197話 ダダム孔
祖父祖母世代まではともかく。それより前の祖先どんな人間だったか、ほとんど知らないんですよね。唯一母方の祖母の実家の4代前の祖先が親孝行で住んでた地方で有名だったらしいと、母の従妹の人から聞きましたけど。だからーって感じですわ。
ソフィーは、部屋で勉強していた。
一人ではなく教師が付いている。エルメーダ用なのか? まあ後で聞いてみよう。邪魔をしては悪いので、軽く挨拶をしただけで部屋を離れた。一週間と離れていなかったからな。
まだ3時だ。
まあここに住むわけでもないし、城内は余り興味がない。
城外には行くところは2箇所思い付いたが、片方はローザと一緒に行った方が無難だろう。
したがって、向かうはダダム孔だ。
中庭に出て、 光翼鵬で飛行する。
城からたった3ダーデンだ。瞬く間に到着した。
上空から見下ろすが、この前見たときから何も変わっていない。
ダダム孔のダダムとは、俺が斃したゲランと同じく、超獣に付けられた仮称だ。
光神暦327年、今から54年前のこと。
この地の領主だった俺の高祖父、俺から数えて4代前の父方直系祖先とその息子、さらに母方の大叔父が、超獣ダダムを足止めした時にできた大穴だ。
なぜ、ここへ来たか?
前回この近くを飛行した時に、かなりぼんやりしているが魔界を感じたからだ。その魔感応は今も変わっていない。
何だろう。
魔獣が居るという反応ではないのだが、心がざわつく感じだ。
50年も前の話で超獣が昇華したときの痕跡が残っているのかも知れない。こんなに近くにいるのだ、原因を調べた方が良いだろう。
魔界の発生源は、穴の底だ。
───穴の底に水が溜まっているので 分かり辛いですな
───炭酸カルシウムでしょうが
出て来た。ガルとゲドだ。
「炭酸カルシウム?」
───石灰岩の成分ですな 魔導を感じますが
───超獣の痕跡ですかな……
【本当か?】
降りてみるか。
高度を下げ、ダダム孔に入っていく。口は直径150ヤーデン位あったが、下がって行くにしたがって狭くなっていく。
水面間近まで来たが、差し渡し80ヤーデン位になった。見上げると、口までは100ヤーデン強だ。
露出している岩塊に降り立つ。
水は結構澄んでいるので覗き込むと、巨大な瓦礫が折り重なっている。しかし、どう見ても石灰岩だ。
「じゃあ、水を取り除くぞ!」
再び舞い上がり、瓦礫ごと魔収納で入庫する。
【魔収納!!】
多少凸凹が有るが、床ぽい平板になった。
───はあ いつ見ても御館様の収納魔術はデタラメだな
───ほんに ほんに
───超獣退治より土木工事の方が向いて居るのではないか?
───館の地下は もはや迷宮になっているしな
あぁ、うるさい!
「で! どうなんだ?」
───足の下2ヤーデンぐらいから 結晶構造が変わっていますな
───変成ですな
引っぺがせばはっきりする。
「分かった。2ヤーデンだな!」
形を想起──
【鑿井 改!!】
1ヤーデン角で深さ25リンチの穴が突如開いた。
穴の底はつるっつるになってる。
井戸掘り魔術を改良したものだ。
出庫!
岩盤から切り取った、板状の直方体を立てる。
穴を覗き込むより見やすい。が、平面は向こう側になった。
回り込んで──
【光輝球!!】
頭上に放った光源が、直方体を照らし出した。
「おおぉぉ!」
薄い緑がかった肌に、上品なむらがある。
まさしく大理石だ。鑑定魔術を使うまでもない。
俺の目には、なかなか高級に見える。なんだか王宮の床材に近い気がする。
───それだけではない
「ん?」
───かなり均質な層が数百ヤーデン いや数ダーデン規模で分布してる
───なかなかの埋蔵量だな やはりあれか?
───ああ おそらくあれだ!
「あれとは何だ?」
───魔導変成だな ダダムという超獣が抜け出そうとして 魔界を放出したと推測される
───それによって岩盤が再結晶したのだろう
「それで大理石になる……のか?」
言い掛けたときに突如頭の芯が冷えた。
例の現象だ、いや、症状だ。
「熱接触変成みたいなものか?」
数瞬前に流れ込んできた知識を口にしてみた。溶岩に接触した、石灰岩が再結晶化することだ。
───その通り ただ熱ではなく魔導によるもので 有効範囲も広い ただし反応はゆっくりですが
つまり、超獣が昇華時に発散した魔界による魔化が、今も残留しているということか。
そうか、親父さんに報告しないとな。
しかしだ。まだ胸騒ぎがが消えない。
原因は、この大理石ではなかったのか?
眼を閉じて心を無にする。
【深瞑】
どれだけ経ったか分からない。
気が付くと、一角を睨み付けていた。
†
次の日の朝。
再びダダム孔の丘に来た。
親父さんとお袋さん、それにローザや従者も一緒だ。
ソフィーは、親父さんが城に居ろと止めた。
「ここなの? ラルフ」
「はい」
瓦礫の山を抜けていくと少し開けた平地があり、丘の頂上に続く断崖が見える。その岩盤に直径3ヤーデン程の奇麗な穴がぽっかりと開いている。
その奥は暗く、見通せない。
だからか、お袋の顔がやや蒼い。
「やはり、ルイーザはここに居たらどうだ? ローザンヌ殿と一緒に」
親父さんが心配そうに声を掛ける。
「いえ、私の問題でもありますから」
「……わかった」
「では。行きますか」
【光輝球!!】
明かりを確保し、先行して坑道へ入っていく。親父さんが、お袋の手を牽いて付いてくる。
「ほう。こんな坑があったとは聞いてなかったが……ダダム孔に繋がっているのか?」
「ああ、この坑は昨日2人に来て戴く為、新たに」
「この穴ラルフが掘ったってこと?」
「ええ」
「ふーん、いやはや……」
昨日、ガルやゲドも呆れていたが。
その後は無言となった。この先に待つものを皆知っているからだ。
十数分歩くと、ダダム孔に行き当たった。
「なんと」
「まあ……!」
「ここまで大きい穴とはな。いずれ見に来ようと思ってはいたが」
「空が見えるわ」
蒼く切り取った天球を雲が流れていく。
「あれは?」
腰高の何かに掛けられた布を親父さんが指す。
「後程、説明します。では、まずこちらへ」
昨日睨み付けていた方向。
こちらにもぽっかりと、いびつな穴が開いている。
「あそこか?」
「はい」
親父さんが、お袋さんを見遣る。
「大丈夫よ」
その穴に入る。
「さっきと違って歩きづらいわね」
まあこの穴は俺が開けた訳ではない。瓦礫で埋まっていたのを片付けただけだからな。
お袋さんに合わせてゆっくりとしばらく進むと、行き止まりになった。小さい部屋のようになっている。
そこには、やはり布がこんもりと盛り上がりを見せていた。
「ラルフ、間違いないのか?」
「はい」
「ルイーザ。気を強く持て」
肯くのを待つ
「失礼致します」
俺は胸に当てると、布を外した。
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訂正履歴
2019/07/06 掘り出したモノリスに関する記述(寸法間違い)を修正
2019/07/11 脱字訂正(ID:496160さん ありがとうございます。)
2021/07/31 ルビ付け訂正(ID:209927さん ありがとうございます)




