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21話 僕の方が規格外なの?

規格外! と言うことはありませんでしたが、我が家の常識は世間の非常識ってことは……無かったとは言えません(汗)

 3時限目。

 白い生地の薄い運動着──だぼっとした長袖の上着、長ズボンに着替える。


 ふふふ、1人で着替えられた。

 6歳だからな。当たり前だ。大体、ローザ姉が過保護なんだって。


『はい、お召し替えしましょうね!』

 とか、いつも嬉しそうなんだよな。まあ、僕が汚れた服とか、気にしないからなんだろうけど。

 でも色んなことを、自分でやれるようにしなさい、と言う割に、着替えについては言われたことないし。


 ん?

 僕と同じ運動着を着てるのは、3人?

 もう出て行った子も居るから全員じゃないけど。他の男子は、野良着というか、多少布地が薄い感じだけど、さっきまで着てた服と変わらないな。

 ふむ……。 


 校庭に出ると、ちょっと肌寒い。もう7月だからな。

 体育の授業って、何をやるんだろう。

 体育は、2組と一緒にやるので40人以上生徒がいる。女子を合わせても、白い運動着は4、5人で、しかも1人はアリーだ。この運動着はそんなに高価なんだろうか? あと靴もだ。紐で編み上げるサンダルを含めても靴を履いてるのは、やっぱり10人も居ない。


 こう見るとやっぱり僕は背は高い。2つの組で20人以上居る男子で、どうやら僕は2番目だ。僕より高い子は横にもデカいけど。


「集合!」

 わらわらと集まる。

 2組トリエステ先生だ。若い助祭様でもある。

 横に、ヘルベチカ先生も居るけど、体育の授業は、この先生が進めるようだ。


「さて。この学校は、我が光神協会と伯爵様、伯爵領政府の共同運営である。どちらも大金を掛けて、維持している」


 唐突な話だけど……確かに、この土地、校舎、先生、皆に配布する教科書など学用品。

 かなりの出費だろう。


「そこまでするのは、なぜか?」

 級友はみんな、はあと言う顔している。


「良き人材の育成だ。政府は富国強兵、教会は自立できる人の育成、目的は少し違うが、求める結果は同じだ。そう言ったわけで、皆の身体的能力を把握することが急務だ」

 何だか軍人さんみたいな、しゃべり方だ。


「したがって、手始めに50ヤーデン(45m)走を実施する。校庭の地面に線が書いてあるから。この枠の外からはみ出さないように走ること! 良いね! それから、これは正確に時間を計る魔道具だ。なんと精度0.1秒単位で測れるのだ、どうだ凄いだろう」


「凄い!」


 あっ、あれ? そう応えたのも、感動してるのも僕だけ……みたいだ。

 みんなしらっとしている。なぜ?


 微妙に戸惑った感じで先生は続ける。

「うむ、まあ良い。大雑把な能力は入学前検査で大体分かっているが、頑強さと分別する必要があるからな」


 そうか。この生真面目な先生が言ってる意味が、みんな分からないのだ。


「さて、いきなり走ると怪我をするし、速くも走れない。準備運動が必要だ。みんな、これから先生のやる通り、体操しなさい」

「「「はい!」」」


 みんな、さっきと違って返事が良いな。


「まずは、膝を曲げてしゃがみ、それを伸ばす! これを屈伸運動と呼ぶ。皆もやりなさい」


 ああ、朝の稽古でローザ姉にやらされる、準備運動そのままだ。

 5分程先生の動作の通り……僕にとってはいつも通りやっていたら、身体が温かくなってきた。


「では、これから、2人ずつ走って貰う。これで走破時間を計るからな。懸命に走ること。まずは先生が見本を見せる」


 そう言うと、横線の前に、先生が小走りで行って、前屈みに構えた。

 ヘルベチカ先生が、前に出る。

「それで、私がこの旗を振ったら走るのですよ。ではやって貰いますね。位置について用意!」

 ブンと旗が振り降ろされると、トリエステ先生が駆け出した。


 おお、なかなか速い。

 そのまま見てると、あるとこで止まって、こちらに手を振った。

 ああ、あの線のとこまで走るんだな。


「では、みんなにもやって貰います。では第1組。タルクス、ラルフェウス」


 いきなり僕の番だ。


「ちょっと待って下さい」

「どうしたんです? ラルフ君……靴を脱ぐんですか?」

「ええ、脱いだ方が走りやすそうで」


 もちろん嘘だ。

 一緒に走るタルクス君も履いてないしね。


「位置について、よーーい」

 ブン! 旗が振られた。

 足を踏ん張って駆け出す──


 瞬く間に全速力──

 身体強化魔術は使ってないから、速さは大したことない。

 頬を撫でていく風は緩やかだ。ちょっと足の裏も痛いけど、感触は悪くない。


 どんどん先生に近付いて行く。

 背後から、どよめきが起こった。

 転んだな。タルクス君の気配が追ってこないし。でも勝ち負けじゃないから、懸命に走らないとな。


 先生の間近まで来た。なんか口を大きく開けてる──その横を、走りきった。

 足が痛いので急には止まらず、5ヤーデンばかり行き過ぎて、振り返る。


 タルクス君は、かわいそうに、まだ終わりの線の向こう数ヤーデンにいる……やっと走り切った。

 すぐ止まって、身体を折った。

 あれだけしか走ってないのに、随分はあはあと荒い息を吐いてる。転んでどこか痛むのかな?


「ラルフェウス……4……4秒6。タルクス7秒1」


 タルクス君に近寄る。

「どっか痛いところは?」

「へっ? いっ、いや。それより、ラルフェ……」

「ラルフでいいよ」

「あっ、ああ。ラルフ君、凄く速いんだね」

「そう、かな?」


「そうだよ。走り出したときには、もう3ヤーデンぐらい先に居て。僕もそこそこ速いと思ってたけど、驚いたぁ」


「でも、君も転んだにしては……」

「えっ? 僕、転んでないけど」


 確かに服は、薄汚れては居るけど、土は付いていない。この校庭で、転んだらかなり目立つ汚れになるだろうから、本当に転んでないのか……ということは遅い。

 タルクス君は、自分がそこそこ速いとか、どうして思ったんだろう。


「では、次の組!」


 第2組が走り始めた。

 うわぁ、見るからに遅い!

 真剣に走ってない……ことはないみたいだ。顔が懸命だ。


「マルク7秒9、トゥメル8秒4」


 第3組は、8秒0と8秒2だった。

 第4組も、8秒台だ。

 あれ? もしかして。みんなが遅いんじゃなくて、僕が速いの?


 走り終えた生徒が増えてきた。そしてその子達に取り囲まれた。


「速い、速いよ! ラルフ君」

「うん、びっくりした」

「おどろいたよ。とんでもなく速いからさあ」

「そっ、そうかなあ」


 男子は全員が走り終り、女子の組になった。


 左の子は、白い運動着って、なんだアリーじゃないか。

 おおぅ、速い! さっきの男子より速い……あっ、あれ? なんか、遅くなってないか?

 走り切った


「アリー8秒0。セルカ9秒2」


 アリーのやつ……手を抜いたな。悪い癖だ。


 50ヤーデン走が終わった。

 男子は、7秒台が4人。残りは8秒台、9秒台だ。僕以外で一番速かったのは、なんと一緒に走ったタルクス君だった。


 その後、ボール投げと、幅跳びをやらされ、その度に同級生との差を思い知らされるのだった。


皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2019/10/18 誤字訂正(ID: 855573様ありがとうございます。)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「校庭に出ると、ちょっと肌寒い。もう7月だからな。」 もう七月なのに、まだ肌寒いでは?
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