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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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243話 為政者の資質

良い人すぎる為政者てのはどうなんですかねえ。伏魔殿に相応しく、不動明王のように恐い顔して降魔の利剣とか持ってる方が良いのかなぁ。

「掃除が終わっておらぬとは、如何なる事か?」

 宰相が訊いてきた。


「我が君が望まれている、両国の弥栄(いやさか)を成し遂げるためには、失礼ながら貴国に溜まっている塵を一掃せねば成りません。世情不安では我が国の好意の行いが水泡に帰す恐れがありますからな」


「塵……塵とは、我が国の人間を指すようだが。いかに勲があるラルフェウス卿の言とはいえ、我が国への干渉ではないか?」


「ほう! 宰相閣下は、我が国に仇成した者達を庇うと仰いますか?」


「ミストリアに仇成す……」

 大広間の面々は息を飲む。


「私共が貴国へ入国したところ、500人という大勢から攻撃を受けました」

「きっ、聞いておりまする。しかし、その下手人たるギーゼラ子爵は既に捕縛されて、無論、その件は貴国へ正式に謝罪を……」


 宰相の言い分は妥当だ、通常ならば──


「主犯を放置することは庇っている、そう当方は受け取らざるを得ませんな」


 ふむ。ターレイの口調を真似てみた。中々に憎々しく見えることだろう。隣国の使者が、国力の違いを背景に難癖を付けてきたと。


「主犯……」

「ギーゼラ子爵の背後に居る者です」


「ふーむ。失礼した。ラルフェウス卿の言にも一利ある。もし、そのような輩が存在するのなら、由々しきことだ。どうか? 内務卿」

 ふむ。自分にも利益があることが分かって、翻ったな。内務省か。まあ貴族制度を管理する官庁。故にその長に訊くのは自然だ。


「ギーゼラは確かに、畏れ多くも叛逆派の一員には違いないかと思われますが、その背後関係までは分かっていません」


「セレテウス卿。貴公ならばそう言わざるを得ないでしょうな」


 内務卿は、大きな襟を揺らして、こちらを振り返った。


「仰る意味が分かりかねる。ラルフェウス卿。まだそこまで捜査は進んでおらぬのです。申し訳なく思う」

 内務省を統べる大臣にしては、物腰が柔らかい。品性の良さが身染みでているかのようだ。


「それはそうでしょう、貴公が妨害しているのですからな。捜査の進展を」


「こっ、これは……満座の百官に囲まれて疑心暗鬼になっておられるのか。なにゆえ私がそのようなことを?」


「待たれよラルフェウス卿。その者は10代前の一族より、我が王室に仕える忠義者」

 フィデース陛下が助け船を出す。


「仰る通り、彼の忠誠の対象は王室にあるのでしょう。ただ。恐れながら陛下ではなく、甥御殿にあるのです」

「まっ、まさか」


「このところ、彼の勢力が力を取り戻し、悉く追及の裏を掻くのはなぜか? 情報を一手に握る者が内通していれば、謎は解ける」


「ふふふ。これは驚いた。そのような他愛もない妄想で、他国の閣僚を誣告(ぶこく)するつもりかね?」

 内務卿は、歌劇の振り付けのように腕を揮った。


「ははは、見くびらないで貰いたいですな! ヴァレンス!」

「はっ!」

 振り返らず手を掲げると、そこに冊子が乗る。


「これは、セレテウス伯爵家のとある商人に向けた糧秣注文書。それに対する、ギーゼラ家への納品書とその領収証。なぜ、注文主と納品先が異なるのかお聞かせ願いたい」


 列候の視線が、内務卿へ向いた。因みに、これはヴァレンスが調べてきた内容だ。


「さて、存じませんな。どこかは知りませんが、その商人の事務処理上の間違いかと思いますが」

「379年、380年、それに今年。3件あるが、全てが商人の問題だと?」

「そうだ!」


 反応に外連味がなくなってきたな。まあ役者としては、見た目以外大したことはないが。


「ほう。内務省ではその答弁で通るのですかな」

 苦々しそうだが、嫌みには無言だ。


「では、ご判断は、お集まりの皆様にお任せするとして」

 内務卿は、乗り切ったという余裕を見せて、後ろに下がろうとする。


「ああ、セレテウス卿。あなたにお訊きすべき事が、まだありますので、そのままでお待ち下さい」


「ちゃ、茶番だ。いつまでこんな戯言を聞いていなければならないのか? 皆々申していたではないか、またミストリアから圧力を掛けられると。次はどんな難癖を付けられるのかと脅えていたではないか?」


「確かにな、セレテウス。だが、それとこれは、話が別だ。ラルフェウス卿。我が宰相府でも真偽を正したいが」

 宰相の口調が変わった。取次が来たので冊子を渡すと、宰相の手に渡った。

「なるほど。伝票の通し番号がそれぞれ共通しておるな」

 かなり興味を引いたようだ。


「次は、あなたの盟友とも言える軍務省次官のメッサー殿へ当てた、軍備横流しの要請書あるいは命令書。どうやら直筆のようですから、筆跡鑑定などするとよろしいでしょうな」

 これはゴメス審議官の手引きで入手した。


「でっち上げだ! そのような物が存在するはずはない!」

「ああ、これを忘れておりました。王孫派一同の同心署名書です」


 羊皮紙の巻物を広げると、赤黒い文字の一番上にセレテウスの名がある。それを周囲に見せつける。


「こちらは血を使って、署名されておりますゆえ、魔導具を使えば署名をセレテウス卿本人がされたかどうか、すぐ分かりますな」


 セレテウスの端正だった相貌が、みるみる歪んだ。

「ふふふ……これまでか。そうだ私が、貴公を襲わせた主犯だよ」

「セ、セレテウス。嘘だと申してくれ」

 フィデース陛下が悲痛に呻く。


「茶番を演じていたのは私の方か……陛下、いやフィデース。王位を、殿下に明け渡せ!」


「セレテウス、本当にお前が王孫派の首謀者なのか?」

「そうだ!」

 晴れ晴れとした表情になった。

 対照的に問うた者は、眉間に深い皺を刻むと呻くように息を吐いた。

「内務卿の職を、罷免する」


「衛士! セレテウス侯爵に、国家反逆罪および横領罪の容疑がある。拘束せよ!」

 2人の兵が、侯爵の両脇を抱え大広間を後にした。

 見送ったフィデース陛下は瞑目して肩を落とした。相当信頼していたようだな。


「これで、掃除は終わったで良いかな、ラルフェウス卿」

 宰相に向き直る。

「はい。これで安心して、貴国と交渉ができます」

「そうか、それはよかった」

 そう言って肯いた宰相の顔は冴えなかった。


   † † †


 その夜。

 晩餐会を含め、国賓級の持てなしを受けた俺達は、翌日から2日間、びっちりと外交交渉を実施した。


 ミストリア王都に戻ったのは20日の午前中だった。

 騎士団とは分かれて、そのまま1人で王宮へ参内した。非公式ながら国王陛下に間もなく面談が叶った。


「ご苦労だったな、ラルフェウス卿」

「はっ!」

「まあ、掛け給え」

 

 アガート王国に出向く前に会った同じ部屋だ。ソファに腰掛ける。


「うむ。先ずは超獣討伐、よくやってくれた。対超獣任務で立て続けに討伐をやってのけるとは、朕の代はもちろん、ここ何十年もなかった快挙だ。エーゲリアも大層喜んでおった」

 この前、ここで会った陛下の側室のことだ。


「ありがたき幸せ。魔結晶につきましては、アガート王が献上を辞退されましたので、国庫へ納入致します」

「ははは。余程貴公のことが恐かったのだろう。フィデース陛下は息災だったか? 後で話してやらねばならぬのでな」

 恐かったのは俺ではなくて、俺達が操るゴーレムだろう。


「アガート王に置かれましては、ご壮健ではありましたが。腹心に裏切られたため、ご心痛が大きかったようです」

「ふん。人の上に立つ者、人の思いなどという物は移ろう物と心せねばならぬ。後半は自業自得だろうか。壮健だったとだけ伝えるとしよう」

「はっ!」

 これは何かの時は、口裏を合わせろということだ。


「それにしても随員に拠れば、外交官すら舌を巻く、交渉ぶりだったそうではないか。語学の堪能さもそうだが、交渉力も凄まじかったとな」

「単に今回は武力を背景とすることになったからでしょう」


「ふむ。それも交渉力の内だ。なんなら今から外務官僚になるか? ラルフェウス卿なら余裕で外交官試験も合格するであろう?」

「ご冗談を。今回は乗りかかった船ゆえ、手伝ったに過ぎません」


「なんだ、超獣対策特別職が良いのか?」

「はい」


「ふーむ、そうか。それを聞けばマグヌス(内務卿)サフィール(外務大臣)の両卿も胸を撫で下ろすだろう」


 ん?

 前者は特別職を続ける事に安心するという事だろうが、後者は? よく分からないな。


「それと、もうひとつ。財務の者達も、思いの外、関税率低減ができたと喜んでおったわ」


「その代わりに、陛下ご提案の超獣対策の相互協力が収穫と、向こうは向こうで計算しておりましょう」


「まあ、そう自身の手柄を目減りさせなくても良かろう」

「いえ、これを申しておかないと、同輩より怨まれますので」

 そう。

 条約を結ぶことで、軍人である上級魔術師の派遣がしやすくなる。だが逆に言えば、俺達の仕事は増えるに違いない。


「ははは、確かにそうだな。賢者共から睨まれても、つまらぬからな」


「はい。それに今回の如く、囮役が回される可能性もありますゆえ」


「ん? なんだ、あやつ。白状したのか」

 陛下は、薄く嗤った。


 そう。

 派遣日程を王孫派に関わる者達に意図的に漏らし、俺を囮に仕立てた発案者は国王陛下だ。ヴァレンス審議官が、白状して俺に許しを請うた。


「済まぬ、許せ。ラルフェウス卿ならば一蹴できると見込んだ。そして、読み通り、いや読み以上の結果を出してくれた」

「陛下は、お人が悪い」

「ははは……為政者として褒められたと思っておこう」


 確かに正直すぎる為政者を、あまり頼もしいとは思えない。


「一番大きいのは、彼の国の政権をそれなりに強化できたことだ。暫く我が国には頭が上がらぬであろう。それだけラルフェウス卿の功績は大きい。よって……」

 よって?


「子爵を与える」


 なっ! 子爵?!


「既に内務卿には命じてある」

「ありがとうございます。身に余る光栄にございます」

「うむ。侯爵の娘を側室にするのだ、それ位でないと釣り合わぬであろう? ははは……」


「はっ、はあ……」

 アリーのことまで知られているのか。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989 さん ありがとうございます)

2021/08/29 誤字訂正、文章構造修正(ID:800577 さん ありがとうございます)

2021/09/11 誤字訂正

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2023/05/19 誤字訂正(ID:2281684さん ありがとうございます)

2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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