225話 ビンゴ!
ビンゴゲーム。まだちょっと時期が早いですね。12月、宴会とか忘年会とかですが。ここ数年まともに当たりません。昔はくじ運良かったのになあ……しみじみ。
ああ、ちなみにこの章でラルフ君が、喋る用語がミストリア文化の延長線でないのは、前世の記憶が戻っているからですので。
翌朝。
バーレクの町の西側。少し丘陵を下ったところにやって来た。
その理由は、この教会を訪れるためだ。
しかし、教会ってのは、どうしてどの世界でも高い建物を建てたたがるかね?
天に神が居るからそこに近付く為というのは定説だが、生物が棲めるような惑星は概ね球体だからな。そもそも自転しているし、上ってどっちだよってことだな。
あとは教団っていう組織も似通っているのも気になるが……待てよ。逆にそうなるように、天界の方から影響を及ぼしているかも知れないな。
この仮説が正しければ、黒いなあ。
おっと、そんな妄想で時間を潰していると、中から大勢の声が聞こえてきた。門の中から、ぞろぞろと多くの人が出てくる。
終わったようだな。受肉して外見を整えると、人々とすれ違いに中に入った。
礼拝堂に入ると、ちょうど若い神職が掃除をしていた。
「おはようございます」
「おはようございます。えーと。先程、朝の合同礼拝は終わりましたが」
その時刻を見計らって時間を潰していたのだ。
「いえ、礼拝に参加する為に参ったわけでないのです」
「そうなのですか。よく見れば、お見かけしたことがありませんね。西バーレク教会へ、どのような御用でしょう?」
「ワント司祭にお目に掛かりたいので、取り次ぎをお願いしたい」
「……はあ、司祭様は奥にいらっしゃいますが、あなたは?」
「ああ、ラルフと申します。ブレグ大司祭様のご紹介で参ったと、お伝え願いたい」
そう。昨夜の悪魔祓いの記憶の中に引っ掛かることがあったのだ。
「ああ、東教会の。分かりました。少々お待ち下さい」
そそくさと礼拝堂を後にしていった。
5分後、壮年の神職が入って来た。
「ブレグ殿紹介のラルフさんとは、あなたですか?」
「はい。お時間を戴きありがとうございます」
「そうですか。どの様なご用件でしょうか?」
「何でも、こちらの辺りに近々良くないことがあると言っている者が居るとか。それを司祭様から聞いたと、ブレグ大司祭から伺いました」
司祭の右眉がひくつき、一瞬顔全体が強張った。しかし、少し俯いた後、こちらに向けたのは笑顔だった。
「はて? 何のことやら。とんと心当たりがありませんが」
「おお。そうでしたか」
嘘を吐くのが下手くそだな。きっと良い人なのだろう。
「ええ。多分ブレグ殿がどなたかと勘違いされているのではないかと思いますが……」
「そうですか。これは失礼致しました。お手間を取らせまして申し訳ありません」
「いやなに……では」
持ち上がっていた司祭の肩が、ほっとしたよう下がる。礼拝堂を退出しようと背を向けた司祭に向けて。
【催眠!】
さて、ここまで絞られた事項だ。記憶を読み取るより本人に喋らせた方が早い。
こちらを向かせると、目が焦点を喪って居る司祭の眼前に、掌を擬して魔界強度を強化する。
「何を隠している? 包み隠さず言え!」
「はぁ。その男は、恐れ多いことに太陽が大地の周りを回るのではなく、大地の方が太陽の周りを回っていると申しまして」
天動説と地動説かよ!
それで隠す理由は、教会の方針に逆らっているから、追及される可能性があるからか。
「そのようなことはどうでも良い。地動説を唱えている者が、近々災いが起こると言ったのだな?」
「はい」
「その男の名前と住まいは?」
「はい。名前はバージル。住まいは、この丘陵を降りてガーセル森林の際にあります。当教会の前の脇街道を西に行って、5ラーセル程です」
3.5km程か。
「よく分かった。扉の方を向け。では、催眠を解除したら、喋ったことは忘れろ。怪しい者が来たが、うまうまと追い返したのだ」
「はい」
【解除:催眠!】
司祭は、こちらを振り返ることなく、退出していった。
飛行魔術を使い、司祭が教えてくれた男の住まいに向かう。あっという間に着いた。
あと100mも行くと、鬱蒼とした森に差し掛かるという位置にある一軒家だ。隣家が見えないからここで間違っていないだろう。
それにしても変な家だな。屋根が平らだ。
「御免下さい! こんにちは!」
反応がない。魔感応によると中に居るはずだ。
「こんにちはぁああ!!」
さっきの数割増しの大声で、呼んでみると中で何かが動いた。
しばらく待っていると、中から壮年男性が出て来た。
「こんにちは。バージルさんですか?」
半眼で瞼が垂れている。相当眠そうだ。着衣にも無頓着なような感じだ。
「ああ、そうだが。あんたは?」
「ラルフと申します。商人です」
ぎゅっと眼を瞑ると、薄く開いた。
「ああ……そうか。さっき寝入ったばかりでな。ふあぁぁぁ。商人が何の用かな」
「それは申し訳ない。私、穀物を扱っているのですが。麦の作柄に周期性があると考えていまして」
「ふんふん」
相槌は打つが、ほとんど興味なさそうだ。
「その周期と太陽の黒点の活動の周期と一致していると思っているのですが、ご意見を伺おうと……」
バージルは、カッと眼を見開いた。
「何だと!?」
両手で、バシバシと自分の頬をひっぱたいた。
おっ?
「あぁぁ……目が醒めた。ラルフとか言ったな。面白いことを言うじゃないか。まっ、まあ、ここでは何だ。中に入ってくれ」
余り綺麗でない部屋に通される。
木の椅子を勧められたので、仕方なく座る。
「あのう。随分眠たそうですが、徹夜したとか?」
「ああ、夜中観測していたんだ」
「観測?」
「ああ、星を見ていたんだよ。いやあ、そんなことはどうでも良い。しかし、太陽黒点のことを知っているなんてな。商人だって聞いて、2度驚いたぞ! すごいもんだ」
「ええ、こちらも商売ですから。相場の予測は生命線です」
「確かになあ。気候変動と太陽黒点の12年周期に関係があると言われているが、あんたはどうやって観測してるんだ? 眩しいだろう」
「ガラスを油で燻して、煤を付けてそれを見ています」
「そうかそうか。すごいな。まあ、眼は気を付けてくれ」
「はっ、はい」
何か話が横道に逸れた
「まったく教会のやつらに聞かせてやりたいぜ。あいつら、未だに大地が動かずに天が動いてるって信じてるんだぞ。だけど最近は観測結果が合わないからな。薄々気が付いたのか、大地の周りを太陽が回り、さらに他の惑星達が太陽の回りを回るなんて、すっとぼけたことを言っているがな。教会が幅を利かす前の古代では、そもそも地動説だったんだぜ」
ああ、マニア特有の反応だ。
ちょっとでも理解を示されると調子に乗って長広舌になる、星やジャンルが違ってもそうなんだなあ。
それはともかく。マニアの情報は貴重だ。一般人には及びも付かない視点があるからな。
「ええ、地動説の方が、すっきりした体系で、俺も好きです。自然界の法則ってのは須く、そう言うものです」
「おお、そうか! 良いこと言うなあ、あんた! どうだ一緒に酒でも……ああいや。酒は切れてるんだった」
「良いですよ。それはまたの機会に。ああ、ところで……」
「おお、なんでも訊いてくれ」
満面の笑みだ。
「ええ。なんでも近々良くないことが起こると仰っていたと聞きましたが」
「ああ。教会に言ってやったんだ。76年周期で回るヴァロス大彗星でのことをな。あれが巡ってきた時には、毎回奇っ怪なことが起こるんだ!」
はっ?
もしかして、この男が言う災いとは彗星が来るってことなのか。思いっ切り迷信じゃないか。
「まあ、そんな顔するな。彗星が不吉ってのは迷信だ。そんなことは、学者はみんな知ってる」
ほう。じゃあ、なぜだ?。
「うむ、だが。知っての通りヴァロス彗星は、我らが大地、母星の軌道面を横切るのだが」
「へえ……」
「なんだ知らないのか」
知らないって。
「それは置くとして、もっと重要なのは横切る度、摂動と言ってだな、彗星の軌道が毎回僅かだがずれているのだ」
「なんと。もしかして……」
「今回は、かなり近い。彗星と衝突する可能性がある」
「本当ですか。でもその確率は、低いんでしょう?」
100万回に1回とか。
「いや。俺の計算によれば数割の確率だ」
数割?
計算が正しいとしたら、天文分野ではかなり高い確率だ。
「それで、それはどれぐらい先の話なんですか?」
「ああ、おそらくは3日以内だ」
おお、ビンゴだ!
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訂正履歴
2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2025/04/27 誤字訂正 (イテリキエンビリキさん ありがとうございます)




