極々僅かにしてきたと言っていた。彼は真面目すぎる程に真面目だからね。嘘はない」
「でも、その駐在官自体が思いっ切り天界法違反じゃないですか」
「ううぅ。まあ非常の事後処置……というか、高度な政治的判断というか……」
セレナが、間抜けに首を傾げる。
「超法規的措置とでも?」
「ああ、それそれ!」
「この前の一件と関係あるんですか?」
「あぁぁ。まあね」
「命を狙われる程の?」
「いやあ。彼は君が生まれてすぐ、再輪廻を具申してきたからね」
「そんな前から俺を」
再輪廻って! 結局死ぬんじゃないか。
「それだけ君は駐在官にとって、危険に見えたって事だよ」
「でも、なぜアリーに?」
「監視に都合が良いのと……君の精神が変な方向に病まないようにするためもある」
うぅむ。
「もう疑問はないよね? ああぁ長く喋りすぎた。この部屋に居る君達の記憶は、数秒後には消えるから。安心して。じゃあね」
声が消えていくと、意識に靄が掛かった。
† † †
「……アリー! これは、何の真似かと聞いているのです!」
寝室の魔灯が点いている。
半身を起こしたローザと、ベッド手前4ヤーデンのところにアリーが寝間着のままで対峙している。
「何って、嫌だなあ。お姉ちゃん。夜這いに決まってるじゃん!」
「いや、夜這いというのは、対象が1人の時にすることですよ」
「だって、ずっと、お姉ちゃんが一緒に寝てるじゃないって、ラルちゃんが起きちゃったじゃない」
「起こしてしまいましたか。申し訳ありません」
「それはいいが……どうした?」
「いえ。アリーが」
「だってさぁ。側室になって何日も経つのに1回も呼ばれないし。だからね、実力行使っていうか。途中でお姉ちゃんが止めてるんじゃないかと」
「そもそも、俺が呼んでない」
「ええぇぇぇ」
「呼んでないが、まあ、いい。そこは寒いだろ、ベッドに入れ」
「やったぁ!」
「あなた!」
「眠い。灯りを消してくれ」
「はっ、はい」
反対側から冷たいアリーが入って来た。身体を押し付けて来る。
「そう言うことは、明日ファフニール家に行ってからだ。大人しく寝ろ」
「えぇぇぇえ」
反対から、ローザも身体を寄せてくる。
ん? いつも温かいのに、なぜか冷たい。それに何か首元が朱かった……よう……。
再び意識は途絶えた。
うぅ……。
朝か……。
ベッドに居るのは、俺だけだ。
えーと。夜具の右側を探ると温もりが残っている。
やはり。
いつも左にはローザが寝る。アリーがここに寝たのか。
「おはようございます」
ローザだ。
「ああ……おはよう」
起き上がると、いそいそと俺の着る服を用意している。
なんだか元気な姿が見えて嬉しかった。
嬉しい?
いや、元気なのはいつものことだ。改めてなぜそう思ったか?
どうも、変だ。
辻褄に乱れはない。乱れはないが。この記憶の混濁は何だろう。
昨夜は確かに酒を飲んだ。
とは言え、乱れる体質でないことは、自分が良く知っている。
「アリーは? いつもなら惰眠を貪って居るはずだが」
右に視線を向ける。
「はい。お邪魔にならぬように小一時間前に起こしました」
「そうか……」
「これからは……」
ん?
「……かち合わぬよう、言って聞かせます」
「あっ、ああ……」
なるべく、ローザの顔を見ないようにして着替えた。
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訂正履歴
2020/03/14 ベッド手前4ダーデン→ヤーデン
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




