193話 言い掛かりの理由 9章本編最終話
理不尽な言い掛かりを付ける人居ますよね。そういう時は、クレームそのものより動機を探れと言われますが、わかったら苦労しないわって感じですよねえ!
章の切り替わりなので、感想、ご評価お待ちしています!
「出動の内容に疑義だと? うーむ。陛下、この場で図ってよろしいでしょうか?」
宰相閣下の問いに、陛下は軽く瞑目すると数度肯かれた。
「総長。続け給え」
「はっ! では、参謀本部ターレイ参事官に説明させます」
遠くで反応したのは、壁際に居た軍人。階級章に依れば准将だ。
こっちを睨む顔は、疳が強そうだ。眼つきが鋭い。
さて、どんな難癖を付けてくるか。
「参事官。御前である、掻い摘まんで分かりやすく申し上げろ」
「はっ! ラルフェウス卿の家宰よ。これへ!」
突然参事官に呼ばれたダノンは、ビクッと反応したが、俺の横までやって来た。
「ラングレン家家宰、ダノンにございます」
「では正直に答えよ! 今回の出動における総人数と非戦闘員の人数はどうであったか」
「はっ、はあ……ええ、総員27人。非戦闘員は14人です」
ダノンに救護班8人、サラ、補給班4人だ。それ位は俺でも答えられるが。
「ふむ、こちらの調査結果と一致していますな。その非戦闘員の内、光神教会の者は?」
「……4人です」
意外な問いにダノンは少し動揺したようだが、回答は正しい。エリザ女史と回復魔術師1人に看護人2人だ。
「ほう……4人も。皆様、お聞きになりましたか? 勿体なくも公金を入れて結成した騎士団の半分が非戦闘員。しかも、4人が宗教団体所属員とは、一体全体どういうことでしょうか? 不正支出の疑義があると申し上げねばなりません。ちなみに、軍の特科連隊では戦闘員が7割以上です。ああ、家宰殿ご苦労でした」
複雑な顔で、ダノンが壁際に下がっていく。
「どうなのか? ラルフェウス卿」
宰相閣下が促してきた。
「確かに。半数は非戦闘員ですな」
「そうか……」
宰相閣下の表情とは対照的に、参事官が勝ち誇るように笑った。
「それでは不正支出を認めるということでよろしいな?」
「いいえ」
「自ら認めたではないか!!」
興奮してるな参事官。
「両名とも! 陛下の御前である」
「構わぬ! ゲルハルト。続けさせよ」
何だか嬉しそうにしてるな、陛下。
では少し反発しておこう。
「参事官に伺うが、なにゆえ非戦闘員が多いと不正支出なのか?」
「自明であろう! 騎士団は戦闘集団でないとでも言うつもりかね?」
「少なくとも、我が騎士団は違いますな」
「なっ、なんだと!」
「私は軍人ではございませんし。また、拝命しているのも超獣対策特別職です。つまり対策であって、必ずしも戦闘だけが騎士団の目的ではありません」
「詭弁だ!」
「ラルフェウス卿。その他の目的とは何か?」
「被災民の救済です」
「救済? そのようなことは、わざわざ公金を預かる騎士団がやることではないですな」
参事官がさらに斬り込んで来る。
「はて? それはどなたがお決めになったことですかな?」
「決まっておろう。超獣対策特別職設置法に書いてある。読んでいないのかね? 第2章第1項だ。特別職は、超獣の駆除に関する活動を行うとあるぞ」
「その法規前文に、朕は、国家の安全と公共の福祉を目的に、超獣に対抗するため、超獣対策特別職を置くものとするともありますが」
「何が言いたいのかね?」
「公共の福祉に臣民の生命財産の保護は入っていると考えますが」
「そっ、それは……」
「もちろん入っているぞ。ラルフェウス卿」
右の方から支援が来た。
「宰相閣下ありがとうございます」
「しっ、しかし、主たる役割は超獣駆除であり、恣意的拡大は厳に慎むべきであって」
「超獣駆除遂行のためには、被災民の避難が不可欠です。その速やかな実現のためにも、負傷者の回復は重要だと考えておりますが」
あきれるほど出てくるな。
「しかし、それはですな……」
「これは、実務者に訊くべきだな。グレゴリー卿どうか?」
バロール殿ではなく、グレゴリー殿に訊いたか。まあ、賢者筆頭だから妥当か。
「被災民を巻き込まぬよう、また新たな被災民を増やさぬよう、日夜心を砕いております」
渋い容姿に似合った渋い声だなあ。
参事官の眉間に皺が寄る。
「つまり、それによって、超獣との戦闘場所や、日時が影響を受けるということかね?」
やはり宰相閣下は庇ってくれる方向か?
「閣下の御推察通りにございます」
「では、ラルフェウス卿騎士団の構成は妥当と言えるか?」
賢者グレゴリーはキッと眦を上げた。
「妥当かどうか。小官には分かりかねますが、我ら特別職は、結果において責任を負うものと心得ております」
うーむ。言うことまで渋いな。しかも随行員活動への干渉を排除する上手い答え方だ。
「分かった。ターレイ参事官どうか?」
訊かれた方は、眉の上下動が激しいな。
「はっ。賢者殿御見識に感服しました。では、そのご意見に従いますれば、果たしてラルフェウス卿の騎士団が、役割を果たしたかどうかということですな」
劣勢なのにも拘わらず、結構粘るなあ。
「ふむ。内務卿、何かね」
宰相閣下の視線の先で、サフェールズ閣下が挙手していた。
「それに関連して、出動先の領主ユングヴィ伯爵より書簡が届きました。読み上げてもよろしいでしょうか?」
陛下が頷かれた。
「貴族局御中。この度の超獣出現に際し、貴局を通して依頼したところ、ペルザント卿、ラルフェウス卿と2人の上級魔術師を派遣戴きました。誠に感謝に堪えません。超獣を斃して戴いた上、怪我を負いました百人以上の領民の命をお救い戴いたことに、領民に成り代わり、国王陛下を始め政府の方々に心より御礼申し上げます。以下省略。ベルナルド・ユングヴィ」
読み上げにしたがって参事官の表情は曇り、国王陛下が大きく頷くに至って力なく肩を落としていた。
「結果は出たようだが? どうかね、総長」
「はっ! 承りました。軍でも被災民救護強化について急ぎ検討致します。つきましては、本年予算案に調査費を追加申請致します」
ほぅ。
俺を陥れることができなければ、予算増額へ誘導する2段構えか。
憎々しく見えていた参事官だが、少し気の毒だな。
「財務省を通し給え。では、陛下。何かございましょうか?」
「いや特段ない。両賢者にはご苦労であった」
「「はっ!」」
陛下が御退出なされますと宣せられ、再び跪いて見送る。
「では、御散会下さい」
参謀本部総長は無表情で、同参事官は俺を睨み付けながら出て行った。恨む相手を間違えているぞ。
「ラルフェウス卿!」
「はっ! お初にお目に掛かります、グレゴリー卿」
「うむ。陛下の御前で、的確な受け答えだった。ただし、上級魔術師は弁舌を以て功を上げる職ではない。慢心せず精進するように」
「はっ! 肝に銘じます」
「うむ。ではな」
後ろ姿を見送る。身の熟しにも隙が全くないな。
不満そうな顔で、バロール殿が寄ってきた。
「ふーむ。相変わらず嫌みなおっさんだな」
おっさんって。
「渋いですね」
「なんだ、あのおっさんのこと気に入ったのか?」
ローザとダノンも寄ってきた。
「ええ。バロール殿程ではありませんが」
「ふん。若いくせに食えないヤツだな。まあ、ラルフを若いと思うのはやめにする。そう言ったわけでだ。これから酒でもどうだ? 披露宴でガンガン吞んでたからな、呑めんとは言わせないぞ」
「ラルフェウス卿!」
入り口から声が掛かり、走ってきた者が居る。風体は役人だ。
「失礼。何用かな」
「国家危機対策委員会の者です。ただいまより内務省内の本部へご出頭願いたい」
「はあ。残念だが、酒はまたにしよう。ラルフ!」
「はい。ではまた」
†
内務省内の委員会本部へ出頭すると、バルドゥ総裁が待っていた。
超獣381-7撃滅について、大いに賞賛を受けた。また、同超獣の魔結晶を献上したこと殊勝につき、報償金1万ミストを賜った。
それから、5月の月番は解除となった。
† † † † † † † † † † †
ミストリア軍についての解説
最高指揮官:大元帥(国王)
軍務省:軍政担当。政治家と官僚。軍事予算と人事の執行と管理。また参謀本部と軍部に審議官(少将待遇)、参事官(准将待遇)を送り込み監視している。首長:軍務大臣
参謀本部:軍令担当。ほとんどが高級軍人。戦略作戦の立案、実行部隊の大隊長以上の上級指揮官の戦術立案補佐兼軍監。付属組織として首長:総長。だたし組織は軍部内に組み込まれている。
軍部:陸軍と海軍からなる実力部隊。戦術作戦の立案と実行。首長:陸軍長官、海軍長官。
近衛師団:組織上陸軍に所属するが、事実上別組織。国王直属部隊、王都の防衛、王宮と王室の防衛(親衛隊)、超獣対策部隊、軍警察、治安維持部隊を含む。
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訂正履歴
2019/06/20 ミストリア軍についての解説追加。参謀総長→参謀本部総長
2019/06/29 前話部分も含んでいました。申し訳ありません。
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)




