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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
11章 青年期VIII 新世界編
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223話 あてどない捜査

探し物をすることがままありますが。最悪なのが何を探しているか、よく分からない状態で探すことですね。別の人に探しておいてとか頼まれたときとかね。横で見てる人に、何探してるの?と訊かれても恥ずかしんですよね、あれ。

 姿が現れ、声が出せるようになった。

 あと、副作用かも知れないが、視覚が復活した気がする。意識していなかったが、今までは魔感応で見えていたようだ。


 何となく色鮮やかになった気がするが、気の所為かも知れない。

 

 魔収納を確認すると硬貨が入っていた。この国の通貨らしい。どうしてこの国に来ることが審査官に分かったのか謎だ。

 それは置くとして。中身は金貨もそこそこあるので、そんなに不自由はないと思う。


 諸々の事象に気を良くして、通りに戻って来た。


 さて……やっぱり、こういう時は。年配女性だな。経験上親切に対応してくれる。

 大きな籠に、沢山の果実が積まれている露店前で立ち止まる。


「あのう。すみません」

 

 声を掛けると、籠の間に胡座を掻いて座って居たおばちゃんがこっちを向いた。

 見た目、60歳ぐらいだろう。アルフェン族は長命での平均寿命は100歳程らしい。 目が合うと、瞼が大きく開き、表情が柔らかくなった。


「いっ、いらっしゃい!」

「これを、貰えますか?」

 赤い林檎のようなものを指差す。


「あっ、ああ。ひとつ2ダルクだよ。ああそっちのより、こっちの方が旨いよ」

 より艶やかな実を指差す。

 何だかあたふたしている。目を開けたまま寝ていたのか?


「ええと、2ダルクと言うと小銅貨2枚ですよね」

 魔収納から取り出す


「ああ、そうだよ。そういや、あんた、見掛けない顔だねえ、流れ者かい?」

 果実を受け取って、懐から出したと見せかけて金を支払う。


「ええ。旅の者で船に乗って来て。さっきフォルトスに着いたばかりなんです」

 ふーんと唸りながら、上から下まで値踏みするように見る。


「おお。じゃあ、スメタナから来たのかい。バーレクの町は初めてかい」

「はい。そうなんです」

 適当に話を合わせる。


「それで、右も左も分からないんですが。ちょっと訊いてもいいですか?」


「あっ、ああ。訊きたいことって、なんだい?」

「はい。実は宿をどうしたものかと」


 まあ、別に話題は何でも良いのだが。5日間と審査官は言っていたからな。拠点は考えた方が良い。まあ、この場所に居て良いかどうかは、考えなければならないが。


「ほう。宿かい。高いやつから格安なやつまであるがね……金はどのくらい持ってるんだい?」

「いや、そんなに。安い方がありがたいですが」


「そうかい。顔つきと言い、言葉遣いが丁寧なところと言い。良い所の子かと思ったが。まあ、格安な宿は、やめておきな。蚤と虱と一緒に寝起きすることになるからね」


「なるほど」

「3倍くらいの宿賃になるが、1泊1ザーレン50ダルク出せるなら、その通りの一本北を右に入ったところにサーラズって宿屋がお奨めだ。料理も旨いそうだしな」

 1ザーレンは、小銀貨、100ダルクだ。ざっとミストリア通貨の10倍見当というところか。


「ありがとうございます」

 情報の代わりに1ダルク硬貨を出して渡そうとすると。

 俺の手を押し留めて首を振った。


「ああ。そんなのいいって。私も久しぶりに男前と話せて嬉しかったからね。金は大事にしな」


 げっ。

 お世辞だと思ったら、本当に俺のこと男前だとか思ってる……なんだかな。

 それにしても驚いた。

 このおばさんに接触したら、思考が流れ込んできた。光託身の副作用なのか。


「はい。じゃあ。ヨランドさん。また」


 手を振って露店をあとにする。

 数秒後に何で私の名前を? とか言っているが無視だ。


 ふむ。接触すると、対象から情報が得られるのか……それにしても審査官が言っていた、災厄に該当しそうな情報はなかった。あの人が知らないだけか? 

 まあいい。何人か試してみるか。 


 数十mも歩いた時、前方怒号と悲鳴が聞こえてきた。


「下がれー、下民共下がれーー!!」


 ごった返す通りを騎馬が並足で割っていくと、逃げ惑う人々を尻目に4頭立ての豪華な馬車が擦り抜けていく。


 無茶しやがる。

 しかし、慌てているのは直接危ない目に遭っている人達だけで、その場に居る民衆は溜息を吐くばかりだ。


「まぁた、領主の馬車か、ちっ!」

「おい! 聞こえるぞ!」


 雑踏の中で、吐き捨てるような声と擦れ違う。

 どうやら、よくあることらしい。なかなか我慢強い領民のようだな。

 ヨランドさんの記憶によると領主は、ゾシムスという名の伯爵だ。

 その記憶もネガティブな感情に塗れていた。余り良い領主ではないようだな。


 む!

 歩いていた俺の疑似実体が、ぶつかってきた男を軽く弾き飛ばす。

 

 怪しい腕の動き、掏摸(すり)だ!

 そのまま腕を掴んで捻り上げる。


 男の悲鳴を無視して、流れ込んでくる情報をザッピングする。


 この男も災厄については知らないのか。

 その他、流れ込んで来る情報を掻い摘まんでみたが、(ろく)でもない記憶ばかりだ。


「痛ててて……離せ! 離しやがれ!」

 もう用済みだ、言う通り離してやる。情報はもらったからな。


 がまあ、俺に対しては未遂だが常習犯だ。罰は必要だな。

催眠(エスタ)!】


 掏摸の男は、飛んで離れたが、突如足をガクガクさせて倒れた。

「ヒィイ! ゥゥウウウアアアアアァァァ!」


 再び弾かれるように立ち上がると、奇声を発し続けながら、転がるように通りを縦断していった。パルヴァンの時より反応が大きい、ちとやり過ぎたか。

 まあ少しは更生すると良いが。


     †


 通りでの騒ぎのあと、俺は露天商のヨランドさんが奨めてくれた宿を取った。長期戦になる気がしたからだ。


 その後も外に出ると、何人かと接触して思考や記憶を読んでみたが、ソーエル審査官が言っていた災厄について手掛かりはなかった。


 正確に言えば、麦の不作の兆しとか、怪しい事象もなくは無かったが。5日間では起こりえないことばかりだった。仕方なく、深夜になるのを待つ。


 泡が入り少し濁ったガラス窓から見える灯火が減ってきたのを見計らい、疑似肉体を解除する。

 少し軽くなった気がしたが、気の所為だろう。

 外に出て、ふわふわと浮きながら北へ向かう。対して速くはないが目的地は眼と鼻の先だ。

 

 暗くなった町の中で、煌々と明るい場所がある。領主の館、いや城か。


 壁の上には幅3m程の武者走りがあり、所々に松明が焚かれている。明るかったのはこれだ。

 それにしても、この物々しさは何だろう。何か具体的な敵が有るのか?


 石造りの壁を下に見ながら内部に入り込む。歩哨が何人も居るが俺に気が付くことはない。見えないし、温度もないしな。


 最近夜中に忍び込んでばっかりだ。魔術師(ウィザード)ではなく斥候(シーフ)みたいだな。


 あそこ。

 中庭に面した廊下に人が2人立っている。警備兵か。


 意識するとすっと降下し、屋根を通り抜けて部屋に入った。


 ふむ。

 いくつも油のランプが、部屋を照らしていた。

 ベッドに男女があられもない格好で眠っている。


 夜具の乱れからいって……それは、この際どうでも良い。


 このだらしなく太った壮年の男が、ゾシムス伯爵で間違いない。

 醜いな。


光託身(リーンカナティオ)!】


 疑似肉体を像を結ぶ。

 むっ!


催眠(エスタ)!】


 むくっと上体を起こした若い紅毛の女は、引き攣った顔を向け、ベッド脇の綱に腕を伸ばした。が、手は届かず、溶けるように表情を弛緩させると、再び眠りについた。


 勘が良いな。妾兼ボディーガードか。


 なるほど。この紐を引くと廊下の警備兵に伝わる仕組みか。届かなくて無念だったろう。大丈夫だ。危害を加える気がない。今のところはな。


 んん……と唸ったが伯爵の方は、起きる気配はない。


 汗や脂で肌がぬめっているが、疑似腕を伸ばし、首筋に触る。

 情報が流れ込んで来た。


 うわっ。黒っ。

 伯爵自身や配下にやらしてきた、悪事の数々が情報として流れ込んでくる。


 庶民というものは、それほど情報を持って居るとは考えにくい。

 権力者とは、情報が集まってくるものだ。

 その可能性を期待してやって来たのだが。


 嫌になる程、黒い情報はあった。

 殺人教唆、収賄、税の着服ねえ。


 しかし、災厄に関する情報はなかった。まったくの空振りだ。

 どうでも良い個人情報などを、バンバン飛ばして探してみたが見つからなかった。


 はぁぁぁ。

 うんざりして手を離す。手の感触の何万倍かの嫌悪感を憶える。


 伯爵に罰を与えたくなったが、先の掏摸と違って俺に危害を加えたわけでも、加えようとしたわけでもない。罰を与える資格が、俺にはない。


 早く星に戻って、記憶を消したいものだ。

 光託身を解除し、肌のざわつきにも慣れた壁抜けをして屋外に出る。


 仕方ない戻るか。違う土地に行った方が良いかも知れないな。

 そう諦め掛けたとき、微かだが邪悪な波動を感じた。


 距離は近い。それでこの強度は大したことはない、魔獣か何かだ。

 無視するかなと思いつつ、波動の源の方を見てみると、石造りの塔が建っていた。


 何の施設だろう? 物見櫓か?


 波動より建物に興味を持ったとき、俺は何の反動もなく落ちるように加速。塔の壁に突き刺さり突き抜けた。


 部屋だ。

 灯りは点いていなかったが、窓から星明かりが射している。


 ほう……。

 ベッドに眠っているのは、うら若い女だった。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2019/10/09 妾の若い女の髪の記述追加等加筆、誤字訂正

2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)

2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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