217話 非番と言えば
船系の経験者に訊くと当番と非番では色んなことが違うようです。当番だと酒に酔いづらいとか病気に罹りにくいとか。あれか! 連休初期に風邪引くやつ(小生)
──お断り──
章構成を見直し、この話(217話)を第11章の開始とします。
7月となった。
我が騎士団の月番が終わり、非番となった。
月番はウチだけではない。よって前回の出動が終わってから、月番と言いつつも、今月はもう出動指令は来ないだろうと高を括っていたが。実際非番になるとやはり気分が違う。
昨夜は、久しぶりにゆっくり寝たしな。
1階に降り食堂に入ると、最近俺の睡眠時間を奪っていた人物が居た。
「ラルちゃん、おはよう!」
「おはようございます。御館様……じゃなかった、ラルフ君。おはよう」
「おはよう、アリー。おはようございます、エリザ先生」
奪っていたのは無論後者の方だ。
救護班の2人が並んで食事中……いや、既に食後のお茶段階だ。
ふむ。ローザは居ない……魔感応によると公館に居た。とは言え、メイドも増えたので、不自由はない。座るとまもなく、いくつかの皿が運ばれて来た。
スープを掬いながら、前に座っている2人を見る。出動先では、凜々しいのだが。この館に居るときには、2人とも自堕落娘だ。
「先生」
「んぐんぐ……何かな?」
飲み込んでこっちを向いた。
「俺は進級できたんですよね?」
そう。7月は学年の変わり目でもある。修学院も5日から新学期だ。
もっとも俺は通う必要はないが。
それを耳にした、先生が小さくあっと言う表情になった。
「なになに、ラルちゃん留年の危機とか?」
アリーがニマっと笑いながら訊いてくる。
「もちろん進級だよ」
んん? 先生の反応が何か怪しい。眼が泳いでるし。
「なーんだ」
残念そうに言うな、アリー。それはともかく。
「ちなみに伺いますが、2日前に提出した論文。あれは、俺の評価確定に必要と仰いましたよね」
10日前に突然そう言われて、慌てて書くことになった。だから、上級職と騎士団の執務が済んでから、夜な夜な頑張った訳だ。まあ本筋の研究とは違うが、軽い気持ちで資料を集めて実験して居た内容だ。よく言えばまとまりの良い、悪く言えば安易な着眼点で書いたので、30枚ぐらいで終わった。したがって、遺憾ながら会心の出来ではない。もう1週間あれば、考察に更なる深みが出せたのだが。
「あぁぁ、言ったねぇ」
ますます疑惑が深まる。
怪しいと言えば。そもそも、この時期の論文の話は事前にはなかったのだ。
超獣対策特別職を引き受けたときに、修学院への登校不要と言うことになった。もちろん自主研究については、最終的に論文にして審査に合格しないと卒業資格は得られない。しかし、それは先の話だ。それ以外にも定期的に研究の進捗状況を報告する必要はあるが、それは5月末に提出済みだ。
「何の評価なんですか?」
少し威圧を込める。
「ちょ、ちょ、ちょっと。顔が恐いから。ああ、あれよ……学位の評価かなあ」
「学位? なんのことですか?」
神学者になるためには、学位が必要だが。
「うっ! いっ、いやあ、それはぁぁ……」
動揺が隠し切れてない。
「ラルちゃん、ちょっと待って! あぁ、エリちゃん」
そう先生を呼んだアリーがスプーンを置いた。
「なんです。班長!」
「永く、ラルちゃんと一緒にいるけど」
何を言い出すつもりだ?
「ふんふん」
「とぼけても時間の無駄だから。さっさと白状して謝った方が良いよ。アリーちゃんは5歳の時に悟った」
嘘付け!
「うぇぇぇ。光柛よ、お救い下さい」
いや、あんた仮にも司祭だろう。
「それで?」
さらに威圧。
「うっ、うぅむ。いやあ、院長がね」
院長?
「なんか、王都大学の学長と何かあったみたいで、ラルフ君は学位に十分値するとかいう話になって」
「そこの脈絡が、さっぱり理解できませんが」
「ああ、そうだよねぇ。私もそう思う……で、学位論文の合同審査会にねじ込んだと」
修学院には、神学の教授は複数居るので良いのだが。魔術学の教授はエリザ先生しかいないから、審査会を組織できない。つまり、魔術学の論文については、合同審査会に掛けられる。
「はあ……学位論文合同審査会って、4月でしょう。それに、2年在学しないと駄目なんじゃないんですか?」
俺は去年入学だ。
「ねえぇ……」
いや、ねえって。あんたが言うなよ。
「まっ、まあ在学期間てのは、内規だし。ラルフ君の場合は、既に例外に例外を重ねているから、今さらって言うか。別に良いのよ」
最後開き直ったな。
「はぁぁ。学位論文なら、もう少し題材を選んだんですがね!」
少し語気を強める。
「いやあ、あれで十分十分!」
進級に必要だから、簡単なのを適当にって言って書かされたから、不本意だ。
まあ、それで学位が取れた場合だが。
「ラルフ君の研究内容。呪文に見られる術素の云々かんぬんとか、ああいう画期的過ぎるのは無理だから」
「はっ?」
「あんなの検証にどれだけ掛かると思う? 専門家が精査したって数年だったら早い方! 神学者が一生掛けてやるならともかく。学位が取れるのは、その時期になるわよ」
「その話は10日前に聞きたかったですな」
「うっ、ううう……でも時間は戻らないし」
「あらあら、朝からなんの騒ぎですか?」
ローザが食堂に入って来た。
「確かに。時間は戻りませんね。でも、これからでも同じ効果は上げられますよ」
「えっ?」
「ああ、ローザ。1週間程、エリザ先生には食事を与えないでくれ!」
ガクンとエリザ先生の顎が下がる。
「えっ? えーと。承りました。皆々旦那様の仰った通りに!」
「「「はい!」」」
良い返事だな、メイド達。
「そんなぁぁ」
「司教様から、派遣された神職の方々の生活は、質素を旨とし、自活させるように言われているのですが」
「うっ、ううう」
先生は塩を掛けられた野菜のように萎れた。
教団の方針通り、金は渡さないけど、十分な食材は渡しているだろう。女子寮は共同厨房ついてるし、他の教団派遣の団員と同じように自分で調理しろよ。
「お取り込み中のところ……ラルちゃん。非番はどうするの? またエルメーダに行くの?」
「行くとしても月末だな。期間も長くは行かないだろう」
やりたいことは数多い。
「ふーーん」
「なんだ? アリーはエルメーダに行きたいのか?」
この前も付いてこなかったし、あそこには行ったことはないはずだ
「いや、そう言うわけでは……」
だろうな。
一族縁の土地ではあるが、マルタさんが居る実家でもないし。
「ごちそうさまでした……」
消え入るような声で、先生が食堂を出て行った。
「ああ、先生の件、やっぱり3日間にしてやってくれ」
「「「はい!」」」
飢死しかねない。
「ふむ。非番か……そうだな。ローザと少しどこかに行くか」
「まあ!」
「ちょ、ちょっと」
アリーが思い切り膨れる!
ギルドからの回復系魔術師の応募者も増えているようだが、前回の非番と違って救護班も形になってきた。まあアリーも少しぐらいなら空けられる。
「まあ、人員は考えるか……」
「やった!」
「ローザに一任する!」
「お姉ちゃんに?」
「そうねえ。ソフィアさんが居るから、本館の人員を残していくとして。何人連れて行こうかしら」
そうだよな。男爵が普通にどこか行くなど、王都周りだと厳しいよな。
1人とか2人とかは有り得ず、随行を10人ぐらい連れて行くのはざらだ。
「はい! はぁい! アリシア16歳、立候補します!」
「16歳……今回、連れて行くのは20歳以上です。残念でしたね」
ローザ、目が笑ってないから。
2日後。
ラルフェウス男爵家は、7人と1頭の一行で王都を発した。
向かうはダトリーア。風光明媚な保養地だ。
3両の馬車は、朝発して夕方到着した。
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訂正履歴
2019/09/18 誤字、加筆、言葉尻など修正
2019/09/25 章を11章に変更。
2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989 さん ありがとうございます)
2021/05/11 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




