232話 茶番
茶番。見え透いた物事の意味です。演劇関係の用語だろうなとは思ってましたが、茶番狂言の略語なんですねえ。知らなかった。ちょっぴり賢くなったかも。
「あなた!」
「ん?」
内郭を辞し、我が家の馬車に乗り替えるとローザが切り出した。
「国王陛下に直に拝謁でき、感謝を受けた時は、舞い上がるような心地ではありました」
「あっ、ああ。それは良かったな」
なんだか押しが強いな。
「しかし……」
ん?
「それはそれとして、先程の陛下とのやり取りが全く分かりませんでした。分かるように説明して戴いても?」
目が笑ってない。
放置したから、少し怒っているようだ。
「ああ。済まなかった」
「陛下と示し合わせていた、わけではないのですよね?」
「ああ、いわゆる事後共犯ってやつだ。どこから説明するか……ああ、まずエーゲリア伯爵夫人のご実家は、アガート王国の王室だ」
「はい。話の流れで分かりました。アガート王国というと、我がミストリアの北東にある国ですわね?!」
「ああ。王都からだと、3千5百ダーデン(3千km強)位だな。アガート王国は友好国ではあるが、そうなったのはここ百年ぐらいでな。あからさまに政略結婚だ」
「ご夫婦仲はよろしいようでしたが」
「それはさておき。彼の国で超獣が出現したのは、特別職への情報提供で知っていた。それだけだ」
「やはり、陛下があなたへ説明したと仰られたのは、やっぱり嘘なんですね?」
ふーむと可愛い鼻から太い息を吐く。
「ああ、嘘と言えば、俺が言った法的根拠がないというのも嘘だ」
「はい?」
大きな眼を一旦瞑って、見開いて俺を睨む。
「国内法にはないが、彼の国とは安全支援条約を結んでいる。紛争になるか、その恐れでもない場合、軍は出せないが、俺については問題なく派遣できる。軍人ではないからな」
「ちょっと待って下さい。と、いうことは、陛下もそれを知っていて?! えっ? あなたは、陛下に華を持たせる為に一芝居打った……それで役者?」
肯く。
「まあぁぁ。伯爵夫人に告発のお手紙を書こうかしら!」
全く男共は! という顔だ。
「それは、困るな」
「ところで、あなたのお身体が心配です。本当に大丈夫なのですか?」
「ふむ。その話は昨日しただろう。一晩寝たらいつもより調子が良いぐらいだ。それとも、ローザの目には任務を果たせそうに見えないか?」
「もう。そういう言い方は卑怯です。大体任務が果たせれば良いというものではありません」
「すまん」
抱き締めて宥める、これも卑怯か。
†
公館に戻ってきて打ち合わせを始める。
「そういうわけで、アガート王国へ赴くことになった」
ダノンは眼を伏せ、バルサムは腕を組んで唸った。
「モーガン殿から、知らせを受けて何事かと思っておりましたが、そういうことですか」
やはりモーガンに手抜かりはないな。
「それで、明後日出発として幹部以外の団員は何人集まる?」
今は非番が始まって間もない。王都に残っている者は少ないだろう。
「ふむ。明後日ですと20人程度ですかね」
「20人も王都に居るのか?」
バルサムに訊き返す。
「ええ。主に団員を早く戦力化しませんと。今は御館様を支援するどころか、負担にさえなっていますからな」
「とはいえ、少し扱きすぎではないのか。特に魔術師を」
ダノンの言に少し揶揄が入っているな。
「あれぐらいで、音を上げる者はおりません。それに最近入ったアクランは、なかなかの大器ですから鍛えないと」
「むう。確かにあの者のゴーレム魔術は……済みません。幹部も、揃っております。ああ、ペレアスは近隣に出ていますが、昼には帰って参ります」
途中で俺の視線に気が付いたようだ。
「では、昼過ぎに」
「はい。早速幹部会議を召集致します」
†
昼過ぎ。
親父さん宛の書状を書いて、食事したあと幹部会議が開かれた。
一通り、ダノンが説明し終わったところで、アリーが挙手した。
「救護班長、どうぞ」
「はい。話をまとめると、王様のお妾さんのために、ウチが出動するってことですか?」
秒にも満たないが、ザワッとなった。
「他国のために、出張るってのは釈然としません」
言い終わると、大きく肯いた。
コイツ……。
「救護班長。確かに他国の為だが、押っ付け委員会から綸旨が届く。アガートとは安全支援条約を結んでいるから、しっかりと法的根拠がある」
「でも、ウチは非番だよねぇ」
隣のペレアスに、言いつけるようにしゃべる。
アリー、その辺にしておけ、彼は思いっ切り迷惑そうだぞ。
「軍の派遣は、制約がある。隣国に他国の軍が来たとなれば、第三国からすれば穏やかではないからな。その点、我々は軍人ではない。スワレス領軍からの派遣の者もいるが、停職しているから問題はない」
バルサムが説明するが、アリーは納得していない……という体だ。彼女は、この辺りの事情を分かっていて、わざと訊いているのだ。
バルサムとの睨み合いは続く。
「我々は、何のために超獣と戦う?」
小声だったが、皆こちらを向いた。
「御館様……」
「何のためだ? アリシア班長」
「人間を救うため……」
「ミストリア人か?」
「うぅっ……」
「アガート人が倒れていたら、助けるよな?」
「……助ける……わかった」
「そういうことだ。小さいことを言わないように」
「はい」
嬉しそうに肯く。
「うぅぅん。では、他に?」
「よろしいですか?」
「ああ、ペレアス班長」
「はい。今回は国外ということで、補給が問題になるかと存じます。先程の出動団員数10人というのは、補給の限界から逆算された数字でしょうか?」
よく分かっているな。
調達補給班の人員は、確かに足りていない。なり手が乏しいのだ。危険と隣り合わせだからな。それでいて華やかな任務とは言い難い。
また、人員は冒険者ギルドから集めようとしているが、西支部があまり協力的でないのも効いている。
「それもあるが、今回は要請に応じていく格好だから、アガートに負担を掛ける。だから作戦に支障がでない範囲で最低限の員数を設定した。それでも異議があるかね?」
「分かりました、副長」
今回はともかく、本質的な解決ではないな。
「急造の騎士団だ、全てに人員が行き渡るわけではない。ただ運搬に関しては考えがある。それに関しては明日打ち合わせよう」
「明日……分かりました。ありがとうございます」
「他に質問は?」
バルサムが皆に問うたが、発言がなかった。
「では、出発予定を仮に3日後の午前10時とする。綸旨の内容で変更がある場合は、速やかに伝える。連絡が取れるようにしておいてくれ。では解散」
皆が立ち上がる。
「アリシア班長!」
呼びつけるとニヤッと笑って、こっちへ来た。会議室は、ローザを含めて3人になった。
「何でしょう?」
「狙いは分かるが、幹部は概ね承知している。やるなら、一般団員が大勢いるときにやった方が良いぞ」
「うわっ。バレてるし。流石ラル……御館様。じゃあ、今度からそうする!」
そう。
アリーは、皆が俺に遠慮して言いづらいことを、敢えて発言したのだ。手を振って、会議室を出て行った。
「アリーも少しは気が回るようになりましたね」
横に立つローザを見上げる。
「本当にアリーを側室にした方が良いのか?」
ゆっくりと肯いた。
「わかった。そうしよう」
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2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989 さん ありがとうございます)
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2022/02/14 子爵夫人→伯爵夫人、誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




