210話 古代のなぞなぞ
お待たせ致しました。今日から投稿を元のペースに戻したいと思います。
さて長崎へ出張してきたのですが、業務の合間にグラバー園へ行ってきました。生憎旧グラバー住宅(あそこで一番有名な建物)が修理中でした。ふと思い出した、姫路城も、東照宮も行ったら修理中だった。むぅ・・・巡り合わせが悪いなぁ。
古代のなぞなぞ、スフィンクスのやつ有名ですよね。
「ここまできて、袋小路か」
30ヤーデンも進んだところで、坑は突然細り、見る間に先がなくなった。
「御館様! ご覧の通りです」
いやいや。誰も気が付かないのか?
おっ!
バルサムが気が付いたようなので、手を挙げて止める。
「致し方ありません。戻りますか?」
うん。トラクミルは戦士だ。微妙な魔界には気が付かないよな。
しかし、ゼノビア。お前は魔術師だろう。
「あのう……」
俺とバルサムが行動を起こさないので訝しんだようだ。
「あっ! もしかして、どこかに抜け穴があるとか!」
「ゼノビア。勘は悪くないが。それだけでは魔術師は務まらないぞ。この辺りに怪しい部分がある。時間が無い、1分で探してみせろ」
「はい! 副長」
んんん……。
どんどん時間が過ぎていくが、全く見当違いの場所を探っている。
「うんぅぅ」
焦って唸りだした。これは見つからないなと思った時。
「ワフッ!」
セレナが右の壁の前に鎮座し、軽く吼えた。
「えっ? 何、セレナ。そこなの?」
あぁぁ。
ゼノビアが腕を突き出し、魔力を込めた手で右の岩壁を触った。
「ん? んん! 何これ?!」
壁が鈍く輝き、丸い模様を浮かび上がらせた。
「うーむ。初めて見る形ですが、紋章ですかな?」
いや、紋章じゃない気がするが。
古代文字が、紋様の丸い縁の内周に並んでいる。
「古代文字か……」
「分かるんですか? 副長」
「いや、こんな呪文は見たことはない」
「ですよね……」
バルサムが首を捻り、覗き込んだゼノビアが肯く。トラクミルは見切っているのだろう、最初から他人事のようにしている。
バルサムが横に避けたので、前に出て壁表示の全容を眺める。その途端、いつものように頭の芯が冷える感覚に襲われた。
「これより先に進まんと欲する者は、我が問いに触って答えよ……か」
「やっぱり御館様は読めるんですね?」
「邪魔するな、ゼノビア」
「へーい」
「御館様。その問いとは?」
「ああ、ここに書いてある。暇……? 暇から生まれ、だな。暇から生まれ、多くの者が眼を開く場所はどこか? そう書いてあるな」
「流石修学院! ああ、あっ、済みません」
んん?
ゼノビアが首を縮めて恐縮する。
「コホン。して、御館様。その答えは?」
「さあ……」
首をひねる。何か一瞬引っ掛かるものが……。
「バルサムは?」
「私も分かりかねます。ほら、お前達も考えろ!」
「いやあ。御館様が分からないのに、分かるはずが。ねえ、トラ?」
トラって、トラクミルか。
そうだ。この女、何となくアリーと似ているところが有るな。
しまった。何か浮かびかけていたことが飛んだ。
「むう。確かに答えは分かりませんが……」
トラクミルは不審そうな表情でなにか言い掛ける。
「なによぅ?」
「笑わないでもらいたいんだが」
「もったいつけないで、早く言いなさいよ!」
「あっ、ああ。何やら、なぞなぞに似てる気がしてだな」
なぞなぞ。
「馬鹿なんじゃない、トラは! なぞなぞって、古代人がなぞなぞを出す訳ないでしょ! アハハ……」
「だから、笑うなって言っただろ」
「ゼノビア!」
「ハハハ……。ああ、すみません。何でしょう、お館様?」
「なぞなぞかも知れないぞ」
「えぇぇええ! なぞなぞですか?」
「なぞなぞ……皆で考えるんだ」
問題文も気になるが。もっと気になるのは、その内側だ。
円が描かれ、その内側に古代文字が並んでいるが、ほとんど意味が分からない。
分かるのは、”はい”つまり肯定と”いいえ”の否定だ。あと数字も順番に並んで居る。
順番に?
不自然だな。文章ではないのか? それに重複している文字がない……。
「はあ、目を開ける場所って言えば、寝室! ……いや、トラ! そんな目で見るなら、あんたこそ、なんか答えを言ってみなさいよ!」
んんん……。
まずはそっちだ。
「ああ、さっきゼノビアが言った言葉の中に、何か引っ掛かる言葉があった気がするのだが。もう一度言ってくれ?」
「えっ、私なんか言いましたっけ?」
ふざけた顔が、バルサムに睨まれて真顔に戻る。
「ええと。古代人が、なぞなぞを出す訳が……」
「もっと前だ」
困惑した顔になる。
「えっ、えーと……ああ、お館様にわからないことは」
「もっと前!」
半泣きになる。
「私、何って言った? トラ!」
「俺に振るなよ。うぅんん、あっ! そう言えば、流石何とかって」
ゼノビアが眉間に皺を寄せる。
「流石? 流石、流石……ああ、流石修学院。って、そんなわけないでしょ!」
またしても、頭が冷たくなった。
「それだ!」
「はっ? 修学院ですか?」
「いや。答えは、学校だ!」
「学校?」
俺は答えを知っていた。答えは学校だ。
「おおぅ。そう言うことですか。なるほど」
バルサムも気が付いたようで肯く。
「どういうことですか? 副長」
彼は一瞬鬱陶しそうに顔を顰めたが、俺が肯いたので語り始めた。
「つまり、人間は学校に通うことで蒙を啓かれる」
「ああ、目を開けたっていうのは、世の中のことが見えるようになるって意味ですか。そうですよね?」
バルサムじゃなくって俺に訊いてきた。
「ああ」
「でも、暇から生まれたっていうのは?」
「学校と言う言葉の語源は、討議する場所だ。学問の討議をする者は、日々の仕事に追われない余裕を持った者。よって、古代語で学校と暇は同じような言葉になっている」
「へえぇぇ。流石、御館様」
「いや、ゼノビアの言葉に、何か引っ掛かったんだ」
「もしかして、お役に立てましたか?」
「ああ。トラクミルのなぞなぞという言葉も参考になった。だから、いつでも誰かに頼るだけでなく、自分でも考えることを止めるんじゃないぞ」
「はい。分かりました。トラも返事!」
「えっ!? はい!」
トラクミルは、ちゃんと考えていた気がするがな。
「答えが学校だったとして、どうしたら、先に進めるのでしょう?」
「学校! 学校! ……うーむ、反応ないか」
「ゼノビア。言うにしても、古代語じゃないと駄目なんじゃないか?」
「トラめ……知ってたら言ってるわよ! 御館様。お願いします」
「触れと書いてあるから、声に出しても駄目だろうな」
「では、どの様にすれば?」
「こうするらしい」
頭に降霊盤と言う言葉と使い方が浮かんだ。
盤の隅にあった、三角と丸が組み合わさった図形を触ると、そこが光った。
それをずらして行き、カーソルの丸の中にਸに合わせる。
指を外すと、ਸの文字が光った。
次は、ਛ。その次にਹへ合わせていく。ਓ、ਲ、最後はਏだ。
ਸਛਹਓਲਏ
その文字達が一瞬眩く光って、降霊盤ごと消えた。
代わりに、床が光った。転送陣紋章だ!
この術式──
意識がそちらに向かいかけたとき、うわっと誰かの声が聞こえた。
暗闇の場所に転送された。
魔感応にも何も反応しない。
俺一人か。
とにかく、何も見えないのをなんとかしないとな。
【光輝球!!】
んん?
煌々と辺り一面眩しくなるはずが、蛍が光っている程度明るさだ。見上げると、光の球体があるにはあった。魔術は一応発動している。
確かに魔束の透りが悪かったが……どういうことだ。
投入する魔力を増やしていくと、なんとか明るく。いや薄暗くなった。
魔術が効かないのではなく、効きづらいのか。
それでもなんとか、ぼんやり周りが見えた。
クゥ…………
おっ、セレナが居た。
不安そうな声音を上げて、俺の傍らで纏わり付く。
肩から背をなでていて、愕然とする。
真っ暗闇だったとは言え、わずか10ヤーデンも離れていないセレナの気配にすら気が付かなかったのか。いつもは意識せずとも、屋敷の隅々にどこに誰がいるか分かるというのに。
周りを見回す。
がらんとした何もない空間。
明かりは、指呼の距離で途絶え見渡すに至らない。床は見えるが、壁はおろか天井すら見えない。
照明魔術にもっと魔力を、そう思ったときだった
───ここで魔術を行使するとは 名を訊こうか!
声が頭脳に直接響いてくると、ぼうと床が明るくなった。
学校:schoolの語源は、ギリシャ語の暇:σχολή(スコレー)だそうです。
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訂正履歴
2019/08/24 ウィジャボードの説明を加筆
2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




