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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
10章 青年期VII 非番と冒険編
223/472

216話 ひとつの決着(10章最終話)

気温の変化は一進一退ですが、日暮れの時間は着実ですね。この時期は強く感じます。


──お断り──

章構成の見直しのため,本話(216話)を持ちまして10章の終わりとします。

 6月も半ばを過ぎ、日が短くなってきたことを感じる夕暮れ。

 久しぶりに西街区へやってきた。


 城門内広場の通りから3本入った、猥雑な路地に目的地はあった。鷹の眼亭という名の飲み屋だ。

 こぢんまりした薄暗い店内を見渡すと、年配の男ばかりの客層の中に探し人が居た。

 壁際のテーブルに一人で座って居る。

 

 カウンターで安い麦酒(エール)と肉炒めを頼む。1スリング銀貨と10セルク大銅貨を5枚置く。

 どうぞという声と共に出された大杯を受け取って、向かいの椅子に座った。


「やあ旦那。お元気そうで」

「ああヒューゴ。久しぶりだな」

 そう。今は商人の装束だ、顔も擬人装(マスケラーレ)で変えている。


 そのまま、肉炒めが来るまで待っていると、やがて女店員が持ってきた。

 フォークで突き、大きめの塊を頬張る。


音響(ソノ)結界(シーマ)


 旦那と呼んだ壮年の男は、何気なく辺りを見回した。


「ふん。姿を偽る魔術を使いながら、物を口に入れて魔術を行使するとは。あいかわらず規格外ですなぁ」


 嫌みだ。肉の脂と一緒にエールで流し込む

「安い割に、なかなか味が良い店ですね、中佐殿」

 そう。この男は、黒衣連隊(ノアレス)のある部門の部長だ。


「男爵様の口にも合って幸いですな。それはそうと、昨日情報を戴いたターレイ参事官ですが、ヴァシリコ商会の線で繋がりました」

「ほう……」

 早いな、そう思ったが口にはしない。


「実は、さる筋からタレコミがありまして」

「解任された家令リシャールと共に、国軍でも軍備調達の不正を働いていたとか?」

 リシャールは、メディル辺境伯領出身だが、ルーグ卿が言っていたように元軍務省の官僚だった男だ。

 それを踏まえると単純な推理ではそうなるが。


 中佐は頭を振る。

「これは……そこまで仰るからには、タレコミの元も心当たりが?」

「軍務省だろう」


「まあ、それはともかく……」

 顔は否定していないが。


「ターレイについては、仰った通り5年前に一度収賄の噂が出たことがあるのですが、その時は解明には至っておりませんでした」

「なるほど」

 今でも罷免されず現役だから、そういうことだろう。


 5年前……リシャールが軍務省を退官した時期か。

 それ以前は、ターレイと共にヴァシリコ商会に注文が行くよう働きかけをし、賄賂を受け取っていたわけだ。それを故郷に戻っても、同じ手口でやっていたと言うことか。


「ああ今日ですが、ターレイに辞令が出ました」

「辞令?」


「ええ、20日付けで参謀本部付きから軍務省に戻されることになりまして」

「3日後か。確か人事交流の期限はまだ1年以上残っているはずでは?」


「その通り、この時期の辞令は異例です。官僚の人事交流ってヤツは、何もなく戻ってやっと普通の評価。途中で戻されでもすれば、その後の出世に大きく響きますからな」

「ふむ」

「まあ、異例と言えば、辞令の日付は通常1日付けか、15日付のどちらかになるんですがね。これは(てい)の良い厄介払いですな。ん、ふふふ……」

 笑い方が気味悪い。辞令については、高級官僚の場合、官報に載せるからな。バラバラ出されると手続きが繁雑になってしまう。


「何だ?」

「ああいや。タレコミ元と参謀本部で押し付け合いをしたと思うとね」


 そういうことか。

 辞令を出した参謀本部と、厄介者を押し付けられる前に何とかしたかった軍務省か。


「まあ、辞令が出たということで、軍法会議に持って行かれることはないですからね」


 軍人、軍属が刑法犯を犯した場合、軍の都合が悪ければ、普通の裁判にではなく軍法会議で裁かれる場合がある。そうなると黒衣連隊(ノアレス)としては手が出せなくなるが、それはなくなったということだ。


「きっちりやりきりますよ。贈賄側も。それに上級魔術師等保護特別法違反に該当しますからね」


 この特別法とは、上級魔術師および家族関係者への傷害、誘拐、脅迫などの刑法違反に対する量刑を大逆罪相当に嵩上げすると言う内容だ。つまり、その罪を犯すことで上級魔術師に強制することを防ぐ事を目的として立法されたものだ。

 本人はともかく、肉親を人質にされた上級魔術師が破壊活動を強制されるなど、悪夢以外の何物でもないからな。


「よろしく頼みます」


   †


「総長! あの辞令はどう言うことですか!」

 ターレイが執務室の戸口で、秘書官ともみ合っている。

 朝の清々しい空気が台無しだ。


 来るだろうとは思ったが、やはり来た。昨日一昨日と私は視察で不在にしていたからな。


「構わん。通せ!」

 残念ながら、まだ私の部下だ。

「はっ!」


 机の前に、ターレイが大股で歩いて来る。

「総長閣下!」

 敬称呼びが戻ってきた。秘書官が扉を閉めた。


「何だ?」

「何だですと。決まっております。なぜ私が軍務省へ戻らねばならないのですか?」


「ほう、不服かね? 参事官。軍など、野蛮な所へなぜ私が行かねばならないのか? 貴官が前職でそう言っていたと聞いたがね」


「昔のことは、ともかく。人事交流期間が終わる前に出戻っては、無能の烙印を押されたも同然。明日までに撤回願います」


「無能なら置いておかないでもないが、有害となるとそうもいかん。転属は当然の処置だ」


「有害とは、どういうことですか!」


 ああ、眉が吊り上がり、顔を真っ赤にしている。

 ふむ。学生時代から優秀、優秀と呼ばれ、洗脳された自己無謬症の患者だ。まあ、私も軍に入るまではそうだったからな。よくわかる。軍は官庁と違い、戦功やら軍功を上げてのし上がった猛者達が何人も居る。私はそいつらに揉まれて病から逃れたが。軍務省とはその名にそぐわない官僚組織だからな。


「私の口から聞かないと気が済まないのかね? 私は対策案を立案して提出しろと言ったな。そして実施は待てとも言った。憶えているかね?」

「そっ、それは……」


「ラングレン卿の件だけではない。ヴァシリコ商会との件もな」

「商会の件は……ぬっ、濡れ衣です」


「ああ、そう言えば、貴官が軍務省時代の元後輩、メディル辺境伯の家令をやっていたが、解任されたそうだな。5月に件の商会でその者と会っていたそうじゃないか」


「そのようなことは……」

「そうかね? それはそうと。つい先程、ヴァシリコ商会に強制捜査が入ったと聞いたがね」


 ターレイの顎が力なく下がり、呆けた顔を晒す。


「ああ、貴官の部屋は綺麗に片付けておいてくれ給え」


     †


「こちらで最後です」

 ヘミングが差し出した書類に軽く眼を通し、ペンを取る。

 署名しながら、ふと左を向く。

 ヘミングも俺の目線を追ったのだろう。が、特に何も見つからなかったのか、小首を傾げた。


「ご苦労!」

 書類を受け取ったヘミングは、居住まいを正して俺に会釈した。

 ローザに向き直った。

「筆頭従者殿」

「はい」


「明日のお誕生日の宴は、救護班長(アリー)とは別に、11人が参加させて戴きます」

「はい。よろしくね」


 ヘミングはにっこり渡って、執務室を辞して行った。

 そう、明日はローザの20歳の誕生日だ。

 夕方から本館主催で、宴を催す。


 こういう場合、ローザが筆頭に主体的にはモーガンが仕切っていくのだが、今回は本人だ。そこで、俺も何かしようと思っていたのだが、モーガンからやんわり断られた。

 代わりに、表向きにはサラががんばることになっている。


『師匠の誕生日ですから!』

 そう言って、張り切っている。本来ならアリーがやるべきなんだろうが。


「うんん」

「ん? どうした?」

 ローザは浮かぬ顔をした。


「いえ。折角この前、御館様に追い付いて戴いたのに、また4歳も離れてしまって……」

 執務中は、俺をそう呼ぶ。執務以外は、2人の時はあなた、誰かが居るときは旦那様だ。ローザは生真面目だな。

 年齢のことか……俺は全く気にしていないが、ローザも女だな。


「そうだなぁ。子供の頃は4歳と言ったら埋められない差だったが。今は、そしてこれからは、どんどん近づいて居くから、俺は嬉しい」


「まあ……」

 ローザに生気が戻る。


「ああ、お仕事は一段落ですね。お茶を……ああ、お湯を替えて参ります」

 ローザは立ち上がり、銀のポットを持ってやはり執務室を後にした。

 扉が閉まる音がしたが、再び扉が開いた。


 入って来たのはスードリだ。

 ローザが外すのを待っていたのだろう。ヘミングがいるときから、廊下に気配があったからな。反応したらヘミングに不審がられたが。


「御館様。報告がございます」

「うむ」

「先程、ヴァシリコ商会に黒衣連隊(ノアレス)の強制捜査が入りました」

「ほう」


 中佐は、ちゃんと動いてくれたようだな。


「また、参謀本部付きターレイ参事官が逮捕されました」

「ふむ」


「これで、ソフィア様の襲撃を試みた者共も、一網打尽というわけで」

「そうだな。とは言え、引き続き警戒を頼むぞ」

「心得ました」


 少しして、ローザが戻ってきた。

 席には着かず、お茶を淹れ始める。


「御館様、どうぞ」

「ありがとう」

「どのような喜ばしいことがございました?」

 バレバレか。まあ、隠す気もないが。


「ソフィアを襲おうとした者達が、官憲に捕まったそうだ」

「そうですか。それはようございました」

 ローザは、華のような笑顔を浮かべた


 うむ。

 喫すると、一際美味く感じた。


     †


 翌日の夜、本館と公館の間にある中庭で、ローザの誕生日の宴が催された。

 サラの献身的な進行によって和やかな会となった。

 問題は来賓客の多くが女性だったことだ。半分以上は貴族の奥方で年配から若い方まで、あとは騎士団の女性団員含めて20人近く。ローザの女性人気を改めて思い知った。


 俺はと言えば、来賓に挨拶するので大変だったが、着飾ったローザの美しさで疲れも忘れる程だった。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2019/09/14 細々表現を変更

2019/09/25 副題目追加

2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)

2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)


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