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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
10章 青年期VII 非番と冒険編
215/472

208話 理解するものでなく愛でるもの

恐縮ながら連休進行にさせて戴きます。(ちょうど在庫が切れましたし)

なお、お盆明けすぐに遠距離出張を命じておりまして、併せて下記のように予定させて戴きます。

209話:8月18日日曜日,210話:8月24日土曜日(以降通常通り)

よろしくお願い致します。

 さっきできたばかりの城壁に登り切り、城外を見る。


「御館様は?」

 さっき、文字通り飛んで行かれた姿を探す。


「あそこよ!」

 ゼノビヤの嫋やかな腕の先。

 林の上空、御館様が物理法則をねじ曲げていた。


 距離にして300ヤーデン。

 月夜に白いローブは浮き立たせてる麗しき姿は、描かれた絵を見るようだ。


「はぁっ!? 飛んでいる……すっげぇ」

 俺の後ろで息を飲んだのは、最近騎士団へ入った魔術師アクランだ!


 まだ18歳と若い人族の男だ。いや若いと言えば、今そいつが見上げている先の存在は、16歳になられたばかりだった。歳は関係ない。


「はっ! そりゃあ、空を飛べるのは凄いけどさ。御館様はそれだけじゃないのよ!」

 ゼノビアは口は悪いが、面倒見は良い。何くれと無く世話を焼いてやっている。


「でも、こんなとこで見物してて良いんですかね? 副長から仮眠取っておけと言われたじゃないですか。特にゼノビアさんは」

「ばっかじゃない? 御館様が戦われるところを見ずして、寝てなんかいられないわ。大体見物じゃなくて見学よ! ほら始まったわよ!」


 なっ!

「うわっ!」


 すっと真っ直ぐな糸が生まれた。

 そう見えた。

 だが魔術師には分かる。その細き線に如何ほどの魔力が籠もっているか。その先で魔獣が爆ぜた光粒子が散る。


 次の瞬間──

 御館様の腕から、何本もの光条が迸った。

「おおっ!」

 ああ……有り得ん。


 林の梢の間から、煌びやかな火花が次々と散っていった。


「あそこにいたのは……」

巨牛(アピス)よ! 副長の話を聞いていなかったの?」

 聞いていて、その命に背いているゼノビアはどうなんだ?


 しかし、俺の(つたな)い感知能力でも分かる。

 あの強大な魔獣が、あの一閃一閃で斃されて行っていることが。


 その眼に恐ろしくも地味な光芒の瞬きは、長く感じたが、実際にはものの数秒で消え去った。

 御館様は移動を始めた。

 まさか、あれだけで全部斃したのか。


「飛んだ上に、攻撃魔術なんて! 信じられません。だっ、大体何発撃ったですか?」

「フン。20発弱ね! そうよね?! フロサン」

「あっ、ああ」

 ゼノビアに促されて肯く。


「この城壁を魔術で築いた日に、空を飛んで。ほとんど使い手が居ない光属性攻撃魔術を乱れ打ちって、とんでもない魔力量……やはり、御館様は天使様なのか」


「天使様? はあ? 何言ってるのよ」

「いえ、ソノールで噂になってたんですよ。コボルト達が御館様をそう呼んで、崇めているって」

「コボルトォォ? そうだ! フロサン。あんた、先月御館様と一緒にソノールに行ったでしょ。何か聞いていないの?」

 俺に詰め寄ってくる。


 あれか!

「聞いた話だが。スワレス伯爵領に居る大勢のコボルトを連れて、新しくできた、父君のラングレン男爵領に移住させたって」

「はぁ?」

 ゼノビアの目が吊り上がる。

「そんな話、初めて聞いたわよ! 何のために、あんたにソノール行きを譲ったって思っているのよ!」


 あれ? 譲られたか?


「そっ、そんなことより、また始まるみたいです!」

「おおっ!」

「うぅわぁ、なんだあれ?」


 光魔術は光魔術だろうが、全く別物だ。それだけは分かるが。それ以外は及びも付かない。

「一瞬で終わって……しまった。あんな魔術見たことない」。

「そうなの?」

「ゼノビアさんは、分かるんですか?」


「はっ、天才ってのは理解するものじゃなくて、愛でるものなの」

「それって、わかってないってことですよね」


「うるさい。いやぁーー、良いもの見られたね。こりゃあ、腕が鳴るわねえ。寝てろとか! はっ! やっぱり石頭のいうこと聞かなくてよかったね」


 んん?

 アクランの顔が引き攣っていく。なんだ? 後ろ?


「俺の頭が硬いことを、よく知っていたな。ゼノビア」


「はぁ? げっ!! ふっ、副長!!」

「どうやら、今夜の同行者を見直さないといけないようだな!」


「ああ、そればかりはご勘弁を!」


     †


 アピスは殲滅したが……速度が上がらなかったな。

 一体当たり0.2秒を切れない。折角の光魔術の速達性が活かせていないということだ。

 眼が疲れたな。


 疲れた?!

 そうか。魔術といえども、照準は視覚だ。物理的に眼球を動かして行う。

 だから疲れた。

 それに時間が掛かる。変位の上、距離に応じて焦点合わせ……か。これ以上の高速化は厳しい。あと、ぐるぐると眼球動いてたら見た目に気持ち悪いだろう。


 などと考えていたら、紅毛熊の群れの上空だ。


深甚(シラマナ)!】


 物理的な眼が足を引っ張るならば、視覚を使わなければ良い。

 瞼を閉じて、魔感応で照準──


 視野を大きく超えた範囲。闇に熊が無数に現れ……一瞬で全ての赤毛に意識が紐付いてく。

 腕を広げ、頭頂に魔素(マナ)を集約──

 耳障りな微振動がうなりを上げる。


並行励起(カンクゥレン)!【閃光(ゼノン)!!】】


 眉間の先。

 瞼越しにも目映い光球が顕れるや、何者よりも鋭利な光条を四方八方へと迸らせた。


     †


 新しい郭に降りていくと、騎士団の駐屯地前に人垣ができていた。地に降り立って、光学迷彩を解く。


 うるさいな。

 俺を認めたボルソルンが寄ってきて何事か報告しようとするが、喧噪でよく聞き取れない


音響(ソノ)結界(シーマ)!】


「おっ、おう。急に静かに」


「なんの騒ぎだ?」

「御館様。お戻りなさいませ。これは……御館様がお出かけになった後、住民が集まって来まして」


「馬出の門は開いているだろう」

 通行は阻害していないはずだ。


「いっ、いえ。一目御館様の姿を見たいと申しまして」

「俺を?」


「ああ、というか、壁を造った者という意味ですが。何かお言葉を与えては如何でしょうか?」

「俺がか?」

「もちろんです。壁を造られたのは、御館様ですから」


 何の意味があるか分からんが、このままでは仕事にならん。

「わかった。やってみよう」


解除(ハァルト)!!:音響結界!】

光翼鵬(アーヴァ・ガルダ)!!】 


 3ヤーデンに浮遊。


「静まれ…… 静まるのだ……」


 怒号に対するに合い相応しくない儚き声音。


「……静まるのだ……」


 怒号が失せ、喧噪が収まっていく。

 静まれ──


 風が聞こえた。


「我が名は、ラルフェウス・ラングレン──壁を築いた者だ」


 皆、呆けたように俺を見上げている。


「見よ」


 俺の腕の先に、光が生まれた。

 それが墜ちた。

 ドスドスと音を発て転がる。転がる。いくつも滑るような光沢を湛えた塊が地に溜まり、やがてカチカチと金属音に変わってきた。


「魔結晶! 魔結晶だぁぁあ!」

「ああ確かに。あんなでかいの見たことねぇだ!」

 魔結晶と理解した上で、誰もそれを拾おうと出て来る者は居なかった。


「その通りだ。手始めにボアンの周りの牛と熊を屠った。それらが証だ」


 再び喚声が沸き上がった。

 掌を翳し、静まらせる。


「背後の壁は、魔獣の攻撃を幾ばくか耐えることができるだろう。だが、所詮は只の土だ。忘れるな! 真に頼るべきは魔術に非ず。自らを頼れ、同じ境遇の者と団結せよ!」


 一拍遅れて、おうと響めいた。

 理解できたのか、できないのか?

 いずれにしても、皆は肯いた。


「それから……セレナ!」


 ゲルの木戸がバンっと勢いよく開くと、蒼白い塊が飛び出してきた。

 瞬く間に、ここまで駆け付けてくる。


 うわっと悲鳴が上がり、俺の前に居た民衆が数歩飛び退いた。

「まっ、魔獣!!」


 戦慄が人垣に奔る中、当のセレナは無関心だ。俺に頭を擦りつけてじゃれる。


「その通りだ。しかし、我が従魔のセレナだ。皆に危害は加えない、手出ししない限りはな」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2019/08/10 誤字脱字,細々訂正

2019/08/12 誤字脱字, 細々訂正

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