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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
9章 青年期VI 騎士団旗揚げ編
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183話 古強者

年配の方って、仕事のキレはないけど、打たれ強い人って一定の割合でいらっしゃるんですよね。結構困ったときに頼りになることが多い感じがします。

 異なる射角から放たれた紅炎は、夥しい熱を上げつつ超獣に突き当たった。


 その刹那、障壁を成していたであったろう光粒子が一瞬にして弾け飛ぶ。四方八方に拡散し、巨体を包み込むように燃え上がっていく。


 思いの外、効果が大きいが……。

 そうか。先の攻撃は、超獣に反撃させる呼び水だ!


 超獣が張り巡らした魔導障壁は強固だ。

 それゆえ攻撃には不向きだ。そのままでは、外に魔力を放つことは適わない。


 あの超獣が、魔術攻撃するためには、障壁全部でないにしろ解除しなければ発動できないのだ。

 おそらく配下の魔術師に行使させた攻撃は、隙を作る為の囮の攻撃。

 最後に放つ上級魔術が破る魔導障壁を減らす為の──


 やるな! ペルザント卿。


 天を突く赫赫たる火勢は、その内で超獣をのたうち回らせ、名状しがたい響きを上げる。


 初めて味わう痛さで我を忘れたか。超獣は衝撃波を乱れ撃ち、無色の轟きが無秩序に荒れ狂う。

 転げ回り四囲の木々を薙ぎ倒しながら、白煙やら黒煙を上げて自らが纏った炎を消し止めている。


 流石は限定解除された上級魔術だ。他人が行使したところを初めて見たが、なかなかの物だ。選考試験で見た限定付きとは段違いだ。


 だが──

 超獣を斃すまでには至らなかった。

 完全には攻撃が通らず、辛うじて障壁が堪えたらしい。

 

 ならば、ここだ!

 一気呵成に攻めるべきだ!


 しかし、続く魔術発動も来なければ、魔圧の高まりもない。

 どうしてだ? ペルザント卿!


 待て待て。魔術行使しないではなく、できないとしたら? 可能性が一番あるのは……術後硬直(バインド)


 俺も餓鬼の頃はあった。ここ何年もなったことがないから浮かばなかったが。


 いやそうかも知れない。使って居るのは上級魔術だからだ。


 上級魔術は限定解除されると、無尽蔵に魔力を込められる。ならば、その代償も有って然るべきだ。

 おそらく、ペルザント卿に術後硬直(バインド)が起こっていると見た。


 ここまでなのか?

 

 ならば、俺が攻撃──いいや駄目だ。


 攻撃すれば近隣住民の為になるだろう。


 だが、ここだけで済む話ではない。

 今、勝手に手出しするわけには行かない。


 指令違反をすれば超獣対策特別職を外され、続けられなくなるのだ。

 そもそも俺がペルザント卿であれば、他人の介入が気に入らないのは間違いない。それは上級魔術師だからではない、冒険者であっても同じことだ。


 そうこうしている内に、炎が完全に消えてしまった。


 周りの木々がほぼ倒れ、全身が露わとなった。体長はおよそ25ヤーデン。小型と中型の間と言うところだ。


 超獣の歩みは留まった。

 死んでは居ないのは、脾腹が蠕動(ぜんどう)しているので明らかだ。


 森林から白煙が上がっているものの、周りの延焼はないようだ。

 どうやら攻撃も終わったらしい。


 今が好機とは思うが。忸怩たる思いを胸に、俺は騎士団へ戻った。


     †


 3時過ぎにストラバリの町に着いた。

 町と言ってもシュテルン村の公会堂付近と大差ないが、一応土塁が巡らせてある。


 門の100ヤーデン程前で兵に馬車を停められる。どうやら馬車は管制を受けているようだ。

 バルサムがさっと降りて交渉しに行った。


 10分程すると戻ってきた。


「どうした?」

「はっ! 第17支援中隊長によれば小さい町中、土塁の中は既に兵や物資で埋まっており、騎士団を受け入れる余裕はないとのことでした。御館様のみ宿舎をご用意できるとのことです」


「辞退したのだろうな」

「無論です」

 珍しくバルサムがにやっと笑う。


「それでいい」


 出動先で騎士団と分断される訳には行かない。


「ここのすぐ横に。100ヤーデン角程の空き地があるそうです。そちらを使っても良いとのことです」

「そこに駐屯地を設えよ。俺達のゲルもな」


「はっ!」

「30分後に、ペルザント卿の元に出向く」


     †


 門を歩いて入ると、車両が停められている。その数ざっと20両。

 馬は留められていない。無蓋の荷台のみの車両が多い。それだけ王都から運んできた物資が多かったということだな。


 ん?

 荷を積んでいるのか。

 空荷の馬車もあるが、領軍の兵や軍属が、梱包された荷を広場へ運び出している。


「移動する準備でしょうか?」

「おそらくな」


 超獣とこの町の距離は10ダーデン(9km)もない。

 今は止まっているが、動き出せば数時間でここにやってくる。


 なかなかの混み様だが、我が騎士団が入らないという状態ではない。まだまだ余裕があるだろう。別に構わないが。


 角の建物。旅館だろう煉瓦造りの建物に、ペルザント隊本営と書かれた垂れ幕が3階の窓から下がっている。


 正面玄関から入ろうとすると、深緋連隊の門衛に槍を交差させて止められる。


「何者か?」

「ラングレン男爵にあらせられます」

 先導するローザが傲然と答える。


「男爵?」

「まさか!? 先頃上級(アーク)魔術師(ウイザード)に成られた」

 瞬く間に2本の槍が天を向く。

 

「ペルザント卿に取り継がれよ」

「はっ! 失礼致しました」


 どうやら、俺達がここに出動してくることは、ペルザント隊にも余り知られていないらしい。


「ではご案内します」


 2階に上がり、廊下の突き当たりの部屋に入る。


「失礼致します。ラングレン男爵様をお連れ致しました」

「入られよ」


 15ヤーデン角程の部屋に、大きな軍旗が掲げられている。

 そこに3人の男が居た。


「戦闘後ゆえ、このような姿だ、許されよ。ペルザント・ルーレイだ」

 ソファの真ん中に座って居た、薄手のシャツと軍服ズボン姿の男と向こう向きに座って居た男が立ち上がり軍礼する。


 魔術師特有の細身の身体だ。面長な顔に顎髭の組み合わせがより細さを強調している。確か年齢は40歳代後半。上級魔術師では最高齢のはずだ。

 しなやかな(つよ)さを持った人物に見える。古強者と言うべきか。

 

 それにしても暑そうだな。

 やはり、術後硬直(バインド)だったのか。それから回復する段階では軽い灼熱感を味わうことになるからな。


「初めて、お目に掛かる。ラルフェウス・ラングレンと申します」

 こちらは略礼を返す。


「ああ、こちらは支援第17中隊隊長のセザール。こっちは、私の首席従者だ。どうぞ座られよ」

 両者に略礼すると、まだ中隊長の体温が残るソファに腰掛ける。


「随分早かったな、ラルフェウス卿。明後日だと思っていたが」

 呼び方としては、一般には家名に卿だが、連隊では個人を尊重して名前に卿を付けて呼ぶらしい。


「準備ができておりましたゆえ」

「それは、良い。支援中隊も見習わぬとな」

「お言葉ながら、早ければ良いというものではありません」

 30歳代後半だろう、中隊長だから中尉か。鋭い目付きでこちらを睨む。


「ははは、だそうだ。ああセザール、申し送り事項を!」

「はっ! ラルフェウス卿に申し上げる。超獣ゲランは、既に後期に入っていると観測している。故に我等は、領都バスクアーレに近付けぬことを第一義としている。この点、善く善くご理解戴きたい」


 つまり、超獣を斃すのではなく、できるだけ足止めしつつ昇華までの時間を稼ぐと言うことだ。


「また、初めての超獣戦闘ゆえ、後方にてゆるりと、大尉と我が中隊の戦闘を見て、今後の参考にされよ」


「後方?」

「いかにも。そちらが前線に出張られては、我々の戦略を乱す恐れあり」


 まあ。彼らがそう思うのももっともだ。なにせ我々には実績がないからな。


「要するに、役立たずがしゃしゃり出て邪魔をするなということか?」

「ご慧眼にございます。ラルフェウス卿の手出しはご無用に願います」


 何がご慧眼か。後方のローザの怒りが増してきている。


「セザール! 言葉を選べ」

「はっ! 失礼ながら、後方にてもやれることがあり申す。そちらをお願いしたいというのがこちらの主意です」


 正面切って言われると腹が立つが想定内だ。

 新人は、手柄を立てて中核にのし上がって行かねばならない。


「理解はした、万が一のことが起こらねば、そう致そう。ペルザント卿と貴中隊の戦勝を祈念します」


「万が一とは?!」

「セザール! ラルフェウス卿。お言葉痛み入る」


「はっ。それとひとつ提案があります」

「提案とは?」

「はい。最近、我が騎士団では通信魔導具という物を配備しました」

「ほう」

「離れた場所にても、連絡を取り合えると言う物です」


「そう言えば、こちらに出動する前に耳にしたな」

 ペルザント卿の目が少し動く。


「それが何だと仰るのですか?」

「その魔導具一式を貸与致しますので、我が騎士団との連絡に使って戴ければと」

「ほう……」


「ラルフェウス卿。それはご無用に願いたい」

「なぜだ、セザール?」

 ペルザント卿も訝しい顔をする。


「はっ! 我が部隊には、魔導具の使用を習得する時間の余裕を持っておる者など居りません」

「うぅん……」

「分かりました」


「ああ、ラルフェウス卿。済まぬがそういうことだ。ああ……ところで、宿舎はどちらか?」


 ん?


「ああ、この町の土塁の外に宿営することになりました」

 ほう……と呟き、セザールを睨む。

 知らなかったのか? 演技か? どちらでも構わないが。


「では失礼する!」


 土塁を出てすぐに、宿営地が見えた。

 既に10張り以上のゲルが、設営されている。


 本営と書かれた立て札があるゲルに入るとバルサムが居た。


「お帰りなさいませ、お館様。如何でしたか?」

「うむ。想定通りだ、支援部隊の中隊長に手出し無用と言われた」


「セザールらしい」

「顔見知りなのですか?」

 ローザ、バルサムに当たるな。


「連隊に居た頃の同期です」

「そうか。ものは考えようだ。中途半端に陰に籠もられるよりは、ずっと良い」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2021/05/11 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)

2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

2025/04/27 誤字訂正 (イテリキエンビリキさん ありがとうございます)

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