242話 掃除仕る
題目というか本文の部分のことですが。掃除とまず書いていたんですが、投稿直前に洗濯の方が良いんじゃね?と浮かんだのですが……そっちは坂本龍馬のパクリじゃんって気が付いて見合わせました。
翌日10時。
砦を後にした俺達は、夕方にオドワルド伯爵領都ツワメルに到着。
既に早馬が超獣討伐を知らせて居たので、激賞によって迎えられ、伯爵から接待を受けた。なお、アガート国王との謁見は、明日14時と決まったと通知を受けた。
さらに翌日。
アガート王国、王都に都市間転送された。
広報されていたのか、転送所から滞在先の迎賓館の周りは大層な人出であった。俺達を見ようと集まった見物客だ。
そこで、我らは新たなる旅装を整えた。
先頭は、2列縦隊で10体のゴーレム兵が進む。その姿は、出発前に見せた2ヤーデン強の体躯ではない。あれから1.5倍に拡張したのだ。はるかに見上げる程になった姿はドワーフを凌ぎ、明らかに生物ですらない無機質な顔が不気味さを漂わしている。そいつらが、通りの石畳も砕けよとばかりに踏みしめ、一糸乱れぬ揃った歩行を見せる。
我らが乗った馬車7両が続き、後尾にもゴーレム兵を配置した。まあ、折角巨大化させたのだ、出番が有ってよかった。
しかし、逆に救国の英雄を歓呼で迎えようとしていた王都の住民達は、我らの寡兵ながら物々しい出で立ちに鼻白らんだ。
確かにこれほどでなければ、超獣など斃せない。そう理性が囁いても、本能が何倍もの音量で警鐘を脳内で打ち鳴らすのだ。
そう。彼らは友軍ではない。そして、ここはもう城壁の内側なのだ。
このまま、我らが王都を蹂躙するのではないかという不安は拭い去ることはできない。
とはいえ、名目としては、恐ろしい超獣を斃してくれた凱旋であり、強大な友好国の一行を誰が止めることができよう。群衆は、狂おしい矛盾を孕んだ思いで見守るだけだった。
迎賓館に入り、門が閉まると同時に、ゴーレム兵を収納した。
出迎えは、アガート王国外務次官と駐アガート大使だ。
挨拶と簡単な対話を実施した。そして、ようやく本題だ。
我らの随行であるはずの、外務官僚と顔を合わせた。
「ラルフェウス卿。ご無事のご到着ご同慶の至りにございます」
審議官ヴァレンスが恭しく挨拶を述べた。
「ご同慶とは、慶事を共に喜ぶという意味だと理解しているが、そうなのか?」
彼は一瞬片眉を上げたが、想定の範囲内だったが、すぐ笑顔に戻る。
「もちろんにございます」
「ほう。俺が死んだ方が、この国に言い掛かりを付ける材料の価値が高まるのではないか?」
「ご冗談を」
「冗談などではないぞ。そうそう昨日の未明にギーゼラが捕縛されたことを知っているか?」
「ギッ、ギーゼラと言えば、この国の子爵と記憶しておりますが、どの様な罪で?」
「ミストリア王国大使の一行を待ち伏せし、危害を加えた罪だ。無論、時期や経路を知らせた協力者が居る。それが、ミストリアの者と自白したそうだ」
昨日。ツワメルにてスードリの報告を受けた。ギーゼラとその後ろに居る者のことを。
「なかなかに興味深い話題ではございますが、先の冗談ではないと仰った件と、どう繋がるのか、ご教授願いたいもので」
白を切るようだ。
「簡単なことだ。俺達が何時どこを通るか、知っている者は極限られる。それを虱潰しに調べればすぐ分かるだろう。大使は国王の代理であり、加えて、超獣対策特別職へ危害を加える反抗は大逆罪と同等だ。どうだ、冗談に聞こえるか?」
流石に顔が引き吊った。
「わっ、私がその協力者だと?」
「任地において、大使には随員の生殺与奪の権限がある。そのことは外務省審議官の方が良く知っていよう?」
彼の額に汗が滲む。
「はっ、はい」
「では、随員としての務めを果たして貰おうか」
†
迎賓館で昼食を饗された後、アガート王宮に参内した。
白く格調高い大広間に、王国の列候が並んでいる。なかなかの風格だ。国で言えば、我が国よりも古く、王室の歴史も長いからな。
その奧の玉座には、顎髭を蓄えた壮年の男が座っている。
「ミストリア王国ラングレン臨時大使様御入来!」
俺は、モーガンとヴァレンスを従えて、広間の真ん中を進み出すと、一斉に拍手が巻き起こった。超獣討伐を賞賛してくれているのだろう。さりながら、あまり歓迎の好意は伝わってこない。特に軍服でない方の人々の表情が堅い。
都市間転送所から迎賓館へ入るまでの示威行動が効いているに違いない。その中を意に介すこともなく、傲然と胸を張って玉座前へ移動した。
国王が腕を上げると、すぐさま拍手が鳴り止んだ。
跪き、頭を垂れる。
5秒数えて、立ち上がる。
「国王陛下にあらせられましては、ご機嫌麗しく拝察致します。御拝謁の栄に浴し、また国書を奉まつる役割を得。ラルフェウス・ラングレン、恐悦に存じます」
近辺の国々で使われるエスパルダ語によく似たアガート語だが、やや異なる抑揚に気を付けながら、用意してきた挨拶を述べる。
国王陛下と目が合う。
辺りの微妙な顔つきとは異なり、玉座の主は笑みを浮かべている。
確かに面長だ。永らく至尊の座を世襲し続けると、遺伝的に顔が長くなるというが、該当するようだ。
礼儀に遵って、やや下方に視線をずらす。
「うむ。ラルフェウス卿よ!」
「はっ!」
「大使の大任もあるであろうが、まずは我が国を危機の縁より救ってくれたこと。フィデース、心より感謝する」
「陛下のお言葉を賜り、ありがたき幸せに存じます」
「うーむ。いやいや朕の言葉だけでは釣り合わぬ、いかがか宰相?」
小柄な老年の男が、軽く会釈して一歩進み出る。宰相グローイ侯爵だな。陛下とは対照的に眼が鋭い。
「はっ! 我が国の上級魔術師が2人がかりで斃せなかった超獣を、現地に到着して即座に討伐された、ラルフェウス卿の手腕と実力は並び立つ者すらおりません」
満座が低く唸った。
「陛下が仰った通り、功績大いに報いるべきと考えます。つきましては我が国の爵位をお贈りしては如何かと」
「おぉぅ、それは良い考えだな。内務卿、如何か?」
「はっ!」
背の高い銀髪の巻髪の男が進み出る。
彼が、アガートの内務大臣セレテウス伯爵だな。
古風な衣装に、首の周りにラフと呼ばれる何重もの襞が織り込まれた大きな襟を付けている。ミストリアの王宮でも何人か見かけたことがあるが、門閥貴族が好む服装らしい。おおよそ大袈裟で鼻に付くのだが。伯爵は細身で品が良い所為か、よく似合っている。
「そうですな……」
一瞬だが、こちらを睨んだ。何やら憎しみが籠もっていた。
「内務大臣としては、我が国の名誉男爵を授与するのは如何かと」
「いやいや内務卿。ラルフェウス卿は、ミストリアの男爵である、今さら名誉男爵では」
「ならば、名誉子……」
この下り。恩に着せる予定調和だな。止めよう。
「お言葉ながら、大使の大任を果たす前に、この身の話をされては、我が君に叱られます」
「おぉぉお、これは……ご尤も。それにしてもラルフェウス卿は、アガート語が巧みですな。臣は感服致しました。では国書を陛下へ」
数歩進んで膝の高さ程の階の際まで進み跪く。
「国書を奉呈仕る」
フィデース陛下に小脇に抱えてきた箱を一度擬し、取り次ぎの侍従に渡した。
さらに宰相が受け取り、王に見せる。
封が切られていない事を、衆目に見せてから、紐を引っ張り解いた。恭しく蓋を外すと、中から巻紙を取り出し、広げた。
しかし、読み上げるでもなく、次々と広げていく。ああ、そうか。冒頭から中盤まではミストリア語で書いてあるからか。訳文はその下に書いてある。
そこに到達したのだろう、宰相が肯いた。
「では、訳文を読み上げます。ミストリア王国より、親愛なるアガート王国へ。貴国とは互いの建国より長きに渡り、良好なる通商を営み、良き関係を築いて来られた。ミストリアとしては、この縁を長く継続したく考える……」
長い。
前に読んだ写しの通りの美辞麗句が続く。運んでおいてきてどうかと思うが、辟易とする。が、フィデース陛下は、時々頷きながら、にこやかに聞いている。
数分間、内容以外は見事な朗読が続いたが、ようやく終わりが近付いた。
「……両国の弥栄を祈念し、ここに我が国の上級魔術師であるラングレン男爵を派遣し……? 掃除をさせるものである。光神暦381年7月 ミストリア国王クラウデウス6世 以上にございます」
掃除か。俺が総裁から貰った国書の写しには、そんな記述はなかった。
宰相は、国書を巻き戻すと、数歩下がってフィデース陛下の前の小座卓に置いた。
「うむ。大使は見事に超獣を斃し、我が国の掃除を成したと言うわけだな」
フィデース陛下が上機嫌に首肯する。
「いえ。お言葉ながら、掃除は終わってはおりませぬ」
そう。大使の大任はここからだ。
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訂正履歴
2020/02/15 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2021/09/11 誤字訂正
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2025/04/27 誤字訂正 (イテリキエンビリキさん ありがとうございます)
2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




