229話 求めよ さらば与えられん
サブタイトルですが。強い願望を持ったら、それを与えてくれるって意味じゃないんですよねぇ。
「おっ、おい! 聞いたか?」
「聞いた聞いた。空から、星が落ちてくるって、やつだろ?!」
「星?」
「箒星だ、箒星!」
「ああ、夜になると白い尾を牽いてる星だぁ」
「あれか?! なんだか不吉だとは思ってただ」
「嘘付け! だけど、星なんか、あんな小っちぇもん、落ちてきて来たって。どうってことねえだろ?」
「馬鹿かあ。あれはなあでっかいんだ。だけど遠く、トンデモねえくれえ遠くにあるから、小さく見えてるだけだ」
「遠いって、王都ぐれー遠いか?
「その何百、何万倍も遠いんじゃ」
「本当かよ、それが見えてるっことは、やっぱりでかいってことか!」
「そういうことじゃあ」
「おめえ、そりゃ司祭様の受け売りじゃじゃろ」
「ははっ、バレたか」
「しっかし、本当なのかぁ? おらの頭じゃ信じられねえ」
「お前、信じろって。司祭様が嘘をついたことがあったか? 俺は今から家に戻って、嬶と息子を連れて教会へ行く」
「きょ、教会へ行ってどうするんだ? それより、どっか逃げた方が良いんじゃないのか?」
「落ちたら、どこに居たって駄目だってよ。助からねえそうだ。だから王様もどこにも行かねえってよ」
「王様がかよ?!」
「んじゃあ、おらっちみたいな、庶民はどうしようもねえってことか?」
「祈りゃあいい。祈りが通じれば、アズダー様が助けて下さるってことだ」
「そっ、そうなのか。オラもこうしちゃ居られねえ」
†
「お父さん? お空がどうかしたの?」
「うむ……」
「ああ、綺麗なお星様」
「綺麗か?」
「うん! 白くて、びゅーんて長くて。なんか手が届きそう」
「そうだな。確かに昨夜よりだいぶ大きくなってるよな。よし! 夜が明けたら教会へ行くぞ」
「教会? でもお祈りの日はあさってだよ」
「ああ、それでもだ」
「ふぅぅん。お隣のジョルちゃんも行くかなあ?」
「ああ、みんな一緒だ」
†
「報告します!」
「うむ」
「ザリム村、ドーレク村への布告が終わりました」
「ご苦労! で、反応は?」
「はい。2村とも村長の指揮で、教会へ集めると確約が得られました」
「そうか。それで良い。貴官も小休止の後、教会へ行くのだ」
「はあ、警備でしょうか?」
「違う。祈るのだ! 全ての報告があり次第、儂も行く」
†
「陛下。お呼びでしょうか?」
「うむ。宰相よ。教会からの申し越しの件、如何なっているか?」
「はあ。王都の周りについては、ほとんど行き渡りましたが。遠隔の地には何分にも。早馬を飛ばしておりますが……」
「うむ。それで良い。あと3時間か」
「はっ! 天文方より、肯定の報告もありました故、もはや疑っておりませぬが。この度の教会の強気ぶり。臣としては、些か目に余るかと」
「強気な」
「はい。いくら時間が無いとは言え、我らを無理矢理使役するとは」
「気に入らぬか?」
「はあ……為政者の権威を何と心得るかと、問い質したくなります」
「それだけ必死だと言うことであろう」
「無論そうだとは思いますが」
「大司教に拠れば、ヴァフラムの宗主様直々の指示ということだからな」
「しかし、教団の狙いがよく分かりかねます。ここ数十年で教団の威信は低下しております。それを取り戻さんがための博打だと申しておる者もございますが」
「ふむ。的を射ておれば賞賛し、外せば咎めれば良いだけのこと」
「はい。確かに、何も起きなければ殉教すると,大司教の言質を取ってありますが」
「ふふふ。我らももうじき死するやも知れぬのに、宰相は肝が太いな」
「畏れ入ります」
† † †
「おっ、おい。さっきから、箒星がどんどん大きくなってきてねぇか?」
「ああ、夕暮れのときから倍にはなってるぜ!」
「本当だ! やっぱり落ちてくるんじゃ、ここへ! だっ、誰も助からねえ」
「静まりなされ」
「こっ、これは司祭様!」
「司祭様、司祭様! おらっち達はみんな死ぬんですかい?」
「嫌じゃ! 嫌じゃ! おらはおっちんじまうのは嫌だ! ど、どど、どうなんです、司祭様」
「あなたたちは、恥ずかしくないんですか?」
「なっ、なんじゃ? すっ、すみません。どういうことですか?」
「見なさい。あの幼子達を。泣きわめきたいのは、生まれて間もないあの子達でしょう。それが一心に祈っている。大人達ができないとは言わせませんよ」
「うっ、ううむ。分かりました。でもどう祈れば良いのでしょう?」
「それでよいのです」
「へっ?」
「神は求めよと仰いました。さらば与えられんと」
「はぁ」
「どう祈れば良いか考えることが、良い祈り方そのものなのです」
「はっ、はい」
「さあ、皆々。焚き火を囲んで、手を繋ぐのです」
「はい。司祭様」
「ほ、本当にあれが落ちてくるのか」
「ああ。宗主様がそう仰っている」
「ど、どこに落ちるので?」
「そこまでは分かりかねます。ただ宗主様は、こう仰ったそうです。皆々懸命に祈れば、必ずやアズダー様がお助けになると」
「そいつは……」
「祈るのです」
†
「ん? なあに、なんなの?」
「サーリァ。静かに。そして祈りなさい」
「だって、お父さん。声がしたんだもの」
「しーー。誰も喋ってないぞ。薪が爆ぜた音じゃないのか?」
「違うよ! お父さん、聞こえないの? ほら、また。光、光って」
「あっ、聞こえた! 私も聞こえたわ」
「ジョルちゃん。聞こえるよねえ?」
「うん!」
「本当か?」
「おおぅ、何か聞こえる気がする、どこからともなく……」
「頭の中で聞こえるの!」
「皆さん、静かに! 静かにして、神の御言葉を聞くのです!」
──光
光あれ──
「きゃあ! 空が!」
「ああぁぁ、皆、伏せろ!」
「ぁぁぁあ、光が。ひかりが」
突如夜空の星が消え失せるように闇が包みこむと、箒星がありありと浮かび上がった。
最後の声が聞こえるや。
虚空の一角から幾筋もの光芒が迸ると、如何なる力が作用したか、ねじれ、集束──
彗星にぶち当たった。
その刹那───
空が輝いた。
太陽が彗星に取って代わった如く。
「うぇぇぇえええええ…………」
静かな教会前の広場に、幼女の泣き声が響き渡った。
「おおい。大丈夫か?」
「どっ、どうなった? おらあ、まだ目が開けられねえ」
「昼みたいだったのに、夜に戻ってるぞ」
「ほっ、本当だ」
「ああ!」
「どうした?」
「帚星が……帚星がなくなっているぞ」
「本当だ! 司祭様!」
「神よ! 神よ、感謝します!」
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