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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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234話 口約束

口約束は危ういもので。相続の時なんか、親の生前に言っていたことを翻され、兄弟姉妹仲が悪くなるなったと良く聞きます。ああ、他人事じゃないですよ、皆さん。

 その日の夕方。

 スードリから報告があると申し出があったので、ダノンとバルサムと一緒に3人で聞いた。


「結論から申し上げますと、ここ最近アガート王国にて、不穏な動きがございます」

 いつものように無機質な声で、淡々とスードリが話す。

「むう」

 ダノンとバルサムが唸る。


「具体的には?」

「国王の相続問題です」

「相続? フィデース陛下だったか……たしか戴冠されたのは、かなり前だぞ」

 ダノンの言に、バルサムも肯いた。


「はい。15年前の話です。詳しく申しますと、先代のアガート王は長命で、嫡男の方が先に亡くなってしまい、それから相続問題が起こりました」

「しかし、特段の騒ぎになった記憶がないが」

 ダノンが聞き返す。


「一応平穏に見えて、実は燻っていたのです。当時の嫡男の男子、つまり先王の王孫はまだ5歳だったので摂政を置くという案と、先王の次男が継承する案が対立しまして、彼の国を二分する戦いになりそうだったのですが」


 ほう。


「結局次男である現王が継承したわけですが、平穏に収まったのは、我が国の周旋があったのと、王孫が成人した暁には、王位を渡すとの約定があったとされています」


「されています、とは?」

「はい。明確な約定の記録が残っておらず、おそらくは口約束だったかと」


「なるほど。王孫が最近20歳になり十分成人に達した。それにも拘わらず、禅譲の気配がないので、燻りが再び燃え上がり掛けて居るということか」

「仰る通りです」


 ふむ。


「王孫派と中立の勢力は?」

「王孫派の貴族は現王の懐柔政策で蚕食され、現在ではざっと国内の2割前後と見られます。さらに中立は2割程度かと」

「それでも2割か……無視できない勢力だな」

「はい」


 6対2の勢力差が、そのまま戦えば、勝敗は火を見るより明らかだ。しかし、前者は施政側であり、勢力の集中は困難で、分散せざるを得ない。

 つまり、後者に遊撃的な戦術運用をされると、実に厄介な割合だ。


 しかし──


「スードリ殿。その勢力が、我々が通る経路上に存在するのか?」

「副長。既に調査を始めていますが、予断を許さない状況です」

「そうかぁ。なかなかに難しい問題だな」


 ふむ。


「スードリ」

「はっ!」

「その情報。得るのに苦労したか?」


 スードリは珍しく、何度か瞬きした。

「いえ、現地からの情報では、それほどでもないと訊いておりますが」

 まあ、現地まで行くのが困難なのだが。それはともかく。それならば知らないわけはない……か。


「御館様、何か?」

「うむ。今回の出動……一筋縄ではいかないようだな」


「はい。超獣ではなく、人間と戦うことになるやも知れません」

 バルサムだ。


「いや、そちらは……ああいや、大使とは国家だ。害を為す相手は、他国内と言えど排除する権利を有している」

「御館様」


「無論、我らが対するは超獣だ。だが、立ち塞がる者があればだ……ともかく、スードリはさらに情報を集めてくれ。連れて行く戦闘系団員の数を変える気はないが、見た目の戦力は増強する」


「と、仰るとあれを?」

 バルサムが色めき立つ

「うむ」

「承知致しました」

「騎士団総会は、明日10時に開くよう手配してくれ。なお出発は明後日同時刻とする」


「「はっ!」」


 3人の了解を見て、執務室を後にした。



「なあ、団長殿」

 御館様と、スードリが退出した後、バルサムが切り出した。


「何かな」

「御館様だが……何やら最近雰囲気が変わったような気がするのですが。ダトリーアに行って以来だと思います」


「どのように変わったというんだ?」

「うまく言えませんが、凄みというか。何と言うか、眩しいですな」


「そうか? 神々しさは昔から変わらないと思うがな」

「アリー殿に聞いたところでは、迷宮から帰るとき、転送陣を出たところでふらついたそうです」


「その話か」

「団長も聞いたのですか?」

「ああ、ローザ殿からだがな」

「どのように? ああアリー殿は魔感応術で看てみたが、異常はなかったと言っていましたが」


「ローザ殿も、身体はどうということはなかったが、数日間眠っていないような感じだったと。ただ一晩寝て以前よりすこぶる元気になられたと言って見えたが」

「少し心配ですな……」


「とにかく、私は何時もお側に居ると言うわけには行かぬ。せめてバルサムは目を離さぬようにしてくれ」

「はあ」


   † † †


 翌日。11時。

 騎士団総会が始まって既に1時間が経ち、ダノンとバルサムから、概要説明と、出動団員が発表された。それに、アリーによる茶番劇も一通り終わった。


「そういったわけで、今回はラングレン家の家令であるモーガン殿も同行される。他に質問は? ……ないようだな。では、御館様」


 促されて立ち上がり、演台へ行く。


「団員諸君。非番を返上させて申し訳ない。しかしながら、今回の出動は大変名誉であることを忘れないで欲しい」

 議場をぐるりと見渡す。不満そうな顔は見えない。


「先に発表したように、今回の出動では人員を絞った。しかし、武威を落とすわけにはいかない。さらに、他国へ行く以上、不測の事態もあり得る。よって……」

 団員は何を言い出したのかと眉を顰める。


「これらを持っていくことにした」

 俺の横の空間が、キラキラと霧氷のように輝くと、壁際に背丈2.5ヤーデン程の大男が忽然と4体現れた。おぉと響めきが上がる。


 全身が褐色で、鎧を着込んだドワーフのようだが、顔の部位には造作がなく、薄い筋が水平に刻まれているのみだ。


「御館様、横に居る者達は一体?」

 トラクミルが恐る恐る問うてきた。


「ゴーレムだ」

 皆、それは分かるがという顔をしている。

 そのなかでもっとも複雑な表情をした、ルーモルトが挙手した。


「つまり、俺達戦士の代わりということでしょうか?」

 彼にしてみれば存在意義が問われる事態なのだろう。


「いいや違う。明確に否定しておく」

「ではどういうことでしょう?」

「壁だ。動く城壁と言っても良い」


「壁……?」

 一般の団員は意味を図りかねる顔つきだ。


「このゴーレム達は、力こそ強いかも知れないが。戦士諸君の代わりなどできようはずもない。唯一最大の利点は、命を持っていないことだ。だから壊れようとも惜しくはない。よって敵の攻撃を遮るのが主目的、つまり壁だ。今回は試験運用としてこれを持っていく。認識しておくように。以上だ」


 演台を降り席へ戻る。入れ替わりにバルサムが立つ。


「御館様が仰ったことは、皆への期待の表れだ。もう団員は要らないなどと言われぬよう、張り切って貰いたい。なお、明日の出動に先立ちゴーレム達との連携訓練を今日の午後から実施する。では解散」


 皆が立ち上がり、近付いてしげしげとゴーレム兵を見ていた。


     †


 総会が終わった後、本館の執務室。


「何か、御用ですか?」

 俺とローザが待つところに、アリーが不承不承が入って来た。


「ああ」

「で、なんで、本館なんですか?」

「騎士団とは関係ない話ですからね」


「えぇぇ、お姉ちゃん。明日出発だから、班長のアリーちゃんは忙しいんですけど」


 あからさまに嫌そうな態度だ。

 何かやらされると思って予防線を張っているようだ。班の中では救護班は1番暇なはずだ。やることと言えば、出動する班員の自分の荷物整理くらいだからな。


「そうか、では手短に話そう。アリシア。おまえを我が側室に迎えることにした」

「はっ?」

 呆気に取られているのか、何度も瞬きしている。


「私を側室……ラルちゃん、それっ……本当に、本当?」

 眼を輝かせて寄ってきた。


 肯く。


「うわっ! やったぁぁぁああああ」

 館内に響き渡るような大声だ!


「アリー、静かになさい」

「あっ、あぁぁ、すみません」


「それで返事は?!」

「お姉ちゃん恐いよ! ああ、はいはい。えぇと、ちょっと返事は待ってもらって良いかな?」


「アリー。側室の件は、あなたが言い出したことなのですよ!」

「いや。そうだけど。だから、顔が恐いって。ああ、ラルちゃんの奥さんになるのは夢だったから、とっても嬉しいし、もちろん断るなんてことはないんだけど。ちょっと思ってたより早いって言うか、まだ煮詰まってないというか。とにかく、アリーちゃんにも都合があるのよ」


「都合とはなんです?」

「いや、それはちょっと……言えないけど、出掛けて来るぅ」

 脱兎の如く、執務室を飛び出して行った。


「全くなんなのかしら、あの子は……ああ、あなた申し訳ありません」

「ローザが謝ることはないさ」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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謝辞

全角小数点「.」の表記でご指摘戴きましたが、本作内で他に多数の例も有り、本作では有りで統一させて戴きます。ご了承下さい。


訂正履歴

2019/11/20 細々微修正

2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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