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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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233話 鴨が葱背負ってやってくる!

鴨鍋を食べたことないので、慣用句に実感がないんですが。まあ意味はわかります。

 午後3時過ぎ。公館玄関に、馬車が横付けされた。一辻手前を辻馬車以外が通った時、委員会の使者と察知したので玄関で出迎える。


「これは……総裁閣下」


 驚いた。

 てっきり来られたのは国家危機対策委員会の職員だと思っていたが、総裁のバルドゥ宮廷伯だった。ちなみに委員長ではなく総裁なのは、委員の互選で選ばれる長ではないからだ。


 壮年に達した年格好だが、背が高く紳士然とした佇まいは、いつ見ても好感が持てる。

「ラルフェウス卿、自ら出迎え傷み入る」

「では、こちらへどうぞ」


 ヘミングは俺の態度を察したのだろう、予定が変更されて特別応接に案内された。


「さて、まず済ませるべきことをやってしまおう」


 総裁は、従者から大きな鞄を受け取ると、中から大きい羊皮紙の筒を取り出した。

 あれは……。


 一同、総裁の前に跪く。

(ちょく)!」

 綸旨(りんじ)ではなく勅だ。陛下直々の起草──


「上級魔術師ラルフェウス・ラングレン男爵に命ずる! 今般、アガート王国オドアルド周辺に出現した超獣を討伐せよ! また……」


 また?


「……男爵にはアガート王国派遣臨時大使を命ずる」

「はぁ?」

 しまった! つい声が。

 俺も驚いたが、後ろでダノンとローザも息を飲んでいる。

 

「ぅぅうむん……」


 ギロっと睨まれたが、咳払いでなかったことにして貰った。


「ついては、光神暦381年7月15日までに、アガート王国に入国のこと。子細は使者が携える命令書に記す。()って(くだん)の如し。7月10日 ミストリア王国国王クラウデウス6世」


 巻紙を両手で開いてこちらに見せる。

 俺が肯くと巻き直して、立ち上がった俺に手渡した。


「勅の伝達は以上だ。以降は命令の詳細説明を致す」

 ソファーに移動する。


「ははは、失礼した。ラルフェウス卿が驚かれるのも無理はない。超獣討伐もなかなかのことだが。しかし、臨時大使の方はな。初耳だろう?」

「はい」


「それで、これが命令書だ」

 封筒を受け取り、中を検める。

「なるほど」

 便箋をテーブルに置いた。


「なっ? もう読んだのか?」

「はい」

 便箋は1枚だしな。

 何か唖然としている。


「うーむ。噂通りだな。魔術師に成らなかったら学者になっていたか……」

 いや速読と神学は関係ないと思うが。


 ちなみに書かれていたのは、主に手順だ。

 在ミストリア-アガート王国大使館にて、超獣対策の依頼を受ける。

 王都から、都市間転送を使い、国境のグルモア辺境伯領まで飛び、陸路アガート王国へ入って、その後オドアルドに移動。討伐の上、同国王都アガート・ブラムに移動、謁見。そう書いてある。あと、少し引っ掛かるのは、外務省の役人が補佐で付いてくることだが。


「確認ですが。本当に討伐、そして謁見の手順でよろしいのでしょうか?」

 自分で言うのも何だが、討伐失敗という事態は想定されていないようだ。


「それだけ、陛下は卿を信頼されていると言うことだな」


 光栄ではあるが。危機管理として、それで良いのだろうか?


「まあ、そう構えることはない。臨時大使の主な役目としては、国書をアガート国国王に届け、返書を受け取ってくることである」


 なるほど。それほど大役では……いや、待て。この方向性は、どうも嫌な予感がする。


「それで、国書だが……」

 ん?

「はぁ……」


 さっきの鞄から、何かを取り出そうとしてる、箱だ。

「こちらだ」 

 まさか、携えて来られたのか。ふーむ今日は、2回驚かされた。

 てっきり、国書は補佐に付く随行の役人が持参する物だと思っていたが。ここへ預かってくるとなれば、総裁がわざわざ来ることになるのも不思議ではない。


「取り扱いは慎重に頼むぞ」

「はい」


 受け取った箱には、がっちり帯封が締められており、末端に封蝋がされている。どう見てもこれを開ける訳にはいかない。


「この国書にはどういったことが書かれてあるのでしょうか? 知らないではお役目は果たし難いのですが」

「もちろん写しは用意してある。まあ私も読んではいないのだがな」

 別の封書を渡された。


「失礼します」


 検めてみたが、文面に両国の友誼を深めたい以上の内容はなかった。少し当たり前過ぎるが、まあ国書とはこんなものかも知れない。

「あと外務省の役人が、明日昼過ぎにこちらを訪問して調整したいそうだ」


「分かりました。御意に適うよう微力を尽くします」

 そう。今回は拒否の選択肢はない。王命だからだ。


 総裁を見送ってから、バルサム(副長)モーガン(家令)を呼びつけ、公館執務室で打ち合わせる。


「何やら、奥様のご機嫌が非常によろしいようですが」

「もしや、アガート王国への遠征の件で何かありましたか?」


 2人ともローザの状況で異変を感じ取ったようだ。


「ああ、遠征は陛下の仰った通りだが。臨時派遣大使を兼ねることになった」


 尋ねた者同士で顔を見合わせる。

「大使と申しますと、陛下の代理人たる、あの大使ですか?」

「他に大使という職があるのか?」


「おぉぅ」

「これは……凄いことなのではありませんか? 団長!」

 いつも泰然自若とした(バルサム)が、驚きを隠さない。


「ああ、同席していた私も肝を潰した」

 ダノンが大きく肯く。

「それで奥様が」


「はい。午前中と言い、先程と言い。今日は素晴らしい日になりました」


 一般的に大使が重要なのは分かる。クローソ様の例を挙げるまでもなく。だが今回の役目がそれほどとは思えないが。敢えて言えばローザが喜んでいるのが嬉しいだけだ。


「ダンケルク家の方にもお知らせしては如何でしょうか?」

 モーガンが嫌なことを言い出した。喜んで戴けるのは良いのだが、披露会だなんだと時間が取られてしまう。


「ええ、そうですわね」

 ローザは当然乗り気だ。

「ならば、エルメーダのお父上と、スワレス家の方にも」

 ダノンまで乗っかるんじゃない。どんどん話が大袈裟になっていくだろう。


「それにしても。大使というのは、それほどのことなのか?」

「それはもう。大使と言えば、外務省の役人で言えば局長以上、貴族で言えば宮廷伯爵以上の爵位を持つ貴族が選ばれるのがしきたり……大変名誉なことと聞いております」


 モーガンは、この辺りのことをよく知っているな。


「伯爵様の方はともかく、御義母様の方へは、帰って来てから知らせるというのはどうだ?」

「私が、お館に出入り禁止になります」

 退路が断たれた。

「分かった」


   † † †


「ヴァレンス審議官殿、お久しぶりです」

 (外務)本省の廊下で声を掛けられた。3年次下の後輩だ。足を止める。


「やあ、ミーリフ」

「聞きましたよ。アガートに派遣されるそうで」

 耳が早い男だ。

「ああ」


「アガートと言えば、例の伯爵夫人が最近何かと話題になってますが……その関係ですか?」

 その通り。陛下の側室となってからも生国の繋がりが強く、本省でも問題視しているのだ。

 とりあえず廊下の端に寄る。

 若手の職員が横を通り過ぎて行ったが、他に人影はない。

 下手な部屋より,盗み聞きされる恐れは少ないか。


「その通りだ」

「へえ。先輩が団長ですか?」

「……いや、大使が付く」

「大使? 話の筋としては、官僚ではないのですか? 貴族ですよね。ヴィットリオ伯爵辺りですか?」


 鋭いな。

「いや違う。男爵のガキだ」

「男爵? それはまた……それで浮かぬ表情を?」


 顔に出ていたか。


「ああ、先が思いやられる」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

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訂正履歴

2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)

2021/02/13 脱字訂正

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

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