244話 ラルフばつが悪い
ばつの悪い事って、対人関係なわけなんですが。仕事関連だとサクサクできるんですが。プライベートはなかなかぁぁ。
「おかえりなさいませ」
久しぶりに我が館に戻ってくると、本館玄関でモーガンや執事達に迎えられた。
「うむ。モーガン、疲れているだろう。少し休め」
都市間転送所前で別れるまで一緒だったのだから。
「ありがとうございます。ですが、本日は馬車に乗っていただけですので、問題ございません。それと、ダノン殿から、お館様御帰館時には速やかにお知らせ下さいと言付かっております」
「うむ。そうだな。時間が時間だ。昼食を摂りながら話そう。場所は公館の第一応接で良かろう」
「承りました」」
「ローザはどうする?」
「私も疲れてなど居りません。もちろんお供します。ですが、その前に、お着替えを」
†
「うむ。陛下は良くやってくれたと仰った」
「それは、ようございました」
おっと。テーブルでは、冬瓜が入ったとろみの付いたスープが出されている。が、その湯気が減ってきている。
「ああ、食べながら聞いてくれ」
「そうですよ。温かい内に食べて下さい」
そう言いながら、ダノンの奥さんであるドリスが料理を運んできた。
「聞いての通りだ」
「はっ」
バルサムがスプーンを取って食べ始めた。
「うーん。美味い、ドリスもご苦労だったなあ」
おっと……。
「いいえ。この人が家に居ないと、片付いて清々します!」
「おい!」
「ああ、奥様、座ってらして下さい」
ドリスが止めたが、ローザが立って手伝い始めた。メイドが運んで来た時は、何やらうずうずしていたが。
皿を置き終わると、ではごゆっくりと言って、ドリスが下がっていった。
「話を戻すが。ヴァレンス審議官が白状した通り、陛下はご自分が俺達を囮にしたことを認められた」
「ふむ。まあ、それだけ、御館様の実力をお認め下さっていたと思うしかありませんな」
「そうですな」
ダノンの言をバルサムが同意した。
「信頼されているのでしたら、打ち明けて下さればよろしいのに」
首席従者は不満そうだ。
「謀とは、知る者が少なければ少ない程、成るというからな」
「……差し出がましいことを申しました」
ローザは慌てて謝罪する。
「いろいろあったが、今回の任務は終了だ。皆、ご苦労だった」
「「はっ!」」
「ふぅぅ……」
「おお、家令殿どうされた」
「ああ、失礼しました。行き届かなかったとは存じますが、秘書官のお役目を終わることができまして安心しました」
「いやいや、大使を全うできたのは、モーガンに負うところが大きい」
「たしかに。家令殿のお陰で大貴族と当たるにも不安が軽かったですな」
「これは、過分のお褒めを頂戴し恐縮です。これよりは家令の任に精進致します」
笑い声が部屋を満たし、具沢山のスープが進む。
「ところで、今回はアガートへの出動だったわけですが、この後はどのような手筈で」
「彼の国は軍務省が、超獣対策の所管だ」
だからゴメスが付いて来ていたわけだ。
「そこから、我が国の所管、つまり王国危機管理委員会に超獣討伐の情報が回ってくる。あとはいつもと同じだ。明日には委員会より査定の通知があろう」
「はっ。団員へは解団時に、明後日の出仕を命じてあります」
「明後日か……」
「何かございますか?」
「おそらく、朝議がある。予定通りであれば今日中、遅くとも明日には使者が来るだろう」
「朝議ですか……」
「口外は使者が来るまでこの範囲にして欲しいが。この度、子爵に陞爵されることとなった」
「おぉぅ……」
「おめでとうございます!」
「「おめでとうございます!!」」
皆の表情が一気に明るくなる。
他の者は分からないだろうが、僅かに不満そうだったローザも破顔した。
「うむ、ありがとう……と言いたいところだが、今のところは、陛下のお言葉だけだ。喜ぶのは内定の通知を貰った後だな」
「まあそうかも知れませんが」
「御館様は、堅過ぎます。ははは……」
ふむ。彼らは心から喜んでくれているようだ。
貴族というのは、家長が出世するのが一番良いのだ。当然、家格も収入も上がるし、家臣の地位も連動して上がる。
それと男爵と子爵では、権威が段違いだ。庶民から見れば天上人たる男爵も、宮廷貴族の世界では掃いて捨てる程居る。が、子爵となれば極限られる。爵位とは昇る程、格差が大きくなるものだ。
「そうですか。子爵様ですかあ。感慨深いですな」
「まあ、一代爵だがな。ああ、ダノンには俺が准男爵の小倅の頃から、世話になっているからなあ。ダノンには、いや、皆には報いなければならん」
「はぁ。ありがたき幸せ」
スープを飲み終えると、後から出て来た鶏の香草焼きにも手を付ける。
「あのう?」
ローザだ。
「なんだ?」
「ああ、いえ。御館様は、既に結構満腹なのではないかと」
ローザは、まだ俺の腹の具合まで計っているらしい。確かに俺は小食だからな。
「ああ。昔、ダノンの家に遊びに行くと、俺が痩せて居るからと言って、ドリスがどんどん料理を出してくれてな」
「ああ、そうでしたな」
ダノンが何度も肯く。
「で、食べられないと言うと、叱られたものだ」
「ああ、ドリスにとっては、御館様がまだ子供に見えているのでしょう。申し訳ありません。ご無理して召し上がらなくとも」
「大丈夫だ! 美味いぞ」
†
ダンケルク家と連絡をとり、ローザと歩いて向かう。
少し間を開けてから訪問するつもりだったが、状況が変わった。数日後では話がややこしくなるのだ。
館に入って、応接間に通された。
お袋さんと一緒に通された、上等な方の部屋だ。
既にドロテア義母が座っていた。
「婿殿にローザ。よく訪ねてくれました」
「義母上、お久しぶりです」
「まあ、お座りなさい。マーサさん、お茶を!」
はいと答えてメイドが辞して行った。
部屋には3人だけだ。
「大使と成られてアガートへ行かれたと聞いていましたが」
「ええ、昨日まで王国へ行っておりました、本日10時に王都へ戻って参りました」
「まあ、そうなの」
やはり、少し態度がよそよそしいような気がする。
「失礼致します」
再びマーサが入って来て、お茶の用意を始める。
やがてカップが行き渡ると、夫人の後ろに控えた。
「マーサさん、あれを」
「はい」
なんだ?
マーサは手文庫に向かうと、封書を取り出してきて義母に渡した。
「昨日、ファフニールの奥様から手紙が届きました」
むう。
「アリーさんのこと猶子にされたと。そして、婿殿の側室になるとも書いてありました。そうなのですか?」
「はい。その通りです」
「まあ!」
義母は、一瞬目を剥いたが
「ふふふ……」
すぐ笑い出した。どういうことだ。
「やはり、婿殿は若いのに豪胆だわね。私の眼鏡に狂いはなかったわ。こういう時に言い訳しないのは見上げたものね。ユリーシャさんから、婿殿に隠して猶子にしたって書いてありましたよ」
「そうですか」
「ですから、私から婿殿にこの件で、恨みがましいことは申しません。でもアリーさんもうちの子にしておけば良かったわねえ」
「ははは……それを聞いて安堵しました」
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訂正履歴
2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




