200話 父母の駆け引き 吹き飛ばす妹
祝200話!到達!
呼んで戴けている皆さんのお陰で、続けられています。引き続きよろしくお願い致します!
祝なので祝日UPです。
執筆がんばろ……。
城に戻ったが、親父さんは執務していたので、邪魔しないように南の館に来た。
勉強を終えたソフィアとカードで遊んでやっていたが、一緒に来ているパルシェがお昼寝の時間ですと言って連れて行った。
親父さんが、ようやく居間に戻ってきたのは3時。お袋さんも一緒だ。
「あら、ラルフ。おかえりなさい。どこへ行っていたの?」
「ゼーゼル村です」
「ほう。もう行ったのか」
「はい。ローザと一緒に」
「ゼーゼル村って?」
お袋さんが訊いてくる。
「南東に25ダーデンぐらいの所です」
「ええ? そんなに遠いの。お昼は、城で食べていたわよねえ」
もう戻ってきたの? ということだろう。
「ああ、空を飛んで行ったので」
ローザがお茶を淹れ始めた。
「えぇと? ラルフが飛ぶのは分かるけど、ローザちゃ……ローザさんは?」
「ああ、抱いて一緒に飛びますけど」
「んっまあ! あとで私も飛んでもらおう……って、ラルフ嫌そうな顔しない!」
「あっははは。それで、レイア殿には会えたのか?」
「はい。親父殿の要請に応えてくれるそうです」
「おお、そうなのか。流石はラルフだ! よくやってくれた。クリストフにも話しを通しておく」
「レイア殿と言うと、ガスパルの……」
ふーむ。お袋さんの表情からして、あまり好ましくは思っていないようだ。
もしかして嫉妬か?
なかなか若くて綺麗だからな。
「なんです。ラルフ。お母さんの顔をじろじろ見て!」
「いえ、特に」
ウチの家系の女性陣はみんな勘が鋭いよなあ。
「まあいいけれど。それより、あなた! ガスパルの者を麾下に置けば、我がラングレンの度量の広さも示せますしぃ。ガスパルに縁深き者達を取り込みやすくなる。というのは分かりますが」
うーむ。いつもながら、お袋さんは明け透けだな。
「なんだ。ルイーザはレイア殿を迎えること、反対なのか?」
「反対ではありません」
「そうか。それはよかった」
「しかしですね……うーむ」
「レイア殿は、領地のことも領民のことも良く分かっている。またなかなか内政の才もあるようだ。流石ラルフが推すだけのことはある」
お袋さん。親父にやり込められたからと言って、俺を睨むのはやめて欲しいのだが。
「うん。やはりローザのお茶は美味いな!」
「ああ、それと」
親父さんがこっちを見た。
「親父殿とお袋に確認しておきたいのですが」
「んん?」
「ソフィーのことです」
「ああ……なんだ?」
「昨日、ソフィーは一緒に王都に戻ると言っておりましたが。7月からの3年次も王都の学校に通わせるで、よろしいのですか?」
親父さんは、数度瞬くと上を向いた。
「うーん。私としては、ここに戻しても良いように思う。学業は家庭教師を雇えば良いと思うが」
親父さんとしてはそうだろうなあ。
男爵以上の貴族の子女は、そうすることが多い。
まずは王都やソノールの城内と違って物騒だ。登下校に馬車を使うとなると、馬の飼い葉、御者件厩務員、同行の警備員が必要になる。家庭教師を雇う方が安上がりなのだ。
そこにお袋が身を乗り出す。
「そう仰っても、教師の人選もできておりませんし。王都、特にあの学校の水準をここで整えるのは厳しいですわ」
今教えてもらっている人はダメらしい。臨時に来てもらったとは聞いたが。
それも一利ある。
お袋が教えるということもできるのだろうが、やる気はないようだ。政治向きのことをやりたいのだろう。
「つまり、お袋は、このまま王都の学校に通わせる方が良いと?」
「そうね。基礎学校の頃は情操面も微妙だから、頻繁に転校させない方が良いと思うの」
まあお袋さんはそう言うだろうな。
「第一、今戻れと言えば、泣くわよソフィーは」
「うーーん。そうだな」
こっちは親父の分が悪い。
「とりあえず、戻せるように家庭教師を探してみましょう」
親父さんが、細かく肯いた。
決まったな。
「そこで、もうひとつ相談なのですが」
「んん?」
「何、ラルフ?」
「ソフィーの魔力上限量は、相当高いのですが」
「ああ、基礎学校入学の時、聞いたな」
現在355だ。アリーの6歳時より高い。士官学校中等部の入学資格を十分超えている。
「それを言うのは、魔術師として育てるかどうかって聞いてるの?」
察しが良い。
「むう……」
「確かに、ラルフは基礎学校の頃には、森に入って狩りをしていたけれど」
「どちらかというと、アリーのように回復系の方が得意そうですけどね」
「ええ! もう教えてるの?」
「いいえ」
「本当? ローザさん」
むう。疑われている。
「はい。お義母様。アリーにも教えないように言ってあります」
頼まれもしないのに、面倒臭いっと言ってたな。
「そう。ラルフは、こと魔術に関しては信用できないのよね。ほら窓を壊したことがあったじゃない!」
まだ根に持っているらしい。
「まあ、回復魔術なら良いんじゃないか? どうだ?」
「そうね。ソフィーが教えてって言うなら、あれだけど……無理に教えちゃ駄目よ!」
「分かりました」
おっ!
パタパタと可愛い足音が聞こえてきた
「あぁーー。ここだった!」
ソフィーが入って来た。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
俺の腕を取って、ぶんぶん振る。
「なんだ?」
「王都に戻ったら、一緒に行ってもらいたいとこがあるの。いいでしょう?」
上目遣いで媚びてくる。8歳にして女だなあ。
† † †
2日後。
レイアが出仕してきた。
不承不承俺に挨拶すると、大理石業者と共にダダム孔に行き自分の眼で確認して帰って来た。
親父の希望で俺も立ち会い、執務室で、首尾を訊く。
少しレイアは興奮している。
「大理石のことは分かりかねますが、素人が見ても凄い物でした。ソノールとバズイール業者も、高く評価していました」
バズイールとは、バズイット伯爵領の領都の名だ。
「ええ、今日来た業者は、全て入札に参加したいと申しておりました。それとヴィクトル商会は、鉱夫の手配についても面倒をみると申しておりましたが」
「ヴィクトール商会ですか」
「んん? どうしたレイア殿」
「ヴィクトール商会は、バズイット伯爵との関係深く。半年程前、彼らがいくつかの鉱区から鉱夫を引き上げさせたことで、ガスパル領政府の財政破綻が決定的になりました。彼らも、商売ゆえ儲からぬと断じれば、撤退するのは自由ではありますが」
悔しそうな顔だ。
うーむと親父さんが唸った。
「御館様」
クリストフが親父さんに目配せする。
「うむ。話せ」
「それについては、当方でも調べたところ、ヴィクトール商会が、他の業者の鉱夫にも圧力を掛け辞めさせたり、作業を妨害していたことが判明しました」
「真ですか?!」
レイアの眉が吊り上がる。
「うむ」
「それで、事態が変われば、再び顔を拭って出て来たと言うことですか。許せぬ……失礼致しました」
「うむ。確かに許せぬな。エルメーダの民の困窮の何割かの原因を造ったのだからな」
「はあ……しかし、困りましたなあ。彼らの手を借りねば、鉱夫を雇うこともできないのも、また事実!」
「うむ。それについては、私に考えがある」
†
執務室を辞した。
「ラルフェウス様!」
振り返ると、レイアが追いかけてきた。
「何か?」
「ダダム孔の件ですが」
「ん?」
「私、今日初めて行ってきました。聞いた話では、その底は大きな瓦礫で埋まっていたはずです。しかし、行ってみたらまるで整地したかのようで。兄達に騙されたのかと一瞬思いました。が、表面は誰も歩いたこともないように、真新しい物で、以前からああなっていたとは思えません」
「何が言いたいのか?」
「ラルフェウス様が、なさったことですよね?」
「で?」
「分からないのは、それをラルフェウス様は誇りもせず、御館様も分かっているはずなのに反応されない。なぜです?」
レイアが詰め寄って来るところを、ローザが遮った。
「ここが、どなたのご領地なのか、考えればわかることです」
ローザの頭を撫でると、踵を返した。
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訂正履歴
2019/07/15 家庭教師を雇う理由追加。ソフィーの媚びてきた記述修正。
2019/07/26 誤字訂正(ID:496160さん ありがとうございます。)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)




