192話 謁見
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梅雨の時期は好きじゃないんですが、よく考えたら梅雨自体が嫌いなわけじゃない。冬もそう。正月位までは結構好きだけど、2月ぐらいは好きじゃない。その先の春が待ち遠しいからだ。梅雨は……その先の夏かな。
明朝。
親父さん達を都市間転送場まで送って行き、その脚で王宮に入城した。
王宮庁侍従局へ問い合わせしたところ、訊いていた通り朝議の後、謁見が予定されているとのことだった。
朝議は、国王陛下に宰相以下の閣僚と在都の軍最高幹部が集まる会議だそうだ。
問題は朝議が何時終わるかだが、侍従に拠ればいつもならば大体11時には終わるらしい。あと1時間位だ。
その間、上級魔術師専用控え室で待つことになり、執事に案内されて廊下を歩いている。その部屋の存在は知っていたが、行ったことがない。専用とは言っても溜まりの間で、個室ではない。
ん?
振り返るとローザとダノンがビクッと反応したが、そのすぐ後ろに予想通りの人が居た。
「これは賢者様、お久しぶりです」
電光バロール。ディオニシウス子爵だ。
同行のローザとダノンも左右に分かれ慌てて挨拶する。
「ちっ、鋭いな! ラルフ。ほとんどのヤツは気が付かないのだがな」
ローザに悪さするつもりじゃなかったんだろうな。
「おおい、何だ! その顔は。人妻に手を出す程、飢えてないぞ! で、何だ? 朝議の後ってやつか?」
「はい。では、賢者殿も」
「やっぱりそうか。それはともかく……俺もラルフって呼んでいるんだ、賢者じゃなくてバロールと呼べばいい。仲間なんだからな」
「はっ! バロール殿」
15歳も上の賢者を呼び捨てにできるわけないな。
「んんん……まあ、いいや。ああ、そこの君。ラルフェウス卿の案内は不要だ。俺の部屋に居るからな」
執事ははっと答えて、去って行った。どうやら、溜まりの間ではないようだ。
「こっちだ!」
溜まりの部屋も見ておきたかったが。
案内された部屋は約8ヤーデン角で、清潔ではあるが古めかしい感じだ。それでも王宮に個室があるとは、流石に賢者は優遇されているな。
「まあ座ってくれ」
「はい」
「リヒャルト、お茶! ああ、全部冷たくしてくれ」
従者がいそいそと壁際へ向かっていく。
「しかし……生意気だよな」
「はあ?」
「2月に就任したばっかりの初陣で超獣撃滅とはな。我が国の新記録だそうだ。俺だって3年目だぞ!」
「はい。今回は巡り合わせが良くなかったですな」
「良くないだと? ああペルザントのことか……残念だったな。殉職したわけではないが。それもあって、軍の有象無象が騒いでいる」
「それで、呼ばれたんですかね?」
「さあな」
どうぞと、リヒャルトと呼ばれた従者が、冷たいお茶を出してくれた。
会釈して一口喫する。
冷たいし不味くはないが、ローザのとは段違いだ。
「話は変わるが、ラルフは何歳なんだ?」
「は? ああ、あと2週間で16になります」
「ってことは、今は15かよ。はあぁぁ、15って言やあ、俺は士官学校で燻ってた頃だな」
「燻ってたんですか?」
「うるせえ。俺は平民の出だからな。それまでは、適当だったんだよ」
知ってはいたが、確かに口調は庶民ぽいよな。言うまでもないが、男爵以上のれっきとした貴族と平民では教育水準が全く違う。
「1つ訊いても良いですか?」
「おお! 何でも訊け」
「バロール殿は、独身なんですか?」
彼はうっと詰まった。
壁際で控える従者の方が揺れている。
「悪かったな。一昨年離婚したんだよ!」
ローザと顔を見合わせる。
「ほう。これは失礼しました」
「別にぃ! どの道、モルガンとは政略結婚だったからな。未練はねえ」
そうか。
平民は士官学校に入れないからな。貴族の養子か猶子になる他はない。
きっと幼い頃に、魔術に関する素養を見出されたのだろう。政略結婚とはその延長線上の話に違いない。
「ああ、賢者からの忠告だ。嫁は1人で置いておくな! こんな綺麗な奥方だ。人妻でも言い寄る血迷った男は腐る程居るぞ! 無論、俺はしないが」
「はっ! 肝に銘じますが……」
「ん?」
「その忠告に賢者は関係なくないですか?」
「じゃあ、年上の忠告でもいい。ところで」
「はい」
「騎士団を率いると訊いているが、その中で回復系魔術師や薬師を抱えているそうだな」
ふむ。
「ここ数日のことなのに、よくご存じで」
「賢者には、(国家危機対策)委員会から、逐一報告が上がってくるからな」
「へえ、そうなんですね。まあ。まだ真似事のような物ですが」
「謙遜は不要だ。何を目指している?」
この人は、そこを気にするのか。
「騎士団に入った者が言っていました。上級魔術師は何の為に居るのか? 超獣が目指す都市の民を護る為なのか? と」
「何だと?」
「都市の住人だろうが、田舎の民だろうが。分け隔てなんて、そんなつもりはないですよね?」
「無論だ。ただ……」
「そう、都市には人が沢山居ます。襲われた場合の被害は比べものになりません」
「そういうことだ。問いを発した者にはそう答えたのだろうな?」
「いいえ。その者はそんな道理は知っていました。知っていて訊かずには居れなかったのです」
「ふーむ。さっきも言ったが、俺は平民の出だ。数に入っていない者達の悲哀はな、骨身に染みているつもりだ。が、賢者などと言っても、できることは限られている……と、思っていた」
「はあ……」
何を言い始めた?
「だが、ラルフだ。軍には入らないわ! 思いもしないことを始めるわ!」
「ああ、周りの者から、我が儘と言われます」
ローザが横でふるふる首を振っている。
「ははは。まあ上級魔術師なんざ、みんな我が儘だ! 逆にそうでなければやっていけない。まあやれるだけやってみろ」
「まあ、そのつもりですが」
「失礼致します!」
さっき途中まで案内して貰った男が入って来た。
「おお、なんだ?」
「朝議が終わりましたので、謁見室までお越し下さいと」
「ほぅ、随分早いな。分かった! じゃあ、ラルフ行くぞ!」
立ち上がる賢者に付いて謁見室へ入った。従者達は壁際に並び、2人で部屋の中程に進む。
大広間に比べると狭いが、荘厳さが威圧を加えてくるような部屋だ。
おっ、この模様。床の大理石。エルメーダ産だ。
玲瓏に洸る床の先、既に国王陛下が玉座に居た。
バロール殿に続いて跪く。
跪いている者の一番向こうは、やはり賢者。
殲滅者グレゴリーだ。
3賢者の内2人が揃っている。残る月殿は、特命を帯びており公式の場には姿を現さない。
「3人の者、立ち上がれ!」
2ヶ月前に会ったばかりのクラウデウス6世国王陛下が、こちらを睨んで居た。
その右脇に見知った顔が有る。サフェールズ内務大臣とテルヴェル外務大臣だ。
左側には軍服を着た者が並ぶ。
「ラングレン卿」
「はっ!」
今のは、フォルス侯爵。我が国の宰相だ。
細身で厳しそうな顔つきだが品がある。まあ名家中の名家だからな。
「ユングヴィ伯爵領への出動ご苦労であった。確保した超獣の魔結晶を、陛下にご覧に入れろ」
「はっ!」
魔結晶を出庫する。材木で組んで造った台座込みだ。
直後、響めきが謁見室に低く充満した。
「見事だ! ラルフェウス」
陛下だ。
「ありがたき幸せ」
「うむ。昨日、そなたの両親とも会ったぞ」
「陛下の格別なる思し召しを持ちまして孝行ができました。衷心より御礼申し上げます」
「うむ。今後も励むよう」
笑顔だ。
「はっ!」
陛下は顎を決ると、宰相閣下が続いた
「軍より、訴えがありました。参謀本部総長」
やはり、来たか。
「はっ! ラルフェウス卿の出動の内容に大いなる疑義がございます」
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訂正履歴
2019/06/20 参謀総長→参謀本部総長
2019/11/10 転移→転位
2020/02/13 侍従局の上部組織名を王宮庁に変更
2020/04/01 都市間転位→都市間転送
2021/09/11 誤字訂正
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




