219話 迷宮入り(文字通りの)
事件捜査が破綻することではなくて。
迷宮で魔獣退治。VRで(実際に体動かして)やるやつとかできないかなあ。
前話で章を調整するかもと言っておりましたが、やはりそうなりました。
ストーリーに変更はありませんので、ご容赦下さい。
翌日。
「えぇー迷宮行かないの?」
朝食後、宿でまったりしていると、アリーが切り出した。
「あら。ここに迷宮があるの? アリー」
「それがあるのよ、お姉ちゃん。ダートン迷宮。馬車で5分ぐらいのとこだって」
2人でこっちを見た。
「ラルちゃん。気がなさそう」
「分かってると思うが、ここへは、静養しに来たんだぞ」
「それは、王都で聞いてたけどさ」
不満顔だ。
「ラルちゃんとお姉ちゃんは、出動して超獣やら魔獣やら斃してるからいいけどさあ。アリーちゃんは、ずーと怪我人とか患者とか看てるんだよ。魔力は使うけど体が鈍っちゃうよ」
鬱憤が溜まっているようだな。
「旦那様。私にはお気兼ねなく。ただし、私もお連れ下さい」
「話せるぅ、お姉ちゃん!」
いや。ローザは、そんな表面的な話をしているわけではない。
俺が、夜中に1人で行こうとしているのを見透かして、それは許しませんよという眼だ、あれは。
「ね、ね! 今日行こう、今日!」
「むう。わかった、わかった。レクター!」
「はっ!」
壁際で存在を消していた執事が進み出る。
「ああ、今日は船遊びを予約して居たはずだが、解約してくれ!」
「承りました」
この執事は、俺達に先乗りして宿などを手配してくれた。流石ダンケルク家が手配してくれた執事だ。表情ひとつ変えない。
「あっ、そうなの? ごめんねぇ」
「あっ、いえ」
†
馬車に乗り、10分で迷宮に着いた。
細い路地をくねくね曲がって進んだので、余分に時間が掛かった。どう考えても、歩いた方が早かったが体面もある、仕方ない。
場所は、半島の突端にほど近い岩場だ。
ここも冒険者ギルド管轄なので、3人と1頭分の入場料と転層石で17シリング払う。それから、よく整備された入り口の下り階段を降りた。
魔石灯はそこそこ明るく、岩盤を刳り抜いた壁面がよく見える。海水とかが浸潤しているかと思ったが、少なくともこの階層は乾燥していて、綺麗に掃除が行き届いている。
「人少ないね」
「確かに、すんなり入れましたね」
既に攻略されているし、場所が良くない。高級宿ばかりのダトリーアに入城しないといけないからな。貴族はともかく、冒険者は来にくい。
「ああ」
そうは言わないが。
「それほど強い魔獣は居ないって、おっちゃん言ってたねえ」
おっちゃん……転層石売ってた職員のことだな。
入ったところで転層陣があったので買ったばかりの転層石を、陣の中央にある石柱に翳して登録する。
「全部セレナが斃してくれるよね。私達だけで先行しよう!」
「ワフっ!」
セレナがアリーを背に乗せて駆け出した。
まあ、この取り合わせは危なくはないので、止めはしない。
「分かれ道で待ってるからぁぁ」
「はしゃいでるな、あいつ」
「照れ隠しですよ。宿でじっとしていると、どうしても考えてしまいますし」
なるほど。
「いずれにしても。早くご意志を告げてあげて下さい」
「アリーを側室にか」
「はい」
告げてか……。
確かに。側室を娶るなら、アリーをと言うのはそれほど悪い話ではない。
第一に、女性として好きだ。ローザの次にと言うか、大きく離れているが、順番としては次だ。
人材として功利的な意味でも、傍には居て欲しい。男性貴族が姉妹を娶るということは、政略的にままあることだ。倫理的にも、お袋さん以外は何も言わないだろう。
それで、他の縁組みを抑制できるなら悪くはない。
しかしなあ、枷がなくもない。
そう思うのはなぜかと言えば、ローザとの繋がりが曖昧になるような気がするからだ。
むっ!
鎧芋虫だ。
太さ30リンチ以上のでかいヤツが、壁面に空いた横穴から這い出してこちらに向かってくる。
いきなり粘糸をローザ向けて発射──
華麗に避けると、壁面を蹴って肉薄。単槍を突き立てた。
我妻ながら惚れ惚れする機動だな。
それに一発貫通か。普通の大芋虫と違って、あの甲殻は結構硬いはずだが
【氷礫】
無数の白い小塊が亜音速で殺到すると、這い出そうとしている芋虫に留まらず穴の周りの壁面をグズグズに崩した。
ローザが槍を引き抜いて飛び退くと、藻掻いていた虫が輝く粒子と化して散った。
「ありがとうございます」
軽く肯いて答えるとローザは笑みを浮かべた。もう1匹の方も、しっかり認識していたようだ。
ローザが、冒険者を生業としていたら、さぞかし良い戦士として讃えられてことだろう。
5分後。
「遅いよ、2人とも」
分かれ道で、アリー達が待っていた。
「魔獣4頭斃してきたからな」
「そうなの? 居なかったよねえ?」
「ワフッ」
セレナに乗って駆ければ、出て来る前に通り過ぎるだろ。
「で? どっちに行くんだ」
「せーの!」
なんだ?
「左ぃぃ! おお気が合うね!」
セレナも前脚が左を示したので、アリーが嬉しそうに喉元をワシャワシャと撫でている。
「じゃあ。左な」
「ラルちゃん。反応薄い。何、お姉ちゃんもう倦怠期な、アテッ!」
ローザに小突かれた、いい気味だ。
それからも大した魔獣は出現せず、何やら怪しい場所に出た。
「あれ……」
床が岩盤から石畳に代わった。
さらに進むと、部屋に出た。
石造りの列柱が立ち並ぶ中、床が昏く口を開けている。下層へ通じているようだが、濃密な魔素を吐き出している。
「おお、階段があるよ! やったぁ! おっと油断大敵」
分かってますってという顔でこちらを振り返り、皆警戒しつつ中に進む。何の部屋だ、ここだけ天井が──
「下がれ!」
皆がビクッとなってたたらを踏むと、数歩戻る。
視界が黒く煙ると巨大な何かが降ってきた。
チィ……魔圧で欺瞞されたか。
ドーンと地響きで床が揺れ、長い──蛇だ
俺はローザとセレナの前に進み出た。
【光壁】
ビシャッッッ!
緑の液が不可視の壁に打ち付けられ広がる。
「バジリスク! アリーちゃんに毒吐いたよ、見えてるの?」
透明と化していた、アリーが現れた。
「ヤツは熱で俺達を見てる」
「熱?」
落ちて床にのたうった大蛇は、無数に棘を生やした凶悪な鎌首を持ち上げる。
大きく顎門を開くと、耳障りな吼え声を響かせた。巨体に入れ似合わぬ素早さで、その身を伸張。
ガッ!
障壁に激突した。阻まれたが、めげずにガリガリを牙を立てる。
「アリーも下がれ」
「わっ、分かったわよ」
【解除:光壁】
バジリスクが勢い余って、空を噛み合わせるところ──
【萬礫】
轟音と共に大気が白濁した。
冷気が床に降りるとすでに鎌首はそこになく、ズタズタな断面と半身が痙攣していた。
しぶとい。
第2撃。そう浮かんだとき、光片が飛び散った。
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訂正履歴
2019/09/25 誤字訂正(ID:209927さんありがとうございます。)
2019/09/25 細かく訂正
2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2022/01/30 誤字訂正,漏洩→浸潤(ID:1897697さん ありがとうございます)




