1話 輪廻審査と全言語(チート)能力
新たに3作目の連載を開始します。よろしくお願い致します。
序章につきましては,まとめて投稿致します。
「**君、**君!」
俺は、自分の名前を呼ばれて、意識を取り戻した。
白く明るい空間。いや部屋か。どこなんだ?
「**君!」
「あっ、はい」
目の前に豹頭の人型が居た。
うわっ! 豹人間だよ! そう、表層では思うが、なぜだか興奮しない。
机の向こうに座って、書類を見ている。
「私は天界福祉庁××銀河支部の輪廻審査官だ」
「輪廻……」
「前回、補助審査官と話したはずだが」
そうだった!
「はっ、はい。思い出しました」
この部屋も、1度来たことがあった。それで、なんか、もわっと霧の塊のような……何かと話した。その時は疑問にも思わなかったけど。
そうだ。俺は、輪廻に向けた審査を受けるんだった。
なんだか、このところ、ぼぅぅっとしてしまっているんだよなあ。
「ああ。亡者の意識レベルは、低く抑制されているからね。無理もない」
「はあ……」
「悪いが、とても立て込んでいてね。そこに座ってくれるかね?」
豹の顔が器用に喋っている。そして、なぜだか言葉が通じている。
「はい」
素直に座ろうとして、足下を見る。足下? 足どころか脚が無いけど、一応ぼやっと何かありそうではあるけど。
そうか。輪廻すると言うことは……。
死んだんだよなあ。実感は無いけど。
あれ? 前回もそうだったけど、ドキドキも興奮もしない。変だな、妙に落ち着いている。何とか座れたらしい。
豹がじっと見ている。
「それでだ。来て貰ったのは、君が死んでから、今日は49日目。最終結果を告知する本審査だ。いいかな」
豹のことはよく分からないが、声は男だ。頭の上には光の輪が……天使なのか!
「あっ、はい」
答えた刹那、その豹頭天使の周りを、紙なのか何なのか、とにかく無数の小さな四角い物が円筒状に取り囲んだ。それを読んでいるようだ。
「ああ……予備審査では、微妙な状況で、ただの心臓麻痺かどうか決めきれなかったんだよ。それで死因の告知は延期したと」
「はい」
1つの四角をつんつんと指で触っている。
「ふーん。働き過ぎだな。君の死因は、いわゆる過労死で決着したよ!」
「過労死!?」
「寿命が短縮してしまったのは、天界の管理不行き届きの面もあるからさあ。追加でポイントあげるし、やらせた方も厳正に審査して問題があったら、亡くなった後に罰を与えるよ」
「ああ、はい。ありがとうございます」
ああ、過労死したのか。ずっと残業月100時間とか軽く超えていたからなあ。
「他には申し送りなし……他に、これと言って悪事履歴なしだな」
「多分……」
すると豹頭天使に周りに漂っていた、四角がすうっと集まって消えた。紙じゃなくて、光の表示みたいだ。
「じゃあ。本審査結果を発表するよ。予備審査で補助審査官が知らせた繰り返しになるけど。君の前世における霊格ポイントは……善行による+157ポイント、27年間の生涯の割には高得点だね。それから……さっき言った寿命短縮補正で+29ポイント、併せて186ポイントだ。100ポイント以上なので、個体意識のある高等生物への輪廻となる」
「はい」
死因以外は予備審査で聞いた通りだ。
死んだことは悲しいが、来世も高等生物のようだ。不幸中の幸いだな。来世が蛙とか嫌だもんな。
「それから、本題の輪廻先だが……」
そうだ!
本審査では、それが決まるんだった。
「空きを勘案した結果、第2723星系第2惑星の人族男性に決定した。誕生予定は、3年後だ」
「3年後……ありがとうございます」
「今度は過労死しないようにね」
「はい。気をつけます」
「ん? ちょっと待って。過労死か……(ぼそ)向いてるかもな」
天使が呟いた。後半が良く聞こえなかったが。
「何か?」
表示が閉じた。
「いや、なんでもない。これから、余剰86ポイントによる来世の能力ボーナスを説明するよ!」
「ボーナスをくれるんですか?」
「ほら、やっぱり。何事もインセンティブがないと、やる気が出ないでしょ?」
なんか釈然としないが、そう言うものなのか?
まあいいや。ボーナスかぁ、善行は積むものだな。
「過労死なあ……」
豹頭天使は、ぼそっと何か言ってこちらを睨むと、考え込んでいる様子だ。
さっき消えた表示をまた展開した。
審査官の人相? いや豹相……なんか、悪い顔してないか?
それに確か、立て込んでいるのじゃなかったか?
「ああ、ごめんごめん。能力ボーナスだけど。86ポイントの場合、この3種、じゃなかった、4種から選べることになっている」
頭の中に、選択肢が浮かぶ。最初3種類だったのが、一瞬後に4種類に増えた。
(1)体力+20%補正
(2)知性+10%補正
(3)外見+15%補正
(4)全言語能力取得※
うーん、どれにするか……。なんか、(4)だけ、他と違うような……それに※は何だろう? 初めは3種って言ったのも気になるな。
「あのう、(4)の……」
「(4)にするかね!」
なんか、食い付きが良いぞ。この豹頭天使!
「ああ、いえ。この※は、どういう意味かなと」
「ちっ!」
えっ。舌打ち?
「(4)はね、キャンペーン中だということだよ」
キャンペーン?
「本来は余剰400ポイント越えの偉人級に与えられるボーナスなんだよ。全言語の取得のために必要な知性補正+800%が入っているし。ああ、800%って言っても8人分賢いって意味じゃないけど」
じゃあ、どういう意味なんだ?
「とにかくすごいんだ。どうだね、お得だろう! これにするかね?」
うーん、おいしいんだろうなあ。
だけど、おいし過ぎて怪しい。そもそも(4)が有ったら、(2)の選択肢の意味がなくないか?
「(4)ですが、他に何か付帯条件みたいなものはありませんか?」
それを聞いた豹頭天使の顔が、明らかに残念そうに見えた。
「ああ、後で説明しようと思っていたんだが。輪廻までの3年間に10,000ポイント相当の善行を積んで貰う必要がある」
「10,000!」
無理だろう。27年間で157なのに、3年で10,000って!
「ああ、心配ない。天界では神通力を使って仕事をするから、相場は高いんだよ。余裕だ!」
「はあ……」
そういうことか。うーむ。しかし、これは考え物だ! 甘い言葉には、やっぱり裏があるんじゃ? 前世と同じで。
「では……」
「うん。(4)だな。わかった!」
「いや、言ってないです」
「でも、(4)の1択だろう! (4)にしなさい。いや、してくれ。助けると思って。なっ、なっ、なっ!」
豹の顔で迫らないでくれるかな。死んでるから恐くはないけど。
かなり引っかかるが、でもまあ、本当においしいかも知れない。
「じゃ、じゃあ……(4)で」
「よし、決定!」
豹頭天使がそう言った瞬間、俺は光に包まれた。
「今、君は補助審査官になった」
「はっ、はい」
なんか少し心が動くようになった。
「能力を前倒しで付与したからね。クーリングオフは効かないよ。精々働いて貰うからね! 私のことは、ドゥエスヤマテンテガルマスタスファルスリーショウソーエル審査官と呼び……いや、長いからソーエル審査官でいいや」
「……私は、何をすれば良いのでしょうか?」
「ああ、私の助手をやって貰うが。まずは20日間で言語レベル1。49日後までに、レベル3まで全て。これを憶えてね」
どこからか取り出した、厚さ30cm程もある本を渡された。
「あのう。言語能力はもう貰ったんですよね?」
「何を言ってるのかな? 言語を操るのに必要な記憶力、論理思考能力。他者への伝達に必要な、音声を含む波動全種類の送受信能力は与えたけどね。だからといって言語自体を憶える作業が不要になるわけじゃないよ。当たり前でしょ。そんなに天界は甘くないよ!」
何が甘いかは知らないが、これ詐欺だろ!
あれ? さっきより興奮するようになった。ただの亡者じゃ無くなったのか。
「ああ! クーリングオフは効かないからね!」
「うぅむ。で、本当にこれを全部ですか?」
「大丈夫、大丈夫! 既に君の能力は生物の上限レベルまで行ってるから。後は知識習得あるのみ」
「はあ……」
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