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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
10章 青年期VII 非番と冒険編
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195話 休日の過ごし方

貴族と言っても平安貴族の話ですが。

物忌みと言って外出もできない日が、1年に1ヶ月程もあったそうで。なんとも不自由だなあと思っていたのですが。実は平安貴族は年中無休だったそうで、毎日宮中へ参内するのが慣習。だから、物忌みです!と言って何割かはズル休みということだったらしいです。思い込みはいけませんね。

 王都に帰還してから、数日間は王宮へ行ったり、俺や騎士団を後援してくれる義母上やらオルディン殿などの元を訪れ忙しくしていた。


 5月12日。

 ようやく業務が一段落した俺は、王都を離れた。

 上級魔術師というか、超獣対策特別職は非番であれば、3日以内に戻れるという条件で王都を不在にすることが許されている。


 なお、今回の同行者は最低限だ。ローザ、ダノン、フロサンにヘミングだ。他にゴーレム従者は収納して持って来ている。

 セレナも連れて来るつもりだったが、アリーが是非貸してくれと言うので、置いてきた。どうするつもりだと訊いたが、秘密だそうだ。まあ、セレナが同意していたから構わないが。


 行き先はソノールだ。

 まずはスワレス伯爵様に皆で謁見し、超獣撃滅について絶賛戴いた。無論、ご協力のおかげであると御礼申し上げた。領内の子爵や男爵といった貴族が集まる中、一層の人的および経済的支援を約束してもらった。


 経済的とは、騎士団への寄付金だ。

 やはり実績というのは大きい。

 以前から俺を買ってくれていた伯爵(アンドレイ)様というよりは、有力家臣の方々を説得しやすくなったということらしい。

 オルディン殿に拠れば、つい先日まではスワレス伯爵領政府内でも、伯爵様が俺に便宜を図り過ぎているという声がそれなりにあったそうだ。しかし、今では領内から出た傑物ということで、俄然乗り気になっているそうだ。


 まあ、1度の成功でそこまで変わるなら、失敗でも反作用が出るだろう。世の中そんなものだ。心せねばならない。


 昼過ぎ。伯爵様達から解放してもらった俺達は、そこで別れた。

 ダノンやヘミングは王都へ戻った。

 フロサンはソノールにしばらく駐在だ。彼の実家があるからな。

 それはともかく伯爵様に頼んで連絡所を設置させてもらった。都市間転送と通信魔導具により王都からの高速連絡網を作った。フロサン1人で大丈夫かと思ったが、問題になるのは王都に呼び戻し指令が来る場合だが、その時は王都から人が来るので大丈夫だ。


 その上で、俺とローザは旧ガスパル男爵領、今ではラングレン男爵領となった場所に向かった。


 2人なので馬車を使わずに空を飛んでいく。十倍以上速いからな。


 目的地に差し掛かったので高度を下げる。

 一応、辺りを見回したが、人気がないのでそのまま道に降り立つ。


「あのう、ここはどこでしょう? 領都(エルメーダ)ではないですよね」

 俺と抱き合って飛んでいたときは、うっとりして蕩けるようだったローザは不審そうに辺りを窺っている。

 流石に小山が連なる林ばかりが目立つ場所だからな。不安に思うのも無理はない。


「ああ、ハキム村という所だ」

「ハキム村……お知り合いでも? まさか女性とか?」

 鋭いな。

「その通りだ」

 少し眉が逆立つ。


「ここでは、これを使う」

 魔石を取り出して魔力を注ぐ。するとまもなく、魔石が耀きだして、ローザが光に包まれた。


「なんなんです? まあ服が! あら?」

 男爵夫人の旅装から、王都東門で良く見る地方出身の商人ぽい出で立ちに変わっている。


「擬装魔道具だ。まあ変わっているのは、見た目だけだがな」

「それで触った感じと違うんですね」

「ああ、それと」

 手鏡を渡す。


「あっ、ええ? これは誰?」

 自分の顔を映し見て驚いている。

 それなりに整っては居るが別人だ。それに年齢も10歳くらいは老けて見える。


「で、俺も」

擬人装(マスケラーレ)


「……えーと、あなたですよね?」

「面影ないか?」

「ないというか、対照的というか。早く戻して下さい」

「そうもいかん、この姿で会わないとな。ちなみにこの男はヒューゴと名乗っている」

 その名前も気に入らないらしい。あからさまにむっとした顔になった。


「そうだな、ローザはアンヌでどうだ?」

 ローザンヌの後半だ。

「それは構いませんが」


 荷車を牽いてきた男に家の場所を訊き、そこそこ大きな家の門前にやって来た。


「こちらにお住まいなんですか? 見たところ農家のようですが」

 そうシュテルン村でよく見かけた小作農ではなく、そこそこの分限者のようだ。間口も広く、納屋やら蔵やらがいくつも建っている。

 日干し煉瓦を積み上げて作った母屋と見られるところを入って行くと、庭に蓙を敷いて、壮年女性が作業をしている。長柄の先に角材が紐で繋がっているものを蓙の上の作物に打ち付けている。豆の脱穀らしい。


「こんにちは! こんにちはぁあ!」

 大声に気が付いたようで、手拭いで顔を拭いながら、こちらを振り返る。


「おぉぉぉおお! あんたは、ヒューゴ、ヒューゴじゃないか!?」

「ええ、フアナさん。お久しぶりです」


「どうしたんじゃ、こんな所へ?」

「商売ですよ」

「ああ、そうじゃったなあ。ふぅーん。で、この人は?」

「ええ、連れ合いのアンヌです」

「どうも、こんにちは」

「こんにちは。なるほど、器量好しじゃ。ヒューゴも隅に置けんのう……あっついからな、まあ中に入ると良い」


 母屋に入って土間の端に腰掛ける。


「ああ、只の水で悪いが」

 出してもらった杯から喫する。


「おいしい。美味しい水ですね」

「ははは。奥さん、ハキム村はな、山に降って浸んだうまい水が湧いて飲めるんじゃ」

 伏流水か。

 軟水だな。石灰岩質のエルメーダ辺りとは地盤が違うらしい。


 確かに王都の水は、そんなに美味くはない。だから茶文化が発達したとも言えるが。シュテルン村から王都に出て来た頃は、お茶が美味く淹れられないと、ローザが嘆いていたが。


「良いところですね、この村は」

「うーむ、自然は良いがなあ」

「何か不自由なことでも?」

「亡くなった夫がやっていた村長を、今は儂がやって居るが、なかなかな。皆貧しいわ。じゃが、希望もできた」

「ほう! そうですか?」


「おうさ。商人なら知っておるじゃろう。ここらの御領主が代わられたこと」

「ええ。まあ」

 ローザじゃなかったアンヌがこっちを見た。


「昨日な、実はエルメーダの城に呼ばれて行ってきたのじゃ。村長やら名主、町の顔役とかなも、大勢一緒に呼ばれたんじゃがなあ」

「はい」

「それがラングレン様というが、まあ、良い男でなあ。驚いたわ」

「へっ、へえ」

「おうさ、まあ奥方もなかなか美人じゃったが、あれは疳が強そうじゃ」

「はあ」

 アンヌ、肩が震えてるぞ。


「でもな、王都に行っておられる跡取り様が、何でも恐ろしい程の美男子だぞうじゃ。死ぬまでにお目に掛かりたいのう」

 アンヌ、こっち見て笑うんじゃない


「ああ、フアナさん。男も見た目が大事ですかねえ?」

 訊いてみる。

「あったりまえじゃ。もちろん顔形が整って居るだけじゃ駄目じゃ、眼に力がない男は使い物にならぬ」

 凄い偏見だな。


「はあ」

「いやいや、ヒューゴも捨てたもんじゃないぞ。なあ奥さん」

「はい」

「俺はともかく、新しい御領主はできそうな御仁でしたか?」

「うむ。賦役は極力減ずると約束された。前のガスパル殿がやっていた奢侈な生活はしないともな。それに感化されたのじゃろう。帰り道で、町の者達が新御領主に協力しようと言っておったわ」


「はあ、贅沢しないだけでですか?」

「ふふ。お主がこの前来たときも言っただろう。ラングレン家と言えば、ガスパル家の前の御領主のお血筋じゃ。命を捨ててエルメーダを超獣から護った偉ぇえ御領主様のご一族じゃ。恩を返さねばと言っておったわ。まあ儂に言わせれば、3代も前の話じゃから、期待しすぎるのはどうかとは思うが」


「そりゃそうだ。時に。レイア様は今どちらに?」

 ローザが誰という顔で俺を見遣る。


「んん? うーむ。先月隣のゼーゼル村の修道院へ入られたそうだが。ああそう言えば、隣のボソン村の村長が昨日エルメーダでお見かけしたと言っておったが」

「へえぇ」


「そうじゃそうじゃ。2人とも昼飯は食べたかの?」

「ええ。食べました」

 さっきソノールの城で食べましたよとは言えないな。


「そうかそうか」

 フアナさんの皺が多い笑顔を見ていると、初めて行った家なのにとても懐かしい気がした。


     †


 馬車で、エルメーダの町に入った。


「はぁ、さっき空からも見ましたが、綺麗な街並みですね」

「ああ、この前より人通りも多いな」


「あのう、この前と申しますと?」

「12月だ。シュテルン村で披露宴をやった翌日だ」

「ああぁ。お義母さまと、ソノールのお館へ行った日ですか」

「そうだったな」


「その頃に、こうなるとご存じだったのですか」

「他言無用だ。親父さんにもな」

「承りました」


 目抜き通りを進み出したが道の工事をやっていて、頻繁に滞る。

 作業しているのは半分ぐらいが兵、あとは服装がばらばらだ。


 じっとローザが俺を見てる。

「ん?」

「いえ。なんだか、随分嬉しそうだなあと」

「まあな」

「私も嬉しいです。あなたと2人きりですし」


 御者台にはレプリー、後部席にはメイド2人が座っている。

 確かに全てゴーレムだ。ゴーレムメイドの方は連れて来る気はなかったが、男爵として恥ずかしくない随行がとローザが言いだしたので連れてきた。


 だらだらと坂を上り、城の門前まで来た。

 半年前も来たが、何やら感じが違う。気の持ち様か?


「失礼ながら、どこの御家中か?」

 レプリーの視界が、映し出される。


「御乗車されているのは、御領主の御嫡男であらせられる」


「ご、御嫡男? 御嫡男のラルフェウス様は只今王都へ……」

「しばし、しばし……」


 門の奥の坂を転がるように男が喚きながら駆けてきた。

 見覚えの有る顔だ。


「ああ、やはりこの御紋、この馬車をお通しするのだ!」

「はっ!」


 門番が弾かれるように、両脇に避けた。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2019/06/29 魔術名の誤り訂正 光学迷彩→擬人装

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