226話 絶望的な
人生の絶望的な事象は置いておいて、本作品の執筆速度がかなり絶望的です。骨盤脇の大臀筋を痛めたため、座っているとなかなか集中力が削がれまして。横たわって書けないかなあ……
追伸
次話は、明後日水曜日ではなく、勝手ながら明日に投稿します。
災厄がヴァロス彗星の衝突だったとして……。
「でも、昨夜は彗星らしき星は見えませんでしたが?」
位置を確認しておかないとな。
うんと頷くと、バージルは両腕を前に出すと、身振り手振りで説明を始めた。
「他の惑星の公転面は、こう! それに対して彗星の方は相当な長円でこうだ!」
左手を水平に突き出し、右手を斜めに突き上げてくる。
「つまり、彗星は地平線の向こうに居て見えなかったと言うことですか?」
「おお、分かるか! 同士よ!」
結構厳つい目のおっさんがハグする勢いで近寄って来たので即行で避けた。そういう趣味はない。
バージルは少し残念そうだ。
手振りが正しいとすると、彗星の速度はこの星の公転速度より速い……相対的には秒速20から30kmってところか。仮に60時間後で衝突するとして、今のところまだ、ざっと4百万から7百万km彼方か。
この星に降りる前に、気が付かなかったのは、そういうことか。
「分かりました。すっきりしました」
「そうか。ただ、分かったところでなんともならん。できるなら、それは神だ」
「そうかも知れませんね」
表向き同意すると、バージルに礼を言って、彼の家をあとにした。
しばらく離れてから、アストラル体に戻る。
まずは彗星を見なければ始まらない。見える場所へ移動だ。
【勇躍!!】
恐ろしく魔束の通りが良い。
一瞬で3万km転位すると、宇宙空間に居た。
自転軸と方角から見てさっきまでは北半球だったから、ぐるっと回り込んで南半球側に転位した。
惑星を振り返ると、夜の面だ。表面は全体的に暗く、ぽつぽつと微かな光点が見える。町の灯らしい。
自分の位置を確認すると、自転軸の方向を眺める。
多分この星系の恒星の光を照り返し、そこそこ明るいはずだ。
探すこと数秒。
あれか? 少し尾を棚引かせた帚星を見付けた。ヴァロス彗星だ。
魔感応によると距離にして560万km弱。相対速度は秒速25km。
大きさは、くぅ……戦慄が走った。12kmもある。
6600万年前。地球という星を襲った小惑星の情報が脳裏を過ぎる。
メキシコ、ユカタン半島付近に落下した小天体は、推定直径10〜15km。そいつが恐竜の跋扈する白亜紀を終わらせた。
大気の断熱圧縮と、衝突により運動エネルギーが熱に変わり、半径1000kmが蒸発。そして数千度の衝撃波が音速を遙かに超えて、この地球表面を残さず舐め尽くした。
高さ数百mを超える大津波が、大陸深くまで届いた。
即死を免れても、その後に粉塵が高空を蔽い、いわゆる核の冬がきた。
振り返ってヴァロス彗星だ。
こいつが衝突すれば、この星にも似た現象が起こるだろう。
ほとんどの動物が死滅する。大絶滅が起こることは想像に難くない。
本当にぶつかるのか?
計算をする以前に、霊感がそれが真と告げてきた。
はぁぁぁ。億には満たないようだが、数千万人の生死を俺に賭けているのか……
責任を負わせるつもりか。
砕くなり軌道をずらすなり、いずれにしても無害化するなら早いほうが良いに決まっている。
【閃光!】【閃光!】【閃光!】【閃光!】【閃光!】【閃光!】【閃光!】…………
何十発かレーザーを撃った!
さて当たるか?
560万kmとは、光の速さでも往復37秒掛かるのだ。
1分待ってみたが何も起こらなかった。
全部はずれたか……だろうな。
この距離は、魔術をもってしても、なかなかに絶望的だ。
遠すぎてレーザーが届くか、どうかではない。当たるかどうかだ。
薄々そう思いながら撃ってはみたが、計算してみるか。
560万kmの彼方の直径12kmの物体を角度で言えば、アークコサイン……は要らないか。ここまで小さいと。大きさと距離の比として問題ない。
角度で言えば、ざっと1度の1万分の1か。立体角で言えば、その2乗。
全く当たる気がしない。
ならば、近付くのみ!
【勇躍………… なんだ??
魔術が発動する前に、強制的に弾かれた!
───もしもーし!
間の抜けた声で頭が揺らされる。
───ソーエル審査官?
───そうそう! いやあ すごいね もう災厄をみつけるとはね! 君はいつも想定を遙かに超えてくる
───転位魔術に何か問題でも? 邪魔しないで貰えますか!
───いやいや 邪魔じゃなくてね 君が持って居る無尽蔵の魔力の源泉はどこにあるんだい?
何?
───惑星だよ だけど ここは君がいた宇宙じゃない
むう。
───この宇宙では その足下の惑星にしか紐付いていないんだ 君の任地だからね
───だから その惑星から離れると距離の2乗で魔力供給が減少するんだよ
───さっき数百万kmも飛ぼうとしたでしょう 飛んだらその先で君は消滅だったよ!
ふむ。
───一応感謝しておきます
───良い心がけだね
本心は、先に言っておけよって思っているが、今さらだ。
ちょっと待てよ?
もし、ここから逃げ出したときは消滅してたってことかよ、全く。イライラしても詮無い。
───ということは 引き付けて 彗星を排除するしかないってことですか?
───さあね それは自分で考えてくれ
───わかりました
───でね お願いの方 ちゃんとやって貰いたいんだけど
† † †
また無理難題をふっかけられた。
やりたくはないが、毒を喰らわば皿までだ! やってみようと思っている。
とりあえず彗星を排除する方法を思い付くまで。リミットは、遠隔で魔術を彗星に当てる自信が生まれる範囲まで引き付けるのを待つ間だが。
かなり見返りを要求しておいたから、一方的に損はしていないと信じたい。
その一環で、再び地表に降りた。
北半球にあるヴァフラムと言う国だ。昨日居たフォルトス国から4000kmは離れている。国全体では比較的平坦な地勢で、気候は乾燥しており、上空から見た感じでは、低木が多かった。
この辺りは牧畜が主産業らしい。
降りた場所は、西から続く林が途切れ、斜面となる東に大きな川の河岸段丘だ。
川に面したところにアズモルトという町があった。そこが目的地だ。町は、さほど大きくはない。川港を中心に、差し渡し300m位が建物が密集しているが、いずれも日干し煉瓦を積み上げた低層だ。
聖地と聞いてきたが……正直期待外れだ。まあどうでもいいことだ。
さて。
ここがなぜアズダー教の聖地かというと、400年程前に宗祖ギフタンスがここで悟りを開いたそうだ。そうだというのは、昨日読み取ったブレグ大司祭の記憶だからだ。
確かに、この町の規模にしては人が多い。みすぼらしい旅装が多いところを見ると、巡礼者がほとんどなのだろう。
それはともかく。彼女の記憶では、ここに大きな教会があると言うことだったが。町にそれらしい建物は感知されない。大司祭の記憶違いか?
ん?
林の中に人の反応が。列ができてる……その先に建物が、点在してるが。これが教会なのか?
点々と並ぶ建物の反応を辿って行くと、確かに総延長で1km以上あるな。そう考えた途端にその上空に移動していた。なかなか便利な状況だ。
見下ろすと、小さな堂の裏庭に小さな子供が居た。
変な服を着ているなと思った時は、その上空に。俺を見上げ?
「何者じゃ?!」
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訂正履歴
2019/10/25 ラルフが任地の星から離れすぎると消滅する部分を加筆
2019/11/10 転移→転位
2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2022/01/30 若干加筆(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




