18話 呪文改変
ソフトウエアというか、プログラム言語習得の第一歩は、既存コードを部分的に改変して動作確認ですよね。
「ありがとうございました」
僕は、適性検査の部屋を出た。
少し離れた階段脇の廊下に、アリーが待っていた。
「あっ。ラルちゃん。あたし、1組になったよ。ラルちゃんは?」
「あっ、うん。1組になった」
「やったぁ!!」
思いっきり喜んでいる。
「廊下では静かに!」
「ごっ、ごめんなさい」
通りすがりの助祭様に叱られた。
「でも、嬉しくないのラルちゃん?」
「そんなことはないけど」
「ああ、そうか。大人になった時の仕事の話ね! 私は霊格値が高いから、巫女とかが良いんだって! だから言ってやったの。もう別の仕事が決まってます! それは、ラルちゃんのお嫁さん! ……って聞いてる」
お嫁さんの下りは大事なことだが。これまでも何度も言われているので、全然驚きはしない。
「うん。聞いてる。歩きながら話そう」
受け流して基礎学校の玄関に向かう。
あの魔道具の呪文、面白そうだな。
魔道具無くても、魔術として使えたら良いのに。
ちょっと待てよ。
大層な水晶玉だったけど、魔力の波動を感じて、強めれば良いんだよな。
それって、魔術でできるような気がするなあ。セレナとかの念を読み取る感じで。
あとは、結果を映す先を、金属板じゃなくて、自分に代えれば内容が見えるんじゃないかな。呪文改変、やってみるか。
「ਇਕਚਮਰਮਟਡਮ ਸਏਬਬਨਲ ਞਬਟਖਜ ……」
隣に並んだアリーが不審な顔をした。
「ねえ、ラルちゃん。さっきから何ブツブツ言ってるの?」
「ਹਫਅਮਣਕਣ ਭਛਨ ਣਢਲਮਮਗਖਗਬ」
できた!
目の中に、文字が映る。
氏名:ラルフ・ラングレン,性別:人族,性別:男性,年齢:192歳,知性:23,040,体力:11,200,魔力:28,160,霊格値:174,560。
あれ?
聞いた数字と全然違う。でたらめだ……そもそも僕が。
「192歳な訳ないだろ」
「192歳?」
「ああ、いや。うううむ」
「どうしたの、ラルちゃん。 お腹でも痛いの?」
おっと。
「なっ、なんでもないよ」
もしかして、何か尺度が違うのかな。
192歳を6歳にするには……32で割れば良いのか。試しに全部32で割ってみよう。
氏名:ラルフ・ラングレン,性別:人族,性別:男性,年齢:6歳,知性:720,体力350,魔力:880,霊格値:5,455。
おお。知性から魔力までは、司祭様の言った値と同じだ。
32で割るので合っているみたいだ。意外と簡単で良かった。とりあえず32で割るように、呪文を書き換えてっと。
だけど、霊格値はなあ、余りにも大き過ぎるよなあ。1,000を超えるにしてもなあ。霊格値だけは、32で割るのが違っているとか?
そうだ! アリーの能力値で確かめられるかも。
【査読】
繋いでいた右手から、流れ込んでくる。
視界に文字が浮かんだ。
氏名:アリシア,性別:人族,性別:女性,年齢:6歳,知性:188,体力:127,魔力:306,霊格値:264。
アリシアのも読めた!
よしよし。
でも僕程じゃないけど、霊格が100を軽く超えてる。これだけだと分からないか……。
「アリー。霊格値はいくつって言われた?」
「あぁーあ。やっぱり聞きたいんでしょ?」
とっても嬉しそうな顔をした。
うーむ、ただ霊格値を検算したいだけなんだけど。正直に言ったら臍を曲げそうだ。ここは。
「うん。聞きたい!」
なんか、アリーの表情が一層緩んだ。あぁ、きっと誤解してる。
「264だって! 普通の人は、おばあさんになるくらいで、やっと100なんだって。6歳じゃあ凄いって言われたよ!」
得意そうだ!
それはともかく、霊格値の変換も32で割るで良いのか……。
やっぱり僕の霊格値は本当に5,455ってこと? 信じられないな……凄いことなんだろうけど、実感がない。
アリーの能力値を読み取ったけど……なんか、思ったより頭が良いよねって、アリーは良いけど、他人なら……なるべく使わないようにしよう。
玄関から外に出る。
終わった人から帰ってよしと言われていたので、校庭を抜け、道に出る。
「で、ラルちゃんは? いくつって言われたの? 霊格値」
「分からないって」
僕は分かっているけど、そう言われたのは間違いない。嘘は言ってない。
「はっ?」
「測れなかったみたい」
アリーが微妙な顔をした。
「そっ、そう……ラルちゃんが言うことだから信用する。あっ、だからかぁ。別の助祭さんが水晶玉を貸してって来たけど……ふーん」
なんか、納得したようだ。
「あっ、そうだ! ラルちゃんは、大人になったら何になればいいって?」
「神職!」
「はっ?」
「司祭様と同じ宗派の……」
「駄目! だめだよ、司祭様は!」
司祭?
いや司祭と神職は必ずしも同じじゃないけどね。
アリーの中では、神職すなわち司祭なのだろう。
まあいいか、説明面倒臭いし。
「なんで、司祭は駄目なの?」
「ラルちゃん。司祭様って結婚できないんだよ! 分かってる?」
はあ?
いや、そういうことか。
確かに昔はできなかったそうだが……特定の修道会の修道士とか修道女を除けば、今はほとんどの宗派で結婚できる。
とは言え、今も結婚しない司祭様はかなり多い。
別に僕が司祭に成るつもりがないのは、結婚とは関係ないけどね。
しかし、神職か。
『ラングレン君! 君は! 神職に成るべきだ! 素晴らしい、霊格を持っているんだよ。修行によっては私など比べものにならない、聖人にだって成れる!!』
ダルクァン司祭様も、あんな言い方をしたらだめだろうに。凄い才能があるとか勘違いして、その気になっちゃうよ。いや。その気にさせたいのか。
「聞いてる! ねえ、聞いてる、ラルちゃん。絶対駄目だからね! 司祭様なんて」
「ああ、僕も成る気はないよ……司祭には……」
『神職候補生は、王都に留学して学習できるんだよ』
司祭様の言葉が、引っかかっていた。
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訂正履歴
2018/2/2 ラルフの体力 誤250→正350 ,アリーのパラメータの並び(Knight2Kさん,ありがとうございます)
2019/10/18 誤字訂正(ID:855573様ありがとうございます。)