224話 眠れる美女は悪魔憑き?!
眠れる森の美女って、シンデレラと区別が……。7人の小人が出て来るのが後者ですよね。
さて。
図らずも妙齢な女性の寝室へ、深夜に忍び込んでしまったが。
「うっ、うぅん」
身動いで、夜具が捲れ上がる。
うん。油の灯火は最小限だが、今の状態だと見え過ぎるぐらい見える。
細身の種族の割になかなかのボディーライン……いかんいかん。これじゃあ、ただの覗き魔だ。ローザに合わす顔がないな。
ああ……。誰だと思ったが、伯爵の娘か。
父とは似ても似つかぬ端正な顔立ちだ。
伯爵の個人情報はほとんど飛ばして読んだので、顔を見るまで気が付かなかった。
ん?
よく見ると両足に鍵の付いた革の足環が填まっていて、その先に鎖が繋がっている。軟禁されているのか。
顔が眼を開くとこっちを向く。
俺を感知したのか?
「んがっ!」
突如ベッドの上に起き上がった。
ハァァアアア……ィャザァ、ガアァァァァァァ!。
獣のような息遣い。そして、寝顔とは打って変わって鬼気迫る相貌。
だが、吠えているのは全く見当違いの方向、扉に向いてだ。
なんだ。俺が見えているわけではないのか。
バン! 音と共に扉が開き、何者かが入って来た。
僧服だ。ランプを持って、灯りを娘に向けている。
「レオノーラ殿! 静まられよ!」
すると、娘は灯りを厭うように身動ぐ。
「黙れ! 女司祭め!」
確かに僧服の人物は、年配の尼僧だ。
「我が恐いのか? 大司祭に相応しい力があるというなら、我と戦え!」
「何度も申し上げて居りますが、憑いておるモノが落ちなければ、外すわけには参りません」
「ならば下がれ! 教会の者よ!! 我は地獄の大元帥ヴァーズズ様の右腕ゾラシ-ム・オノアレスなるぞ!!」
「ぐうぅぅ。私にもっと力があれば……」
尼僧は悪魔祓いか。娘が所謂悪魔憑きで外聞も悪く、軟禁されている訳か。
不憫だな。
さっき、邪悪な波動を感じたが。この娘だよな?
【光壁!】
「うぎゃぁぁあああ!」
「なっ! 何?」
燦然たる輝きで、畏怖させる。
【光託身!】
【擬人装 改!】
姿を顕現させる。
「貴様……何者だ?!」
「こっ、これは……はっ、ははぁぁぁぁぁ」
狼狽えて平伏した尼僧を尻目に、レオノーラは立ち向かうように腕を構える。
「レッ、レオノーラ殿! 頭が高い。畏れ多くも、神にございますぞ」
「神だと?」
───如何にも
「はっはぁぁぁ!」
尼僧は畏まったが、訊いた本人は涼しい顔だ。
「我が名はゾラシ-ム・オレアノス! フシャァァア………」
ああ、はいはい。
傲然と胸を張って強がっているが、鎖で繋がれていては様にはならぬ。
───黙れ!
【口噤!】
「ぅんんん……むぅぅぅ」
レオノーラが苦悶の表情で喉を押さえる。
───そこな 尼僧よ! 面を上げよ!
「はっ、はい!」
───我を 疑わぬのか?
「めっ、滅相もございません。神々しくも聖なる光を纏われた御姿。努々見間違うことなどありません。紛うことなく我らが神にあらせられます」
いや、見間違っているぞ。
───神妙なり! 敬虔なる者よ 望みを申せ!
「お側に侍りし光栄の至り。この上、望みなどございませ……」
ん?
「……いえ。ございました。この娘レアノーラ・ゾシムスのことにございますが。このようになる前は、貴方の敬虔なる僕にございました」
へえ。
「これも試練と存じておりますが。神よ! なにとぞ、彼女を哀れと思し召し、何卒憑きしものを祓い給え! はぁ、はぁ……」
大丈夫か?
この尼僧、えらく躁状態で、血圧と心拍数が上がってるが。
何かこの状況が、俺の所為になってるし。
まあ、ここの神は全知全能だから、そう言うことになるのか。
光神教は、多神教だから何事も神の所業とは考えないが。
そもそも神とはそういうものじゃない。
彼らは、この世界の物理法則の守護者だ。人間や生物といった、マクロな対象に意図を持って接するような暇はない。
そういう仕事は、無数の天使が担っているのだ。
とはいえアズダーの役を果たさないとな。
取り憑かれているという意味では、俺は経験者だ。
───それが汝の望みか?
「はい!」
───ならば 請け合おう!
「あっ、有り難きしあ・わ・せ……うぅぅむ」
平伏から突っ伏して失神した。とりあえず、放置で可のようだ。
「ふん。狂信者が! 神など何ほどのことや有らん、祓えるものなら祓ってみよ!! カァカカカァァ!」
───悪魔祓いは失神した それくらいにしておけ!
「何だと?」
───汝 真の悪魔憑きに非ず 狂言は止めよ!
「訳の分からぬことを、我が名はゾラシ-ム……」
───それはレアノーラ・ゾシムスの並べ替えであろう!
「うぅぅむ」
───首の装身具で邪な力場を醸しても 我が眼は欺けぬ!
あれは魔導具だ。
大体扉の方に向かって吠えている段階で不自然だ。まあ悪魔憑きが自然という論理も変だが。
レオノーラは力なく肩を落とすと、そのままベッドの上に跪いた。
「非礼の段、何とぞ、ご容赦下さいませ。てっきり何かの詐術かと……」
ある意味、真を突いているがな。
───なぜ このような仕儀となった?
「父伯爵に政略結婚を強いられそうになりまして」
ありがちな話だな。
───汝も貴族の子女ならば 覚悟もあろう
「お恐れながら。私が侯爵家へ嫁げば、父の立場が強化されてしまいます。私は父の所業を許せません」
確かに、あれだけの悪行の上に、私腹まで肥やしているからな。
───して 如何するのか?
「私が時間稼ぎをしている間に、仲間が父に近づき悪行の動かぬ証拠を集めています」
ん?
───紅毛の若い女か?
「なぜ、それを? ああ。失礼致しました。神でございました」
いや、神だからじゃなくて、さっき伯爵の寝室で見たからだが。
身を賭して、やっているのか。
───ならば 良いものをやろう 手を出せ!
「手を?」
レオノーラは怖ず怖ずと差し出してくる。その手を取った。
うーむ。情報を読み取ってみたが、やはり、災厄に関する情報は持っていなかった。
代わりに、さっき読み取ったばかりの、伯爵の記憶をレオノーラに流し込む。
「ああっ、これは……」
1分程掛かったが、手を離す。
渡したのは俺が読み取った分の万分の1にもならない情報量だ。
───どうだ 役に立ちそうか?
「立ちます。立たせて見せます」
まあ裏帳簿やら、隠匿した財物の隠し場所の情報も入っていたから、がんばれば何となるだろう。
───では励め!
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
さて、俺はそれどころじゃない。災厄をなんとかしないとな。
ああ、そうだ。その前に。
手を尼僧に翳すと、そのまま魔界強度を印加し、持ち上げて立たせる。
掌が彼女の額に触れた
んん、これは? 尼僧の記憶に引っ掛かる物があった。
「はっ!? ああ、私はどうなっていたの?」
尼僧が覚醒した。
「司祭様」
寄ってきた。
「レオノーラ殿? 正気に戻ったのですか」
「はい。お世話を掛けました」
───約定通り 祓っておいた
「ああ。神よ! 感謝致します!」
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
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訂正履歴及び謝辞
2021/08/28 宇宙の物理法則→この世界の物理法則(ID:800577さん ありがとうございます)
「彼らは、この宇宙の物理法則の守護者だ。人間や生物といった、マクロな対象に意図を持って接するような暇はない。」に”マクロ”ではなく”ミクロ”では?とのご指摘を戴きました。
これにつきましては、宇宙の物理法則は、いずれも量子を対象としており、その結果が重ね合わさって、人間やさらに天体、宇宙の大規模構造に及んでいるとの認識で書きました。ただ「宇宙の」で始まってしまうと、確かに天体運動レベルのイメージが先に来そうなので、頭書のように訂正しました。ご了承願います。
2021/09/11 誤字訂正
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




