220話 黒幕降臨!
光臨と降臨。なんとなく、天孫降臨とか言う言葉もあるので,後者の方が格調高そうだけどと、調べる。神様系はやっぱり後者。だけどまあ目上の人でも可か……。何か微妙だなぁ。
「はぁぁ。ビビった。ラルちゃん、ありがとうね」
「ああ。蛇の魔獣は気を付けた方が良いぞ。せ……」
「せ?」
赤外線で感知とか、小難しい話をすると嫌がるから止めた。
「なんでもない。やつらは、眼で見えてなくても感じるらしいぞ」
「うん。分かった」
ニコッと笑って、バジリスクが居た方へ歩いて行く。
「うぅわっ、蜂の巣みたくになってる」
アリーは、俺の流れ弾を喰らった脇の柱を撫でている。無視だ。
「ワフッ!」
下り階段の前で、セレナが吠えた。
「わかったわよ、今行くって」
促されて、降りていった。
「行こうか」
「はい。あなた」
ローザの手を取って繋いだ。
結構な段数を降りると、アリー達が見上げていた。
「見て見て、セレナ。あの2人、手ぇ繋いでるよ。嫌らしい」
俺達は夫婦だ。
おっ!
見せつけるように、ローザが俺の腕を取りぎゅっと自分の胸に押し付ける。
「ちぇっ! いいなあ」
階段を降り切り合流する。
「ああ、こちらにも転層陣がありますね」
床に丸い紋章が刻まれ、中心に腰高の石柱が植わっている。
迷宮の別層の変わり際に良くあるやつだ。
ローザがしゃがみ込んで見ている。そこに転層石を翳すと、鈍く光って登録が完了した。
「旦那様。何時ですか? もうすぐお昼になるかと思いますが」
「えぇー。まだ11時頃だよね」
「そうだな。アリーの言う通りだ」
「そうですか。あのう、一度戻りませんか」
確かに。昼頃には戻ると、留守番の者達に言って出て来た。
「えぇー。お姉ちゃん。まだ1時間位しか経ってないよぅ。大体、食料持ってきてるでしょう」
持って来てはいるが……。
「戻るぞ!」
「ワフッ!」
セレナが、近寄って来る。
「あっ、セレナ! 裏切ったわねぇぇ。ああ……女の友情なんて儚いものよねぇ。分かりましたよ。戻りますよ!」
首をがっくり折ったアリーも、こっちへ歩いて来る。
皆が環に入るのを見計らって、魔石を翳す。
すると床の紋章が眸と輝き、自分たちも足から透け始めた。
これで転送──
しかし、転送しなかった。
それどころか。周りの光景から色彩が抜け落ちていた。
「ローザ……」
自分の声がボアボアくぐもって聞こえるが、そんなことは気にしては居られない。
思うように動かない脚を懸命に動かして、妻に寄る。
ローザは、固まっていた。
薄らと浮かべた笑みも、少し持ち上がった衣装も凍り付いたように動かない。
どういうことだ?
アリーも、セレナも微動だにしない。
まるで、時間が止まっているようだ。
時間が? 止まる?
電光が頭を駆け抜けた。
「おおぅ、これは驚いた。自力で解くとは……」
通路の奥から、何者かが歩いて来る。
「やあ、ラルフ君。久しぶり。と言っても、こっちは時々覗いてるから。実感は無いけどね」
「ソーエル……審査官」
そう。俺を2年間酷使した豹頭の天使だ。
身体が眩く輝き神々しさを弥増している。
思い出した。何もかも。前世と今世の端境のことを。
「何回も記憶を書き換えてるから、バックドアの立て付けが甘くなっちゃったかな」
軽い口調に怒りが込み上げてくる。
「そんなことより、これは何の真似ですか?」
ローザ達を振り返る。
「ああ、もう気が付いているとかも知れないが。君と彼女達は時間の流れが違っている。君だけ因果律が異なる亜空間に居るって訳だ。もちろんみんな無事だよ」
やはりそうか。
「俺が訊いたのは、どうしてやったのか? ですよ」
「恐いねえ! 天使を脅すなんて、罰当たりだな。何の為に宗教の学校に……通ってないか」
睨み付ける。
「うっ、うぅん。冗談はともかく。君にやってもらいたいことがあるんだ」
「俺を天界へ拉致するなら、ここまでやる必要ない」
「そう、必要な処置なんだ。ラルフ君が承諾してくれれば、その理由も教えるよ」
いつもこうだ。
先に承諾を強要して、悪い条件を切り出す。
「つまり、俺に亡者の転生審査以外をやらせようということですか?」
「鋭いね。反省しないとなぁ、君の知性を上げ過ぎた……で、承諾してくれるのかい?」
「断ったら?」
「さあて、僕の口から言わせる気かい?」
俺は死んでいない。生者を星幽化させるのは天界法に違反している。何回かやられているが、天界に呼びつけることも該当している。例外は、天使の補助を生き霊の承諾を得てやらせるときだ。
だが、行先が天界ではないとすると、俺の事後承諾の如何によらず、重大な違反行為。箍の外れ具合が段違いだ。それほどのリスクを負ってやらせるのに、根回ししないというのは考えられない。今の状況は、背景に組織ぐるみであることを示している。
「俺に何をやらせようとしているんですか?」
亡者の転生審査でなければ、さほど毛嫌いする程でもない。
「ふふふ、話が早い。ラルフ君には、あるところへ行ってもらう」
「あるところ?」
「そうだね。引き受けてくれたら教えるが、新世界── とでも言っておこうか」
新世界?
変だ。
どこかは知らないが、遠距離の宙域へ行くなら天界を経由した方が早い。
因果律が隔絶されているから距離が関係なくなるからだ。
なぜ、いつも通り俺を呼びつけないんだ?
そもそも新世界とはどこだ?
1番怪しいのは──
「俺の移動を、天界の記録に残したくない場所とはどこです?」
「忠告だ! 余り詮索しない方が良い」
豹頭が凄みを増す。恫喝しなければならない程のことらしいな。
「分かりました。協力しましょう。ただし報酬はきっちり貰いますからね」
ブラックなバイトではあるが、必ずしも報酬は悪くなかった。第一未知の場所へ行くのは、心躍るものがあるしな。
「ふむ。そう来なくちゃ。ああ報酬は君次第だ。多くを得るも得られないもね」
「では、答えてもらいましょう。なぜ俺なんですか? そして、なぜ今なんです?」
「理由は、ラルフ君が時空操作を自力で使ったからだよ」
「時空操作? 重力魔術のことですか?」
「そうそう。重力とは、まあ時空の歪みそのものだからね」
一般相対性理論──
ここは天界ではないが、記憶のリミッターが外れている。
「実はね随分待ったんだよこれでもね。やっと連れて行ける最低限の条件はクリアした。既に君は特別な生物に成ったということだ。だから今なんだ。とは言え、まだ不十分だ。力を見せてもらう必要がある」
「力……ですか。見せられなければ?」
「記憶を消し、なかったことにするよ。そして、また何年か待つ」
「それは嫌だな」
「あははは。じゃあ、手始めに、ひとつ星屑を潰してもらうか」
「了解!」
豹頭天使は、下卑た笑みを浮かべると腕を揮った。その途端、脳から血が引くような感覚に襲われ、意識が遠のいた。
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訂正履歴
2019/09/28 誤字訂正
2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




