187話 非常事態
水曜日は投稿時刻が一定しなくて恐縮です。
いつも通りと油断していると、いつか牙を剥いてやって来ますよね、非常事態ってのは。
備えて居るつもりでも、軽く乗り越えてきますしね。
明けて5月5日。
親父さん達が王都館へ行く日だ。
叙爵に関わる移動なので、都市間転送を使えているはずだ。問題ないだろう。
他に今日の予定は……。
午前中には、超獣がペルザント卿の新造陣地の前を通過する見込みだ。
先程、上空からの偵察で、その彼らの読みの確かさに感心したばかりだ。その後、新造陣地を訪問したが、既に作戦準備中ということで面談は叶わなかった。俺に対する申し送り状と言う名の指令書を受け取って帰ってきた。
昨日の午後、俺達は本営を分け、少数を率いて新造陣地から南へ2ダーデン程の放牧地に駐屯した。
こちらに来ているのは、俺を含めて7人と聖獣セレナだ。それ以外の大部分の騎士団員はストラバリの町に残り、救護活動を継続している。
「お館様、ご帰還です!」
トラクミルの声が野営地に響くと、皆が出て来て整列した。バルサムは居ないがキビキビとした動きだ。
「うむ。楽にして聞いてくれ。ペルザント隊の作戦は本日10時を以て開始される」
あと1時間半程だ。皆の顔に緊張が過る。
「彼らは、超獣の南下に対して、東から攻撃することで西へ西へと進路をずらし、領都への到着を遅らせることを企図している。つまり時間の程は確定されないが、作戦通りであれば超獣は、ここの西側を通ることになる」
少し響めいた。
「我らは、想定通り後詰めをすることになった。よって、今のところ、移動する必要はない。作戦開始時間まで待機だ。その後、進行状況に従って、別途指示する。想定1、西に流れた超獣を傍観。想定2、ここが超獣の進路至近となった場合だ。その場合、ペルザント隊の作戦が失敗したことになる。地下壕と、それぞれに障壁魔導具があるからな、そこまでは及ぶことはないと思うが、最悪は撤退だ。何か質問は?」
「はい!」
女魔術師が挙手した。
「ゼノビア!」
「はい。想定2の場合、お館様はどうされるのですか」
「超獣を空から攻撃する。他は?」
見回すが反応は……ゼノビアは俺と視線が合うと顔を背けた。
何やら不満があるようだ。
「では、別命あるまで待機」
皆が解散していった時。
「ゼノビアさん!」
ローザが声を掛けて、2人で俺から離れていった。
5分ほどして、天幕にローザが帰ってきた。何事もなかったような風だが。まあ任せておくか。
10時5分前。
偵察のため、上空に舞い上がる。
超獣は想定通り、ペルザント卿の新造陣地の脇を抜けていく経路を通って居る。
【伝声呪!】
「フロサン、聞こえるか?」
『はい! お館様様。音声明瞭です』
ここは高度200ヤーデン。周りには鳥すら居ないが、すぐ側にフロサンが居るように聞こえる。
「俺は、そちらの南1ダーデンの上空に居る。そちらはどうだ」
『上空ですか?! ああ、失礼致しました。先程、配置に着けとの号令がありました。大尉殿と魔術師の方々の準備が整っているはずです』
「わかった。何かあれば教えてくれ!」
『了解!』
ふむ。フロサンが言う通り、極僅かながら魔力放射を感じるが、その源は2箇所に別れている。
旗?
感じた地点の近くで、白い布が振られた。あれで意思疎通しているのか……夜はどうしているのかな?
ここなら遮る物がないからわかりやすい。このまま、観戦するとしようか。
10時だ。
超獣は陣地のまだ手前だから、戦闘は始まらない。
ここだと角度悪いからな。
15分経過。
やっと近付いた。
赤い旗が振られた。手前の陣地の魔界強度が上がっていく。
数十秒後、えらく時間が掛かったが、何条もの眩い火線が瞬いた。
緩やかな放物線は、ゆったりと蠢く巨体を捉える。しかし、いや予想通りか。火線は弾かれた。超獣の角鱗に届く以前に魔術炎は射線を変える。
超獣の反撃はない。
そう。超獣も、この後の主役の攻撃を待ち構えているのだろう。
ん?
んん?
超獣はゆっくりとは言え……新造陣地の横を、通り過ぎていく。
進路とペルザント卿の陣地を結ぶ線の角度が鈍角に替わっていく。
どうした? なぜ攻撃しない?
このままだと、進路をずらす効果が喪われていくぞ!
早く撃て!
なぜだ? 何を待っている?
まさか、待っているのではないのか?
「フロサン! 何かあったのか? ペルザント卿は?」
『わっ、分かりません? 分かりませんが、大尉の陣地が騒々しくなっています!』
やはり何かあったのか?
放置はできん。
足下に向く。
「騎士団前衛隊、セレナ! 聞こえるか?」
『ワフッ!』
送信の魔術が使えるセレナから返信が来る。
「非常事態だ! 念のために地下壕に籠もれ!」
土魔術を駆使し、10ヤーデンの深さまで構築してある。
無論そこまで、超獣をやる気はないが!
『ローザ 護る!!』
『お館様!』
ん?
新造陣地からだ
『やはり何か変です……あっ! スードリ殿……ドケぇーーー』
フロサンか? 何だ?
争うような音が聞こえる
「なんだ、どうした?」
『お館様、スードリです。ペルザント卿が倒れました、セザール殿!!』
『こっ、これでラルフェウス卿に聞こえるのか? わっ、わかった!! ラルフェウス卿!』
「聞こえている!」
『ああ、大尉は人事不省状態と成られました!』
「人事不省?! 回復は?」
『わっ、分かりかねます。大変恐縮ながら、規則に基づき我が隊の指揮権を委譲致します!』
なんたることだ!
上級魔術師が任務遂行が困難になり、別の上級魔術師が居合わせた場合、後者に指揮権を委譲しなければならない。その規則のことだろう。
「了解! スードリ、今からアリーとサラに連絡を付けろ。大至急だ!」
『はっ!』
「ペルザント隊は……別命あるまで待機! 超獣は俺が対応する。それから既にやっていると思うが、回復魔術師に、大尉の治療をさせよ!」
状況の分からない者など率いることはできん。
あと問題は、どうやって進路をずらすか!?
まだ味方が近い、威力は抑えねば。
あれか! 術式は憶えている。魔力量は、ペルザント卿をなぞれば良かろう。
一気に降下──眼下に捉え詠唱!
『ਥਕਬਞਧਇਧ ਮਤਇਬਰ ਫਉਪਠਉਸਤਢਠ ੳਠਛੲਡਓਗਹ ਵਤਸ ਪਭੳੲਧਲਭ ਜਬਫਫਭਭ ਮਕਬਕਓਤਯ ੜਹਵਨਹਤੲਣਟਛ ਸਯਯਙੜੜੲ ੲਡਓਗਸਡ ਫਓਲਅਟਅ』
伸ばした腕の先、黑き珠が渦巻き膨れ上がる──狙いは超獣の左腹。
ペルザント卿を大きく上回る魔導球が放たれた!
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訂正履歴
2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




