209話 月夜の探索
恐縮ながら引き続き連休進行にさせて戴きます。
明後日から九州へ出張に行ってきます。
つきましては次話は、210話:8月24日土曜日(以降通常通り)とさせて戴きます。
よろしくお願い致します。
日が暮れ、月が昇ってきた
城壁に昇ると広々とした外が、月明かりで望める。
「御館様に沢山斃して頂きましたが……」
バルサムだ。
そうだな
「ああ、まだ腐る程居る」
郭外の開けた荒れ地に、魔獣達の影が伸びている。
「あいつ。はしゃいでいるな」
「確かに」
また魔獣が朱く光粒と散った。次々と屠っていっている
強いな、セレナ。
このところ、さらにやるようになった。彼女より2回り大きいアペプも形無しだ。
4、5日放っておけば、全部駆除してくれるんじゃないか?
おっ?
土煙を上げて一直線にこちらへ駆けてくる。
しょうがないな。
「バルサム。少し早いが準備してくれ」
「はっ!」
城壁の端を踏み超える。
浮遊感を感じ、ローブをはためかせつつ着地。
そこへ、セレナが突っ込んできて、後ろへ転げた。
「痛ったぁ……セレナ。おまえは昔の大きさじゃないんだぞ」
「ラルフ 楽しかった でも もう 大きいの 居ない!」
「確かに、この辺に残っているのは小物ばかりだな」
それらはセレナを畏れてか、遠巻きにしている。
「遺跡 早く 行こう!」
「今、バルサムに用意させている。もう少し待て」
「セレナ ラルフ だけで 良い」
頭を撫でながら立ち上がると、セレナはブルブルっと身を何度か捩らせた。
「そんなこと言うと、ローザが怒るぞ」
「ローザ 泣く?」
「泣くかもなあ」
「ローザ 連れて行く バルサム 要らない」
うーーん。どうかな?
ローザは、このボアンの町に来てから体調が優れないからな。
「バルサムは嫌いなのか」
「顔 恐い」
……まあ、否定はしない。
†
30分後、馬車1台で遺跡へ出発した。
進むに従って魔獣の密度が上がってきている。
しかし、移動速度は変わらず、ほぼ一定だ。一行をセレナが先導していて、進路を阻む魔獣を片っ端から蹴散らせているからだ。
しかも、その量は多くない。セレナの武威に恐れをなして挑んで来れないのだろう。
同行3人と1頭。
ローザは、ボアンに置いてきた。
回復魔術を行使すると治るのだが、しばらくすると吐き気がぶり返すらしい。本人は大したことないから付いてくると言っていたが、大事を取らせた。
俺も馬鹿ではないので、ある可能性を思い至った。ローザの腹に向けて鑑定魔法を行使してみたが、残念ながらそうではなかった。
「この辺のはずですが……ないですね」
代官所でもらってきた遺跡の案内文書によると、唯一残っていた建築らしい構造物がこの辺にあるはずなのだが。見当たらない。
むっ!
「馬車を止めよ!」
制動が掛かった。
「御館様。どうされました」
バルサムが問いかけてきた。
「付いて来てくれ」
「はぁ」
馬車を停めると、外に出た。
数十ヤーデン歩き、地面を指差す。
「これは……」
沢山の石灰岩の塊が点々と地面に転がっている。
「遺跡のなれの果てだな」
真夏で伸びの早い草は覆い被さってきている。が、土埃の堆積や汚れから見て何年もこの状態にあったわけではなく、そこそこ最近壊れた感じだ。
だとすると魔獣が壊したのか?
「気になることがある。ここで少し待っていてくれ」
「はっ!」
「ああ、そうだ。トラクミルとゼノビア。しばらく上を見ないようにな」
「上ですか。了解です!」
「セレナもだぞ」
「ワフッ!」
俺は、皆に警告してから飛行魔術で舞い上がると、もうひとつ魔術を使う。
【煌輝!!】
数分掛けて飛行すると、地上に降りた。
バルサム達が寄ってくる。
「御館様。あの光は一体?」
「魔獣を蹴散らす為ですよね?」
ゼノビアが被せてきた。バルサムが睨み付ける。
「ああ。引っ掛かることがあったのでな。それより怪しい場所を2箇所見付けた。強いて言えば、もう1箇所無くもないが」
「おお、それは?」
「まずは、北にあるあの丘の向こう、100ヤーデンぐらいの所だ」
丘に登って茂み越しに、先程示した場所を見ると、直径50ヤーデン程の岩場があった。そしてなにやら、薄い気体が立ち昇っている。
常時発動している魔感応によると、薄く紅く見えるが、緩やかに虹色に変動している。
魔界のようだが、通常のものとは違う。
「ああ、大丈夫か? ゼノビア」
振り返るとトラクミルが、ゼノビアの手を掴んでいる。
「なんだか……少し立ちくらみと、さっきから吐き気が。ああ副長、大丈夫です」
「俺も少し」
たしかに岩場ほどでもないが、ここも魔界が乱れている気がする。耐性が高いであろう俺が不快感を覚える程だ、皆も大なり小なり感じているようだ。しかも何十体もやや大型の魔獣が屯って居る。
バルサムが横へ来た。
「ふぅ……あれは竜脈ですな」
「竜脈?」
ゼノビアが訊き返す。
「ああ。地脈ともいう。東方の思想の一端だがな。彼らの説では大地の息吹が通り抜ける路と言うことだ」
「えーと。さっぱりわからないんですけど」
「はあ……。公館の図書室に専門書がある。読んでおけ」
「はい」
「ですが、およそ竜脈というのは気分の良いところで、魔獣避けの場所と言うのが相場なんですが」
「確かにな。ただ変ではあるが、ここは外れのようだ」
「そうですか」
地下に何か空間があるわけでもない。
「2箇所目に行ってみよう」
岩場を東へ回り込んでみると。小さな丘がある。皆に体勢を低くするように命じて近付くと、そこに人が通れそうな洞穴が口を開けている。
そして、まるで護っているように、人型の魔獣が3頭居る。
むう。魔獣共を呼ばれては面倒だな。どうやって斃すか。
「ほう。怪しいですな。あのオーク共はお任せ下さい。 ਡਕਕਠਯ ਟਏਲਲੳਸ ਵਯਅਪਠਜਥਲਚਞ ਗਡਖਢ ਏਥਢਙ ਏਸ <<召喚 ゴーレム!!>>」
バルサムが事もなげに言うと、素早く呪文を唱える。
そして右腕を水平に翳すと。地から人型が盛り上がる。彼の得意魔術、ゴーレム召喚だ。それも3体。
泥人形から革鎧を着たオークへ、外観が変わる。
「行け!」
バルサムの指令一下、長槍を携えたゴーレムオークが堂々と近付いていく。
そして、何事もなく指呼の間まで近づいた時だった。ゴーレムオークが、3匹揃って、長槍を突き出した。いや、思いの外伸びた。その先端はオーク達の喉笛を、正確に貫いており、声も上げることも叶わず光と散った。
「すっげー」
「あれは、エグイ」
トラクミルとゼノビアが評する。
確かにな。だが今は。
「行くぞ!」
折角造ってくれた敵の間隙だ。さっさと中に入る。
しばらく進んだところで緩やかに右に曲がって居る。さらに進むと月明かりも入らず、入口が見えなくなったので、魔術で明かりを点ける。
ゴツゴツとした岩肌が目立つ坑だ。迷宮のような魔照明もない。
一本道だ、とりあえず進むか。
しかし、先行するセレナの足が止まった。
「げっ、行き止まりぃい!」
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
誤字報告戴いている方々、助かっております。
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2019/08/18 加筆、誤字訂正
2021/05/11 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




